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武勇伝  作者: 生時
2/3

後編


 第六章 龍一の過去(其の一 修羅の巻)




土方と瑠奈の戦いから一週間後・・・

すでに龍一は、学校を自主退学していた。

彼の担任は、止めるどころか、やっと一人、問題児が消え喜んでいた。

 「緒方先生、また一人、うちの学校のクズが消えて良かったですね。」

 「まったくですよ。あのクズ、父親があの格闘王だから、自分も強くなれると思っているんでしょう。」

その話を聞いていた女教師が、二人に文句を言い始めた。

 「緒方先生、藤田先生、神威君はクズじゃありません。」

 「早乙女先生は、あまいんですよ。あいつは、遅刻はするは、授業中は居眠りしているはで、問題児以外の何者でもありませんよ。」

 「それだけで、あの子をクズと言うのですか!?」

「あいつは、普段おとなしくしているけど、裏では何をやっているかわかりませんよ。」

「そうです。どうせ影で、シンナーを吸っていたり、イジメをしたり、ホント何をやっているか分かりませんよ。」

 「お二人が、そういう人だということが、よくわかりました。」

そう言って早乙女先生は、席に戻っていった・・・

 「後は、嘉納 四郎も辞めてくれれば、嬉しいのだが・・・」

 

その頃、舞達は・・・

 「なんか、龍ちゃんがいないとさびしいねぇ。」

 「確かに今日一日、なんか物足りなかったなぁ」

 「そうだね。しかも龍一君、明後日から一年間、山ごもりでいなくなるしねぇ」

 「まあ、あいつが決めた事だ。それより、そろそろ帰ろうぜ」


 その頃、龍一は、家で自分の過去を思い出していた。


今から十六年前・・・

一九九〇年五月二十日に、神威 龍一は、名古屋で生まれた。

そしてこの年に、伝説の格闘王が、格闘家を引退する。


 三歳の頃になると、武道の変わりに、ピアノを習っていた。龍一は、両親からかなり甘やかされて育てられた。

 

 そして、月日が流れ・・・

小学4年生の時、龍一はいじめられていた。

彼は毎日、毎日、上級生や中学生までマジっていじめられていた。


だがその年の、十二月一日に、龍一は、瑠奈に助けられ、そして弟子となる。

龍一は、瑠奈の弟子となってからは、学校に行かず、天神流の修行に励んだ。

 

「もっと腰に、力を入れて」

 「・・ハアハア・・は、はい・・」

龍一は、力強く蹴った。

 「ダメダメ、こう蹴るのよ。」

バシッ!

瑠奈の蹴りが、龍一に炸裂!

瑠奈は、もちろん手加減をしたが、今まで甘やかされてきたため、龍一は今にも泣きそうな顔をしていた。

 「まあ今日は、これくらいにしましょう。」

龍一は、涙をこらえて、

 「あ、ありがとうございました。」

そう言うと、瑠奈が近くに来て、龍一の怪我を診た。

 「大丈夫みたいね。」

龍一の顔が赤くなった。

 「(ホント、ルナさんって、美人だなぁ・・・こんな人が、将来お嫁さんになってくれたらうれしいなぁ・・・)」

この頃から龍一は、瑠奈に憧れていた。 


 やがて、龍一も中学生になっていた。

龍一は、小学校の卒業式はもちろん、中学校の入学式にも出てこなかった。


 だが、中一の秋に、龍一は派手に金髪に染め、二時間目の途中に登校してきた。


龍一が、通っていた白川中学は、昔から有名な不良学校で、虎次郎やトオル、南達もこの学校に通っていた・・・


また、あの瑠奈や北斗達もこの学校の出身である。

だが、十年も時が経っているので、瑠奈達を知っている教師はいなかった・・・ 


龍一が、ドアを開け、初めて教室に入る。 

「おい、あれ龍一か・・・?」

「マジ!?どうしたんだ!?アイツ。」

生徒が騒ぎ始めた・・・

今の時間、龍一のクラスは社会の授業をしていた。

 「き、君が、神威君か!?」

社会科の教師は、震えながら、龍一に話しかけようとしたが、龍一は勝手に空いている席に座り、そのまま腕を組んで眠り始めた。  


 二時間目の授業が終わり、休み時間の時、二人のヤンキーが龍一の席に近づいてきた。

 「おい、起きろ!」

 「テメェ〜、なんだ、そのカッコウは・・」

 「なんだ、お前らか・・・」

実はこの二人、昔上級生たちといっしょに、龍一をイジメていた二人だ。 

 「雑魚に用はない・・消えろ・・」

二人は完全に切れた!

 「まあ、強くなるためには、実戦も必要か・・・」

一人が殴りかかろうとした瞬間、龍一の正券突きが炸裂!

もう一人は、龍一の後ろを取ろうとしたが、裏拳が炸裂!

 「龍一君・・・」

一人の女子生徒が、龍一に話しかけた。

 「静か・・・」

 彼女の名は、星野 静で、ルックスも良く、成績も優秀でクラスのアイドル的存在だ。 

 「いったい、どうしたの?」

 「お前には関係ない。俺はこれから、修羅となり強くなる。」

 「ク、クソ餓鬼が・・・」

 「おい、虎次郎は来てないのか?」

 「来てねーよ」

 「そうか・・」


 チャイムが鳴り、三時間目の授業が始まろうとした頃、龍一は教室を出た。

 「おい、あれがホントに龍一か!?」

 「ムチャ強え〜」


 その頃龍一は、屋上で一服していた。

 「(修羅か・・・いいだろう今日から俺は喧嘩屋だ!)」


 昼休み、龍一は三年のとこに来た。

 「お、おい、あれ一年坊か!?」

 「それにしても、なんて目をしてんだ。」

 「(チッ、強そうなヤツはいないのか)」

その時、教室から、泣き叫ぶ声が聞こえた。


 「痛い・・も、もう、やめて下さい。」

 「お、おい、助けてやれよ。」

 「馬鹿、お前が行けよ。」

 「おい、ズボンとパンツ脱がせ!」

 「や、やめて・・・」

 その時!

 「おい、まだ弱い者イジメをしているのか?マサシ!」

 「誰だ!」

 「昔、お前にいじめられた、神威だよ。」

 「ああ、お前か・・・それにしても、あの泣き虫野郎が、ずいぶん派手な頭をしているなぁ」

マサシは、いじめていた少年を蹴っ飛ばした!

そして、龍一に攻撃を・・・

だが、龍一の天誅が炸裂!

更に攻撃が続く・・・

その時!

 「おい、一年坊、そのくらいにしな。」

 「ああ!?誰だ、テメェー」

 「俺は岡村 トオル」

この時、龍一とトオルは初めて顔を合わす。

トオルは中学二年の夏に、この学校の転校してきたため、龍一の事を知らないのだ。

また、転校してしばらくしてから、南の兄北斗と同じボクシングジムに三年間通っていた。

 「俺の名は、神威 龍一・・・アンタ、強そうだな」

龍一は拳を強く握り、トオルに喧嘩を売ろうとしたが、トオルは、

 「俺に、喧嘩を売ろうとしてもだめだぜ。俺は、無意味な喧嘩は嫌いなんだ」

 「無意味な喧嘩!?トオル、こいつは三年に喧嘩を売ってきたんだぜ」

「ああ?てめぇ、またイジメをしてたな!?」

「(何だ!?コイツも俺と同じで、イジメをしているヤツが気に入らないのか!?)」

「ちょっと龍一、私の彼氏に手を出さないでよ」

 「南か・・・いい彼氏だな」

そう言って、龍一は教室を出た。

 「南、もしかして、あいつが伝説の格闘王の息子か!?」

 「ええ、そうよ」

 「なかなか面白そうなヤツだ。」

 

龍一は、自分の教室に戻ると、さっきの二人のヤンキーが再び龍一に喧嘩を売ってきた。

 「しつこいぜ、お前ら・・・」

龍一が攻撃をしようとした時、

 「お前、ホント喧嘩が好きなんだな!?」

トオルが、龍一のクラスにやってきた。

 「なんだ、俺と喧嘩するきになったか?」

 「いいや、俺はお前が気に入った」

 「・・・・!」

 「どうだ、俺とダチにならねぇ?」

 「ダチだと!?」

龍一は今まで、友達なんていなかったから、少し動揺していた。

そして、 

「お前は、南の彼氏だし、俺もお前が気に入った」 

 「お、おい、やばいぜ」

 「ああ、トオルさんが出てくるとは・・・」

こうして龍一は、初めて友達と呼べる存在が出来た。


龍一は、それから毎日のように喧嘩をするようになった。

だが、龍一が喧嘩屋として喧嘩を売る相手は、自分が強いと認めた相手とイジメをしているヤツだ。

また、売られた喧嘩は必ず買っていた。

しかも、この時の龍一は手加減を知らない・・・

特に虎次郎とのタイマンは、瑠奈以外に、止める事が出来なかった。


 初めて、虎次郎とタイマンをハったのは、龍一が喧嘩屋になって三ヵ月後だった。


 ある土曜の午後・・・

龍一は、公園のベンチに座っていた。

その姿を、六歳くらいの女の子が眺めていた。もちろん龍一は、この視線に気づいていた。

龍一は、タバコに火を点け、そして微笑んだ。

すると、少女が話しかけてきた。

 「お兄ちゃんは外人さん?」

 「いいや、金髪に染めているんだよ。」

 「なんか女の人みたい」

その時、

 「あっ、兄ちゃん!」 

 「龍之介・・」

「この人、龍之介君のお兄ちゃん!?」

 「そうだよ。すごく強いんだよ」

 「でも女の人みたいで、全然強そうに見えない」

どうやら彼女は、龍之介の友達で、名前は花沢 百合という。

龍之介と百合が仲良くお話をしていたら、

 「中坊が、何派手に染めてんだよ」

高校生くらいのヤンキー五人が龍一に喧嘩を売ってきた。

公園にいた親子達は、急いでその場から離れた。

平和だった公園の中が、一瞬で修羅場となった。

 「修羅に生き修羅に死ぬ・・」

そう、龍一がつぶやいた。

そして、一瞬で五人のヤンキーを血祭りにした。

 「お前ら、運がいいなぁ。弟達がいなかったら、こんな程度じゃ済まないぜ!?」

 「パ、パツ金に女顔・・・こいつが修羅か!?」

 「すごーい。龍之介君のお兄ちゃん、本当に強いんだ」

ヤンキー達にも意地があった。まだ龍一とやる気だ。

だがその時!

 「最近、ずいぶんと暴れているみたいだなぁ!?」

龍一の表情が変わった。

 「龍之介、彼女連れて、他の所で遊んで来い」

 「えっ?・・う、うん。ユリちゃん、行こう」

二人もその場から離れた。

 「やっと、テメェーと喧嘩ができるぜ!虎次郎」

その時、警察が現れた。

 「お前ら、何をやっている」

 「おい、マッポまで来たぜ」

 「ああ、やばいな・・」

ヤンキー達も、その場を離れた。

 「堤防で勝負だ」

 「フン・・・」

虎次郎も、公園から離れた。

だが、龍一はその場から動かなかった。

 「お前、中学生だろう。名前は?」

 「・・・喧嘩屋修羅だ!」

 「ふざけてないで、質問に答えろ」 

 「さて、そろそろいいかな・・・」

龍一はタバコを銜えた。

 「おい、未成年がタバコを吸っていいと思っているのか!」

 「未成年?タバコ?あの二人は、シンナーを吸っているみたいだぜ!?」

 「なに!?」

警察が、後ろを振り向いた瞬間、龍一もその場を離れた。警察は後を追うが、龍一の速さに、ついて来られなかった。

 龍一は、どうやら時間稼ぎをしていただけだった・・・


龍一が堤防に向かう途中、トオルと南に出会った。

「おい、そんなに慌ててどこに行く?」

「堤防で、虎次郎とタイマンだ。」

そう言って、堤防に向かった。

 「おい南、俺達も行くぞ!」

トオル達も堤防に向かった。


 その頃堤防では、虎次郎が龍一を待っていた。

そして・・・

 「待たせやがって・・・」

 「ああ!?誰のために、時間稼ぎをしてやったと思っているんだ!」

 「行くぜ!」

ついに二人のタイマンが始まった。

もの凄い激戦が続いた・・・

 

 トオル達が、堤防についた頃には、二人は血だらけになっていた・・・二人には止める事が出来なかった。

虎次郎が、隠していたナイフで攻撃・・・だがそれをかわし、龍一は手裏剣を投げたが、虎次郎もかわす。

 その時、静が現れた。

 「龍一君、お願いだからやめて!」

 「無理だぜ!?俺達でも止められないんだから・・・」

 「そ、そうだ。兄貴の幼馴染の、瑠奈さんなら止められるかも!?」  

 「瑠奈さん!?」

 「ええ、その人が、龍一に格闘技を教えているらしいのよ」

 「お前、その人の場所分かるか?」

 「ええ・・」

 「よし、その人を連れて来てくれ」

 「分かったわ」

南は、瑠奈の店に向かった。

龍一は、虎次郎のナイフを持っている手首をつかみ、鳩尾に蹴りを喰らわせ、そのまま関節を決め、投げて、肘鉄・・・天神流雷鳴だ!

 「ぐは〜」

虎次郎もこの攻撃で、かなりのダメージをくらった。

だが、龍一自身も、体力的にかなり限界がきていた。


その頃、やっと南は、瑠奈の店にたどり着いた。

 「ハアハア・・・瑠奈さん、大変です!龍一が虎次郎と喧嘩して・・ハアハア・・・」

 「落ち着いて、言いたい事は分かったわ。二人の喧嘩を止めてほしいのね。」

 「は、はい・・堤防にいます」

 「悪いけど店番をお願いね」

 「え?は、はい・・」


 堤防では、まだ二人のタイマンが続いていた。

スピードと技は龍一、パワーと実戦経験は虎次郎だ。虎次郎は、小学生の頃から、高校生や一般の大人と喧嘩をし、ほとんど負けた事ない男だ。だが、二人の強さ自体は互角だ! 

後は体力勝負だ。

二人が攻撃をしようとした時!

 「いい加減にやめな」

瑠奈が現れた。

龍一の動きが止まった。

だが虎次郎の攻撃は、止まらない・・・

 「そんなに喧嘩がしたいなら、私が相手をしてあげる」

 「上等だー!」

虎次郎は、瑠奈に攻撃を仕掛けた。が、一撃で虎次郎は立てなくなった。

 「く、くそったれ〜・・こ、この俺が、女なんかに・・・龍一に、そして女・・必ずお前らをぶっ殺す!」

虎次郎はフラフラな状態で去っていった。

 「す、すごい・・いくら龍一との戦いで、血だらけになっているとはいえ、あの虎次郎を一撃で・・・瑠奈さんか・・そういえば、北斗さんから、あの人の伝説を聞いたことがあったな・・・」

 「リュウ、帰るよ。」  

 「はい・・トオル、お前も来いよ」

 「あ、ああ・・」


 それから後に、何度も虎次郎と戦うが、この時のように瑠奈が止めたり、勝負がついたかと思えば、二人ともダウンして立てなかったりして、勝負は龍一が、高校に入ってからも、つかなかった。


 次の日、龍一は久々に、学校に登校した。すでに昼休みだった。

後ろから静が、龍一に声をかけてきた。 

 「昨日はすごかったね」

 「・・・あの時、ルナさんが止めに入らなければ、勝っていたぜ!」

 「龍一君、昨日の人が好きなの?」

 「・・・お前には、関係ない・・」

 「・・私、龍一君の事が好きなの・・だから・・」

 「・・・やめておけ、生きてる世界が違う・・それにお前の言うとおり、俺はルナさんが好きだ。」

 「そう・・そうよね・・でも、自分の気持ちが、伝えられたから・・なんかスッキリした」

 「お前にはいつか、いい男が現れるさ・・・」

 「うん」

その時、龍一のクラスメートが現れた!

 「龍一君、ちょうど良かった。ミツオが、マサシさん達に連れて行かれた・・」

 「何!?場所は?」

 「たぶん体育館裏・・」

野田 光夫・・・龍一と同じクラスで、目立たない存在のため、龍一の変わりにイジメられている少年だ。

龍一はすぐに、体育館裏に向かった・・


 体育館の裏では、ミツオがマサシ達にイジメられていた。 

 「さっきクソ踏んじまった。ミツオ舐めろ!」

 「やめて・・・」

 「逆らうのか!?」

マサシ達は、ミツオをボコボコにした。

 「逆らった罰だ!明日までに、五万持って来い・・」

 「てめーら、何してんだ!?」 

 「りゅ、龍一・・・」

 「上等だよ!?てめーら・・・」

龍一は一瞬で、マサシ達を血祭りにした。

 「てめーら、これから俺とミツオには、敬語で話せよ!」

しばらくして、静が現れた。

 「ミツオ君、大丈夫?」

 「う、うん・・」

 「一応、保健室に行こう」

 「(情けない・・憧れの静さんに、こんな姿を見られるとは・・)」

どうやらミツオは、静に恋をしているようだ。龍一は、それに気づいた。

 「俺が保健室に、連れてくよ・・もうすぐ授業が始まるから、お前は教室に戻れ・・」

そして龍一は、ミツオを連れて、保健室に向かった。

その途中、龍一がミツオに尋ねた。

 「お前、静の事が好きだろう・・」

 「・・・う、うん・・でも静さんは、龍一君の事が・・」

 「俺には好きな人がいるんで、コクられたが、断った」

 「えっ?そ、そうなんだ」

 「お前は、静が好きで、静は俺の事が・・俺はある女性が好きで、そのひとは亡くなった恋人の事が忘れられないみたいで・・恋愛って難しいなぁ」

 「う、うん・・」


 授業が終わり、静は同じクラスの、女子生徒達と帰宅した。

 だが途中、静達は三人のヤンキー達に絡まれた。

 「どこの学校?」

 「俺達と楽しもうぜ」

すると静は、

 「皆、逃げて・・」

 「え?そんな事出来ないよ・・」

 「そうだ・・龍一君を呼んでくるよ」

他の女子生徒達は、龍一を呼びにいった。

 「まあ、ブスはいいや・・あんた一人で俺達を相手してくれれば・・」

 「くすっ・・相手!?いいよ」

「物分りのいい女だ!」

その時、ミツオが近くで様子を見ていた。

 「(ど、どうしよう・・静さんが危ない!でも怖い・・)」

 ミツオは静を助けたいが、恐怖で動けなかった・・・

だが、自分の好きな人を助けたい、ミツオは勇気を振り絞って、静を助けに行った。

 「や、やめろ・・・」

 「ミツオ君」

 「なんだ、お前は?」

 「し、静さんは、僕が守る!」

 「おいおい、震えてるぜ!?」

ヤンキーの一人が、ミツオの顔面を殴った!


 その頃、さっきの女子生徒が、龍一とトオルを発見!女子生徒達は、龍一とトオルに事情を話した。 

 「そうか、分かった・・お前らは帰りな」

龍一とトオルは、静を助けに向かった。

だが、龍一は急ごうとしなかった。

 「おい龍一、何のんびりしてんだよ!?」

 「ああ、大丈夫だって、あいつは父親からテコンドーを学んでいる」

 「で、でも・・・あの子は女だぜ」

 「・・・しょうがねぇな・・急ぐか!」


 その頃、ミツオは、ヤンキー達からボコボコに殴られていた。

 「ミツオ君、逃げて!」

 「ぼ、僕・・龍一君みたいに強くないけど、でも静さんを守りたい・・」

 「ミツオ君・・・」

ミツオは、すでに限界だった。

 「けっ、口だけヤローが・・俺達に逆らうからこうなるんだ」

 「おい、クズ共・・ミツオ君は命がけで、私を守ってくれた・・・私はミツオ君みたいに優しくないわよ」

 「し、静さん!?」


テコンドーは韓国の武術で、蹴り技を得意とし、そのために柔軟や身軽さが必要だ。

もちろん、他の武術でも柔軟や身軽さは必要だが、テコンドーはその二つを利用した蹴り技が多い。もちろん手技のほうが多いが、足を自由に使うため、足技が多いと思われているのだろう。


静は、一人のヤンキーにかかと落としをし、もう一人には、回し蹴り・・・もう一人のヤンキーは、逃げようとしたが、とび蹴りが炸裂!

静は、三人のヤンキーを倒した。

だがその時、ヤンキーの仲間達が現れた!

しかも、八人もいる。

 「オセェーと思ったら、こんな所にいたのか」

 「直樹さん」

 「何、女に負けてんだ!?」

 「す、すいません・・」

 「でも直樹クン、いい女だぜ!」

 「ああ・・・」

 「(十一人か・・・今の私じゃ無理・・・)」

 「女のくせに強そうだな・・でも俺は、あの喧嘩屋修羅のダチなんだぜ!」

 「・・・へー、あの修羅の友達なんだ!?・・彼、有名人よね・・どんな感じの人なのかしら!?」

 「金髪に染めてて、俺みたいにガタイがよくて、メチャ強えんだぜ」

 「クスッ、金髪と、強いのは合っているけど、あなたみたいな体格はしてないわ」

 「ああ!?」

その時、龍一とトオルがやっと到着した。

 「なんだ!?ミツオまで居るじゃん!」

 「なんだ、テメーは!?金髪に染めて、修羅のマネか?俺はその修羅のダチだからよ!」

次の瞬間、龍一は直樹の鳩尾に、蹴りを放った!

 「ぐは〜・・ゲホッ、ゲホッ・・・」

 「ああ!?俺はテメーなんかしらねぇぞ!」

 「な、直樹クンが一発で・・」

 「おい、あのリーゼント野郎・・白川中のトオルだ!」

 「じゃ、じゃあ、あの金髪野郎が、本物の修羅!?」

 「てめーら、よくもミツオを、ボコリにしてくれたな」

  「龍一、俺にも遊ばせろ!」

数分後・・・龍一とトオルは、ヤンキー達を血祭りにした。

 「おいお前ら、今度はこの程度じゃ済まないからな!」

龍一のその言葉で、ヤンキー達は逃げて行った。  

 「ミツオ君、大丈夫!?」

 「へ、平気だよ・・」

 「トオル、行こうぜ!」

 「ああ・・」

龍一とトオルは、その場を離れた。

 「ミツオ君、ごめんなさい。・・・私、三人くらいなら、勝てると分かっていたけど、ミツオ君が、私を守ってくれたから、しばらく黙ってみていたの・・でもすごく嬉しかった・・」

 「・・・僕は、静さんの役に立ちたかったんだ・・・ぼ、僕、静さんが好きです!だから、付き合ってください!」

 「ミツオ君・・・ありがとう。こんな私でいいなら喜んで・・・」  

こうして、二人は恋人同士になった。

 

 龍一は、「修羅 参上」の特攻服を着て、相変わらず喧嘩に明け暮れていた。

だがこの時、真の強さが何かを彼は知らない・・・
























第七章 龍一の過去(其の二 龍の巻)




 月日は流れ、龍一は二年生になっていた。

 

「わ、悪かった。も、もう、修羅アンタには手を出さないから・・・許してくれ・・」

「許してください!だろ・・クズ共が・・・」 

六人のヤンキー達が、血だらけになって、倒れていた。

その喧嘩を、一人の少年が震えながら見ていた。その少年こそ、少林拳の使い手、小林 秀一だ。

もちろん、その存在を龍一は気づいていた。 

そして龍一は、秀一の近くに歩み寄った。龍一は、相手が強ければ、ヤンキーであろうと、一般人だろうと、男女関係なく喧嘩を売る。

だが龍一は、嘲笑うかのように秀一の横を通り去っていった・・

おそらく、龍一は秀一に、お前は強いが、臆病者だ!と言いたかったのであろう・・・

それは、秀一が龍一に、恐怖を感じ、震えていたからだ。

秀一は、震えながらタバコに火を点けた。

 「(・・あれが、喧嘩屋修羅・・)」


 それから一週間後・・・

この日龍一は、あるモノを目覚めさせた・・・


龍一とトオル、南は、西村モータースに居た。ここは、摩利支天の六代目、西村 和也の実家だ。

「やっと、復活した・・・」

「おう、どうだ!?龍一」

「あっ、カズヤさん・・・復活しましたよ!ルナさんが愛用していた単車ニンジャが・・・」

この日、目覚めさせたのは、瑠奈がレディース時代から、二十歳(ハタチ)まで愛用していたカワサキの単車ニンジャだ。龍一が弟子になってからは、瑠奈も忙しくて、ずっと眠っていた単車・・・それを、目覚めさせたのだ。

「けっ、単車には興味ネーとか言ってたくせに・・・」

 「ああ、興味ないよ。だからトオル(お前)の単車(XJ)にも興味ない。・・・けど、この単車ニンジャは、ルナさんが愛用していたから、特別なの・・」

 「問題は、中坊のお前が、コイツを乗りこなせるかだ」

龍一は、まだ中学生、当然単車の免許など持っていない。

 「へへっ、ルナさんも同じことを言っていた・・・けど、ナポレオンじゃないが、俺の辞書に、不可能の文字は無い!」

そう言って、龍一は単車にまたがった。

 「その辺軽く流したら、ルナさんの店に行くから・・・それではカズヤさん、失礼します!じゃあな南、トオル・・」

ヴォン!ヴォヴォオオン!・・・

龍一は、その辺を流した後、ルナの店に向かった・・・


喫茶「LUNA」・・・

ギャババババーン!

瑠奈の店の前で、単車を止めた。

そして龍一は、店の中に入っていった・・・

 「ルナさん、ニンジャ復活しましたよ」

 「へー、ちゃんと乗ってこれたんだ」

 「俺は、ルナさんの弟子ですから・・」

 「それより、さっき、アンタの母親から、電話があったわよ。」

 「あっ、携帯の電源、切ったままだった・・」

 「まあ、心配していたみたいだから、家に帰りな・・」

 「・・・は、はい・・」

 「あっ、単車は、置いてきな・・」

 「はい・・・」

龍一は店を出て、家に戻った・・・


 「おかえり、龍一・・」

 「ルナさんの所に、電話したみたいだが、なんの用だ!?」

 「さっき、学校の先生から連絡があって、あなた、今日も学校に、行かなかったの?」

 「・・・悪いかよ!?」

 「今から、学校に行って、午後からの授業には出なさい!」

 「イヤだね!」

 「龍一、あなた、もう二年生なのよ・・・来年になったら・・」

 「うるせーな!俺の勝手だろう!」

その時、父武蔵が現れた!

武蔵は、格闘家を引退してからは、時代劇モノの小説を書いたりしていた。

 「沙織・・・その馬鹿は、行きたくないって言っているんだ・・ほっとけ」

「でも、あなた・・・龍一、お父さんだって、本当は心配しているのよ。もちろん、お母さんも、そして、先生方も、みんな、あなたの事を心配しているのよ。だから、わざわざお電話を・・」

 「先公が心配!?笑わせるぜ!そんなの立場上、しょうがなくやっているだけだ!影では、俺をクズ扱いしたりして・・・あいつらは皆、似非教師だ!表向きは、いい面しやがって、偽善者共が・・」

パシッ!

母沙織が、龍一の頬を叩いた。彼を叩いたのは、これが初めてのことだった。

 「クソババア・・・!(あっ、涙・・・)」

沙織の目から、涙が・・・

その時、武蔵が、

 「龍一、庭に出ろ!てめーが、どれだけ弱いか教えてやる。」

 「じょ、上等だ!」 

武蔵と龍一は、庭に出た。

 「龍一、本気で来い!」

 「い、いいのか!?てめーは、引退して十四年も経っているんだぜ!?」

 「舐められたもんだ・・・お前など、左手だけで十分だ!」

龍一が攻撃を仕掛けた!

だが、全部、紙一重でかわされている。龍一が跳んだ!天誅だ!

だが、これもかわされた・・・

 「もう、おしまいか?」

そう言って、武蔵の左正券突きが炸裂!

龍一はそのまま、塀のところまでふっ飛んだ!

ドゴーン!

 「ぐはっ・・くそ・・・なんて一撃だ・・・」

 「喧嘩屋?修羅?笑わせるぜ!?てめーは、弱いものを守って、正義の味方みたいな事をしているらしいが、ホントは、ただ喧嘩がしたいだけなんだろう!?・・・てめー自身も、偽善者なんだよ!瑠奈はお前に、何を教えているんだ?あの女も偽善者か?」

 「俺の事を、どう言おうとかまわん・・・だが、ルナさんの事を悪く言うな!」

 「だったら、弟子のてめーが、しっかりしろ!弟子の出来が悪いと、師匠も同じだと思われるだろう!」

 「くっ・・・」

 「俺は昔、瑠奈の父月形 良昭と戦って敗れたんだよ・・・テレビでも、俺は負けた事があるとコメントした」

武蔵は引退後、一度だけ敗北があるとコメントしたが、誰もその戦いを見たことがない。その時の戦いを見たのは、瑠奈、武、凍矢だけ・・・そのため、誰も信用しなかった。

また、天神流や良昭の名前も出さなかった。

天神流は影に生きる武術・・・だから、天神流の者でない人間が、天神流を語ってはいけない、武蔵はそう思ったから、名前を出さなかった。

もちろんマスコミから相手の名前は?と聞かれたが、武蔵は、本物の修羅と戦ったと答えた。

信じる、信じないは、人それぞれ・・・それが最後のコメントだった。

 「(親父が、良昭大先生と戦った!?しかも、親父が負けた!?・・・そうか、それで引退したのか!?)」

龍一が、ようやく立ち上がった。

 「どおした、偽善者ヤロー!もう、おしまいか?」

 「くそー!いつか、てめーを超えてやる!」

龍一は、そのまま家を飛び出した。

 「龍一!・・・あなた」

 「ふん、あの馬鹿が、行く所は決まっている・・・」


しばらくの間、龍一は歩きながら、自分の世界に入った。

 「狂おしいほど、痛いのならば、すべてのモノを壊し、自らを修羅と化すことで、求めるモノを手に入れるため、戦い続ける・・・」

龍一は、そうつぶやいた・・・彼が求めるもの・・・それは強さ・・

だが、今の彼は、喧嘩の強さしか求めていない。

 「(どおすれば、親父を超えられるんだ・・・)」

龍一が立ち止り、我に戻った・・・

しばらくして、彼が再び歩き始めた・・・

その時の龍一の顔は、まるで鬼のような表情をしていた。通行人達は皆、龍一と目を合わせないようにしていた。

その時、一人の男が龍一の肩にぶつかった。

 「どこ見て歩いているんだ!?コラッ!」

龍一が大声で怒鳴った!

通行人達も、一瞬立ち止まったが、見て見ぬふりをし、再び歩き始めた。 

「おっ、ワリーな・・ボウズ。」

 「ボウズだと!?今の俺は、機嫌が悪いんだ!喧嘩なら買ってやるぜ!」

 「・・・俺は空手家だ!素人を相手にする気はない」

この空手家こそ、元摩利支天のメンバーで、後に新戦会の四天王となる原田 光介である。

だがこの時、お互いに相手が何者なのかを知らない。

そのため、龍一は、すでに原田と会っていた事を知らない。

この時出会ったのは、ただの空手家・・としか覚えていない。

原田も、この時出会ったのは、ただの悪餓鬼・・としか覚えていない。

 「空手家!?上等だよ!?俺は強いぜ!」

 「ふーん・・」

龍一は、完全に切れた!

 「ぶっ殺す!」

 「礼儀をしらんボウズだなあ・・まあ、昔の俺も人の事言えないが・・・」

 「構えろ!空手家ヤロー」

 「いつまでも、お前と遊んでいる暇はない・・じゃあな・・ボウズ」

原田が、背を向け、去ろうとした・・

 「逃げるのか!臆病者!」

原田が立ち止まり、振り返った・・・ 

そして、原田が上段回し蹴りを・・・

だが、紙一重のところで止めた。

 「(やはり出来る・・あの爺さん)・・・これでどっちが強いか、分かっただろう・・次は本当に当てるぞ!」

 「(・・み、見えなかった・・・)」

 「ボウズ、強くなるためには、負ける事も必要だ。その悔しさをバネにもっと強くなれ・・」

原田が、再び背を向けた・・

 「ああ、それからこの戦い、おれ自身も、お前の後ろに居る爺さんに、負けた・・」

そう言って原田は、去っていった・・・

 「(・・後ろに居る、爺さん!?)」

龍一が、後ろを振り向くと、そこには一人の老人が立っていた。

 「ジジイ・・いつから、おれの後ろに!?」

 「ホッホッホッ・・ワシの気配に気がつかなかったのか!?わしは、あの男が回し蹴りをする、ちょっと前に、お前さんの後ろに居ったかな・・」

 「(いくら、あの空手家ヤローに、気をとられていたとはいえ、俺の背後を取るなんて・・)」

 「あの空手家、強いのう・・じゃが、お前さんは未熟者じゃ!」

 「なんだと!」

龍一が構えた・・

 「おいおい、こんな年寄りに、暴力を振るう気か?」

 「てめー、ただのジジイじゃネーだろう!?」

 「あの空手家が、お前さんには、勝ったが、わしには負けたと、言っておったじゃろう・・・あの回し蹴り、お前さんに対しての警告と同時に、わしへの挑戦でもあったんじゃ・・お前さん、あの蹴り見えたか?」

 「・・いや、見えなかった・・・」

 「そうじゃろう・・じゃが、わしは見えた。顔色一つ変えずにな・・・だから、あの男は、負けを認めたんじゃ!」

 「・・・・」

 「わしの弟子にも、お前さんみたいに喧嘩の強さしか知らんやつが居る・・武道家にとって、本当の敵とは誰だと思う?」

 「・・・自分より強い相手!?」

 「いや、己自身じゃ・・わしの弟子も、お前さんも、心が弱いんじゃ!」

 「心が弱い!?」

 「そうじゃ・・・!お前さんの心は荒んでいる。そのためお前さんは、わしに背後をとられたんじゃ!もし、わしが悪人じゃったら、お前さんはどうなっていったかのう・・・」

確かに、この老人が悪人だったら、龍一は殺されていただろう。

 「まあ、あの男の言うとおり、悔しさをバネに強くなることじゃ」

 「じーさん、あんた一体何者だ!?」

 「わしの名は、小野寺 辰彦じゃ!お前さんは?」

 「神威 龍一だ!」

 「神威!?お前さん、伝説の格闘王の息子か?」

 「ああ・・けど、俺は親父から武術を学んでいない・・俺の師匠は、ルナさんだけだ」

 「るな!?月形 瑠奈の事か?」

 「ああ、ルナさんの事知っているのか?」

 「知っておるぞ・・確か天神流とかいう古武術の使い手で、アル何とかっていう殺し屋じゃろ!?」

 「アルテミスだ!それに、殺し屋じゃネー、スイーパーだ!」

 「ああ、そうじゃ・・アルテミスじゃ・・そう名乗っておったわ・・」

 「(名乗って!?)じーさん、ルナさんに会った事があるのか?」

しばらく小野寺が黙りこむ・・・ 

そして、小野寺が、再び語り始めた・・

 「5、6年くらい前に、チンピラ共が悪さをしておったので、少し懲らしめてやったんじゃ。」

 「へー・・」

 「じゃが、そうしたら、チンピラ共が、わしの命を狙い始めてのう・・・」

 「そうか、それでアンタはルナさんに、奴らを始末してくれと、依頼したんだな!?」

 「いや、逆じゃ・・依頼をしたのは、チンピラ共の方じゃ・・・そして、あの娘が現れたんじゃ」

 「ば、馬鹿な!?・・・ルナさんは、クズを始末するのが仕事・・そんな、クズ共の依頼を受けるもんか!」

 確かに、小野寺が弱ければ、瑠奈は相手をしなかった事だろう。

だが、小野寺も昔は名のある武道家・・・天神流の技を振るうに、これ以上の相手・・・

だから、彼女は、チンピラ共の依頼を受けたのであろう。

 「あの娘は、修羅そのものじゃった」

小野寺が、この時言った修羅とは、荒んだ者のことではなく、三面六臂の闘神阿修羅の

ことである。その表情は、怒り、悲しみ、意志を表している。

確かに瑠奈は、強い意志を持っている。そして、家族や武を失って、怒りと悲しみを心に秘めて生きている。

 「わしは、お前の父、格闘王とは戦った事はないが、おそらくあの娘は、格闘王より強いじゃろう・・・さすがのわしも、何十年ぶりかに本気になった。さて、この勝負どっちが勝ったと思う?」

 「・・ル、ルナさん!?」

 「そう、そのとおり、勝ったのはあの娘で、わしは負けた・・・望みどおり、わしの命をやると言ったが、あの娘は、ただあなたと勝負したかっただけ・・・そう言って去っていった」

その後、小野寺の命を狙ったチンピラ共は、全員病院送りとなった。

そして、瑠奈に恐怖を感じ、この街から姿を消した・・・

だが一人だけ、まだこの街に残っている。その男は入院中に、人のやさしさを知り、心を入れかえ、今は真面目に生きている。

 「さて、そろそろ行くかのう」

 「フン・・・いつか、親父にも、あの空手家ヤローにも、あんたにも、負けないくらい強くなってやる・・・」

龍一は、そう言って去っていった・・・

小野寺も、その場を離れようと、歩き始めた・・その時、

 「あっ!小野寺先生・・どうも、こんにちは」

一人の少年が、小野寺にお辞儀をした。

 「おう、秀一か・・・」

小野寺に、挨拶をしてきた少年は、小林 秀一だった。

実は、秀一に少林拳を教えていたのは、小野寺であった。

 「今、面白い男に二人も出会ったわ」

 「面白い男・・・?」

 「一人は空手家、もう一人は、お前が前に言っておった・・・喧嘩屋修羅じゃ!」

 「ま、まさか、修羅のヤツ先生に喧嘩を・・・」

 「売ってきた・・・じゃがなぁ秀一、少林寺拳法は喧嘩のための武道じゃない、己を鍛え弱き人を守るための武道じゃ!」

 「・・・・」

 「まあ、お前も、あの少年も若い・・これからじゃ」


 その頃、龍一はルナの店にやって来た。

 「やっと来た・・・今度は、あんたの父親から電話があったのよ」

 「親父から!?」

 「しばらく、私の所に預けるって・・・まあ、あんたには、まだまだ教えなければいけない事がたくさんあるし・・・とにかく、今日からまた、私と二人で暮らすのよ」

龍一と瑠奈は、二年以上、阿の山にこもって、二人で生活をした事があるが、瑠奈の家での暮らしは龍一にとっては、初めての事であった。 

「はい!」

龍一は、再び瑠奈と暮らせるかと思うと、今日の出来事が、どうでもいいと、思えるようになった。さっきまで、鬼の様な表情をしていた龍一だったが、今はまるで、飼いならされた子犬の様であった。

「夕食まだでしょ!?用意できているから、食べな」

「はい!いただきます!」

 「でもね、リュウ・・・あんたには、ちゃんと待っている家族がいるんだから、その事だけは、忘れるんじゃないよ」

 「俺・・・お袋を、泣かせてしまいました・・・今度、謝ってきます」

 「ホント、出来の悪い弟子なんだから・・・」

 「でも、親父のヤツ、ルナさんの事を・・」

 「偽善者って、言っていたんでしょ・・・」

 「知っていたのですか?」

 「電話で、謝られたわ・・・でも、それは間違いじゃないわ」

 「えっ?」

 「間違っているのは、私の生き方・・・相手がどんなヤツでも、殺せば、罪人・・・」

瑠奈自身、自分が罪人だという事を、誰よりも知っている。

 「・・・後、親父以外に、空手家と、小野寺とかいうじーさんに負けました」

 「あんた、小野寺先生にも喧嘩を売ったの!?」

 「・・・はい」

 「あきれた・・これじゃ、まだまだ、奥義は教えられないわね」

 「はい・・」

 「それから、どうせ学校に、行く気がないんでしょ!?あんたには、ちゃんと家の事や、店の手伝いをしてもらうから・・・もちろん、バイト代はだすわ」

 「はい、分かりました・・あの、僕はどこで寝ればいいんですか?」

 「あんたは、下のリビングで寝なさい」

瑠奈の店の奥に、キッチンやリビング、バスルームなどがあり、二階に、瑠奈の部屋がある。 

 「ああ、それから、変な事しようとしたら、ぶっ殺すからね!」

 「は、はい・・分かっています・・・」

こうして、龍一と瑠奈の新たな生活が始まった。

瑠奈の店は、年中無休・・瑠奈の店が休業する時は、天神流の特別な修行がある時か、瑠奈のもう一つの仕事が、ある時くらいだ。営業時間は、朝七時から夜十八時である。

その後、夕食が済んだら、天神流の修行が、朝方四時まで続く・・・そのため、二人の睡眠時間は、2時間くらいである。

だが龍一は、強さを求めた・・・

今までとは違う強さを・・・真の強さを求めた・・・






























   第八章 龍一の過去(其の三 神威の巻)

 



それから一週間後・・・

さすがの龍一も、疲れが出始めた。

 「ふー、やっと、お客さんがいなくなった」

 「どうしたの・・リュウ?疲れたの?」

 「だ、大丈夫です・・・」

その時、一人の男が店に入ってきた。その男の姿を見て、龍一の表情が、鋭くなった。

 「何しに来やがった!?親父!」

 「おいおい、それが客に対する態度か?」

店に入ってきたのは、龍一の父、武蔵であった。

 「まあ、てめーに用はネー。俺は、瑠奈に話があるんだ。クソ餓鬼は席を外してくれないか?」

 「ふざけんな!俺は仕事中だぞ!」

 「リュウ、お前疲れただろう・・部屋で休んでいな」

 「・・はい・・」

龍一は、エプロンを脱ぎ、そのまま部屋の中に入っていった。

武蔵は、コーヒーを頼んだ。

そして、瑠奈と話始めた・・・

 「馬鹿息子の、世話をしてくれてありがとう」

 「とんでもありません」

 「それから、偽善者呼ばわりした事も・・」

 「前も言いましたが、おじ様の言っている事は正しいと思います。私自身も、罪人・・・」

 「・・・いつまでこんな世界で生きるつもりだ!?良昭先生も、武も、そして、お前の母も、お前が、裏社会で生きる事を、望んじゃいない・・・それは、お前自身が一番よく知っているはず・・」

 「・・・・」

しばらくして、瑠奈がコーヒーを出した。

 「うまい・・・これなら喫茶店だけでも、食べていけるだろう」

 「・・・裏の仕事で、依頼人から、お金をもらったことはありません」

スイーパー・・・日本語に訳せば始末屋だが、瑠奈は人間のクズしか始末しない。

警察は、事件が起きてからしか動かない。たとえ命を狙われている者がいても、証拠がなければ動けないのだ。そのために、大事件となる事もある。

だが瑠奈は、依頼人が心の底から助けを求めれば、命に代えても、その依頼を果たす。

そして、依頼人の笑顔が、なによりの報酬なのであろう。

だが、中には、小野寺の時のような例外もある。

天神流の後継者は、皆修羅となる。瑠奈も相手が強ければ、修羅となってしまうのであろう。

 「確かに瑠奈おまえのおかげで、助かった人は多いらしいな・・・ところでお前、彼氏はいないのか?」

 「・・いません・・」

 「そうか・・・お前なら気づいていると思うが、俺の馬鹿息子は、お前に好意があるみたいだが・・・」

 「私は罪人・・・リュウには、私なんかより、もっといい女性と付き合ってほしいのです」

 「まあ、アイツはまだ、中坊だしなぁ・・・」

 「私は、沙織おば様の気持ちを知っていたのに、リュウに武術を教えてしまいました。おじ様を倒した天神流を・・・」

 「瑠奈、それは間違いじゃない・・・間違っていたのは俺だ。龍一に護身術として、武術を教えていたら、アイツはいじめられなかっただろう・・・あの時、俺は何もしてやれなかった。アイツも男としてのプライドがあったのだろう・・・絶対にいじめられていた事を言わなかった」

武蔵は、コーヒーを飲み終えた。武蔵は、コーヒー代とは別に、龍一の生活費を瑠奈に渡そうとしたが、

 「今日は私のおごりです。それと、アイツに必要なお金は、アイツ自身、ここで働いて、払ってもらいますから・・・」

もちろん瑠奈は、龍一からもお金を取るつもりはない。

 「・・そうか・・・だが、コーヒー代は置いてくぜ・・・!アイツを頼むな」

そう言って武蔵は店を出た。


 その夜・・・

 「・・・すいません。いつの間にか寝てしまって・・・」

龍一はあの後、そのまま寝てしまったみたいだ。

 「ご飯、できているから食べな」

 「はい、いただきます!」

龍一が夕食を食べ始めた。

 「親父、何しに来たんですか?」

 「あんたをヨロシクって、頼みに見えたのよ・・・それからさっき、南ちゃんが来ていたわ」

 「南が・・!?」

 「あんたに、合わせたい人がいるみたいよ」

 「俺に!?」

 「女の人らしいわよ!また近いうちに来るって」

その時、

ピンポーン

とインターホンが鳴った。

 「南かな?」

そう言って、龍一は玄関に向かった。

そして、玄関を開けると、そこに居たのは、母沙織であった。

 「お、お袋・・・」

 「元気そうね・・これ、着替え・・お父さんに頼んだけど・・・」

 「あら、おば様・・こんばんは」

 「瑠奈ちゃん、お久しぶり」

 「どうぞ、上がってください」

 「今日はただ、この子の着替えを持ってきただけで・・・今度ゆっくりと、遊びに来るわ」

沙織は、着替えを龍一に渡し、帰ろうとした時、 

 「お袋・・・この前はゴメン・・・」

龍一が沙織に、この前のことを謝った。

 「・・・たまには、家に帰ってきなさい」

 「・・・ああ、たまには、顔を出しに帰るよ」

龍一は、途中まで母を見送った・・・

 「この辺でいいわ。ありがとう」

 「ああ・・」

 「あんまり無理しないようにね・・・休む事も必要なのだから・・・」

 「分かったよ。それじゃ・・」

さすがに、瑠奈と同じリズムで生活をしていては、龍一は倒れてしまうだろう。

そのため、瑠奈は龍一に、店の手伝いを週4にして、時間も十一時〜閉店までにした。


 それから三日後の午後・・・

ピーク時が過ぎ、お客は一人もいなくなった。

その時、店にある男が現れた。

 「いらっしゃいませ!」

龍一が、丁寧に接客をした。

すると男は、 

 「瑠奈ちゃん・・お久しぶり」

その男は、瑠奈の事を知っているようだ。

瑠奈も、その男にあいさつをする。

 「ホント、久しぶりね・・3年ぶりかしら・・・」

男は、龍一の方を見て、

 「この子が、瑠奈ちゃんの弟子かい?」

と、瑠奈に尋ねた。

 「ええ・・出来の悪い弟子で、困っているんですけど・・・」

 「どうも、すいません・・・」

龍一は、申し訳なさそうに答えた。

 「出来が悪いか・・・俺も昔はそうだったな・・・」

 「あの小野寺先生にまで、喧嘩を売ったらしいのよ」

 「小野寺先生か・・懐かしいなぁ・・あの時、瑠奈ちゃんに、病院送りにされたのが、昨日の事のように思える」 

 「(ルナさんに、病院送りにされた!?)」

男はコーヒーを頼んだ。

すると瑠奈は、 

 「体調の方はいいの?」

と、男に尋ねた。

 「まあまあかな!?2年前から、パン工場で働いている・・・それより今度、美奈子と結婚するんだ」

 「やっと、美奈子さんと結婚するのね・・おめでとう」

 「ありがとう・・瑠奈ちゃんが月の女神なら、美奈子は愛の女神かな!?」

 「確かに美奈子さんは、ヴィーナス(愛の女神)かもね・・・」

 「ルナさん、この人は誰ですか?」

瑠奈はしばらく黙っていた。

すると、男が答えた。

 「俺の名は、野々村 将太・・・昔、瑠奈ちゃんに、小野寺先生を始末してくれと、依頼した事があるんだよ」

龍一は、男の言葉を聞いて、何者なのか分かった。

五年前に小野寺 辰彦を始末してくれと依頼した、チンピラの一人だという事を・・・

だが龍一には、なぜ、そんなクズと瑠奈が仲良くしているのかは、分からない。

 「他のヤツらは、留奈ちゃんに恐怖を感じ、この街から姿をけしたが、俺は入院中に、瑠奈ちゃんや美奈子のおかげで、人の優しさを知る事が出来た」

将太の婚約者、美奈子は、看護師である。年は二十八歳で、将太は美奈子の二つ下である。 

将太は最初、整形外科で入院していた。怪我も治り、本当なら、他のチンピラ共と同じように、退院できるはずだった。

しかし、お腹の痛みが消えない。

将太は、そのまま内科病棟に移された。

そして、検査の結果、彼の病名が分かった・・・クローン病だ!

あの愚かな男、野村 昇児と同じ病気だ! 

 「最初は、治らないと聞いて、世の中がイヤになったよ・・・そんな時、留奈ちゃんが見舞いに来てくれた」

 「他の連中は退院しているのに、野々村さんだけ、まだ入院していると聞いたから・・・」

 「すごく嬉しかった・・・その時、瑠奈ちゃんの優しさを知ったよ・・」

 「私もその時、クローン病という病気を知ったわ」

 「クローン病!?クローン人間なら知っているけど・・・」

龍一には、初めて聞く病名だ。


クローン病は、一九三二年に、クローンという人が発見したところから、その名前が付けられた。そのため、クローン氏病ともいわれている。

クローン病は、口から肛門までの消化器に潰瘍が出来るが、主に小腸や大腸に潰瘍が出来る。

 

 「腸が細くなったり、穴が開いたりするんだぜ!しかも、腸を安静にするため、胸から点滴をして、絶食なんだぜ!」

 「ホントですか!?」

 「ああ・・・けど、すごい激痛だったから、食欲なんか無かったけど・・」

将太はこの時、腸閉塞を起こしていた。そのために、緊急手術となった。

クローン病は、命に係わる病気ではないが、腸閉塞や血便が止まらなかったりすれば、当然命に係わる。そのため、緊急手術が必要とされる。

野村 昇児もそのために、三回も手術をしている。 

 「今度はそのため、外科に移されたんだ。術後には、二、三日、付き添いが必要だったが、俺には親がいないんだ」

将太の両親は、彼が十八の時に、交通事故で亡くなっている。

 「俺は、昔からワルをやっていて、結局、親孝行出来なかった・・・」

将太の目から涙が・・・

 「将太さん・・・」

龍一は、やっと分かった。今の将太がクズでないという事を・・・

将太は涙を拭いて、再び語り始めた。

 「・・・術後、俺の付き添いをしてくれたのは、瑠奈ちゃんだ・・・手術後は、次の日から歩かされた。術後の痛み・・・体中にはたくさんの管・・・けど、瑠奈ちゃんがいたから、苦痛の中、次の日から歩く事が出来た」

 

手術して、次の日から歩くのは、再び腸閉塞を起こさないためでもあるが、再び腸閉塞を起こしてしまう人もいる。

 

 「この時、瑠奈ちゃんにも親がいないと知った・・・俺はこの時、瑠奈ちゃんに恋をしていた。調子がよくなったら告白しようと思った。そして、地獄の二週間を、外科で過ごし、再び内科に戻るのだが・・・所詮、治らない病気・・・問題なのは、食事だ。点滴のカロリーを減らして、エレンタールという栄養剤を飲まなければいけないのだが、これが不味いんだよ・・一応、いろんな味のフレーバーがあるんだけど、不味い!」


エレンタールは、粉を溶かし、飲む方法と、鼻から管を通して、点滴のようにゆっくり落として、栄養を取る方法がある。

また、エレンタールは、一パックに三〇〇カロリー入っている。成人男性は約一五〇〇カロリー必要・・・エレンタールだけで生活するなら、五〜六パックは必要となる。

他にもラコールと呼ばれる栄養剤がある。こちらは、すでにジュースのようになっており、味も何種類かあって、エレンタールよりも飲みやすい。だが、カロリーは一パックに二〇〇カロリーしかない。


 「食事も、栄養士からいろいろ聞いたけど、未だに、何を食べていいのか分からん」

 

クローン病の食事は非常に難しい。簡単にいってしまえば、エレンタールやラコールだけで、生活するのがいいといわれている。

しかし、それでも再発をしてしまう人もいる。逆に何を食べても平気な人もいる。

だが、腸の病気なのだから、食事は消化のいいものを食べた方がいいと思われる。

それでも調子が悪くなるなら、栄養剤だけで絶食をした方がいいと思われる。

 

 「俺は、ある決意をした・・・瑠奈ちゃんに告白しようと決めた・・・だが、ふられた・・・」

龍一の表情が、険しくなった。自分が告白した時、ふられたら・・・と、思ったからだ。

 「俺にとって、初めての恋だった・・それだけに、ショックも大きかった。そんな時、よく慰めてくれたのが、美奈子だったんだ。俺は、無理だと思いながらも、退院する日に、彼女にアドレスを教えた。そして、久しぶりに、誰もいない家に帰ってきた・・次の日の朝、起きて携帯を見ると、メールが来ていた・・美奈子からだった・・そして、再び俺の恋が始まったのさ」


将太がこの時、入院していた期間は、二ヶ月・・・

普通の人なら長いと思うだろうが、クローン病や、他の難病患者からすれば、二ヶ月など、マシな方だろう・・・彼らは、半年や一年の入院ですら当たり前・・・しかも、クローン病は、治療のため絶食・・・ひどい時は、水を飲む事さえ出来ないのだから・・・

更に、退院してもすぐに戻ってくる人もいる。

 将太も、その後、数え切れないほどの入退院を繰り返している・・・

 「さて、そろそろ行くか・・・ごちそうさん」

 将太が、コーヒー代を払おうとしたら、龍一が、

 「結婚祝いにしては安いかもしれないけど、今日は俺のおごりです」

 「・・ありがとう・・君の名前は?」

 「神威 龍一です!」

 「龍一君か・・君の恋もうまくいくといいね・・」

 「えっ!?」

将太には分かっていた。龍一が、瑠奈に好意を持っているのが・・・ 


 次の日の朝方・・・

天神流の稽古を終え、布団に入るが、龍一は眠れなかった。

彼は迷っていた。瑠奈に告白をするべきか、それとも、あきらめるべきか・・・

結局彼は、一睡も出来なかった。

そして店に出ると、そこには、南と一人の女性が、龍一を待っていた。

 「南、俺に合わせたい人って、その人かい?」

 「そう・・バイト先で友達になったの・・」 

「麻奈美といいます・・」

 「どうも・・龍一です・・」

麻奈美は、髪を青く染めているが、すごくおとなしい感じの女性だった。

南は、中学を卒業してから、カラオケ屋でアルバイトしている。麻奈美とは、そこで知り合ったみたいだ。

麻奈美は、南の二つ上で、龍一とは四つ上になる。

 「麻奈美は、バンドやっているの・・だけど、ヴォーカルが辞めちゃって・・・最初は、瑠奈さんに頼んだのだけど、忙しいからって断られたの・・それで、あんたを紹介使用と思って・・」

 「バンドか・・俺にヴォーカルなんて出来るかな!?」

 「龍一さん・・お顔もいいし、いいお声をしていますよ」

龍一の顔が、赤くなった・・・どうやら龍一は、初めて会った麻奈美に、ときめいてしまったようだ。

 「(いかん、いかん・・俺は、ルナさん一筋なんだ・・)」

 「リュウ、やってみたら・・」

 「ルナさん・・・」

瑠奈はすぐに分かった。龍一が麻奈美に好意を持った事を・・・

 「・・分かりました・・やってみます。それで、バンド名はなんていうんですか?」

 「アリスといいます」

麻奈美は、アリスのギターでもあり、リーダーでもある。アリスというバンド名をつけたのも麻奈美だ。彼女は、ルイス・キャロル原作の、不思議の国のアリスが大好きだ。

不思議の国のアリスは、白いうさぎを追って、アリスが不思議の世界に迷い込んでしまうというお話だ。

麻奈美は、自分達で不思議な世界を創り、観客にアリスとなってもらい、不思議な世界を体験してもらう。

それが、彼女の作ろうとしている音楽の世界だ。

 「アリスか・・・いいね。俺も、あの話は大好き」

その時、三人のお客が入ってきた。 

 「いらっしゃいませ!」

龍一がまた、元気に接客しようとした。

 「やっと、来たみたいですね・・」

 「麻奈美さんの知り合いですか?」

 「皆、こちらが、アリスの新しいヴォーカリスト、神威 龍一さんよ」

この三人は、アリスのメンバー達だった。

ギターのセイジ、ベースのユータ、ドラムのカミヤ・・・

 「麻奈美ちゃん、こいつ中坊じゃないですか!?こんなヤツと一緒にやるんですか?」

 「な、何だと!」

セイジの言葉に、龍一は切れそうになった。

 「金髪に女顔・・・こいつ、修羅とかいって、調子こいているヤツだろ!?」

カミヤも、挑発的な態度であった。

 「上等だ!コラー!」

しばらく黙っていた、麻奈美であったが、

 「お前らはここに、喧嘩しに来たのか?」

麻奈美の一声で、メンバー達が黙り込んだ。

 「ごめんなさいね・・・龍一さん」

 「は、はあ・・麻奈美さんは、元ヤンですか?」

 「・・・そんな昔の事は、忘れました」

 「と、とにかく、ヨロシク・・」

こうして龍一は、アリスの二代目ヴォーカリストとなった。


 その日の夜・・・

 「リュウ、麻奈美ちゃんの事が気になるのでしょう!?」

 「そ、そんな事・・・」

 「彼女、彼氏がいないみたいよ」

 「そ、そうなんですか・・(やはりルナさんは、俺の事なんか・・・)」


 三日後・・・

南と麻奈美が、店にやって来た。

 「麻奈美さん!いらっしゃいませ!」

 「龍一、私もいるんだけど」

 「あっ、南、いらっしゃい」

 「ちょっと、麻奈美の時と態度が違うじゃない!」

 「そうか・・・!?麻奈美さん、ご注文は?」

 「コーヒーを、お願いします」

 「私は、コーラとハムサンド!」

 「はい、はい・・」

しばらくして、龍一がコーヒーと、コーラと、ハムサンドを持ってきた。

 「ちょうど、俺も今から昼休憩なんだ」

そう言って、龍一は、南の隣に座った。

 「何で、私の隣に座るのよ?」

 「麻奈美さんの隣だと、緊張するし、喋りづらいじゃない」

龍一はそう言って、麻奈美と話始めた。

 「麻奈美さんは、ファンタジーものが好きなんですよね?」  

 「はい」

 「俺、ヘリー・コッター好きなんですよ・・・本も全部読んだし、映画もDVDで観ました」

 「私も大好きです・・・でも映画の方は、一番新しいのだけ観ていないです」

 「炎のビスケットですか!?今度、貸してあげますよ」

しばらく黙って、ハムサンドを食べていた南だったが、

 「ねェ・・龍一」

そう呼びかけるが、龍一は、麻奈美との話に夢中で聞こえていない。 

「でも、一作目の話が、俺は一番好き・・へリーがヘリコプターに乗っていたら、魔法の世界に迷い込んじゃうんだよね・・・」

再び、南が呼びかける。

 「龍一!」

 「何だよ!?」

ようやく、南の呼び声に気づいた。

南は、龍一を連れて、店の外に出た。

 「あんた、どういうつもり?」

 「何が!?」

 「あんた、瑠奈さんと、麻奈美と、二股かけるつもり?」

 「南、俺とルナさんは、付き合っているわけじゃない・・・」

 「だってアンタ、瑠奈さんのことが・・・」

 「所詮、無理なんだよ・・・ルナさんは、今でも武さんのことが・・・」

 「・・・そうよね・・だから、北斗(アニキ)も・・・」

 「北斗さんが、何だよ!?」

 「・・な、何でもない・・・麻奈美と、うまくいくといいね・・」

 「・・・・」

 「私、邪魔みたいだし、帰るわ・・」

 「南・・・」

 「じゃあね!」

 「あっ、コーラとサンドイッチ代!」

 「いい人、紹介してあげたんだから、アンタのおごりに、決まっているでしょ!」

そう言って、南は帰っていった・・・

 「たく・・・ああいうヤツは、絶対長生きするな・・」


だが南は、子供を助けるため、十八という若さで、この世を去ってしまう・・・


龍一は、再び店の中に入っていった。

 「南、帰っちゃった」

 「そうですか・・では、私もそろそろ・・・」

 「リュウ・・送っていてあげな」

 「はい・・」


しばらく、龍一と麻奈美は、話ながら歩いていた・・・・龍一は心の中で、告白をしようと決めた。

そして、龍一が立ち止まった。

 「俺・・麻奈美さんのことが・・その・・好きです!」

 「・・私、正直な人が好きなのです」

 「・・・・」

しばらく沈黙が続いた・・・

そして・・・

 「俺は、本気でマナミの事が好きだ!それは嘘じゃない・・けど、それ以上にルナさんのことが好きだ・・・!俺は最近、夢を持った・・・最強の格闘家・・それが、俺の夢・・」

 

 「・・・そうでうすか・・では、音楽をやっている暇なんてありませんね・・・ヴォーカルは、また新しく探します」

 「ゴメン・・けど・・一度だけ、俺をステージに上げさせてくれ!」

 「はい!」

 「じゃあ俺、店に戻るから・・・」

 「龍一さん・・あなたの気持ち、すごく嬉しかったわ・・この言葉は嘘ではありません」

 「ああ・・・じゃ、また・・」


麻奈美を途中まで送って、龍一は店に戻った。

 「おかえり、どうだった?」

 「・・・自分の気持ちを、彼女に伝えました・・・けど、俺には、本当に好きな人がいるから・・・」

 「・・そう・・」

龍一はいつか、自分の気持ちを瑠奈に伝えようと、そう心に決め、再び仕事に戻った。


数週間後・・・

この日、龍一が、初めてステージに上がる。

この日のために、龍一は、天神流の稽古を休み、歌の練習に励んだ。

 「ルナさん、絶対来てくださいよ・・・特に最後の曲は、俺が詩を書いたんだから・・・」

 「ちゃんと行くわよ」


 そして、アリスのライブが始まった。

ライブハウスには、瑠奈だけでなく、トオル、南、静、ミツオ、そしてプレシャスのメンバー達も観に来た。

 「ようこそ・・・アリスの不思議な世界へ・・・」

龍一は、王子様のカッコウを・・・麻奈美は、お姫様のカッコウを・・・セイジは、ピエロ・・・ユータは、魔女・・・カミヤは、天使のカッコウをして現れた。

 「今宵は、このカムイが、皆様を案内させていただきます」

龍一らしくないセリフだが、彼は今、喧嘩屋修羅ではない。カムイ王子だ。

だから、修羅の名を使わずに、苗字の神威を使ったのだろう。

この、ライブハウスで瑠奈達以外に、彼らの演奏を、本気で聴いている人が何人いるかは、分からない・・・

だが、龍一が歌っているのは、瑠奈に聴いてもらうため・・・そのために、ステージに上がったのだから・・・

そして、次が最後の曲・・・詩は龍一が書いたという曲・・・

 「最後に、この曲を聴いてください・・・月の女神!」

 龍一が、瑠奈のために書いた詩だ。

この時、瑠奈はどのような気持ちで、この曲を聴いていたのだろう・・・

曲が終わり、龍一が最後に、

 「オ・ルヴォワール」

そう言って、ステージを降りた。フランス語で、さようならという意味だ。

龍一は別に、フランス語が話せるわけではない・・・たまたま、知っていた言葉を言っただけである。

しかし、師匠の瑠奈は、フランス語、英語、更に、中国語まで話せる。

裏の世界で生きるために、彼女はいろいろな国の言葉を学んだのであろう。

ライブが終わり、龍一は、麻奈美や他のメンバー達と朝まで飲み明かした。


 店に戻った龍一だが、飲みすぎたため、二日酔いとなった。

彼は以外と酒が弱い・・・といっても、彼は未成年・・・タバコと一緒で、未成年の飲酒は法律で認められていない。

この日、龍一はお休みで、昼過ぎまで眠っていた。

目が覚め、顔を洗い、瑠奈にあいさつをしに、店に出てきた龍一・・・

 「おはようございます!」

 「もう、昼過ぎよ・・・」

 「・・昨日のライブ、どうでした?」

 「・・・良かったわよ・・あんた格闘家より、ミュージシャン目指したら!?」

 「・・がんばって、最強の格闘家になります・・・・!ちょっと、散歩してきます」

そう言って、彼は散歩しに出かけた。


龍一が、散歩をしていると、公園で、高校生カップルが、三人のヤンキーに絡まれていた。

 「こんなヤツより、俺達と遊ぼうぜ」

その時、

 「お前らとは、俺が遊んでやるよ!?」

龍一が現れた。 

「ああ!?(き、金髪に女顔・・・修羅・・・)」

 「お、俺達・・よ、用事がありますから・・・失礼します!」 

三人は、そう言って、公園から去っていった。

 「ありがとうございます」

高校生カップルが、龍一にお礼をいった。

 「ああ・・・なあ、あんた達、高校生だろ!?」

 「はい・・」

 「高校って、楽しいか?」

 「俺は、楽しいと思っています・・・高校に行ったから、彼女とも出会えたし・・・」

 「そうか・・・」

龍一も、来年は三年生・・・この時から、彼は高校に行く事を決意する。


彼は途中で、参考書を買うため本屋に立ち寄った。

その時彼は、父親が書いている本を手に取る。読書家の彼だが、今まで父親の本だけは読んだことがない。彼は夢中で本を読み始めた・・・


 龍一が店に帰ってきたのは、夕方過ぎだった。

 「ルナさん・・俺、明日から、学校に行きます!」

 「ど、どうしたの・・急に・・」

 「俺・・・高校に行くことに決めました!」

彼は、遅れたぶんを取り戻すため、猛勉強をし始めた・・・


そして龍一は、舞達と同じ桜木高校に入学した。


ふと、目を開け、

 「・・・あんな頃もあったんだな・・・」

そう、龍一はつぶやいた。


 そして、龍一が阿の山にこもる日がやって来た。舞達は気を利かせて、わざと見送りにこなかった。

 「ルナさん・・・行ってきます!」

 「いってらっしゃい」

龍一を抱きしめ、瑠奈が優しくキスをした。龍一にとって、二度目のキスだ。

そして龍一は、店を出て阿の山に向かった。

最強の格闘家になるという、夢に向かって・・・










第九章 トゥルース(愚かな男の真実)

 



強さを求めているのは、龍一だけじゃない・・・

舞や一は、今までよりも厳しい空手の稽古を開始した。

秀一も小野寺から、今までより厳しい少林寺拳法の修行を開始した。

四郎は柔道部に入部し、再び柔道の稽古に励んだ。

トオルも、再びボクシングジムに通い始めた。


 そして、ある日・・・

 「喫茶LUNA・・・ここだな・・」

一人の男が、瑠奈の店にやって来た。

 「いらっしゃいませ」

 「あの・・ここに、龍一君がバイトしていると、聞いたんですけど・・」

 「ごめんなさい・・リュウ、今いないんです」

 「そ、そうですか・・(それにしても、なんて美しい人だ)」

男は、そのままカウンターに座った。

 「失礼ですけど、貴女が、龍一君に武術を教えている・・・お師匠様ですか?」

 「・・はい、そうですけど・・・」

 「(うらやましい・・)」

瑠奈が水を出すと、男はアイスティーを頼んだ。

そんな時、舞、一、四郎の三人が店にやって来た。三人は席に座り、ジュースとハムサンドを頼んだ。

男は3人の声に、聞き覚えがあるみたいだ。男は後ろを振り向いた。

最初に気づいたのは、四郎だ。

 「の、野村さん!?」

男は席を立ち、三人に近寄った。

 「久しぶりだなぁ」

男は、あの愚かなクローン患者、野村 昇児だった。 

昇児はアイスティーを持って、四郎の隣に座った。

 「龍一君、いないみたいだね」

 「龍ちゃん、山にこもって修行しているの・・・自分の夢に向かって・・・そのために学校も辞めちゃったのです」

 「そうか・・・夢のために学校を・・・まるであの人みたいだ」

 「あの人!?」 

 「俺の、憧れのヴォーカリスト・・・元ルナシーのヴォーカル・・河村 隆一さんだよ」

 昇児が、タバコに火を点けた。

 「俺も、隆一さんや龍一君みたいに、夢を持っていたなら、あんな学校を辞めていたかも・・・」

専門高校時代・・・それは、昇児が最も嫌う時期・・・

 「そういえば、野村さんの病気って、変わった名前でしたよね!?」

 「ああ・・クローン病だ」

その病名を聞いて、瑠奈が昇児の方を見た。

 「(クローン病・・・野々村さんと同じ病気・・・)」 

「来年で十周年だぜ!」

舞達と一緒に、馬鹿笑いしているが、彼は、ちょっと前まで、世の中がイヤになっていた。

 「そうそう、皆にお勧めの本があるんだ」

昇児はカバンから、本を取り出そうとした。その時、一枚の紙が落ちた。四郎がその紙を拾った。 

 「修羅 生死のプロフィール!?1979年?2月22日生まれ!何ですか?これは?」

それは昇児が、二年前に遊びで作ったプロフィールだった。1979年の後の?は、別に意味はない。遊びで?と書いたのだ。彼は、一九七九年二月二十二日に名古屋で生まれた。

 「あっ、それは見ないでー、俺が見せたかったのは、この本なの」

昇児は、一冊の本を取り出した。

「少しは、恩返しが出来たかな」という闘病記である。

昇児が少し前に、世の中がイヤになった時、この本を読んで、生きることの大切さを、思い出す事が出来た本である。

昔、昇児は、本気で自殺をしようとした人に、キレたことがある。

また、せっかく友達になったのに、病気で失った友たちがいる。昇児は彼らのために、祈りという曲を作ったこともある。

だが、昇児自身は、本当に弱い人間だ。この本を読む前や、初めて病気した時など、何度も、世の中がイヤになった事もある・・・おそらく、これからもあることだろう・・・

現在は、デパスという安定剤だけしか飲んでいないが、一時期は、かなりの安定剤を飲んでいた。

病気してからも、馬鹿な事をしていたのは、彼の心が弱かったからだろう・・・

 

 「本で思い出しましたが、小説は書けたのですか?」

四郎が昇児に尋ねた。

 「・・まだ、出来ていない・・一応、主人公は忍術家の少年!」

 「忍術家!?龍ちゃんと同じだ」

 「・・こ、この物語は、別に龍一君をモデルにした分けじゃないよ・・・最初は、拳法家にしようとしたんだ。俺、ブルース・リーやジャッキー・チェンに憧れているし、おれ自身も少林寺拳法を学んでいたし・・・」

 「それが、何で忍術家になったんですか?」

舞が昇児に尋ねた。

 「俺が小さい頃、ショー・コスギさんのニンジャ映画が流行っていた。この時、俺は、忍術を学びたいと思った。しかし、本当に忍者がいるのか分からなかった。そんな時、ある特撮番組に、本物の忍者が出ていると知った・・・初見 良昭先生だ」

武術に、心得がある3人だが、初めて聞く名前だった。その時、瑠奈が、

 「戸隠流三十四代目宗家・・・」

そう答えた。

 「さ、さすが、龍一君の師匠・・・初見先生は、戸隠流忍法など、九つの古武道を極め、戸隠流三十四代宗家となっている・・・本部は千葉県にあるらしい」

まだ、小学生だった昇児には、名古屋から千葉は遠すぎる。

だが、大人になったら、忍術を学び行こうと思っていた。

 「しかし、俺が学んだのは、少林寺拳法と実戦空手だ。しかも少林拳はガキの頃少し習っただけだし、空手も病気してからだから、本格的には出来なかった・・この物語の主人公には俺が出来なかった事をやってもらいたい・・・だから、忍術家なんだ」

 「なぜ、少林寺拳法を辞めたのですか?」

今度は一が尋ねた。

 「俺、泳げなかったんだ・・・だから、学校から少林寺を辞めて、スイミングスクールに通うように言われた・・まったく、教師は勝手だぜ!?しかも、学校ではいじめられていたし・・」

 「そうなんですか!?」

 「中一の時なんか、お金をたかられた・・だが、中二になって、親が離婚してから、自由に生きようと思った・・・俺には、三つ上の兄と、九つ下の弟がいる・・・二人には、反抗期が無かったみたいだが・・俺にはあった・・」

この時、昇児と兄は父親に、弟は母親に引き取られた。

兄は7年前に結婚し、家を出ている・・子供も一人いる。男の子で、昇児にとって、甥っ子だ。

兄は保育士で、弟も保育士になろうと、現在勉強中だ。

だが、たとえバラバラに暮らしていても、たまに家族がそろえば遊びに行ったりしている。

また、父親側の祖母は、二年前から、ずっと入院している。

祖父は、二〇〇二年一月一日・・・正月に永眠・・・

昇児は、その前の年に、一度だけ、祖父と同じ部屋で入院した事がある。それが、最初で最後だ。

昇児が、この時入院した期間は約半年・・その間に祖父が入院してきたのだ。

最初は師長も、昇児の祖父とは気づかなかったため、違う部屋になる予定だったが、気を利かせて、同室にしてくれたのだ。また、昇児が2回目のオペをしたのも、この年だ。

母親側の祖母は、母親が小さい時に亡くなっているから、昇児は知らない。

祖父も、昇児が小さい時に亡くなった。

 

 「中二から、馬鹿な事ばかりしていたなぁ・・・授業中に大声で歌を歌って、先生が怒って、授業がつぶれたこともあった・・・けど、この頃は、アニメのキャラに恋をしたりして、かわいらしい一面もあったんだ」

 「もしかして、この1992年の初恋って、アニメのキャラですか!?」

四郎がプロフィールを見て尋ねた。

 「当時の俺にとっては、愛の女神・・・ヴィーナスなんだよ・・でも、そのアニメ、中坊の時しか観ていなくて、大人になってから続きを観たら、戦士が増えていた・・・俺は大人のような女性がタイプだから、今なら、ネプチューンかな・・」

3人は思った・・・この人は、オタクなのかと・・・

だがこの時、昇児は本気で、アニメのキャラに恋をしていたのだ。

それだけ、彼の心は、まだ無邪気だったのであろう・・・

 「だけど、俺の心が荒んだのは、この後・・・」

昇児の顔から、笑顔が消えた・・・

さっきまで、馬鹿笑いしていた彼だが、今はまるで別人・・・


昇児は、中学を卒業し、料理の専門高校に入学した。

暴力が全ての学校・・・専門学校でもあり、高校でもあるため、三年間通うこととなる。

特に一、二年は修羅場だった・・・

生徒同士の喧嘩・・・教師の暴力・・・そのストレスを発散させるため、ついに昇児は、罪の無い生徒をイジメてしまう・・・

更に、教師が教師を止めるという事件・・・

そんな時に、昇児はルナシーと出会う。

一九九四年の夏の終わり頃・・・ツレとゲーセンに行った時、その時に流れていた曲が「ロージア」だ。

この曲は病気をしてからも、昇児の支えとなっている。


 「野村さん、大丈夫ですか?」

舞の呼び声に、昇児が答える。 

 「ゴメン、ゴメン・・・ちょっと考え事をしていた・・・僕の心が荒んだのは、僕の心が弱かったんだ。それに、中学の時、ちゃんと勉強していれば、普通の高校に入れたと思うし・・・この闘病記の北原 和憲さんは、病気だけじゃなく、受験とも闘っているんだ。」

北原 和憲氏は、十九年と短い人生の中、卓球に励み、病気と闘いながら、受験勉強をし、早稲田、慶応、そして東大にまで合格している。 

 「俺には受験戦争なんかなかったから・・・それより、背中が痛い!」

 「背中!?」

昇児は数年前から、背中の痛みを訴えている。医者にも原因が分からない。彼はお腹の調子がよくても、背中の痛みは消えない・・・

 「消化器の病気だけど、足が腐った人とかと出会ったこともあるし、テレビで目の見えないクローン患者を観た事もある・・・命に係わる病気じゃないが、腸閉塞や血便がとまらなかったら、当然命に係わる・・・病人は、痛み、苦しみ、そして、恐怖との戦い・・・」

昇児は背中の痛みが強くなってきたため、痛み止めを飲んだ。

 「大丈夫ですか?救急車を呼びましょうか?」

 「・・・大丈夫・・痛み止めを飲んだから・・・救急車か・・何回乗ったことか・・・」

彼は、痛みや下痢で睡眠不足となったりして、何度も倒れた事がある。そのために何度も救急車に乗っている。

また、お腹が痛いため、侍のように壁にもたれて眠ることもあった。トイレの中でそのまま眠ったことも何度かあった。

これは彼だけでなく、多くのクローン患者が経験したことだろう・・・


彼の表情が、穏やかになった・・痛みが和らいだのであろう・・・

 「・・・だいぶ良くなった・・・口では、なったものはしょうがないとか言っているけど、ホントは怖いよ」

この闘病記の中で、和憲氏は、両親には言わなかったけど、彼は友人に年賀メールを打っていた。和憲氏の母親は、彼が亡くなってから、そのメールを知ったみたいだ。

そして、メールの中に、恐怖との闘い・・・長い文章の中に、その言葉が書かれていた。

彼は恐怖の中、最後まで病気と闘った・・・彼が残した本で、命の大切さを感じてもらいたい・・・

昇児自身も、この本を読んで、命の大切さを感じたのだろう・・・


 「野村さんは、いつ病気になったのですか?」

舞が尋ねた。

 「一九九X年・・・くだらないギャグはやめよう・・・一九九七年・・卒業して、パン工場に就職した時だから、十八歳の時だ」

パン工場に就職した彼は、お腹の痛みを訴える。

地元の病院では、精神的なものと言われた。

だが、彼の痛みは強くなる。五十キロ以上あった体重が、四十キロ以下になった。

そこで、祖父が通っている名古屋大学付属病院、通称名大で検査をして、昇児と家族は初めて、クローン病という病名を聞く・・・難病で治らない・・・彼は心の中で、死にたいと思った・・・

ルナシーはその頃、ソロ活動をしていたが、昇児は「ロージア」を聴いて、病気と闘う決意をした。

 「入院中は、暇だからね・・ビデオを観たり、CDを聴いたり、本を読むことくらいしか、楽しみはない」

長期入院で、しかも絶食・・・だから入院中には、CD、ビデオ、DVD、そして、本などが彼には、必要なアイテムとなる。

 

またこの時、メジャーデビューしたマリス・ミゼルと出会う。中世ヨーロッパの貴族のカッコウ・・・まるで、おとぎの国から飛び出してきたようなバンドであった。入院中に、テレビでマリスのクリップ映像を観たとき、彼は病院ではなく、マリス・ミゼルの不思議な世界にいたのであろう・・・


そして、彼は、腸閉塞を起こしたため、緊急手術となった。

この時の入院期間は約四ヶ月・・・初めての入院・・・初めてのオペ・・・

そんな彼を支えたのが、漫画と映画と音楽、そして、家族の愛情である。

またこの時、看護師に恋をしている。彼にとって本当の恋だったが、その人には、婚約者がいた。結局、彼の片思いで終わった・・・


退院後、彼は空手を習う・・・会に在籍していたのは、約五年だが、本格的に稽古をしていたのは、三年くらい、しかもその間に何度も入退院を繰り返している。後の二年は少年の部の指導・・・最後の方は、ただ見学しているだけであった。

また仕事は、アルバイトを転々としている・・・


病気して間もない頃は、仕事場にも、道場にも、遊びに行く時にも、通院する時にも、エレンタールを持って出かけた。

だが、それでも入退院を繰り返してしまう・・・

それは彼が、馬鹿な事ばかりしていたからかもしれない・・・


三年後になると、再び世の中がイヤになった。

医者からは、再手術が近いと言われていた。

小腸と大腸のつけねの部分が糸みたいに細くなっていたのだ。いつ、モノがつまってもおかしくない状態だった。

そんな時、ある特撮番組と出会う。

四郎がプロフィールを見て、

「2000年にタイムレンジャーのおかげで生きる意欲が出てくる!そして、遊び人になる!何ですか?これは?」

と、昇児に尋ねた。

 「あっ、それ、永井 大さんが出演している、特撮番組・・二十世紀最後という事で、未来をテーマにしたスーパー戦隊シリーズ!」

この番組も、彼に勇気を与えてくれた。

 「永井さんがセリフで、明日を変えろ・・というセリフがあるんだ。それを聞いて、明日を変えるためにも生きようと思った。そして、思い出した・・病気で失った友たちの事を・・・」

 「そのあとの、遊び人とは何?」

 「僕が、初めて付き合ったのは、この時なんだ・・でも、浮気されたから、一ヶ月で別れた・・」

だがこの時、昇児は怒る事もなければ、悲しむ事もなかった・・彼自身も本気じゃなかったのであろう・・・

 「それから、ナンパみたいな事をしたり、スロットをやったり・・違う意味で明日が変わっちゃった・・でもこの頃、祈りという曲を作った」


 祈り


荒んだ時代を生きていくために

僕は強く


生きていきたい明日にむかって

僕は生きる


君の・・・ 

分まで・・・


華のように散って逝った

君のために僕は祈る


苦しみの中で生きて散ってゆく

修羅のように


僕は・・・ 

生きる・・・


壊すものすらないから今は

空にいつも僕は祈る


華のように散って逝った 

君のために僕は祈る


これが昇児の作った祈りの歌詞である。昇児が亡くなった友たちのために作った曲・・・

その亡くなった友の中には小さな子供もいる。昇児が初めて入院した時、手術後、調子が良くなり、たまたま喫煙所で、付き添いをしていたご両親と知り合って、入院中にお子さんと漫画の話をしたり、遊んだりしていた・・・年も病気も違うが共に病気と闘った友達・・・だが、ある日、ご両親が喫煙所に挨拶をしに見えた。その時にその子に何が起きたか、彼にはすぐに分かった。ご両親が、喫煙所にいた昇児や他の患者、付き添いの方に挨拶をしていかれた。

昇児にとって、その子は今でも大切な友・・・

更に二回目の入院の時、同室で仲良くなった友も・・・昇児が退院してから、その子の母親から電話がかかってきた時、亡くなったことを知った。

更にクローンではないが、似たような病気で亡くなった人もいる。

また、昇児が初めて入院して、落ち込んでいる時、励ましていただいた患者の人たち・・・

「少しは、恩返しができたかな」の和憲氏や、病院で知り合って亡くなった友たちのためにも、命の大切さを伝えたい・・・昇児は心からそう思った。


また、昇児は、二十代前半の頃、金髪に染め髪を逆立てていた。当時彼は、バンドをしていたが、音楽をしているから、金髪に染めたのではない。

彼は、病気に対する怒りを表すため、漫画のマネをして、金髪にしたのだ。

 「病気になったのは、誰のせいでもない。だけど、その怒りを何かにぶつけたい・・・だから金髪に染め、自分がどれだけ怒っているかを、表したかったんだ。でも、その時の写真を見せると、チンピラと言われる・・・」

 「その写真をみてみたいな」

 「・・また今度・・逆立っていている写真は、プリクラしかないから・・・」

二〇〇一年・・・最初で最後となったが、祖父と同じ部屋で入院する。

そして、痛みに耐えきれず、彼はついに、二度目のオペを決意する。


二〇〇二年・・・この年に、名古屋IBDの会の役員となる。

この会は、クローン病と、潰瘍性大腸炎のための会・・・潰瘍性大腸炎もクローン病と同じで、厚生省の難病特定疾患に指定されている病気だ。この時に、修羅 生死という名前で祈りのCD―Rを作っている。後、失敗となったが、会の余興で一人ライブをしている。

会議の時、勉強ばかりでは、若い患者が来ない。そこで、当時の会長から、ライブをしてくれと頼まれたのだ。だが、即興でやったため、お笑いライブになってしまった・・・


二〇〇四年・・・その前の年から、何度も救急車で運ばれ、何度も入退院を繰り返している。そして、再び腸閉塞を起こし、三度目のオペとなった。

だがここ数年、背中の痛みもあるし、手術してもすぐに再発してしまう・・・


二〇〇五年には、大量の血便で再手術かと思ったが、何とか止まり、輸血をするだけですんだ。

だが、世の中がイヤになった。もう、生きたくない・・彼は本気でそう思った。

その時に出会ったのが、あの「少しは、恩返しができたかな」である。

この本は、彼に生きる勇気だけでなく、彼に夢を与えた。

彼の今の夢・・それは、彼が今書いている物語を、いろいろな人に読んでもらう事である。

そして、クローン病やイジメ、人の命の大切さを伝える事・・・


 「出来たら読ませてください」

 「俺も・・」

 「僕にも読ませてください」

 「OK!でも小説を書くという目標のおかげで、今を生きようと本気で思えた。前にも言ったけど、物語の中でなら格闘技をやる事が出来る。そのために、漫画を含めて、格闘関係の本を読んでいる・・・さて、そろそろ帰るか・・・お勘定はここに置いていきます」

その時、

 「野村さん・・私の知り合いにも、クローン病患者がいます。その人も昔はクズでしたが、今は一生懸命生きています。あなたもがんばってください!」

瑠奈からの励ましの言葉だ!

 「ありがとうございます!」

そう言って、店を出た。


彼が、クズのままで終わるか、夢に向かって、がんばれるかは、彼しだい・・・

自分の明日をどう変えるかは、彼しだい・・・






第十章 後継者




 龍一が山にこもってから、一年が流れた・・・


 「助けてー!」

一人の少年がヤンキーにいじめられていた。

 「逃げるなよ!」

その時、一人の少年が現れた!

 「かつてこの街に、修羅と名乗る喧嘩屋がいた・・・」

 「ああ!?」

 「今その喧嘩屋は、どこにいるのだろう・・・」

ヤンキーがその少年を見て、恐怖を感じた。

 「しゅ、修羅・・・」

龍一だ!龍一が山から下りて、この街に戻って来たのだ。

ヤンキーはあわてて逃げていった。

少年も龍一にお礼を言って去っていった。

 「やっと、帰ってこられた・・・この街に・・・」

 「龍ちゃん!」

舞、一、四郎の三人が、学校から帰宅途中に龍一と出会った。

 「皆・・久しぶり・・」

 「龍一、今帰ってきたのか・・・?それにしても、すごいカッコウだな」

髪の毛はボサボサに伸び、道着はボロボロ・・・それだけで、龍一が阿の山で、どれだけの荒行をしてきたのかが分かる。

 「今から美容院に行って、綺麗になってから、ルナさんの店に行こうと思っているんだ」

 「じゃあ俺達、先に瑠奈さんの店に行っているよ」

 「馬鹿ね・・こういう時は、二人きりさせてあげるの・・」

 「いいよ、皆とも話しをしたいし・・それに、久々に会うから、緊張しているんだ」

龍一は一度家に帰り、その後で美容院に行った。


 喫茶LUNA・・・ 

三人は瑠奈に、龍一が帰ってきている事を、わざと話さなかった。

瑠奈自身も、いつもと違う3人の態度を見て気づいていた。

だが瑠奈は、三人の気持ちが分かっているから、あえて聞かなかった。


しばらくして、龍一が現れた。

 「た、ただいま帰りました・・」

龍一は少し照れくさそうな顔をしていた。

 「・・おかえり・・」

瑠奈も少し照れくさそうな感じだった。

龍一は瑠奈に、何を話していいのか分からなかった。

そして龍一は、舞達と同じ席に座った。その間に、瑠奈との会話を考えようと思ったのだ。

しばらく4人で馬鹿笑いをしていたが、一の表情が険しくなる。

 「一ちゃん、どうしたん?」

 「実は一週間前に、転校生が入ってきたのだけど・・僕も舞ちゃんも四郎君も、その子の事が気になっているんだ」

 「何を!?」

 「その子の名は、不知火 隼人・・・髪を赤く染めていて、先輩達からも目をつけられていた」

 「それである日、先輩達から呼び出されて・・偶然その時、私が見かけたのよ。大変だと思って、助けようとしたのだけど・・・先輩達は、一瞬で倒された」

 「俺も、アイツは気に入らない・・・ボコボコにされれば良かったんだ」

 「四郎あんたは黙っていて・・それでその時、その子が使った技・・・あれは、天神流だったわ・・」

 「不知火・・・」

龍一はそうつぶやくと、しばらく黙り込んだ・・・

そして、龍一が語り始める・・・

 「天神流は一子相伝・・・幕末までは、後継者になれなかった者は、たとえ我が子でも殺さなくてはならない・・・それが運命さだめだった・・・その運命を変えたのが、天神流十三代目・・不知火 彦斎・・」

 「不知火 彦斎!?」

 「彦斎の母の名は蛍・・父は不明・・・だが、河上 彦斎ではないか・・とも言われている」

 「あの大思想家、佐久間象山を暗殺したという幕末の人斬り・・河上 彦斎の事!?」


江戸の頃になると、時代は太平の世に向かっていた・・・


だが、一八五三年・・・黒船来航により、時代は大きく変わってゆく・・・

多くの志士達が、尊皇攘夷などの理想のため・・・明日の日本のために、倒幕に乗り出した・・・

それが、幕末と呼ばれる時代である。

この幕末の時代に、河上 彦斎という人斬りがいた。

彼は一八三四年(天保五年)肥後生まれ・・・


河上は、我流の剣術、不知火流という、居合い、または抜刀術の使い手である。

右足を前に出して構え、後ろに伸ばした左膝が着くほど姿勢を低くして、右手一本で斬りかかる、という極めて独特な居合い術だ。


天神流には、こんな伝説がある。

一八六三年(文久三年)・・・動乱の京・・・

 「河上 彦斎殿とお見受けする・・」

 「(女・・!?) そうか・・そなたが噂の鬼姫か・・」

動乱の京で、鬼姫と呼ばれている女・・・それが天神流十二代目・・蛍だ!

彼女は、明日の日本のために戦っているのではない・・・兵を求めて戦っているのだ。

 「貴女は兵を求めて戦っているみたいだが、私は貴女が求めている兵ではない」

 「いや・・お前は強い・・・!」

しばらくの間、二人は睨み合う・・・

そして、河上が抜刀した。

蛍は、河上の頭上よりも高く跳んだ。

 「(消えた!?)」

河上がそう思ったとき、蛍の天誅が炸裂!

 「な、何という技だ・・」

 「これが私の天誅だ!」

天誅・・・この頃、多くの志士達の間で使われていた言葉だ。

天に代わって、罪を裁くという意味・・・

河上が、蛍に刀を渡そうとした。

 「私は人斬り・・だが、そなたのような美しき鬼姫に斬られるなら・・悔いは無い・・」

だが蛍は、この時、河上に止めを刺さなかった。


それからしばらくして、蛍は一人の男児を産む。

名は彦斎・・後に天神流十三代目となる男だ。

彼女が、河上に止めを刺せなかったのは、二人の間に愛が芽生えたからかもしれない・・・

その後蛍は、阿の山に戻り、子供と、師でもあり、養父でもある辰巳としばらく暮らす。

蛍は赤子の頃に竹やぶに捨てられていた。その時に、辰巳に拾われ天神流を学ぶ事となる。


蛍との戦いから一年後・・・一八六四年(元治元年)・・・

新撰組が池田屋事件で、その名を天下に鳴り響かせた時、河上は佐久間象山を暗殺・・・

 「初めて人を斬る思いがして、髪の毛が逆立つ思いがした」

そう語り、彼はそれ以後、暗殺をしなくなったという。


時は流れ・・・一八六七年(慶応三年)・・・

十月十四日に大政奉還が成される。

だが十一月十五日・・・坂本 竜馬が近江屋で暗殺される。十七日には、同席していた中岡 慎太郎も息を引き取る。

それからしばらくして、蛍が京に戻ってきた。

坂本は北辰一刀流免許皆伝の腕前・・蛍が求める兵であっただろう・・・

彼女がもう少し早く京に戻っていたなら、二人は戦っていたかもしれない・・・


そして、ある月夜の晩・・・

二人の長州の志士が、数名の新撰組隊士に追われていた。

 「覚悟しな!」

一人の隊士が斬りかかろうとした時、どこからか苦無が飛んできた。

 「誰だ!?」

 「お前達に用はない・・・」

 「用があるのは・・・私ですか?鬼姫殿・・」

 「組長!」

その男こそ、新撰組一番隊組長・・・沖田 総司・・・

 「貴女の噂はいろいろと聞いています・・・ですが、私には、女性を斬る事は出来ません」

 「戦いに、男も女もない・・・それに本当のお前は、私と戦いはず・・・」

 「・・・・」

 「く、組長!」

沖田は知らないうちに、刀を抜いていた。

そして、二人の激しい戦いが始まった。

スキを見て、長州の志士達はその場を去ることが出来た。

沖田は晴眼の構えから、やや右に刀を開き、刃を内側に向けた。平晴眼と呼ばれる構えだ。

そして、沖田が三段突きを・・・だが、

 「私の突きがかわされるとは・・・」

蛍は沖田の突きを全てかわした。そして距離を置き跳んだ!天誅だ!

だが、

 「お前の方こそ・・私の天誅をかわすとは・・・」

沖田も蛍の天誅をかわした。

だが、

 「ゴホッ・・ゴホッ・・」

沖田が吐血をした。

彼の体はすでに病に侵されていたのだ。

 「・・お、沖田!?」

蛍は、しばらく沖田の様子を見ていた。そして、

 「・・この勝負、お前の病が治るまでおあずけだ」

そう言って、蛍は去っていった・・・

しかし、二人が戦うことは二度となかった・・・


時代の流れは止まらない・・・一八六八年(明治元年)・・・

戊辰戦争の始まりである鳥羽伏見の戦いが幕を開く・・・

だがこの戦いに沖田は参加していない。それだけ彼の病はかなり悪化していたのだ。

彼には分かっているのだろう・・・自分の死期が近いのを・・・

だが沖田は、他の病人達と冗談を言って、笑ってばかりいた。

師でもあり、新撰組の局長の近藤 勇は、

 「あんなに死に対して悟り切っているヤツも珍しい」

と語った。

だが四月二十五日・・・沖田よりも先に、近藤 勇が板橋刑場にて斬首される。

そして、沖田 総司が五月二十五日に病死・・・


 翌年・・・一八六九年(明治二年)・・・

新撰組は、北へ北へと戦い続けた・・・

だが、五月十一日・・・まるで沖田と近藤の後を追うかのように、鬼の副長、土方 歳三が戦死する。

天神流にも、鬼と鬼姫が戦ったという伝説はない。

土方は、蛍が一番戦いたい相手だっただろう・・・

土方自身もそれを望んでいたことだろう・・・

だが土方はこの日、銃弾を受け戦死したのだ。


それから間もなくして、戊辰戦争が終結する。


 一八七〇年(明治三年)・・・

維新後、河上 彦斎は、攘夷思想を曲げ切れず、維新政府と相反し、更には無実の罪を問われ斬首される。享年三十八であった。

蛍はその後、不知火 蛍と名乗るようになった。


時は流れ・・・天神流は、蛍から彦斎に受け継がれた。

彦斎には、三人の子供がいた。後継者となったのは、次男の幻次である。

だが彦斎は、我が子を殺す事ができなかった。二人の子供が、その後どうなったかは、不明・・・

だが彦斎は、天神流の運命を変えた。


 「十四代目となった幻次には三人の弟子がいた。一人は彼の娘の灯、もう一人がルナさんのおじい様、そして、堀辺 正宗・・・僕も、阿の山に行く前に知ったんだけど、この人は、僕のお父さんの師匠なんだ」

 「格闘王の師匠!?」

三人が同時に驚いた。

 「そして、十五代目となったのが、ルナさんのおじい様・・・本来は、後継者にならないと、技を教えてはいけない。堀辺先生も天神流を捨て、骨法などを学び、天神流を越える技を編み出そうとしていた。だがおそらく、幻次の娘不知火 灯が、子供と孫・・・そのハヤトという男に技を教えたんだと思う」

 「じゃあ、ハヤトがこの街に来たのは・・・」

 「私に会うため・・・!天神流の後継者になるには、全ての技を会得し、強い者が後継者になれる・・ハヤトが全ての技を会得しているなら、後継者になる資格があるわ」

 「それじゃ、龍ちゃんはどうなるのですか?」

 「リュウも、全ての技を会得している・・もし本当にハヤトが、後継者になるために、この街に来たのなら・・二人を戦わせて、勝った方を後継者にするわ」

 「龍一がもし負けたら、どうなるのですか?」

 「・・・天神流は、全ての技を会得し、強い者が後継者になれる。負けた者は・・天神流を捨ててもらうわ」

 「僕は戦いますよ!そして、自分の夢のために勝ちます!」

天神流の後継者になるには、大体、二十年くらいかかる。瑠奈ですら、約十四年かかっている。もし、龍一がハヤトに勝てば、七年という異例な早さで後継者になったこととなる。


次の日、桜木高校・・・

舞がハヤトに話かけた。

 「ねぇ、不知火君・・・」

 「なんだ!?」

赤く染めた髪、鋭い目・・・それが、不知火 隼人だ。

 「あなたも何か武道をやっているみたいね!?」

 「・・・関係ないだろう・・・」

 「去年まで、この学校に天神流という古武術の使い手がいたわ」

 「ああ!?ババアの話では、プロのスイーパーと聞いたが・・・」

 「それは、その子の師匠・・・」

 「そうか、弟子がいたのか・・」

 「それで、あなたも後継者になりたくて、この街に来たのでしょ?」

 「そうだ!俺は全ての技を会得している。そして、強い!ババアは、再び天神流を、不知火一族のモノにするため、俺や親父・・祖父ジジイやお袋にまで技を教えた・・ジジイはババアに惚れ、婿入りした。だが、俺が小さい時に亡くなった・・親父やお袋は腰抜けだから、後継者争いから身を引いた・・だが、俺は違う・・・必ず俺が、後継者になってやる!」

 「現継承者である。月形 瑠奈さんが、弟子の神威 龍一と勝負して、勝った方を後継者にするって・・」

 「フン、面白い!」

 「明日、土曜の朝方・・時間は午前四時・・場所はこの紙に書いてあるから・・・後、負けた者は、天神流を捨ててもらうって、おっしゃっていたわ」

 「上等だ!」


放課後・・喫茶LUNA・・・

「一応、伝えてきました」

 「舞ちゃん、ありがとう・・」

瑠奈が、舞にお礼を言った。店には、舞、一、四郎のいつもの三人・・・だが、龍一の姿が見えない。

 「龍ちゃんは?」

 「あいつは、その辺をジョギングしているわ」

ジョギングといっても、龍一がこの時に走った距離は五十キロ以上だ。

戦いは明日の朝方・・・下手に体力を使うと不利になるのは分かっているはず。

だが今の龍一には、五十キロくらいなら、たいした距離ではない。

龍一は、五十キロを走り終え、店に戻った。

 「ハアハア・・ただいま帰りました!」

少し息切れをしているが、とても五十キロを走ってきた感じには見えない。

 「みんな、僕、明日に備えて、もう寝るから・・ルナさん、今日は泊めてもらいますね」

そう言って、店の奥に入っていた・・・


 そして、午前四時・・・

指定の場所に、ハヤトが現れた。

龍一と瑠奈は、一時間前から待っていたようだ。

龍一もハヤトも、天神流の道着を着て、腰には刀が・・・

この戦いは、今までの戦いとは違う。龍一は、瑠奈から奥義の使用も認められている。 

 そして、二人の戦いが始まろうとした・・・

その時、

 「間に合った・・」

舞、一、四郎がやって来た。

 「皆・・・!」

 「天神流の人間じゃない私達が、ここに来てはいけないと思ったのですが、どうしても二人の戦いを見届けたくて・・・」

 「・・ルナさん、僕からもお願いします!」

 「いいんじゃない・・アンタの大切な友達なのだし・・」

 「ありがとうございます!」

 「おい、早くしろ!」

 「ああ・・ワリーな・・」

龍一がハヤトの前に立ち、互いに礼をし、そして、二人の戦いが始まった。

先に攻撃を仕掛けたのは、ハヤトだ。

龍一の頭上より高く跳んだ!天誅だ!

龍一はハヤトの天誅を紙一重でかわした。

だが・・・龍一の腹から血が・・・

 「な、何で、龍ちゃんのお腹から血が・・・?」

 「・・リュウが天誅をかわした後、ハヤトは、抜刀したのよ・・その時、リュウは後ろに跳んだ・・だから、あの程度で済んだのよ・・・もし、リュウの反応が少しでも遅れていたなら・・・死んでいたかも・・」

 「そ、そんな・・・」

 「思ったよりやるな・・・だが、俺の編み出した抜刀術、不知火はかわせないぜ!」

 「抜刀術、不知火!?」

 「行くぜ!」

 「(正面から突っ込んできた・・)」

ハヤトの手が刀に・・・

 「(来る・・)」

龍一は、再び後ろに跳んだ。

だが、

 「(フェイント!?)」

ハヤトは刀を抜かず、龍一の後ろに回った。

 「死ねー!」

ハヤトが龍一の背後を取り、刀を抜こうとした。

だが・・・

バシッ!

ハヤトが刀を抜こうとした瞬間、龍一の後ろ回し蹴りが炸裂した!

 「(な、何!?)」

ハヤトはそのままふっ飛んだ。

 「ば、馬鹿な・・・俺の不知火が・・・」

 「正面から突っ込んで、抜刀するとみせかけ、相手が本能的に避けようとした方向を読み、超スピードで相手の背後に回り抜刀する。それが、お前の編み出した抜刀術、不知火だろ?」

 「くそ・・なぜ、俺の抜刀よりも、お前の蹴りの方が速いんだ・・?」

 「・・・お前が、一瞬ためらったから・・・お前は、俺と同じで、今まで、真剣を持って戦ったことがない・・そうだろう?」

 「・・・・」

 「だから、自分の抜刀術がどれほどの威力か知らない・・だが、最初の一撃目で、自分の剣で、人を殺す事が出来る・・それが、お前には分かった・・そして、心の中で、人を殺したくない・・その思いが、お前の抜刀を遅らせた・・だから、俺の蹴りの方が速かったんだ」

 「なんか、いつもの龍一と違うな・・」

 「そうだね・・いつもの龍一君なら、相手が強ければ強いほど、修羅になるのに・・」

 「リュウは、阿の山で、肉体だけでなく精神的にも強くなったみたいね・・・もしかしたら、私を超えたかも・・・」

 「龍ちゃんが・・・瑠奈さんを超えた!?」

龍一が刀を捨てた。

 「フン、素手で勝負か・・いいだろう・・」

ハヤトも刀を捨てた。

 「(おそらく龍一アイツは、龍神を使ってくる・・ならば、俺も・・・)」

 「行くぜ!ハヤト!」

二人が、同時に奥義龍神を使った!

龍神に必要なのは、常識を超えるスピードだ!超スピードで相手の急所に攻撃する。

数秒の間にどれだけ攻撃出来るかで威力が変わる。

そして、ふっ飛んだのはハヤトだ!

龍一の方が、ハヤトより多く攻撃したのだ。

 「負けを認めろ・・ハヤト・・」

 「くそ・・天神流を捨てるくらいなら、死んだほうがマシだ・・・!俺を殺せ!」

 「俺は、人殺しなんかになりたくないから・・・それに、命は大切にするものだ!」

 「・・・完全に俺の負けだ・・」

 「ハヤト・・俺の父さんの師匠・・堀辺 正宗は、天神流を越える技を編み出そうとした。お前も天神流を越える技を編み出し、また俺と戦おうぜ・・・!それに、お前の編み出した不知火・・あれは、すごかったし・・」

 「・・フッ・・いいだろう・・」

ハヤトの顔から、笑顔が・・・

彼は立ち上がり、刀を拾って、去っていった・・・

舞達3人も、そのまま帰宅し、龍一は瑠奈と共に店に戻った。

この日は、天神流の後継者を決める大事な日、そのため瑠奈の店は休業となった。

龍一がリビングで休んでいると、瑠奈は部屋からある物を持ってきた。

 「これに、お前の名前を書け」

それは、天神斎から瑠奈までの、継承者の名前が書かれていた巻物であった。

この巻物に、名前を書いた者が、継承者の証なのであろう。

龍一は、瑠奈の名前の隣に、自分の名前を書いた。

この時から、龍一は天神流の十八代目となった。

 「今日からお前が、天神流の十八代目だ!」

 「はい・・・!ルナさん・・あの・・えっと・・」

 「どうしたの?」

 「・・前にも言いましたが、僕と付き合ってください!」

 「・・・ゴメン・・お前とは、やはり付き合えない・・」

 「・・・そうですか・・」

淋しそうな顔をしている龍一を、瑠奈は優しく抱きしめた。

 「リュウ・・お前の気持ちに答えられなくて・・本当にごめんね」

 「・・ルナさん・・ありがとう・・」


瑠奈は裏の世界で生きる女・・・

龍一には、もっと、すばらしい女性と出会い、幸せになってほしいと、心の底から思っているのであろう・・・

そして、彼女には分かっていたのであろう・・あの男が生きているということを・・・












第十一章 伝説の悪魔


 

  

龍一が継承者となってから、二ヶ月が経った・・・

龍一は、更に強さを求めた・・・

だが、たまに、生活費を稼ぐために、瑠奈の店でアルバイトをしていた。

そして、舞、一、四郎のいつもの三人が、店にやって来た。

 「龍一、お前から借りていた漫画・・ここに置いとくぞ!」

 「あ、うん・・」

三人は、ジュースを頼んだ。

 「久々に読んだけど、面白いな、タイガーボールは・・」

 「でしょ・・・!今度は虎衛門を貸してあげるよ・・フシギ・F・フシオ先生の漫画は、最高だよ・・・!あと、ナースムーンとか、るろうのケンシロウとかもいいよ!あっ、最近、ジャッキー・リーのポリス・怒りの鉄拳のDVDを買ったから、貸してあげるよ!」

 「龍ちゃん・・ナースムーンを読んでいるの?」

 「うん・・特に、ナースヴィーナスが好き・・ルナさんとは全然違うけど、ああいう女性もいいね!」

三人と、楽しそうに、漫画などの話をする龍一・・・その姿を見て、瑠奈は、自分がいなくなっても大丈夫だと確信した。

もう、瑠奈が龍一に教えることは何もない・・・瑠奈は、自分がこの街にいる限り、龍一に出会いはない・・・そう思い、この街から姿を消そうとしていた。

 「ヴィーナスで思い出したけど、お前のいない間、野村さんが店に来たぜ!」

 「マジ!?」

 「ああ・・なんか武勇伝を語って、帰っていた・・」

この時、野村 昇児がどうしているかは、神の身が知る・・・

彼の話題は、すぐに終わり・・・再び、漫画の話に戻った・・・

 「でも、タイガーボールが一番好き!」

 「僕も、あの漫画は好きだな」

 「おう!俺も・・なんといっても、孫空まごぞら さとる鶴林波つるりんぱは最高の技だぜ!俺も、あの技が使えたらなぁ・・」

 「男の子はいいね・・単純で・・あんなの漫画の技じゃない・・気で相手を倒すなんて・・・大体アンタ、山嵐はどうなったの?」

 「・・あれは、今・・特訓中なのだよ・・・!その後は、鶴林波の特訓だ!」

 「だから、あれは漫画の技・・龍ちゃんも何か言ってあげてよ」

 「・・鶴林波は、確かに漫画の技だけど、天神流には、気で相手を倒す神技しんぎ一天波がある」

 「龍一・・ホントかよ!?」

 「ウソ!」

 「ウソかよ・・」

「当たり前じゃない・・・あれは漫画の技なんだから・・・四郎アンタってホント単純ね」

「うるせぇな〜」

「いや、僕が言ったウソというのは、一天波が、正式な天神流の技じゃないということ・・・

天神流の後継者になるためには、全ての技を会得しなくてはいけない・・・だけど、その技を使った人は、天神斎という人だけ・・・僕やルナさん・・他の継承者となった人たちも、その技だけは、会得出来なかった・・・天神斎自身も、一度しか使ったことがないと云う・・・あれは、神の身が使える業・・・だから、一天波の上に神技がついている」


天神斎が、いつ、どこで、誰に使ったのかは、不明・・・天神流の伝説でも、すでに七十を超え、天神流を次の世代に託し、死期が近いと気づいた時、ある兵と戦い、その時に、使った・・・そして、天神斎はこの世を去った・・・としか伝わっていない・・・


再び、四人が漫画などの話で盛り上がる。

そして、話疲れたため、三人は帰ることにした。

舞達はお勘定を払おうとするが、瑠奈は、三人からお勘定をもらうつもりはない。

三人は、瑠奈にお礼を言って、店を出た。

しばらくすると、一人の男が店に入ってきた。

 「いらっしゃいませ!」

龍一が丁寧に接客した。

男は、長い髪を金色に染め、冷たい瞳をしていた。

瑠奈が珍しく、怯えた表情をしている。

 「・・リュウ・・私はこの男と話しがあるから、今日はもういいよ・・」

 「は、はい・・」

龍一はエプロンを脱ぎ、男の横を通り、そして店を出た。

 「久しぶりだな・・瑠奈・・」

 「やはり、生きていたか・・・凍矢!」

その男こそ、かつて、瑠奈の父と武の命を奪った男・・・凍矢である。

 「俺が今まで、どこにいたか知りたいか?」

 「・・・・」

 「俺は武との戦いで、重傷を負った・・俺の傷が癒える頃、お前は俺より強くなっている・・そう思った。だから、それ以上の強さを手に入れるため、俺は、世界に出た!」

 「世界!?」

 「そうだ・・強いヤツを求め、世界に出た・・そして、お前に勝てるという自信がつくのに、十年かかった・・全ては、お前を、俺のモノにするため・・」 

 「ふざけんじゃないよ・・・!私は、アンタの女になんかならないわ!」

 「・・帰国したのは、一ヶ月前・・その間に、お前の事は、いろいろと調べた・・アルテミス・・裏世界では有名らしいなぁ・・それと、お前の弟子でもあり、格闘王の息子でもある・・さっきの餓鬼・・今は、アイツが、継承者らしいなぁ・・破門されたが、俺は全ての技を会得している・・アイツを殺せば・・俺が、十九代目だ!」

 「リュウに手を出したら・・・殺す!」

 「・・フン・・俺を殺す事が出来ないのは、お前自身が、一番よく知っているはずだ・・・まあ・・天神流の後継者に興味はない・・お前が、俺のモノになれば、それでいいんだ」

 「・・・・」

  「三日だけ、時間をやる・・あの餓鬼の命は、お前の返事しだい・・・おれは、阿の山で待っている・・いい返事を期待しているぞ!」

そう言って、凍矢は去っていった。

 「(この街を出て行くのには、ちょうどいいかも・・・)」

瑠奈がついに、この街を出る決意をした。


 その頃、龍一は、公園で天神流の稽古をしていた。

その時、

 「龍一君!」

一人の男が、龍一に声を掛けてきた。

 「将太さん!」

そう・・その男は、昇児と同じクローン患者、野々村 将太だった。

二人は、ベンチに座り語り合った。

 「久しぶりに会ったけど、君、すごく変わったね」

 「そうですか・・・?あっ、そうだ・・友達が入院したに時、将太さんと同じクローン病の人に出会いました」

 「へー、俺の知っているヤツかな!?」

 「野村 昇児さんという人です」

 「知らないな・・ショウジ!?う〜ん・・数年前に、ある病院で、勉強会があったから、美奈子といった時に、修羅 生死とかいうクローン患者なら見た事がある」

 「その人ですよ!」

 「そうか・・その時しか見たことないけど、変わったヤツだよな・・その時は、勉強会の余興かなんか知らんけど、メイクまでして、お笑いライブをやっていたぞ!」

 「僕も、二、三回会っただけなんですけど・・今は分かんないですけど、その時は、格闘小説を書いて、物語の中で格闘をやり続けて、あと、いろんな人に、クローン病を伝えたいと言っていました」

 「まあ、いろんなことをやる事は、いい事だと思う・・だけど、病院で死という言葉を使ったのは、まずかったな」

二十代前半の頃の彼には、常識がなかったのであろう・・・

だが、後から、生死ではなく、生時と名乗ればよかった・・・と気づいたみたいだ。

確かにその方が、「今は生きる時なんだ」と、言って、命の大切さを伝える事が出来ただろう・・・

 「将太さん、体調はどうなんですか?」

 「・・気持ち悪い話かもしれないけど・・クローン患者同士だと、当たり前のように、話しているんだけど・・腹に穴開いちゃって、腸が飛び出てきちゃったんだよね・・まあ、最近、3回目のオペをしたんだけど・・調子悪い・・・!もう、ムカついたから、最近は、繊維のある物はやめて、あとは、ほとんど食べている」

 「難しい病気なんですね・・」

 「仕事も、ほとんど休んでいるから、美奈子に迷惑をかけている・・」

 「そうですか・・・」

「ムチャやっても、調子のいい人は、それでいいんだけど、がんばってやっても、悪くなる人もいるから、その苦痛を・・その・・ショウジとかいうヤツが、ホント、世の中の人に伝えてくれると、嬉しい」

 「そ、そうですね・・」

「それに、あんまり知られていないから、地元の病院とかで、原因が分からないとか言われて、悪くなってから、大きな病院に行って、やっと、クローン病と分かる人が多い・・でも、すでに、悪くなっているから、緊急手術をする人が多い・・・!」

確かに、昇児も、地元の病院では、分からなかった・・・

そのため、彼も緊急手術となった。

腹痛や、下痢の多い人は、最初から、大きな病院で検査した方がいいであろう。

 「まあ・・腹痛から激痛に変わったら、オペは近いと思う!そうならないためにも、ショウジとかいうヤツが、世間にクローン病を伝えるべきだ!」

 「・・でも、もう一年前の話ですから・・」

 「・・そいつが伝えられなかったら、俺がやる!」

 「そ、そうですか・・」

 「まあ、瑠奈ちゃんに会いたかったけど、腹が痛いから、帰る・・」

 「あの・・ホントに頑張ってください!」

 「あっ、そういえば君、瑠奈ちゃんに告白した?」

 「しました・・・!でも、僕もふられました・・・」

 「そうか・・まあ、新しい恋でもして、がんばりな・・じゃあな・・」

将太は、お腹を押さえながら、帰っていった。

龍一も、帰宅する事にした。


 夕方・・・

龍一は、弟の龍之介と、ゲームをして遊んでいた。

そんな時、龍一の携帯が鳴った。

瑠奈からだ!

龍一が、電話に出た。

 「もしもし・・ルナさん!?」

 「リュウ・・お前に会えて良かった・・」

 「ルナさん・・・?」

 「もう、私がお前に教える事は何もない・・」

 「ど、どうしたんですか?」

 「私のことは忘れて、幸せになってね・・・今まで、ありがとう・・・」

そう言って、彼女は、電話を切った・・・

 「も、もしもし・・・」

龍一は、瑠奈の携帯に掛けるが、つながらない・・・

瑠奈の店にもかけたが、誰も出ない・・・

龍一は、瑠奈のことが気になり、急いで店に向かった・・・


 龍一が店に着くと、瑠奈の店は閉店してあった。

 「(やはりおかしい・・まだ五時過ぎなのに・・・)」

龍一は、持っていた鍵で、店に入った。

だが、瑠奈の姿はどこにもなかった。

瑠奈の愛車であるフェラーリもなかった。

だが、他の荷物は全てある。

再度、携帯に掛けるが、やはりつながらない・・・

龍一は、北斗に電話しようとしたが、プレシャスは、今ツアー中であった。

龍一は、舞、一、四郎、さらに、トオルや秀一に電話をし、事情を話した。

しばらくして、五人が現れた。

 「みんな、忙しいのに・・ゴメン・・舞ちゃん・・原田さんは?」

 「電話したけど、つながらないの・・自宅にも行ったけど・・いなかったわ」

 「そう・・ありがとう・・」

 「龍一、分かったぜ!瑠奈さんと、原田さんは、付き合っているんだ!」

 「四郎、何言っているのよ」

 「・・四郎君の言うとおりかも・・」

 「龍ちゃん・・」

 「でも、相手が原田さんなら・・それで・・ルナさんが幸せなら・・」

 「龍ちゃん・・二人が、本当に付き合っているかどうかは、まだ分からないわ・・明日は、土曜・・学校も休みだし、今からみんなで、探しに行きましょう」

 「もう・・いいんだ・・原田さんと幸せになっている・・そう、信じたい・・今日は、ありがとう・・みんな・・」

 「龍ちゃん・・」

その後、五人は帰宅し、龍一は、店に残った・・・


 次の日の朝・・五人は、再び店にやって来た・・・

 「おい、龍一、鍵くらいしとけよ」

 「あっ、四郎君・・皆・・僕、そのまま眠ってしまったみたいだね・・」

龍一は、まだ寝ぼけている感じだ。

 「龍ちゃん、大変よ」

 「何が・・・?」

 「来る途中・・一ちゃんと、二人で、原田さんの自宅に行ったら、昨日は、友達と飲んでいて、電話に気づかなかっただけみたい・・」

 「それで・・・?」

 「この卒業アルバムを見てよ!」

それは、原田、北斗、瑠奈達の、中学時代の卒業アルバムであった。

 「わー、ルナさんの中学生時代・・初めて見る。ヤンネーだけど、やっぱ美しいなあ・・・あっ、この人が、武さんか・・」

 「もう・・後でゆっくり見なさい・・それより、コイツを見てよ!」

その男の、写真を見た瞬間、龍一の目が鋭くなった。

 「コイツは・・昨日の・・そんな・・まさか・・昨日来たヤツが・・凍矢・・・?じゃ、ルナさんは、コイツのところに!?」

 「原田さんからの伝言よ・・凍矢には手を出すな!と言っていたわ」

 「手を出すな・・か・・そうだよな・・俺では勝てないから、ルナさんは・・・」

 「龍ちゃん・・・」

 「俺は出来が悪いからな・・だから・・俺にはまだ、ルナさんが必要だ!」

 「そうだぜ!龍一!」

 「今から僕たちも、瑠奈さんのところに行こう」

 「トオル、一君・・ありがとう・・」

 「でも、龍ちゃん・・瑠奈さんが、今どこにいるのか、分からないじゃない」

 「・・おそらく、阿の山・・そこにいると思う・・ん・・・?誰か来た!」

龍一達は、店に侵入者が入ってきた事に気づいた。

 「泥棒かしら・・・?」

 「俺は、ちゃんと、鍵を閉めたぜ!」

 「ここに来る!」

ついに侵入者は、龍一達のいるリビングに現れた!

金色の髪・・蒼い瞳・・・外国人の男だ。

 「が、外人!?」

 「龍ちゃんの知り合い?」

 「いや・・こういう時は、秀一さんに任せよう」

すると、外人は、

 「どいつが、神威 龍一だ?」

と日本語で話してきた。

 「・・俺だ・・・!お前は、何者だ?」

 「凍矢様の影だ!」

 「凍矢の影!?そんなのがいるのか・・それで、俺に何か用か?」

 「お前は、凍矢様と、月形 瑠奈という女との、結婚を邪魔する気だろう?」

 「当たり前だ!」

 「二人の結婚を、邪魔するヤツは、殺して来いと命令されている」 

 「龍ちゃん・・コイツ強いわよ」

 「ああ・・でも・・今の、俺の敵じゃない!」

龍一は、構えた。

 「行くぜ!影やろう!」

二人が同時に、回し蹴りを・・・

バシッ!

だが、龍一の方が、速かった。

 「(バ、バカな・・俺の蹴りより速いだと・・・)」

男は、再び構えたが、龍一の鋭い目に恐怖を感じ始めた。

 「まだやるか?」

 「・・ま、待て・・俺達は、凍矢様・・いや、凍矢を憎んでいるんだ・・」

 「俺達!?他にもいるのか?」

 「ああ・・あの男と戦って、敗れたら、死ぬか・・あの男の影になるしかない・・そのためには、名前、国、そして、家族までも、捨てなければならない・・お前が、あの男を倒してくれれば、俺は自由になれる」

 「・・ルナさんは、阿の山にいるのか?」

 「ああ・・だが、あの男に負ければ、お前も影になるか、死ぬかのどっちかだ・・」

 「俺が勝つ!」

 「オ・・OK・・・!どのみち、任務を果たせなかった俺は、殺される・・俺のためにも、勝ってくれ・・それまで、どこかに、身を隠している」

男はそう言って、去っていった。

 「みんな・・この戦いは、かなり危険な戦いになる。だから、俺一人で行って来る」

 「龍ちゃん・・私たち、友達よ・・それに、瑠奈さんは、私にとっても、大切な人・・・絶対に、私も行くからね!」

 「舞ちゃん・・」

 「龍一・・俺は、お前の力になりたい・・だから、俺も行く!」

 「四郎君・・」

 「拳法家として、僕も戦うよ!」

 「秀一さん・・」

 「僕だって、新戦会の四天王の一人・・・破門覚悟で、僕も行く!」

 「一君・・」

 「龍一・・摩利支天は、武士もののふの守護神だぜ・・・!お前の敵は、俺の敵なんだよ!」

 「トオル・・」

龍一の目から涙が流れた。

 「みんな・・ありがとう!俺には、もの凄く強い、仲間がいることを忘れていた・・・!」

この一年で、強くなったのは、龍一だけじゃない。

ここに、集まった者達は、皆、常識を超える強さを手に入れた格闘家達だ。

 「トオル・・お前の、クラウンで行こう」

 「ああ・・いいぜ」

 「僕は、自分の単車に乗っていくよ」

 「秀一さん・・何に乗っているんですか?」

 「フォアだよ」

 「へー、フォアか・・よし、俺も、久々に単車に乗っていくか・・」

 「龍ちゃん・・単車の免許持っていたの?」

 「持ってないよ・・無免だよ・・トオル、俺が、阿の山に行く前に、預けたよな・・鍵返してくれ」

 「ああ・・お前がいない間、ちゃんと綺麗にしといたぜ!」

 「さすが・・・!」

 「龍一は、何乗っているんだ?」

 「ルナさんから、受け継いだ・・ニンジャだよ!あっ、俺、気合い入れたいから・・・二時間後に、また、ここに集合しよう」

 「龍ちゃん・・何のんきな事を言っているの・・」

 「ゴメン・・気合いを入れたいんだ!」

 「よし、二時間後に、また、ここに集合だ!龍一・・後で、お前の家に行くよ」

 「別にいいよ・・俺が歩いて、お前の家に行くから・・」

 「遠慮するな」

 「・・そうか・・じゃあ、頼む・・」

こうして、龍一達は、一度帰宅することにした。

これから始まる戦いのために・・・


それから、一時間半・・・

龍一は、金髪に染め、「修羅参上」の特攻服を着て、精神を集中していた。

 「林、兵、闘、者、階、陣、列、在、前!」

そして、真剣を手に取り、外に出た。

龍一が、外に出ると、そこには、特攻服を着て、タバコを銜えたトオルの姿があった。

 「待たせたな」

 「もういいんだな」

トオルは、三十分前から、龍一の家の前に車を止め、彼が出てくるのを、黙って、待っていたのだ。

二人は、車に乗り、龍一の単車を取りに行くため、トオルは、再び、自分の家に戻った。

これが、二人の友情なのであろう。


 トオルの家に着くと、龍一は、単車にまたがり、エンジンを掛けた。

そして、二人は、瑠奈の店に向かった。

全ては、大切な人を取り戻すために・・・






最終章 修羅の者たち




神威 龍一・・・小学四年生まで、格闘王の息子なのに、弱という理由でいじめられていたが、瑠奈に助けられ、弟子となる。中学時代は、喧嘩屋修羅と名乗り、紆余曲折を経て、天神流の継承者となる。

そして、今、大切な人を取り戻すため、仲間と共に、伝説の悪魔との戦いが、始まろうとしていた・・・


 龍一と、トオルが店に着くと、すでに、他の四人は、店の前で、二人を待っていた。

秀一は、Tシャツにジーパン、舞と一は、空手の道着、四郎も柔道の道着を着て来た。

 「時間がない・・急ごう!」

そう言って、秀一は単車にまたがり、エンジンを掛けた。

舞と一は、トオルの車の後ろに乗り、四郎は、助手席に乗った。

 「ん・・・?お、おい、これ、龍一の刀じゃないか!?」

 「そうだ、これから始まるのは、殺し合いだ!怖いヤツは、今のうちに、降りろ!」

 「私は、降りません!」

 「僕も、降りる気はないです!」

 「・・お、俺だって・・」

 「フッ・・ところで龍一、その阿の山ってどこにあるんだ」

 「ついてくれば分かるよ・・」

そう言って、龍一達は、阿の山に向かった。


 阿の山・・・天正伊賀の乱で、生き延びた天神斎が、傷を癒し、二十年以上こもって、天神流を編み出し、その後も、天神流の者たちの、修行の場となった。

そして、武と凍矢の死闘の場ともなった。

だが、その山が、どこにあるのかは、天神流の者たちしか知らない。

阿の山という名前も、天神流の者たちの間で、そう呼ばれているだけ・・・

阿の山・・・それは、天神流の者たちだけが知る謎の山・・・


 そして、その阿の山では・・・

 「やっと来たか・・」

瑠奈が、阿の山に辿り着いた。

 「・・凍矢、山に隠れている奴らは、何者だ?」

 「気にするな・・ただのパシリだ」

 「パシリ!?まあ、いいわ・・ここに来る前に、父と母、武の眠る墓に寄ってきた。そして、三人に、凍矢と結婚すると、伝えてきたわ」

 「ほう・・それでは、俺の女になるんだな」

 「ああ・・私みたいな女は、お前のようなヤツが、お似合いなのかもしれない・・」

 「そうだ。お前も、俺と同じ人殺し・・人殺しの女には、人殺しの男がふさわしい」

 「・・お前の女になるのだから、リュウには、絶対に手を出さないでよ」

 「フン・・お前を手に入れた今、あんな餓鬼を相手にしてもしょうがない・・だが、アイツが、お前を取り戻しに来た時は、全力で潰す!」

 「・・その時は、私が説得するわ」


その頃、龍一達は、阿の山に向かっていた。

その時、向こうから、一台の単車が、逆走してきた。

ギャバババン!

龍一が、単車を止めた!

秀一やトオルも止まった。

 「おい、龍一!喧嘩なんかしている場合じゃないぞ!」

 「・・インパルスか・・・」

そう言って、龍一は、微笑んだ。

龍一には、向こうから来る男が、誰なのかが分かっていた。

そして、トオル達にも分かった・・その男が誰なのかが・・・

ギャバババン!

インパルスに乗った男も、単車を止めた。

 「おい、どこに行くんだ?そんなカッコウで・・」

 「・・喧嘩しに行くのさ・・・お前も来るか・・・?虎次郎・・・!」

インパルスに乗った男は、あの大河 虎次郎であった。

龍一は、虎次郎に事情を話した。

だが、虎次郎は、龍一や瑠奈のために動いたりしない。

でも、龍一には、分かっていた。

この男も修羅・・・

相手が、強ければ、強いほど、戦いたくなる男だということを・・・

 「フン・・あの女がどうなろうと、知った事じゃないが、ソイツが強いなら、俺が、ぶっ殺す!」

龍一の予想どおりになった。

その時、

プップー!

後ろから来た自動車が、クラクションを鳴らしてきた。

 「お前ら、ジャマだろう!はよ、どかんかい!」

三十代くらいの男性が、車から顔を出し、怒鳴ってきた。

虎次郎が、ガンをつけ、男を威圧した。

 「(な、何だよ・・コイツら・・・)」

 「おい、龍一!後ろがつまっている・・急ごうぜ!」

 「ああ・・行くぜ!虎次郎!」

 「フン・・」

こうして、虎次郎という心強い味方が出来た。

虎次郎が、龍一達と違うところは他にもある。

龍一は、天神流忍術・・・

舞と一は、新戦会空手・・・

四郎は、柔道・・・

秀一は、少林寺拳法・・・

トオルは、ボクシング・・・

だが、虎次郎には、格闘技の経験はない。

彼は、ただ一人、修羅場をくぐって、強くなった男だ。


そして、数時間後・・・

もはや、車が通れる道ではなかった。

ギャバババン!

龍一達が止まった。

 「ルナさんのフェラーリだ・・これで、間違いなく、阿の山にいることが分かった」

 「じゃあ・・この辺が、阿の山か?」

 「ああ・・」

 「龍ちゃん・・一つ聞くけど、この前とか、どうやって、ここまで来たの?」

 「歩いたり、走ったりしてきた。それも修行の一つさ・・」

 「・・そ、そう・・」

 「とにかく、ここからは、歩いていこう」

龍一達は、単車や車を置いて歩き始めた。


しばらくすると、龍一が止まった。

 「(一、二、三・・・十四人か・・・)隠れてないで、出て来い!」

その時、龍一達に向かって、手裏剣が飛んできた!

だが、それを全部、龍一が刀ではね返した!

 「いいかげんに、出てきたらどうだ!」

「さすが、天神流の継承者・・・」

そう言って、ついに、凍矢の影の者たちが現れた!

影の者たちは、黒い忍びの装束に、覆面をしていた。

 「覆面をしているから、顔が分からんが、どうせ、ブサイクな顔をしているんだろ!?」

トオルが、挑発をした。

 「ここから先は、通さないわ」

 「女・・・?なんだ!?女もいるのか?」

 「女は私だけ・・でも、戦いに男も女も関係ないわ」

 「俺達は、ルナさんのところに行きたいんだ・・すまないが、退いてくれ」

 「それは、出来ないわ。ここを通すなと言われている」

 「凍矢を倒せば、アンタらは、自由になれるんだろう・・」

 「私は、凍矢様のためなら、命をも捨てられるわ」

 「命をも捨てられる・・・?お前らは、アイツに負けて、命欲しさに、アイツの影になったんだろう」

トオルが、再び挑発する。

 「他の者は、そうかもしれないが、私は違う!」

 「そうか・・どうやら、戦いは避けられないみたいだな」

他の影の者たちも、凍矢の強さと恐怖を知っている。凍矢の命令に従わなければ、殺される。自分達が生きるためにも、龍一達を始末しなければならい。

そして、ついに、影の者たちと、龍一達の戦いが始まった!


 その頃、瑠奈と、凍矢は・・・

 「フン・・始まったか・・」

 「凍矢、お願い・・あいつらには、帰るように言うから、手を出さないで・・」

 「さっき、言ったはずだ。お前を、連れ戻しに来たら、ぶっ潰すと・・・それに、あの餓鬼の強さは、本物だ!アイツを、俺のパシリにしてやる!それが、出来ない時は、殺してやる!」

 「凍矢・・リュウたちに、手を出すというのなら、私は、アルテミスとして、お前を殺す・・・!立て、凍矢!」

瑠奈が、ついに構えた。

 「俺が、優しくしてやれば・・調子に乗りやがって・・この馬鹿女が・・・!」

凍矢も立ち上がり、そして構えた。

先に攻撃を仕掛けたのは瑠奈だ。

瑠奈が跳んだ!天誅だ!

瑠奈の天誅が、炸裂した!

更に、土方との戦いの時のように、もう片方の足で、凍矢を蹴り飛ばした。

だが、凍矢は、吹っ飛んだが、倒れなかった。

更に、攻撃は続く、今度は、双龍、そして、奥義龍神を使った。

再び、凍矢がふっ飛んだ!

それでも、凍矢は倒れない。

 「どうした瑠奈・・お前の力は、その程度か?」

再び、瑠奈が龍神を・・・

だが、凍矢も龍神を使ってきた。

今度は、瑠奈が、ふっ飛んだ。

瑠奈は倒れたが、すぐに立ち上がった。

今の瑠奈では勝てない。それは、瑠奈自身が、一番分かっている。

だが、それでも、龍一を守るため、再び構えた。


 その頃、龍一達も、影の者たちと戦っていた。

影の者たちも、凍矢から、天神流を叩き込まれていた。

しかも、相手は、十四人・・・

だが、龍一達も、この一年でかなり強くなっている。

龍一達は、血だらけになりながらも、七人まで倒した。

残りは七人・・・

これで、七対七の戦いになった。

激しい戦いが続く・・・

そして、ついに、あと一人・・・

凍矢のためなら、命をも捨てられると言った女だけとなった。

龍一が関節を決めた。雷鳴だ!

関節を決め、投げ、そして、相手の喉に、肘鉄が炸裂した!

 「ゴホッ・・」

 「ハアハア・・悪いな・・俺達は、どうしても、ルナさんのところに行きたいんだ。」

 「龍ちゃん、急ごう」

龍一達は、瑠奈と凍矢のいる場所に向かった。

 「ま、待て・・・」

女は、フラフラになりながらも、龍一達を追った。


龍一達が、瑠奈のところに着くと、そこには、今まで見たこともない、血だらけになった瑠奈の姿があった。

 「ルナさん!」

 「リュウ・・みんなを連れて逃げな・・・」

 「俺のパシリ共を倒すとは・・ますますお前を、俺の影にしたくなった」

 「ああ!?ふざけるな!お前は、俺が倒す!」

 「倒す?面白い・・やってみろ、コゾー!」

 「(うっ・・な、何だ!?アイツの凍りついた瞳は・・)」

龍一達は、昔の瑠奈のように、凍矢の凍りついた瞳を見て、動けなくなった。

 「どうした?俺が怖いか?」

その時、

 「凍矢様!」

フラフラになりながらも、あの影の女が現れた。

 「フン・・役立たずが・・よく俺の前に顔を出せたな・・お前らは、後で始末してやる」

 「凍矢様に殺されるなら・・悔いはありません」

 「凍矢!」

瑠奈が再び、凍矢に攻撃を仕掛けた。

だが、凍矢の方が強い。

凍矢の容赦のない攻撃が・・・

 「(俺は、何しにここに来たんだ?大切な人を取り戻すために来たんだろう・・)」

凍矢の龍神で再び、瑠奈はふっ飛んだ。

瑠奈は、倒れたが、再び立ち上がり、構えた。

 「クソ、俺の龍神を、二度も喰らって、まだ、立ち上がれるとは・・だが、次こそ・・」

その時、

 「凍矢!俺の大切な人を・・絶対にゆるさねぇ!」

龍一が、凍矢の恐怖に勝ち、そして、構えた。

 「リュウ・・」

 「ほう・・さすがだな・・それでこそ、天神流の十八代目だ」

 「(ハヤト・・お前の技を借りるぞ!)」

龍一は、ハヤトが編み出した抜刀術、不知火をする気だ。

 「(・・殺す、殺さない、などという雑念は捨てろ・・何も考えぬ事・・無念無想・・)」

龍一が、正面から突っ込んだ!

 「(な、何だ!?)」

龍一が、刀に手を・・・

 「(そうか・・抜刀術か・・)」

凍矢は、本能的に避けようと、右後ろに跳んだ。

龍一は、凍矢の動きを読み、そして、凍矢の背後を取った。

 「(くそ餓鬼が・・・!)」

龍一が、抜刀しようとした。

だが、凍矢は、刀の柄を左手で鞘に押さえ込んだ。

そして、凍矢の後ろ回し蹴りが炸裂した!

 バシッ!

龍一はふっ飛び、そのまま倒れた。

 「コゾー、俺は、世界を相手にしてきたんだ。お前らとは、くぐった修羅場が違うんだ」

 「(ダ、ダメだ・・勝てない・・)」

龍一に、再び恐怖が襲う・・・

舞達も恐怖で動けない・・・

だが、もう一人、凍矢の恐怖に勝ったヤツがいた。

虎次郎だ!

虎次郎は、拳を強く握り、凍矢に殴りかかった。

だが、勝てるはずがない・・・

それでも、虎次郎は、戦った・・・

それを見ていた舞、一、四郎、秀一、トオルも、恐怖に勝ち、凍矢に立ち向かった。

 「クズ共が・・・!」

だが、次々に、龍一の仲間が倒れていく・・・

 「みんな・・・!」

 「リュウ・・」

 「ルナさん・・・!大丈夫ですか?」

 「私はいいから・・お前は、アイツらを連れて、ここから逃げるのよ」

 「そ、それは出来ません!」

 「これは命令よ」

 「俺は・・出来の悪い弟子です・・だから、俺には、ルナさんが必要なんです!」

龍一が立ち上がった。

 「・・アイツに勝てる方法が分かりなした・・神技一天波・・」

神技一天波・・・天神斎しか使えなかった幻の技・・・

 「・・リュウ・・そうね・・お前なら出来るかも・・」

龍一は、右の拳を強く握り、気を一点に集中し始めた。

 「リュウなら出来ると、信じるわ!」

そう言って、瑠奈も再び凍矢に立ち向かった。

 「(あの餓鬼、何をする気だ・・・?まさか・・あの技を・・・?)」

 凍矢がそう思った瞬間、瑠奈の天誅が炸裂!

 「クソアマー!」

 「みんな、下がっていなさい」

 「瑠奈さん・・」

 「リュウが、気を集中している間、お前の相手は、私がするわ」

 「フン・・あの餓鬼に、あの技が出来るわけがない」

二人が、三度目の龍神を使った。

今度は、凍矢がふっ飛び、倒れた。

 「凍矢様・・・!私も・・」

影の女は、凍矢を助けようとしたが、

 「クズの力などいらん!」

そう言って、凍矢は、立ち上がった。

激しい戦いが続く・・・

 「(まさか、この俺が負ける!?)」

凍矢も瑠奈も、限界を超えていた。

 「クソアマー、これで死ね!」

凍矢が、四度目の龍神を使おうとした。

だが、

 「な、何だ?この気は?」

凍矢の動きが止まった。

 「あのコゾーが・・・?まさか・・・?」

凍矢が、龍一に恐怖を感じた。

 「凍矢(アンタの怯えた顔・・やっと見られたわ・・リュウ・・・!今よ!」

瑠奈が、その場を離れた。

 「う、動けん・・・!」

今度は、凍矢自身が、金縛りにかかった。

影の女は、凍矢を守りに行こうとするが、彼女の体も、思うように動かない。

 「くたばれー!凍矢―!」

ついに、龍一が一天波を放った!


神技一天波・・・全身の気を一点に集中し、その時に放たれた衝撃波で、相手に触れることなく、相手の全身の骨を砕き、確実に相手を殺す!まさに神の業だ!


凍矢は、吹っ飛び、そのまま、動くことはなかった。

 「凍矢様―!」

影の女が、泣き叫んだ。

 「龍一、殺ったのか!?」

トオルが叫んだ。

龍一は、そのまま、後ろに倒れそうになったが、瑠奈が抱きとめた。

 「リュウ!」

 「・・ルナさん・・人を殺すって、イヤなことですね・・俺は、その罪を背負って、生きていかなければならない・・ルナさんも、この苦しみを、ずっと背負って、生きてきたんですね・・俺もこれから、一人で、この苦しみを背負って、生きていくのか・・」

 「リュウ・・お前一人、苦しませたりはしない・・これからは、私と二人で、その苦しみを背負って、一緒に、生きていこう」

 「ルナさん・・」

 「リュウ・・愛しているわ!」

 「ル、ルナさん・・・!お、俺も・・俺も愛しています!」

二人は、そのまま熱いキスをした。

 「龍ちゃん・・良かったね」

その時、影の女が覆面を取った。

黒い髪に、ショートヘアー・・・

顔は、瑠奈に負けないくらい、綺麗な顔立ちをしている。

 「へー、すげー美人じゃん・・・!」

四郎の心が、一瞬、ときめいた。

 「もう、私は、凍矢様の影じゃない・・私の名は、春麗、生まれは、中国北京・・」

 「春麗か・・いい名前だ」

 「四郎、どうしたの?」

 「な、なんでもない・・」

 「私は、他の影の者たちと違って、凍矢様と戦ったことはない・・・七年前のある日、私は、三人組の男性に、犯されそうになった・・その時、私を、助けてくださったのが、凍矢様・・」

 「七年前!?俺が、ルナさんに助けられた時だ」

 「その時、凍矢様は、お前を助けたわけじゃない、ただ、イライラしていたから、腹いせに、虫を殺しただけだ・・・そうおっしゃっていたわ。でも、私にとっては、命の恩人、だから、凍矢様の影となり、凍矢様に恩返しがしたかった・・でも、結局、なんの役にも立てなかった・・・」

春麗は、そのまま、凍矢の亡骸を抱いて、崖の方に向かった。

 「凍矢様・・私も、そちらの世界に行きます。今度こそ、凍矢様の役に立てる女になります」

春麗は、凍矢を抱いたまま、崖から飛び降りようとした・・・

その時、四郎が、

 「待てー!」

と叫んだ!

 「お前が、本当に、凍矢のことを思うなら、お前は、凍矢の分まで生きるべきだ!」

春麗の足が止まった。

 「お前にとって、俺達は敵かもしれない・・けど・・俺は・・お前に・・・一目惚れした・・お前は、美人だし・・だけど、それだけじゃない・・お前が、凍矢を思う純粋な心に・・俺は・・俺は惚れたんだ!」

 「・・・・!」

春麗の心が揺れ動いた・・・

 「べ、別に、付き合ってくれとは、言わない・・ただ、生きてほしい・・」

春麗の目から、涙が流れた・・・

 「・・フッ・・敵か・・そうだな。お前達は、凍矢様の・・私の敵・・凍矢様の仇を討つためにも、私は生きる!」

彼女は死ぬ事より、生きる事を選んだ。

そして、凍矢を抱いたまま、山を降りていった・・・


人は、生まれ、そして、いつか死んでいく・・・

だから人は、今を、一生懸命、生きるのだろう・・・


 「四郎君・・」

 「瑠奈さん・・みんな、いいんだ・・彼女が生きていてくれれば・・さあ、帰ろうぜ!」


山を降りた時、すでに、他の影の者たちの姿はなかった・・・

そして、七年の時が流れた・・・


龍一は、プロの格闘家となっていた。

彼は、七年の間に、表だけでなく、裏で、生と死を懸けた戦いをし、全て、勝利している。

もちろん、相手を殺したりはしない。

彼が殺したのは、凍矢だけ・・・

一天波を使ったのも、あの時だけ・・・

また、六年前に瑠奈と結婚して、五年前に、娘も生まれている。名前は、聖華・・・

龍一は、めったに、弟子を取らない。

現在、彼の弟子は、娘、聖華と、弟の龍之介、そして、大空 達也だけである。

かつて、南が、命を犠牲にしてまで、助けた時の子供・・・それが、大空 達也である。

達也は、南の分まで、一生懸命生きたい・・・その熱意に応えるため、龍一は、達也を弟子した。

瑠奈は結婚後、喫茶店は、経営しているが、裏世界は引退した。

また、七年前に、メジャーデビューしたプレシャスの、ニューアルバム「レ・ジェンド」の、最後の曲に、龍一はピアノ、瑠奈はヴァイオリンとして参加している。

曲名は、「Rest In Peace」意味は、安らかに、眠りたまえ・・・

北斗の妹、南のために、作られた曲である。


また、龍一や瑠奈と共に、凍矢たちと戦った修羅の者たちも、それぞれの道を歩んでいる。

新戦会の四天王の一人、沖田 一は、舞と、四年前に結婚し、後藤家に婿入りした。 

彼は、沖田 一から、後藤 一となった。

二年前には、息子も生まれた。名前は、後藤 誠・・・

また、新戦会は、東京と大阪に、支部を作った。

東京には、土方が、大阪には、永倉と原田が任された。


四郎は、実家が、中華料理店を経営しているので、彼は、店を継ぐために、中華料理の修業をしている。

そして、最近、この中華料理店に、一人の中国人女性が、お客として現れる。

女性の名は、春麗・・・凍矢の影だった女・・・

二人は、付き合っていないが、それに近い存在・・・


秀一は、大学を卒業後、北斗や南の父、杉原グループの会長に見込まれ、養子となっている。彼が後に、杉原グループを背負っていくのであろう・・・

また、結婚はしていないが、恵とは、今でも付き合っているようだ。


トオルは、プロボクサーとなり、異種格闘技戦で、龍一と再び戦うが、敗北・・・

また、彼は、現在、アリスのリーダー麻奈美と付き合っている。

アリスも、三年前にメジャーデビューして、活躍している。


虎次郎は、現在も無職で、相変わらず、強いヤツを求めて、喧嘩をしている。

龍一とは、裏で、生と死を懸けた戦いをするが、ついに、龍一が勝利し、虎次郎は、敗北した。


神威 龍一・・・かつて、いじめられていた少年だが、瑠奈の弟子となり、この時から、彼の戦いは始まった・・・

そして、これからも、戦い続けるだろう・・・

強いヤツを求めて・・・


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