表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お桜さんの伝説

作者: 青空 海陸

―――我が桜花(オウカ)学園高等部にある、一本のとても大きな桜の老樹、お桜さん。

それは、桜花学園の代名詞とも言える名物樹。

……であるのだか、そのお桜さんには“名物樹”という名にはそぐわない、ある伝説があるらしい。

その伝説というのは……『お桜さんの下で告白したら必ず失恋する』というもの。

そのため、お桜さんは“嫉妬桜”と陰名がつけられ、またこの伝説は“お桜さんの呪い”と言われている。しかし、これは実際マイナーな伝説。

数年前には、全学園生が知っていたというが、今ではほとんど知る者はない。

まぁ、皮肉なことに……とでもいうべきか。

“お桜さんの呪い”が本当であれ、嘘であれ、そのお桜さんが学園一の告白の名所だ。というのは皆周知のこと。―――


なんとなく読んでいた、古い非公開の〔お桜さん便り〕

“お桜さん”って、あのお桜さん……のことだよね。

あっ、お桜さんっていうのは、今でも学園一の告白の名所として知られている所、学園パンフにも『告白するならお桜さんで!』とか書かれているくらいで、それ目当てで入学する子の割合は約半数。

でも、そーいゃ最近そーゅー噂よく聞くな。

“非公開”ってどんな内容だろうって思ってたけど、お桜さんの噂ってそんな前からあったんだ。

まぁ、どこの学校にもありそうな七不思議の一つ?

―――――――●

――――――そ

―――――○

――――し

―――●

――て

―○

数時間後、あたしは“お桜さん”のとこにいた。言うまでもなく、あの伝説の真偽を確かめるために。

……とは言っても、さてどーしよーかな。

自分が告るわけでもないし。

だからと言って、他の人の告白現場を見たり、ここで告った人を探したりするのは、もちろん嫌だし。

………はぁ。

「失礼なっ!私にもたれかかって溜め息をつくとは……」

え……ぇ…?い、今の声、お桜さんからした?

とりあえず、辺りを見回してみる。けど、誰もいない。

「……もしかして、お主、私の声が聞こえるのか?」

「……あなたは、お桜さんについている霊ですか?」

「まことに。お主は何者なのだ?」

何者って……

「…ここに通う生徒ですけど…」

「霊能者ではないのか?」

え?霊能者?

「いぇ、違いますけど。」

「なら、何故逃げぬ?普通の者は私の声を聞くなり、逃げて行くのだが。」

………あたし、昔っから、こーゅーのなれてるからな。

変なもの見たり……。でもこーゅー聞き方されると、なんとなく答えづらい。

「……答えぬか。お主、逃げるなら今のうちだぞ。」

んー……逃げない=話ができる=伝説の真偽がわかる。よし。

「逃げませんよ。あなた、あたしに危害を加えることはないでしょう?」

「………ふっ。」

声は、鼻で笑った。

………やな感じ。

「お主、面白いな。」

そーかぁ?

「まぁ、よかろう。」

何がいいの?

「私の名は奈子媛。先程も言った通り、この木についている霊だ。お主の名も教えてはくれぬか?」

そう言って、声の主は、霊体の姿を現した。

彼女は白い着物をきていた。もちろん足は見えない。体は宙に浮いている状態。

「あたしは舞花。ねぇ、率直に聞いてもいぃ?」

「……?よかろう。何だ?」

「奈子媛さんは、お桜さんの呪いと関係あるの?」

「お桜さんの呪い…とは?」あたしは、とりあえずあの非公開“お桜さん便り”に書かれてあったことを説明した。

「ふむ。そのような噂があったか。」

「それで、あたしはその真偽を確かめに来たの。」

「舞花、その伝説は間違っておる。」

え?そんなあっさり否定するの?

「私はここに学園ができる前から、ずっとこの老樹についているが、なにも実らない恋ばかりではなかった。」

「それ、本当?」

「嘘をついてどうする?」

まぁ、それもそうだな。

「おそらく、その噂は、ここで失恋した者が、はらいせに流したものだろう。」

……なるほど。でも、なんかこぅ聞くと、あまりにあっさりしすぎてるな。

「奈子媛さん、どうもありがとうございました。それじゃあたしはこれで。」

あたしは深々と頭を下げた。

「え…もぅ、行ってしまうのか?」「……目的の真偽は確かめられたから。」

「そぅか。」

奈子媛さんは少し寂しげな表情をした。そして言葉を続けた。

「ここで、人を見ているのは、まことに面白い。だがな、時々思うのだ。私はこのままずっと独りなのか。と。今、引き留めはしない。だが、またここへ会いに来てくれぬか?」

「もちろん。独りは寂しいよね。また来るから。そんな寂しそうな顔しないで。」

……………

「ありがとう」奈子媛さんの浮かべた満面の笑を見て、あたしはその場を去った。

―――――――○

――――――そ

―――――●

――――の

―――○

――後

―●

何度お桜さんを訪ねても、二度と奈子媛さんは姿を現さなかった。

きっと奈子媛さんは、ずっと独りで寂しかったんだ。

過去にどういう人生を歩んだのか知らないし、成仏できなかった理由もしらない。

けど、最後に見せてくれたあの笑顔。

きっと彼女はこの世から去る時、すごく幸せだったんだと思う。

――――――●

―――――そ

――――れ

―――か

――ら

―○

あの“お桜さんの伝説”はというと……

さすがに、あんなあっさりした答えを知って思ったよ。

世の中、知らないままにしといた方がいいこともあるんだ。

って。だから、あの真偽は隠したままにしてる。いゃ……ついでに“お桜さん便り”の最新号に、新しい伝説を載せた。今度は“呪い”なんかじゃなく、“贈り物”として。今では、全学園生の間で言われている。

『お桜さんの下で告白すると必ず結ばれる』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ