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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第三章 ◆
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081  怪我と癒しの治療



 実に危なかった。


 ドクドクと激しく脈を打つ音を聞きながら私は止まっていた息を吐き出す。


 彼が来てくれなかったら、恐らく死んでいただろう。しかも結構間抜けな最期である。私の理想はもふもふに囲まれて息を引き取る事だ。これでは死んでも死にきれない……キリュウに感謝だ。

 呆然とそこまで考えて我に返った。そういや私は命の恩人に礼も言っていないではないか。

 私は彼に向き直り、心からお礼の言葉を述べる。


「ありがとう」

「待っていろと言ったはずだが」


 私の心からの言葉を軽く流し、不機嫌そうにキリュウは言った。その言葉、さっき聞いたのだけども……二度も繰り返すとは相当気に食わなかったらしい。

 今回ばかりは自分が悪いと自覚しているので思わず視線を彷徨わせてしまう。


「だってうさぎさんが……」


 私はそこまで言って固まった。


 ――――――そうだ、うさぎさん……!!


 私は素早くうさぎさんを下ろした場所を振り返る。

 ……しかし、そこには何もいなかった。


「……何処かへ行った」


 キリュウは見ていたらしい。呆れたように吐き出されたその証言に私はガクリと膝をついた。

 無事ならばそれに越したことはない。しかし、私は助けた後は存分にもふもふさせてもらおうと思っていたのだ。

 飛び込んできたときの感触を思い出し、項垂れる。あぁ、もふもふしたかった……。


 至福の時間がなくなり絶賛落ち込み中である私の前に影が出来る。顔を上げれば呆れ返ったキリュウが立っていた。


「……死にかけた原因はアレか」


 呟かれたその言葉に私は少しムッとした。


 確かにもふもふに目が眩んだ結果だが直接の原因ではない。普段の私だったら簡単に倒せていた。――――そう、何が原因かと言われれば答えは私が丸腰だったからだ。

 そしてその状態にしたのはキリュウが鎌を叩き折ったからなのではないか。……いや、あの超粗悪品の鎌があったところで同じ結果かもしれない。やはり 原因はあの腹黒教師――――……っと、まてまて。そもそも、その前に在庫がなくなるまで叩き折ったのは私であった。まさかの自業自得か? しかし納得がいかない。


 もやもやと考え込んでいる私の思考をキリュウの溜息が遮った。


「間に合わなかったが――」


 そう一言置いて彼はブレザーの裏側がこちらに見えるように広げる。彼の視線の先を辿れば異様な膨らみを帯びた内ポケットがもごもごと蠢いていた。……何だこれ。何が入ってんのこれ。


 私が何とも言えない表情をしているのを他所に、キリュウはポケットに躊躇いなく手を突っ込んだ。

 それと同時に聞こえる鳴き声。




 ――――ぷぅ。




 聞いた瞬間、私は目を見開く。

 この鳴き声は、まさか……!!


「ハムちゃん!!」


 反射的にキリュウに飛びついた。

 私のタックルを受けたキリュウはよろめきもしない。相変わらずの隠れた筋肉。くそ、羨まし……いや、今はそんな事どうでもいい。

 ゆっくりとポケットから出されたキリュウの手を覗き込むと、私の予想通りハムちゃんがちょこんと乗っかり、私をつぶらな瞳で見上げていた。しかも3匹……!! 天使が一杯、ここは天国だ!!


 私は礼を言ってそそくさキリュウの手からハムちゃん3匹を受け取る。もふもふ、ふわふわ、あったかい……思わず顔が緩む。幸せだ。

 もそもそと身じろぎするハムちゃん達。私の両手では場所が狭かったらしく、二匹のハムちゃんが左右の腕からよじよじと肩へと登り、そこにちょこなんと落ち着いた。か、かぁいい……!!


「……血が出ている」


 え、血? 鼻血か? ……いや、出てないぞ。まだ。


 ――――ハッ……まさかハムちゃんか!?


 一大事だ、と急いでハムちゃんに視線を走らせる私。しかしキリュウが取ったのは私の右腕であった。あぁ、何だ、私か。吃驚させないでくれ。

 安堵した後、見れば確かに前腕部分に血がダラダラと伝っていた。全く気が付かなかったが、恐らく骸骨兵と戦った時にでも負傷したのだろう。しかし大した怪我ではない。まだ血は止まっていないが指摘されるまで気が付かなかったくらいだ。


「あー、うん、血だね。大丈夫大丈夫」


 適当に答えた私にキリュウは眉間に皺を寄せた。うちの番犬は相変わらずの過保護である。

 心配してくれるのは有り難いが私は自分の怪我に構っている場合ではない。ハムちゃん達と戯れるのが最優先だ。


 何か言いたげな視線を寄こしてくるキリュウはスルーし、早速私はそのもふもふを堪能することにした。

 手の中の真ん丸なもふもふを撫で、肩に乗ったもふもふにも優しく頬擦りをする。するとあちらからも擦り寄ってきてくれた。野生なのに何故こんなに人懐っこいのだろう……可愛過ぎて苦しい。

 あぁ、幸せ……。マイナスイオン大量発生で心なしか荒れた心も澄んでくる気がする。ほんわりと温かい。腕もほわほわ温かくなって――…………ん? 腕?


 既視感にまさかと先程指摘された負傷部分を見ると血が止まっていた。確かにあった傷口を探すがどこにも見当たらない。見事に治っていた。

 驚きの表情のままハムちゃんを見る。


「ぷ?」

「ありがとう、ハムちゃん!!」


 感極まった私はハムちゃん達を抱きしめた。ハムちゃん凄い。頼んでもいないのに傷治してくれるとかマジ天使!


 何度も礼を言いながらももふもふする私。

 幸せ気分でだらしなく顔を緩ませていると頭上に影が出来た。見上げればすぐ側で私を見下ろしている呆れた様子のキリュウ。何、今良いところなんだけど。


 彼は私を見下ろしたまま少し考える仕草をし、しゃがみ込んだ。

 彼のよく分からないその行動に、私の視線も彼を追う。


 一体何をして――――


「――ぅおっ!?」


 高くなる視線、地から離れる両足――――おい、ちょっと待て。


 何故私は抱っこされているのだろう。いつぞやの公開処刑のようではないか。

 目線がほぼ同じになった彼の顔を見れば何処と無く満足げな表情をしていた。意味がわからない。

 意味は分からないが、取り敢えず私は要望を訴えてみた。


「…………えっと、下ろしてくれませんかね?」


 じっと私を見るキリュウ。その目は半目になり、何となく胡散臭いと訴えている気がする。何故。

 首をかしげつつその目をじっと見返す私。ほらほら、早く下ろして。


「駄目だ」


 キッパリと却下された。何故に。


「……何で。自分で歩けるって」

「野放しにすると何をするかわからん」


 ……ふむ。

 つまり、これは目を離せば何をするか分からない子供に対するような扱いを受けているという事だろうか。


 心当たりがないとはとても言える立場ではない。


 それは十二分に分かってはいる……分かってはいるのだ。

 しかし、これだけは言わせて欲しい。


 ――――解せぬ。




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