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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第三章 ◆
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079  頼みの綱は粗大ごみ



 キリュウの手により、只でさえ壊れやすい粗悪品が使い物にならない粗大ごみへと進化した。なんと嫌な進化だろうか。


 私は呆然としたまま足元に視線を落とす。

 三等分された鎌が足元に二つ、そしてここからは見えないが茂みの中に一つ。

 彼の手元を見れば予想通り闇色のダガー。あんなもので切られてはそりゃあんな粗悪品なんて一溜まりもない。紙切れも同然だろう。

 目の前で見ていたハズなのにいつ得物を取り出したのか全くわからなかった。それに音は1度しか聞こえなかったのに何故三つに……いや、今はそんな事どうでも良い。


「…………どうすんのコレ。魔物倒せないんだけど」


 食物連鎖の上層にいたはずの私は攻撃力を削ぎ落とされ、あっという間に下層へと転落した。殺る気満々だったというのにこれでは私が狩られる側ではないか。もふもふを護る使命も果たせない。

 この現状を作り出した犯人を睨み見上げる。いや、ホント、どうしてくれんのコレ。


 そんな私を見下ろすキリュウは至って冷静だ。少し考える素振りを見せた後、あっけらかんと言い放った。


「お前が優先するのは実習より毛玉の救助じゃないのか?」

「いや、まぁそうだけ、ど――!?」


 言い切る前に闇が私の視界を覆い尽くした。次いで身体がフワリと宙に浮く。

 急に身体のバランスが崩れ、慌てた私は目の前のものに縋り付いた。これは何だと見てみれば、肩だった。そしてその向こうには闇色の翼が広がっている。

 驚いて下を見ればどんどん遠ざかっていく地面が窺えた。


 何故か私は翼を生やしたキリュウに抱っこで運ばれている。

 何処かへ移動するのかと思えばバッサバッサと上昇していくだけ……何がしたいのかサッパリだ。


 聳え立つ木の頂上付近まで辿り着くと、頑丈そうな枝に下ろされる。ここの森の木はどれもこれも太く背が高い。私が乗ってもびくともしなかった。

 少し身を乗り出して下を覗き込む。地面から裕に20メートルはありそうだった。落ちたら確実に死ぬだろう。

 顔を引込めると今度は視界が薄暗くなった。

 このサングラス色はつい先日もお世話になったお馴染みのシールドである。それが私を中心に球状に囲っていた。敵襲か、と身構えて周りを見渡してみたものの辺り敵は一匹たりとも見えない。

 何が何だか分からない私は疑問符を浮かべつつキリュウを見た。


「俺が代わりにやる」

「へ?」

「お前はここで大人しく待ってろ。……大人しく、な」


 代わりに、って……まさかもふもふ保護を?


 キリュウは言うや否や、バサリと翼をはためかせ、私の目の前から遠ざかっていった。その後ろ姿はあっという間に豆粒サイズになり、立ち並ぶ木々で見えなくなる。言い返す暇もない。


 大人しく、ね。

 念を押すように二回も言われた。そんなに私は信用無いのかと文句を言いたいところだが、少し考えてそれは無理だと気が付いた。

 そういや私には前科があったのだった。




 ◆ ◆ ◆




 この場に一人取り残されてから腹時計で約30分。


 何度か鳥型の魔物が襲撃してきたが、キリュウの置き土産によって私は存命している。

 鳥型の魔物は何度も鋭い爪やくちばしをこちらに向けて突撃してきたが、破れない壁に諦めて何処かへ行った。大丈夫だとわかってはいても丸腰の状態で目の前まで飛んで来られるのは中々にスリルがあった。


 魔物達が去り、現在暇を持て余している私は空に浮かぶ雲を眺めている。あ、にゃんこ雲発見。

 思わず手を伸ばすが届く訳がない。そもそもあれは雲だ。私の愛するもふもふではない。

 私は何故こんな所で呆けているのだろう。ああ、早くもふもふと戯れたい。

 いっそ、もふもふの方からこちらにやって来てくれないだろうか。


 悶々とそんな事ばかり考えている私の願いが届いた。


 ――――――にゃあ。


 微かだが、耳に届く鳴き声。


 私は目を輝かせ、寝かしていた身体をガバリと立たせる。あの鳴き声はにゃんこ、じゃなくてうさぎさん……!


 今すぐ戯れたい。しかしその為にはここを降りなければならない。

 態々こんな場所を選んだ彼に舌打ちをする。

 そして問題はこの頑丈なシールドだ。

 どうやって破ろうかと私はそれに手を伸ばす。


「……あれ?」


 てっきり拒まれるとばかりに思っていたそれはあっさりと私の手を通過させた。外からは無理でも内からは通過出来る仕様のようだ。

 周りに視線を走らせると、5メートル程下ったところまで木に太い蔦が這っていた。凹凸の少ない真っ直ぐな木だが、そこまで辿り着ければそれを伝って降りられるだろう。


 ――――いける。


 私はニヤリと口の端を上げた。

 キリュウは何処へも行けないようにここを選んだようだが、甘い。


 実は私、木登りはお手の物でなのである。


 この特技はもふもふを愛する故に会得したものだ。まだ地球にいたとき、私は猫が木の上から降りられなくなった事を想定して幼少の頃から様々な木々を登り下りして特訓をしていたからだ。備えあれば憂いなし。まさか異世界でその備えを発揮するとは予想だにしなかったが。


 私は折れなさそうな枝を選びながら軽々と飛び移っていく。蔦まで辿り着き、千切れないか引っ張って強度を確かめてからそれを伝って降りていった。


 地面に足を付けた私は、休むことなく鳴き声がした方向へと足を向ける。5、6歩進んだところで茂みから何かが飛び出してきた。


「にゃー!」


 うさぎさんだ。


「……ギ…………カタ、カタカタ……」


 そしてなんか余計なのも引っ付いてきている。


 勢いよく飛び込んできたうさぎさん。私は両手を広げてキャッチし、至福の時間を味わおうと思ったがそうはいかなかった。

 うさぎさんに引き続き、骸骨兵が三体出現したのだ。お前らはお呼びでない。


 骸骨兵はその字面通り、人間の骨格のみを残した姿をした魔物だ。どこからか拾ってきた武器を持ち、ゆらゆらカタカタと気味が悪い動作をしている。

 弱点は特にない。しかし動きは少々鈍く、骨組みを崩せば呆気なく倒せてしまえる。つまり雑魚である。


 私は距離を取り、安全な場所にうさぎさんを下ろした。彼女にちょっと待っててね、と声を掛け、何か武器になりそうなものを探す。

 足を踏み出した拍子に何かが踵にぶつかった。

 ――――放置されたままだった粗大ゴミだ。


「…………」


 ……何もないよりはマシだろう。


 妥協した私はそれを手に取り、骸骨兵と対峙した。




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