007 夢オチに清き一票を
本日もどうぞ宜しくお願い致します (´・ω・`)
柔らかなまどろみの中、徐々に意識が覚醒していくのを感じる。
ふわふわふわふわ……この布団は最高だ。寝心地良すぎて涎垂れそう……いや、もう手遅れだな。口元が冷たいし。
あぁもう少し寝ていたい、夢の中へ帰りたい。
……しかし、妙な夢を見た気がする。あのやたらリアルな人型抱き枕。本当にあるのだろうか?あったら値段はいくらくらいするのだろうか?妙に凝っていたし高そうだ……いや、買わないが。誰があんな悪趣味なもの買うものか。私にはタチバナさんが直々に作ってくれたブタの抱き枕がある。あれは最高の抱き枕だ。……見た目がちょっとアレではあるが。ブタの抱き枕、あの子がいれば私はすぐに夢の世界へと旅立てるのに__
____吐きそうだ。
あれこれと考えているうちに完全に意識が覚醒してしまった。結構寝た感覚はあるが体調は回復していない模様。頭痛も吐き気も健在である。
因みに目は閉じたままだ。これを開ければ現実世界が訪れる。……何だろう、ものすごく目を開けたくない。開けちゃいけない気がする。
だがしかし、そういうわけにはいかない……現在時刻の確認がしたいのだ。
もしも夜だったらシャレにならない。タチバナさんの反応を想像するだけで恐ろし過ぎる。
私は諦めてゆるゆると瞼を上げて____即、下ろした。
何だろう、今見たくないものを見た気がする。やっぱり寝ようかな。
「……起きたか」
……何か聞こえた気がする。
低くてよく通る声。売れっ子声優になれそうなくらい良い声だ。
今まで見たことなかったが、イグラントにもテレビが存在しているのだろうか。
……。
…………いかん、現実を見なければ……。
私は意を決してもう一度ゆっくりと瞼を開ける。
2つの赤い瞳と私のそれがかち会った。デジャヴだ。
あれだけ冒頭で夢だと言い聞かせたのに……どうやら夢オチは許されなかったようである。
「……おはようございます」
「もう昼だがな」
「…………こんにちは」
「……」
何とも言えない視線が突き刺さるがそんな視線もなんのその。スルースキルならレベルMAXだ。痛くも痒くもない。
……まぁそんなことより、もう昼なのか。少し寝過ぎたかもしれない。サカキはあれから大丈夫だったのだろうか?……いや、怪力に心配は無用であった。
そして何故この人が此処にいるのだろうか?ベッドサイドの椅子に腰掛けてこちらを見下ろしてくる端正な顔を見上げる。……うん、恐ろしい美形っぷりだ。ではなくて。
確かこの人私が保健室に入ってきたとき寝てなかったか?……そこに私が失敬してしまったわけだが。意識が朦朧としていたとはいえ大変なことを仕出かしてしまった。それからベッドを移動しようとして……移動…………あ。
今更ながらに床にぶっ倒れたことを思い出した。それからの記憶がぷっつり途絶えている。恐らくそのまま寝てしまったのだろう。
だが、本来床に転がっているはずの私の身体は何故か今ベッドに預けられている。
ということは、だ。
「あの、もしかして運んでくれました?」
問い掛けると短く「ああ」という肯定の返事が返ってきた。意外だ。意外過ぎて呆然とする。
悪魔といっても性格やら色々と種類があるのだろうか?現にこの目の前の悪魔は親切だ。
私の中にある悪魔の先入観を少し変えなければいけないようである。
「邪魔だったからな」
……そうでもないようだ。
しかし、理由はどうであれ態々私をベッドまで運んでくれたのは事実であるし、確かに私も見ず知らずの他人があんなところでぶっ倒れられても困る。迷惑極まりない。そして私ならそのまま放っておく可能性も無きにしもあらず……って私の方がよっぽど悪魔じみているではないか。なんてこと。
思わず突き付けられた事実に何とも言えない複雑な気持ちにさせられ、目を逸らしてしまう。
「……御迷惑をおかけしました」
謝罪をするとまた「ああ」と短い台詞が返ってきた。先程からそれしか聞いていない……あぁ、邪魔だったとは言われたか。
それにしても彼は講堂にいた悪魔とは少し違うようだ。何より口数が少ない。ペラペラと話しかけてきた鼻血垂れとは大違いである。
もう一度彼を見上げるとまた目が合った。
何となく先に目を逸らしたほうが負けな気がして逸らすことができない。
何か話さなきゃいけないかなとか考えていたら予想外にも向こうから話しかけてきた。
「……お前は何故此処にいる」
言葉数は少ないが、無口というほどでもないらしい。あちらから話を振ってくるとは思わなかった。
しかし、何故と訊かれても
「体調悪いからですが」
此処、保健室だし。
他に理由などない。まぁ今後は体調不良でなくとも来ると思うが。この布団の寝心地は最高である。持ち帰りたいくらいだ。
……その手があっt…………はっ、いかんいかん。ついつい誘惑に負けそうになった。恐るべき素敵寝具。
「……いや、そういう意味では…………まぁいい」
私が己の欲望と格闘していると彼は溜息混じりでそう言った。私の返事は欲しかった答えではないらしい。
いやいや、他にどう応えろと?
疑問符を浮かべながら考えるが一向に別の応えを導き出せない。
意味がわからない。
この人は私の中で不思議君にカテゴリ分けされた。
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