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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第三章 ◆
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074  立ちはだかる先入観



「痛たたた……うーん、これはひぃちゃんに付きっ切りで治療してもらわなきゃ駄目かも」

「……じゃあ足出せ。逆から蹴ればきっと治る。あぁ、ついでに頭もいっとく?」

「荒治療どころじゃないよね、それ」

「……ホヅミ君…………っ」


 寝言をほざくド変態へ向かって足を上げたところで、どこか焦った様な声が聞こえた。ウサミちゃんだ。

 先程までキリュウを見つめていた彼女の視線は今度はド変態へと向いていた。その眼差しは何やら心配の色を宿しているようだが、何だろう。まさかド変態の頭だろうか? 何て優しい。流石天使だ。でもね、ウサミちゃん。非常に残念なんだけれども、コレ、きっと直らないと思う。


「大丈夫だって。見たら分かるでしょ」


 彼女はキリュウをチラリと見遣り、眉を寄せる。

 あれ、心配事はド変態の頭ではないのか? ド変態のその言葉で何故キリュウを見たのか不思議に思った私は首を捻って考えた。キリュウと大体行動を共にしているがいつも助けられてばかりである。彼は危険人物ではない。それを言うなら寧ろド変態こそが危険人物である。

 私は彼らを交互に見た。うん、いつみても正反対――――……あ、なるほど。

 そういや仮にも彼らは悪魔と天使であった。片方の血統が怪しい事この上ないので完全に忘れ去っていたのだが、本来一緒にいるような間柄ではない。初対面のウサミちゃんだって今でこそ抑えてくれているが最初嫌悪の感情をぶつけて来たではないか。二種族の確執は深いのだろう。ついでに悪魔サイドである死神の私も。

 ウサミちゃんはきっとキリュウがド変態に危害を加える事を懸念しているのだ。実際はまぁ全く加えてないとは言えないが、元はといえばド変態が突っかかってくるからである。あれは自業自得というやつであって決してキリュウのせいではない。絡んでこなければこちらはスルーするのだ。それはもう空気に対するかの如く。今後彼女に誤解されないためにはそこのところも事前に説明が必要だろう。

 私はウサミちゃんと仲良くなりたいのだ。キリュウが誤解されれば連動して私も誤解されてしまうのは想像に難くない。これ以上の衝突は避けるべきである。……となれば。


 懸念材料は早期撲滅。私は二人に向けていた視線をウサミちゃんに移した。偶然ウサミちゃんも同時にこちらを見たので視線がかち合う。丁度良いから今説明してしまおう。私は口を開いた――――が、説明する事は叶わなかった。

 私が言葉を紡ぐ直前、彼女の視線がふと下がり、そして何かを認めた途端嫌悪の色を宿した瞳がこちらを射抜いてきたのだ。私は呆気にとられて口を開けたまま固まる。え、何。どうしたの。


「その子をどうするおつもりですか……ッ」


 あれ……何やら早速新たな誤解が生まれてる?

 何だ何だと下を見れば手に収まっているつぶらな瞳とぶつかった。ミニマム天使の代表格、ハムちゃんである。

 その可愛らしさに思わず構いたくなるがここはグッと我慢した。ウサミちゃんがこうなった原因はすぐに分かる。ついつい本業を忘れがちになるが私は一応死神なのである。


「どうもしないよ」

「……魂を狩る課題があると聞きました」

「うん、あるね。でも私には絶対無理。死んでも無理」


 「ねー」とハムちゃんに笑顔を向ければ彼女も「ぷぷ!」と元気な返事をくれる。その可愛らしさに私の破顔した。さぞかし気持ち悪い面をしているだろうが構わず指でハムちゃんを構い倒す。先程は堪えたがもう我慢ならん。


「あー、信じられないかもしれないけど、ひぃちゃんの服、そのハムスター助けた過程でボロボロになったみたい。さっきも言ったけど、彼女、重度のもふもふ動物愛好家だから」

「嘘……」


 一心不乱にハムちゃんと戯れだした私の代わりにド変態が補足した。珍しくファインプレー。この後天気が崩れるかもしれない。

 ウサミちゃんはかなりの衝撃を受けたのか呆然としている。その顔にはまざまざと「信じられない」と書いてあるけれどもホントです。うーん、そんなに意外なのだろうか?


「……見る限り無傷ですね。という事は怪我は――」

「うん、多分そう。しかもあっという間」

「…………噂には聞いてましたが、凄いですね」


 ウサミちゃんも驚愕を隠せないようだ。

 そうでしょう、凄いでしょう。この小さな身体にあれ程の治癒能力があるとは思えまい。

 私はハムちゃんの頭をこれでもかと撫でた。娘を溺愛する親の心境が今ならわかる。


「色々思うとことはあるだろうけど……あー、ほら、ね。大丈夫でしょ」


 何処か生暖かい視線をこちらにくれるド変態のナイス後押し。思わず空を見上げてしまったのは仕方ない事だ。槍でも降られたらシャレにならない。

 しかし折角のその後押しにもウサミちゃんはまだ納得していないようで難しい顔をしている。むむ、手強いな。


「……しかし、彼は――」

「あいつらには言わないでね?」


 被せるようにド変態が言う。

 あいつらとは恐らく天使の事であろう。悪魔と死神に絡んでいるなど裏切り行為もいいところだ。見つかればド変態にキツイお仕置きが待っているに違いない。……あれ。それは寧ろ良いかも? いや、しかしそれでこちらに注意が向かうのは困る。やはりウサミちゃんには貝になって頂きたい。

 途中で言葉を遮られたウサミちゃんは再び私とキリュウへ鋭い視線を投げる。目が合ったので笑顔で手を振ってみた。種族間の確執がなんだというのだ。そんなもの私には関係ない。可愛い子を愛でるのに関係ない。無害、私は無害。だから仲良くしてあげて。

 きっと今まで死神からこんな態度を取られたことはなかったのだろう。私の反応が予想外だったらしく、ウサミちゃんの目が揺らぎ、戸惑いを見せた。ふむ、もう一息だろうか? 私は更に笑みを深くする。怖くない。私、怖くない。気分は蟲が蔓延る世界のお姫様である。

 キリュウから飛んでくるのはお馴染みの呆れた視線。ほら、呆れてないでその無表情を何とかしろ。凝り固まった表情筋を動かせ。見よ、私のこの笑顔。これが手本だ。どこぞの誰かとは大違いなこの笑み。腹黒さは皆無であろう。


「ウサミ?」

「――――、知りません!」


 出来るだけ友好的な態度を取ったつもりだったが、やはりいきなりは仲良くなれないらしい。ド変態の呼びかけにハッとしたウサミちゃんはこちらから目を逸らし、突如出現した光の中に消えてしまった。うお、眩しい。

 光が収まるのを待ち、チカチカする目を瞬きして慣らす。落ち着いたところで辺りを見渡してみたがやはりウサミちゃんは見当たらなかった。

 私はガックリと肩を落とす。警戒心の強い彼女と仲良くなるためには焦らず長期戦に挑むしかなさそうだ。


「……帰して良いのか」


 振り返ると眉間に皺が寄ったキリュウ。たまに表情筋が微々たる動きを見せたと思えばこれだ。もっと動かせ。表情筋が死ぬぞ。そしてどうせなら笑い皺を作れ。

 対するド変態は「んー」と首を傾げている。可愛くないどころかそこはかとなく感じるこの苛立ち……蹴って良いだろうか?


「ま、ダイジョブでしょ」


 何とも呑気なその答え。しかも軽い。

 私とキリュウは訝しげな視線を向けた。「え、何その疑いの目。酷くない?」とかなんとか言っているが私達の態度が変わる事はない。変わるはずがない。


 断言しよう――――今、私とキリュウの心境は同じである、と。




胡散臭ぇ

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