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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第三章 ◆
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073  天使の来訪



 ヤバいという割にはその態度と口調がそぐわない。微塵も焦りを含まないのんびりとしたものである。


 訳が分からず訝しんでいると空に向いていたド変態の視線が何かに気が付いたようにこちらへ移された――――と同時に後方から眩い光が放たれ、思わず目を瞑る。

 この目に痛い程の眩しさ……あれ、何やら既視感が。




「――――ホヅミ君」




 鈴が鳴るような可愛らしい声がド変態の名を紡いだ。

 光が収まった事を確認してから私は徐に後ろを振り返り、目を見開く。

 ……確かにヤバい。これはヤバい。物凄くヤバい。


 何がヤバイって――――


「――――ヤバい可愛い……ッ!!」


 思わずそう口から漏れる程の可愛さを備えた女の子がそこに立っていた。


 まず目が行くのはフワフワと柔らかそうな長い金糸の髪。風と遊んでいるそれを辿れば将来美人を約束されたような美しくも可愛らしい整った小顔に行き着く。くりっと大きな瞳の色は晴れ渡った空の色。純度が高いそれを見ていると吸い込まれてしまいそうだ。目の周囲は美少女にお約束である陰るほど長い睫毛が縁取っている。その下には高くはないが綺麗な形の鼻と桜色の唇が。

 華奢で小柄な身体、ふわふわな印象の彼女はまるで綿菓子、動物でならば――――そう、うさぎさん。加護欲をこれでもかと煽られてしまう。


 …………あ、どうしよう、幻覚が見える。最早私には彼女がうさぎさんにしか見えない……耳が、尻尾が……ウサ耳がぁ!!

 今すぐギュッと抱き締めたい……ッ!!


 空色の大きな瞳がド変態からわきわきと怪しく手を動かす私へ移った。その瞬間、只でさえ大きな瞳がさらに開かれる。

 あ、零れそう。


「――――な、……っ!! …………死神と、悪魔……ッ!?」


 死神と悪魔――――そう吐き出された彼女の声は親の仇を目前にしたような憎しみに溢れた声色だった。

 私とキリュウを認識した彼女は素早く距離を取り、こちらを睨み付けてくる。しかしその可愛らしさ故、全然怖くない。寧ろ微笑ましい。

 敵視されているというのに私の頬は緩みに緩みまくった。この警戒心の強さと身の軽さは……正にうさぎさん!!


「あー……ウサミ、その二人は大丈夫だから」


 少女を(たしな)めるようにド変態が言う。

 このうさぎ少女はウサミちゃんというらしい。……うん、惜しい。ニアピンだ。しかしウサミという名前は彼女にピッタリである。何から何まで可愛い。名前まで可愛いとかマジすげぇ。

 言い知れぬ感動を覚えながら私は彼女にキラキラとした眼差しを向けた。それを受けた彼女は怪訝な様子で睨みを更に強めてくるが、やはり全く怖くない。寧ろ可愛い。撫でたい。心行くまで撫で回したい。

 睨まれて尚へらへらしている私を睨み続ける彼女。しかし自分の睨みに迫力がない事を分かっているのか、今度は不服そうに眉を顰めてド変態へ向き直った。


「何が大丈夫なんですか! どう見ても死神と悪魔ですよ!?」

「いや、まぁ見た目はそうだけど。中身は只の世話焼き母さんな番犬と物臭で重度のもふもふ動物愛好家娘だから」

「意味がわかりません!!」


 両手で拳を作り、声を荒げるウサミちゃん。かぁいい。

 彼女の言うことは尤もである。だがしかし、こう言うのも癪だがド変態の言ったことは大体合っている。キリュウはママンに違いないし、私ももふもふ愛好家で間違いない。もふもふ愛好家会長を名乗っても良い位だ。


 ウサミちゃんはド変態の言葉に反論しない私達を見て戸惑いを露わに「……まさか本当に? …………いや、でも……」と呟いて考え込みだした。彼女の中で何やら討論が始まっているらしい。そんな悩むほどおかしな事だろうか。この世界の常識というものを殆ど知らない私にとって中々理解が追いつかない。


 彼女をジッと見つめる私と、ふとこちらを見た彼女の視線が合った。私の顔はへらりと自然に緩む。それを見たらしいキリュウが深い溜息を吐いた。気持ち悪い顔になっているだろうが、自分ではどうしようもないんだ。大目に見てくれ。


「……ウサミです」


 どうやら私たちが危害を加える存在でないと結論を出してくれたらしい。渋々といった感じでウサミちゃんが自己紹介をしてくれた。初めは私とキリュウを認めた途端いきなり好戦的な態度を表していたが、他人が意見を言えば一方的に突っぱねずちゃんと受け入れてくれている。悪い子ではないようだ。いや、むしろ良い子に違いない。うさぎさんだし。


「ウサミちゃん、初めまして。ヒイラギです。で、こっちはキリュウ」


 自己紹介をしてくれたので此方も笑顔で自己紹介。これぞ日本の心である。ついでにキリュウも紹介した。恐らく彼は自己紹介とかしないだろうと見越したのだ。

 チラリと隣を見遣ると予想通り興味の欠片もなさそうな彼がいた。こんなに可愛らしい娘が目の前にいるというのにこの態度。キリュウ、お前の目は節穴だ。


「え、……キリュウ、って――――まさか」


 一方ウサミちゃんは目を見開いて彼を見つめる。相当驚いているがどうしたのだろうか。

 不思議に思い、首を捻ったところでとある事に気が付く。――――そうだ、彼は強烈フェロモンの持ち主であった。ウサミちゃん、まさかキリュウの天然フェロモンに……!!

 私は両手で頭を抱え、悲壮感を漂わせながら叫んだ。


「ウサミちゃんがキリュウの毒牙に……ッ!!」

「……あー、ひぃちゃん。天使に魅了の力は効かないからね?」


 何だって?

 近付いてきたド変態のツッコミに私は勢いよく顔を上げる。

 私を悩ませていた憎きフェロモン……あれが効かないだと? という事は何だ、抗体とかがあるのだろうか?

 私も抗体っぽいものを持っているらしいが毎度副作用に悩まされている。へっぽこな抗体なのだ。もっと頑張れ。

 私はちらりとウサミちゃんを見た。固まっているが苦しそうなそぶりは全く見せていない。恐らく副作用がないのだろう。何それ欲しい。

 よくある物語の展開で考えれば……天使の血とか飲めば抗体が出来るとか? 何がどうなってそうなるのかは全く以って不明だが……うん、ありそう。物凄くありそう。

 私は決して好んで血を飲むような特異な性質は持ち合わせていない。しかし、あの苦しみから解放されるならば……私は――――いや、待て待て。

 私が知っている天使はド変態とウサミちゃんしかいない。ウサミちゃんを傷付けるなんて私には死んでも出来ないし、ド変態に傷を付けられてもその血を飲めるかと聞かれれば……答えは否、だ。ドの付く変態に流れる血など誰が飲めるものか。抗体が出来る前にきっと変な病気に掛かって死んでしまう。

 別の天使を対象にすれば良いかもしれないが、会ったばかりの人型の生き物に襲い掛かれる程の猟奇的な精神を私は持ち合わせてはいない。ならば頼み込むか? ……いや、「血を飲ませて下さい」とか変質者も吃驚な変質ぶりだ。私には難易度が高すぎる。そして「はいどうぞ」なんて快く引き受けてくれるハズがない。いやいや、その前に血を飲むとかその時点で難易度が……。薬だと思えば、いけるか? 良薬は口に苦し。


「……やめておけ。天使に効かないのは癒しの力があるからだ」


 危ない思考に陥った私にキリュウが釘を刺してきた。そして最初から積んでいたとは……何て事。

 希望を砕かれた私は絶望の目でキリュウを見た。止めとばかりに首を振る彼に私は項垂れる。


 そんな私を他所にド変態は「まぁ」と一言置いて補足を付けたした。


「他と比べて容姿が秀でてる事に関してはそれと関係ないけどね。彼なら天使でも見惚れる事はあると思うよ。俺を見慣れてるウサミは無理だと思うけど」


 そこはかとなく苛立ちを覚えた私はド変態にローキックを繰り出した。

 攻撃が予想外だったようで対処できなかったらしい。ド変態は「酷いっ!」と声を上げ、痛むらしい脛を押えている。


 抗体の件は残念だったが――――うん、とてもスッキリした。




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