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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
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067  彼の稀な悪巧



「チョーカーは今から取り返す――――その取引にのる必要はない」


 そう吐き捨てると畳み掛けるように攻撃を繰り出すキリュウ。地面に刺さっていたダガーもいつの間にやら回収したようで、同じものか両手それぞれに逆手持ちで納められている。二刀流だったのか、と今更ながらに新たな発見をしてしまった。

 闇色ダガーが次から次へと空を滑り、いくつもの漆黒の軌跡を残す。流れるようなその無駄のない動作についついぼけっとアホ面で眺めてしまった。荒々しさはなく、とても静かな鋭い攻撃……まるで闇だ。見ていると吸い込まれそうになる。

 対するド変態は身の丈ほどもある大剣だというのにせっせと器用に動かし、次から次へとキリュウから繰り出される攻撃を防いでいた。キリュウと違い、こちらは荒々しさを感じるが、微々たる隙も見当たらない。その生き生きとした様子からどこか光を彷彿とさせるが……ド変態に光…………なんて合わない組み合わせなのだろう。まるで天ぷらとスイカだ。


 暫し互いに譲らない攻防が続いた。キリュウが攻めればド変態はそれを回避し、カウンターに回る。そのカウンターをキリュウが更に回避し、カウンターのカウンターを繰り出す……その繰り返しだ。今仕掛けたのが何回続いたカウンターのカウンターなのかもうわからない。

 一方私はというと最初こそはすげぇすげぇ、キリュウそこだ、やっちまえ、などと握り拳を作り真剣に観戦していたのだが、徐々に体調が悪化し、今では鎌を支えにしてぼけっと眺めている。

 ……いや、正直に言おう。

 だらけている理由は体調の悪化だけではない。観戦するのに飽きたからだ。今もこうしてキリュウが戦ってくれているのは私のチョーカーを取り戻す為なのだという事は重々承知している。でもごめん、飽きた。飽きてしまったものは仕方がないのだ。


 しかしこうやって飽きたと言っていられるのにもまた理由がある。見ている限り二人の実力が互角なのだ。ギリギリの戦いに見えるが危なげもない。しかも何やら二人で戦闘の最中だというのに駄弁(だべ)っているようなのでどこか余裕に見える。ここからじゃ遠い上、キンキンと交戦の音が五月蝿くて内容まで聞こえないが。


 こうしてどれくらい時間が経っただろうか。短くも感じるし、長くも感じる。熱が上がったのか頭が更にボーっとしてきた。これでは立っているのもいよいよキツい。

 そろそろヤバイかもしれないな、と腰を下ろそうとした時だった。____支えにしていた鎌が消え、私の身体が前のめりに傾いていく。


 体調不良でコントロールが利かなくなったのだろう。もう少し保てると思っていたのに……無念。

 ずべしゃ、と私の身体は地面に沈んだ。痛い。そしてしんどい。もう面倒臭いしこのまま寝てしまおうか。


「余所見しちゃ駄目でしょ」


 そんなド変態の言葉と同時に金属が弾かれたような音が二回耳に滑り込み、私は閉じかけた瞼を()じ開けた。

 伏せたまま上体を起こして見てみると闇色ダガーがキリュウの手から離れている。

 ……原因はもしかしなくとも私か。私が倒れてキリュウの気を削いでしまったのか。

 まさか私が倒れたくらいで彼が集中力を切らすと思わなかった。


 自分が犯した予想外の失態に硬直してしまった。そんな私に構う事なく時は着々と刻まれていく。

 大剣を振り上げニヤリと笑うド変態にキリュウは舌打ちをした。




 キリュウが____危ない。




「――え?」


 何が起こったのか理解できなかった。


 攻撃を避けられそうにないキリュウを何とかして助けなければ____そう思ったらこの状態だ。

 何故かキリュウが目の前にいる。


 珍しく驚きを(あらわ)にする彼の顔をもっと拝みたいと思うが、後ろから獲物を振り下ろされる気配がした。

 私は咄嗟に彼を抱き締める。魔力が尽きた今、庇えるのはこの身体を盾にするくらいしかない。

 生身で喰らったらヤバいだとか、もしかしたら死んでしまうだとかそんな事は吹き飛んでいた。

 取り敢えず庇っとけ。そんな精神で私は腕に力を入れる。


「ぅわっ」


 衝撃に備えて両目をギュッと固く瞑っていると、何故かダンスのように身体の向きがくるりと反転する感覚がした。

 私は驚いて目を開く。目の前にはキリュウの胸板が見えた。

 うん、これは変わらない。変わらないが視界の端に映る景色は180度変わっている。そして抱きついた私の身体を筋肉質な硬い腕が更に覆っている。つまり、庇ったつもりが逆に庇われてしまっていた。おいこら、ふざけんな。これでは意味がないではないか。


 まだ衝撃は訪れていない。ハッとしてキリュウの後ろに視線を走らせると彼は片腕を後ろへかざし、シールドを張っていた。サングラスのレンズような色合いから、恐らくこれは闇魔法の一種なのだろうと推測する。ギリギリとド変態の大剣を押し返しているが、一筋大きなヒビが入っていた。破られるのも時間の問題のようだ。


「……っ、キリュウ」


 ヤバくないか、と見上げれば眉間に皺を寄せて後ろを睨む彼の顔が視界に入った。彼の後ろにはこの状態をニヤニヤと楽しんでいるド変態。……すんげぇムカつく。やはり一発では足らなかった。しこたま殴らせろ。

 私も眉間に皺を刻んで奴を睨み付けていると、ふと頭上から視線を感じた。見上げた視界に入るのは思案顔で私を見下ろすキリュウ。ちょ、余所見でこの窮地に立たされているというのにまた余所見をするでない。私のせいでもあるけども。いや、まぁそれは置いておくとして今は取り敢えず前見ろよ、前。

 一人焦る私を暫し眺める彼。一向に前を向く様子のない彼にキレかけた私が残った力を振り絞り、足で向こう脛を蹴り上げようとしたその時____彼は突如表情を変えた。それを見た私は焦っている事も忘れて目を見開き、固まる。


 ____さも良いことを思いついた、という含みのある悪い顔……彼はそんな表情で笑っていた。


 ニヒルだ。初めてみる顔だ。しかし実に悪魔らしい表情だと思う。

 絶対何かを企んでいる……何を企んでいる?

 もう身体精神共にくたくたで彼を支えにしがみついているだけの私は固まったまま彼を見上げることしかできない。


 彼は私の腰に回している腕を徐々に上げていった。大きくて骨張った綺麗な手がゆったりとしたスピードで腰を通り、背中を通り、うなじを通り、そして後頭部で止まる。そこへ辿り着いた瞬間更に彼の目が細まり、黒い笑みが深まった。

 何か凄い嫌な予感がするのだが、悲しきかな……嫌な予感ほど当たるものはない。


 彼の笑みに黒さが増したと同時に真後ろでパキッとヒビが入ったような音がした。反射的にシールドへ視線を走らせたが見る限り変わりない。ヒビは入っているがこれは最初ド変態の攻撃を受け止めたときに出来たものだ。そもそもシールドは後ろでなく私の前にある。ではあれは何の音だろうか。

 思わず首を傾げると、(まと)めていた髪が次々にサラリサラリと滑り落ちてきた。

 ……おい、ちょっと待て…………まさか。


「悪いな」


 微塵もそうとは思っていないような____それどころか(たの)しくて仕方ないといった口調と表情でキリュウが(のたま)う。


 咄嗟に庇おうと自らの手も後頭部に持っていくが、一足遅かった。

 パキン、と小さく音を響かせ粉々になってしまったそれが、キリュウの手の上に重ねられた私の指の隙間をパラパラと無情にも零れ落ちる。私の大切な____バレッタだったモノ。


 キリュウ、てめぇえぇええっ!!





余談ですが、昔から良くないと言われている鰻と梅干の食べ合わせは医学的に寧ろ好ましいらしいです (´・ω・`)

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