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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
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061  規格外にて把握



 落下の勢いを利用し、振りかぶった鎌を勢い良くド変態に叩き付ける。


 捕らえたと思った一太刀目はしかしアッサリとかわされてしまった。的を失った得物は今までそれが立っていた地面へ深く突き刺さる。……まぁこれは想定内だ。こんな単純な攻撃であっさり勝負がつくならば苦労はしていない。

 私は地面にぶっ刺さった得物を引っこ抜き、外れかけているフードを被り直す。動き辛い上、フードも外れやすいので戦い難い事この上ない。以前、テレビで戦隊モノを見かける度、彼らは何故顔面まで覆った全身タイツなのだろうかと毎回疑問に思っていたが、今なら解る。あれ程動きやすく、身バレしないコスチュームはないだろう。装着すると大事な何かを失ってしまう気がしないでもないが。そして更に言うと、今それを差し出されても身に(まと)う勇気は私にはない。多少動き辛くとも、それが何だというのだ。心の安寧を保つ為ならば私はこのローブで我慢する。

 一人で変な方向に妥協しながら向き直ると何故かやたら機嫌の良いド変態が視界に映り、私は盛大に顔を顰める。心の安寧の為にまずはこいつを排除しなければ。


「ふふ、鎌まで変わってるんだね。そんな鎌今まで見たことないんだけど……ひぃちゃんって何者?」


 話しかけてくるド変態は心底愉しそうにこちらを観察してくる。奴の視線の先__私の手に握られている鎌をチラリと見た。ちょっぴり変わったこの鎌が奴の興味を益々引いてしまっていると思うと出したことを少し後悔……いやいや、奴を後悔させてやるのだ。私と金輪際関わりたくないという認識が奴に芽生えるまでぶちのめしてやる。

 私はド変態の質問には答えず、もう一度しっかりと鎌を握り直した。ただ闇雲に切り付けるだけでは絶対に当たらない。体力を消耗するだけだ____ならば。


 私は片手を鎌から離し、横へ薙ぎ払った。

 視界一杯の巨大な鎌鼬がド変態へと向かって飛んでいく。昨日のものと同じくそれは左右前後に逃げる事を許さない。

 昨日、足元から拘束した水を警戒したのか、ド変態は素早く白い翼を広げ大空へ舞い上がった。確かにこれでは昨日のように捕まえる事は出来ないだろう。ニヤニヤと癇に障る笑みを浮かべたド変態の真下を巨大鎌鼬が通り過ぎようとしている。

 奴は逃れた気になっているのだろうが____逃がすわけがない。


 私はニヤリと口の端を上げ、払ったままだった腕を振り下ろした。

 その動作と共に水の檻が突如出現する。余裕をかまして下にばかり気を取られていたド変態は頭上に現れたそれに気が付くのが遅れ、避ける事が出来ずに捕らわれた。獲物が檻にしっかり入ったことを確認すると、すかさず下も蓋をする。捕獲完了である。

 逃げられないよう大きめに作ったそれは結構な大きさだ。約10メートル四方のそれを、今度は奴の身長に合わせて縮めていくと、約4メートル四方になった。今も羽ばたいている翼があるのであまり縮められない。しかし圧縮は十分にかけたので強度は昨日のものより高く、頑丈だ。ついでに檻に触ることが出来ないよう棘も付けてみた。付けた本人が言うのもなんだが、刺さったら物凄く痛そうである。

 ド変態は感心するように自分を取り囲むそれを見た。ほれほれ、触ればぐっさり棘が刺さるぞ。容易に動けまい。近づけまい。この鎌を持った死神(わたし)は昨日とは一味違うのだ。

 一仕事終え、安全地帯にて万遍の笑みを浮かべつつ一人満足する私。そんな私を見つつド変態は何故か妖艶に笑い、口を開く。


「俺はどちらかというと閉じ込めたい派だけど、閉じ込められるのも悪くないね」


 何を言っているんだこいつは。


 それを聞いた私は一瞬固まった後、大きく後退った。腕にはお馴染みの鳥肌が立っている。

 何というド変態発言。毎回思うがこいつの思考回路はどうなっているのだ。この檻はセクハラ回避とチョーカー奪還に伴う窃盗犯捕獲を兼ねた緊急措置であって、断じて好きで閉じ込めたわけではない。思わず檻を消しかけてしまったが何とか根性で維持させた。誰か褒めてくれ。

 ド変態を見ていられなくなり思わず後方へ視線を遣ると、ドン引きした様子で奴を見遣るキリュウが映った。ですよね。気持ち悪いですよね、コレ。どうしましょう。


「ねぇ、ひぃちゃん。他所見してて良いの?」


 至極愉しそうにド変態が言う。

 その言葉にハッとして私は前に向き直った。いかん、あまりのド変態ぶりについつい逃げ腰になってしまった。敵がいくらアレとはいえ、戦いの場で目を離すとか、馬鹿か私は。

 再び睨み付けるように奴を見ると、にこりと胡散臭い笑顔を返された。……また逸らしかけてしまった。堪えろ、私。


「で、もうコレで終わりかな?」


 頑張ってド変態から目を離さないようにしていると、また問いかけてきた。こんな状態だというのに奴は余裕である。

 何か策でもあるのだろうか。確か光魔法は防御と治癒に秀でているが攻撃には向かないと聞いたことがあるのだが……――――あ、しまった。空間魔法があったか。


「ん?あぁ、空間魔法は使わないよ。あれ、移動に使うと疲れるし」


 密かに焦り出した私の心の声にド変態が答える。こいつも読心術スキルが……いや、そんなこと今はどうでも良いのだ。

 奴は空間魔法を使わないと言った。しかし他にどうやって抜け出すつもりでいるのだろうか。……まさかこのまま抜け出すつもりがないとか言い出さないだろうな?こいつド変態だしな。

 先ほどのド変態発言を思い出してまた鳥肌を復活させる私。


「ふふ、それも良いけど今回は遠慮しておくよ。――――さて、そろそろ脱出といこうかな」


 そう言うなりド変態の手元が眩い光を放ち始めた。うぉお、眩しいっ。

 思わず閉じかけた瞼を必死にこじ開け、目を細めて何とか観察する。

 直系1メートル程の円状の異空間らしきものを出現させたド変態。右腕をそこへ突っ込んでいるようだが……何だろう、何やら既視感が。以前、キリュウが同じ事をしていなかったか。

 彼が出現させたのは光でなく闇の空間だったが、それを除けば光景が酷似している。


 まさか、と思ったと同時にド変態が腕を勢いよく異空間から引き抜いた。頑丈だった筈の水の檻がついでにバッサリと縦に断ち切られている。

 目を見開く私の前でド変態が黒く微笑む。奴はふわりと髪を(なび)かせながら、鉄よりも硬い水の檻をまるで紙切れかの如く切断したそれを背中に担ぐようにして持った。


「何驚いてるの、ひぃちゃん」


 可笑しそうに笑うド変態に私は眉根を再び寄せる。

 悪魔は闇から武器を出すのだ。確かに天使が光から武器を出しても何らおかしくはない。

 おかしくはない……のだが。


「――弓じゃないのかよ」

「…………は?」


 ボソリと文句を言った私にド変態がポカンとしている。

 一息置いて背後からも呆れたような溜息が聞こえたが無視した。だって密かに期待していたのだ。天使といったら武器は弓だろ。……いや、それは可愛らしい天使が持つから良いのであってこのド変態に限ってはこれで良いのか?

 試しに弓を持つド変態を想像して即行後悔した。何処がと聞かれればうまく答えられないが、何か気持ちが悪い。やはりコレで良かったのか、と一人納得して頷く。なにせ見れば見る程その武器が奴に恐ろしい程似合っていたのだ。


 遠くから見ても装飾は細かいところまで凝っているのが分かる。

 全体的にくすんだ色の中に所々見える色は白。元々は全体が白色で日の光を浴びると美しい光を放っていたのだろうか……今は見る影もないが。




 ____奴の武器は身の丈程もある風化した大剣だった。




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