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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
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059  黒い魔封じの石



 再び目が覚めると既にうっすらと夜が明けていた。

寝始めたのは夕方なので確実に半日以上寝ていた事になる……どれだけ寝れば気が済むのだ、私。いや、しかしこの素晴らしい寝具ならば仕方ない。現にキリュウはまだ寝ているではないか。

 私は目の前にいる超絶美形を見る。今度は寝る前と同じ位置にいるので私とキリュウの間には人一人分の距離がある。痴女行為はしていない____その事に酷く安堵した。そのようなレッテルを貼られるのは御免被る。


 いつもかち合う綺麗な赤い宝石を思わせる瞳は閉じられているので彼はまだ眠っているようだ。

 そういや寝顔は始めて見る……美形は寝ていても美形らしい。少しくらい間抜けな顔になれば良いのに、と考えている内に無意識にモゾモゾと近付き、両手が伸びて軽く頬を引っ張っていた。あ、面白い顔。

 一人うむうむと妙な満足感に浸っているとキリュウの眉間に深く皺が寄り、閉じられていた瞼がゆるりと上がった。……あれ、えらく目つきが悪いな。彼は低血圧なのだろうか、と考えた所で彼の視線が現在進行形で彼の頬をぐにぐにと引っ張っている私の手に移り、原因は自分だと気が付く。あ、ごめんごめん、つい。


「おはようございます」

「…………あぁ」


 手を離しながら今度こそ時間帯に合った挨拶をすると、少し間を空けて溜息混じりに返事が返ってきた。へらりと笑いつつ「ごめんよ。出来心でやっちゃった」と頭をなでなで……って、おぉ、サラッサラだな。私のへにゃへにゃな髪と違い、柔らかだがコシのある髪は私の手で乱されても定位置にサラリと戻ってきた。……何だこれ。

 凄ぇ凄ぇと調子に乗って髪を撫でくり回し、仕舞いにはわんこを相手にするかの如くワシワシしていたら「やめろ」と腕を掴まれ止められてしまった。流石にやり過ぎたようだ。


 キリュウはもう一度溜め息を吐き出すと、私のワシワシ攻撃によって乱れてしまった髪を手櫛で整えながらベッドを下り、扉の向こうに消えていく。……今更だが彼は上半身が裸だった。思い返すと抱き着いた時、確かにすべすべしていたような気がする。……まさか寝ぼけて私が脱がせたんじゃ____と考えた所で思考を中断した。考えれば考える程自分が痴女になっていくのが(すこぶ)る怖い。この話は封印しよう。うん、それが良い。


 気を取り直して素敵布団に埋もれていた身体をよっこいしょと起こす。キリュウは起きて身仕度をし始めたようだが私はどうしようか。


「……」


 ドアに向けていた目線をすとんと落とし、真っ黒の素敵布団を視界に収めた。……君とは今日でお別れなのか。出来るならばもう一度この素敵布団に包まれて寝てしまいたい。二度寝とは素晴らしいものだ。……いや、二度寝はもうしたか。次は三度寝か。


 ____それは何と言うか、最高だな。


 よし、こうなりゃ三度寝といこう、とせっかく起こした身体をいそいそと素敵布団に埋めていく。あ、ヤバい。超幸せ。

 早くも意識が薄れ始め、もうすぐ眠りへの扉が開かれる____直前、ガチャリと部屋の扉が開いた。

 あ、違う。開いて欲しいのはそちらでは____


「……お前は現状をきちんと把握しているのか」

「……素敵布団に埋もれて凄ぇ気持ち良いでふ…………」

「…………チョーカーは」


 溜息混じりで最後に吐き出されたキリュウの一言で一気に目が覚めた。そうだ、こんな呑気にゴロゴロと寛いでいる場合ではない。あのド変態を殴殺……じゃなかった。チョーカーを奪還しなければ。


 漸く目的を思い出した私は布団を跳ね退けながら勢い良く起き上がった。きっと髪は鳥の巣状態になっているだろうし、キリュウから借りた服はズレ落ち右肩が丸出しになっているというだらし無い格好だがそんなものに構ってはいられない。緊急事態に、というより私に女子力は必要ない。

 さながら戦地へ赴く武士の如く、いざ行かんと意気込みながらベッドを下りようとしたのだが、私のすぐ隣にぽんっと何か落とされたので動きを止める。視線を遣ると紙袋が……何ぞこれ?


「着替えだ」


 おおぅ、いつも至り尽くせりで申し訳ないです、ママン。


 「ありがと」と一言お礼を言ってから中を覗いてみると____なんと昨日着た超ミニ丈ワンピースが入っていた。一気に昨日の公開処刑が脳裏に蘇り、思わず顔が引き攣る。

 ちょっと、ちょっと待て。


「……制服は?」


 私は魚の死んだような眼で袋の中身を眺めながらキリュウに問うた。何故また態々こんなものを着なければならないのだ。悪魔に変装して寮内を闊歩せずとも、ここから昨日の場所へ空間魔法で一気に飛んでくれれば____ん?……あれ?


「……何で昨日此処まで飛ばなかったの?」


 そうだ。自分の部屋が目的地なのだからご丁寧に玄関から入る必要なんてないではないか。窓から部屋へ入るようで少々マナーは悪いかもしれないが今は緊急事態。目を瞑ってくれたって良いだろうに。

 そう思って恨みがましく見上げると呆れたような視線とかち合った。何だよ。


「それは無理だ」


 何で。


 私の言いたい事が分かったのだろう。キリュウは更に説明を続けた。


「……寮内は封魔石が使用されている」

「封魔石?」


 「何ぞそれ?」と聞き覚えのない単語に首を傾げる私。そんな私の様子を見たキリュウは「これだ」と言って私が黒い大理石だと思っていた床を軽く蹴った。あ、こら、そんな事して良いのか。傷が付くぞ。

 ハラハラとする私を気にするでもなくキリュウの説明は続く。くそ、この金持ちめが。


「所々に黒い鉱石が散りばめられているだろう?」

「ん?えーと……あ、これ?」


 キリュウの言葉に思わず床に視線を下げて捜索する。

 私が指をさすと彼は軽く頷き肯定の意を示した。へぇ、これが。

 私はしゃがみ込んでマジマジとそれを見てみる。大きさは直径1センチ程の闇の色をした鉱物が床に埋め込まれていた。外見はオニキスにそっくりである。周囲にも視線を遣ると目測2メートル程度の間隔で同じ物が埋め込まれているのを確認……黒地に黒だから全く気が付かなかった。


「この石は特定の魔法で定着させると一定の範囲のみ魔法を無効化させる……大体半径1メートルだな。ここにある黒の封魔石を定着させる魔法属性は闇。空間魔法だけでなく闇以外の魔法全般使えない。外部からの干渉も無効化される」

「へぇ。でも何でこんな物を?」

「盗難だらけになる」

「……なるほど」


 防犯対策だったか。確かに空間魔法なんて使えたら他人の部屋に入り放題だ。鍵なんてあってないようなものである。

 闇魔法のみ使えるという点も他種族に対する防犯としては優れている。まぁ身内同士の争いはどうしようもないが。


 しかしそんなものがあったとは知らなかった。

 確かにそれならば此処まで一気に飛ぶというのは無理な話だ。納得は出来ないが。あんな仕打ちを受けるくらいなら嬉々として野宿を選ぶ。……まぁ今更言っても仕方がないけれども。

 あれこれ考えながら私は視線をキリュウから黒の封魔石へ戻す。光を反射し、キラキラと光って綺麗だ。

 そういや先程キリュウは『黒の封魔石』と言った。何だか他にもあるような言い方ではないか。白とか赤とか青とか……うん、ちょっと見てみたいかも。


「……死学にも使用されているが――……その様子だと知らなかったようだな」


 キリュウの言う『その様子』とは、彼をポカンと見上げたまま固まってしまっている私の図の事である。

 なんて事だ。かれこれ一年以上通っているが全く以って知らなかった。戻った時に見てみよう。


「因みに制限される魔法は?」

「光と空間だ」


 ほうほう。確かにそれならば死神に都合が良いな。闇が制限されていないものを使用しているのは合同実習で黒学の生徒が度々訪れる為だろう。死学の生徒だけ魔法が使えて黒学の生徒が使えないのでは不満が出るに違いない。

 うんうん、と納得仕掛けた所で私はとある事実を思い出し、首を傾げた。

 確かに黒学の生徒が空間魔法を使っていた光景は見たことがない____たった一名を除いて。


 ……キリュウ、空間魔法使ってたよね?


 疑問を抱きつつ彼を見上げていると、それに気が付いた彼がお得意の読心術て私の心の疑問に答えてくれた。


「……あの大きさ程度のものなら俺は使える」


 どうやら大きさに威力が比例するようだ。

 「大きさはどれくらい?」と尋ねると親指と人差し指で大きさを示される……が。


 ねぇ、それ、指離れてるの?くっ付いてね?


「……封魔石は希少価値が高い」


 ふむ、つまりお高い訳だな?


 ……。


 …………くそっ、ブルジョアめっ!!




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