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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
56/85

054  公開処刑の理由



 今までコツコツと響いていた足音が聞こえなくなった。しかし現在進行形で揺られているので、どうやら足元が石畳的なものから絨毯的なものへと変わったらしい。


「……」

「……」

「……」


 視覚を使えないのは大変不便である。私は嗅覚、聴覚など他の感覚をフル活用して脳内ヴィジョンを展開しているのだがそれでも想像の域を越えない。言わば、妄想なのだ。因みに、私の妄想では大理石からレッドカーペットの上へ移動した。何処の城だと私の脳内に突っ込みたい。


「…………」

「…………」

「…………」


 そしてもう一つ突っ込ませてくれ。


 ____キリュウさん、無視ですか。


 私が難聴でなければ、先程女性の綺麗な声で話し掛けられたような気がするのだが。……アナタが左手に抱えている私の素性について。


 現在、私達が歩いているすぐ後ろから一つだけ気配を感じる。キリュウが無視して通り過ぎたにも関わらず先程の女性は気丈にも追いて来ているのだろう。良いガッツだな。私は嫌いじゃない……が、下手するとキリュウに嫌われちゃいますよ、美人なおねぇさん。因みに美人というのは私の脳内ヴィジョンで、だ。


「……、……キリュウ様」

「……」

「……」


 また話し掛けてこられましたが、ガンとして無視ですか。……今知ったが、キリュウは鬼畜さんなのだろうか。今まで彼のイメージは『出来る嫁』に始まり、『わんこ』、極めつけには『ママン』だったので意外過ぎる。

 まぁそれは隅にでも投げておいて……おいコラ、キリュウ。おねぇさん戸惑っているではないか。私は対応出来ないのだからきちんと対応してくれ。何もしてないのにこちらまで居た堪れないではないか。


「……、あの」

「……」

「……」


 ……何だろう。


 その声に若干恍惚とした色を見た気がするのだが。気のせいだと思いたい。

 ……何だ、アレか。放置プレイという高度なやり取りなのか。そうなのか。ならば私が今からしようとしている事は余計なお節介以外の何物でもない。

 …………いや、しかし。


「……、キリュウ様、あの……」

「……」

「……」


 この状況はなぁ。


 何かされたわけでもなければ嫌いでもない相手をここまで無視するのは心が痛むのだ。私的に堪えられん。

 もし、もしも万が一放置なプレイをお楽しみ中でしたら申し訳ございません、と心で呟き、私はキリュウの肩をぽすぽすと叩いた。無視してやるな。話しを聞くくらい良いではないか。一言声を掛けるくらい良いではないか。そう伝わるように叩き続ける。


「…………」


 少しすると、すぐ側に視線を感じたので私は少しだけ顔を浮かし、彼にだけ見えるように目を遣った。予想通り細められた赤い瞳が不機嫌そうにこちらへ向いている。私はその瞳をジトーッと見返した。言いたいことは分かるはずだ。何せ彼は読心スキルがレベルMAXなのだから。

 そんな私の様子に彼は視線を外してから溜息をつき、もう一度こちらを見てきた。その瞳には諦めの色が見える。やった、勝ったよ、おねぇさん。


「……何だ」

「……!」


 キリュウが話し掛けると、おねぇさんの嬉しそうな気配が伝わった。うんうん、良かったね、おねぇさん。

 しかし、キリュウときたら話し掛けたものの、後ろを振り返ることもなく歩みも止めない。物凄く失礼な対応である。そのうち躾を(ほどこ)すべきであろうか。

 うーんと私が考えている間におねぇさんが後ろから先程と同じ質問を投げかける。


「あの、その者は……」

「……お前には関係ない」


 冷たいな、おい。


 ほら、後ろのおねぇさんがしょんぼり落ち込んじゃったじゃないか。そして同時にこちらに殺意を送ってきているぞ。チクチクする。視線がチクチクする。

 ちょっとこの視線を何とかしてくれ、と再度彼の肩をぽすぽすと叩く。暫くめげずに叩いていると、すぐ側でまた溜息が聞こえた。よしよし。


「……知り合いだ」

「………………貴方がそこまでする同族など……ッ」


 おねぇさんは何故か悔しそうに言葉を切った…………が、ちょっと待て。


 …………同族?


 そこで私は自分の状況を振り返ってみる。……あぁ、そういう事か。

 キリュウによるこの公開処刑にはどうやら意味があったらしい。

 私は顔を伏せている事、そしてこの露出の多い恰好。確かに他から見たら悪魔に見えるのだろう。何せ今は黒髪なのだから。此処がどういった場所なのかは分からないが、悪魔の領域なのだから他族は滅多にいないはずだ。確か以前、サカキから悪魔というものは己の領域に干渉される事を嫌うと聞いたことがある。だから彼は私が悪魔に見えるよう私の防御壁を取り上げ、悶絶モノなこの恰好をさせたのだ。確かに今の私は瞳の色さえ見られなければ問題ない。説明がなかったのは説明すれば私が逃げ出すとでも思ったのだろう。うむ、流石だ。ズバリ当たっている。


 そして一つ気付いてしまった。

 悪魔って皆プロポーションが良いはずだが、私は適用されるのか?この、何ていうか、自分で言っていて傷付くのだが、この肉々しい腹で大丈夫なのか?……さりげに腹筋へ力を入れた。多少は誤魔化せるだろう。……誤魔化されて欲しい。


 …………って、あれ?


 いつの間にかおねぇさんの気配が消えていた。一人で悶々と悩んでいる内に何処かへ行ってしまったのだろうか。現在ふわりふわりと縦によく揺れているので階段でも上っているのだろう。……しかし、どのくらい歩いているのか。恐ろしく広い場所だ。


 階段らしき物の段数を数えたり、歩数を数えたりとしょうもない事をしつつ暇を持て余していると、ガチャリと扉を開ける音が響いた。部屋に入ったらしい。


「……着いたぞ」


 そう言いつつ私を地面へ下ろすキリュウ。今まで揺られていたので少々足元が覚束ない。フラリとよろけそうになったので、慌てて目の前の服らしき物を掴んだ。

 ……目、開けて良いのだろうか。


「……大丈夫だ」


 タイミング良くキリュウの許可が下りる。流石である。

 私はそのお言葉に甘えてゆっくりと目を開け____そして固まった。


「…………」


 ………………何だ此処は。




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