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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
52/85

050  最終手段は力押し



「……ハァ……ッ、……ハァ……ッ」

「ねぇ、ひぃちゃん。さっきから躊躇いの欠片もなくぶっ放してくれちゃってるけど当ったらいくら俺でも血まみれだからね?」

「ハァ……ッ、……何か問題が?」


 ないよな。寧ろ何と有意義な事か。何ならその後埋まってくれても構わない。

 息切れしながら私はド変態を睨んだ。何だコイツは。息切れどころか息一つ乱していない。変態といえば貧弱なイメージなのだが……最近の変態はこんなにも体力があるものなのだろうか?


「ふふ、酷いなひぃちゃんは」


 酷いと言いつつも何処か嬉しそうなド変態をドン引きしながら見る…………コイツは相変わらず半端ない変態っぷりをしているようだ。


 逃げるド変態を攻撃しながら追いかけ、気が付けば現在地の木々が空けたそれなりに広い空間に辿り着いた。雨は依然降り続けているので地面はぬかるみ、走る度に跳ねた泥で制服が酷い事になっている。それは別にそこまで気にしないのだが、同じく走って移動したド変態の白い制服に何故か泥跳ねが一つもない事実が私を妙に苛立たせた。しかも、こっちが必死こいて走っている先で余裕を見せ付けるかのように両手をズボンのポケットに突っ込んだままというふざけた走り方をしたド変態……特性泥団子を投げ付けてやりたい。勿論顔面に。

 そんな事を考えながら私ははふはふと欠乏している酸素を身体に送る。ぬかるんだ足場の悪い道に足をとられる中、攻撃しながら10分程全力疾走してきたのだ。イグラントに来てからタチバナさんに(しご)かれて尋常でないくらい体力が上がったとはいえ、これは流石に堪える。

 私は粗方必要分の酸素を取り込み終え少し呼吸が落ち着いたところでド変態に向かって手を突き出した。


「チョーカー返せ」

「簡単に返すと思う?」


 予想通りの返事に思わず舌打ちをする。

 明らかにこの状況を楽しんでいる様子のド変態。経験からするにこの手合いは一旦こうなったらこっちのいう事など一向に聞く耳を持たないのである。

 よって、私が今から取れる手段は一つしか残っていない。


「返してもらう」


 そう。力押し、だ。


 私は瞬時に出来る限りの魔力を練り上げて腕を勢い良く薙ぎ、特大の鎌鼬を繰り出した。

 木々が空けた広いこの空間目いっぱい使った巨大な空気の刃がド変態に向かって飛んでいく。


「何度やっても同じ……――っ!」


 私は横に払った腕を今度は振り上げた。

 白い翼をバサリと広げ、空へ逃げようとしたド変態の動きが止まる。

 ド変態の足元に溜まっていた水が瞬時にド変態に絡まり、拘束したのだ。

 私が水魔法を使ったのである。


 水だからといって侮るなかれ、圧縮させたそれは生身でどうこうできるものではない。

 巨大な鎌鼬は大ダメージを喰らいそうなビジュアルだが、加減したので実はそうでもない。走っている時にぶっ放していたものより威力は弱いのだ。まともに喰らっても少しの間動けなくなるくらいなのである。


 だから安心して大人しく切り刻まれろ。

 そしてもう二度と湧いて出てくるな。


 そう思った時だった。


「!」


 __ド変態の口が弧を描いた。


 その瞬間、奴の目の前に護るように光の魔法陳が出現する。到達した鎌鼬はその魔方陣に弾かれ、飛散してしまった。


「ぅわっ!」


 衝突の影響か、眩い光と強風が放たれる。

 そのあまりの眩しさに、私は目を瞑って強風に飛ばされないよう足を踏ん張った。


 何とかやり過ごし、閉じていた目を急いで開けて前方を確認する。

 水に捕らわれていたはずのド変態の姿はそこになかった。


「!!」


 背後から気配がし、振り返ろうとしたが、それは叶わなかった。

 先程の間に背後を取ったド変態に両手首を捕まれて身動きが出来ないのだ。

 支えを失ったブレザーがバサリと落ちる。


「ふふ、折角綺麗なんだから隠さないでよ。……それにしても2属性同時に発動できるとはね。びっくりした。凄いね、ひぃちゃん」


 何故か嬉しそうにそう言うド変態。

 確かに魔法は同時に一つの属性しか使えない死神が殆どだ。以前タチバナさんが死神全体で10パーセントくらいだと言っていた。だからあまり使うなとも言われたが……これは緊急事態。致し方ないと自分に言い訳をする。

 まぁ兎に角、確かにそれは貴重らしいのだが、お前が喜ぶ意味が分からない。


 掴まれた腕を振り解こうと力を入れるのだがびくともしない。くそっ、この馬鹿力何とかならんのか……っ。

 足技を繰り出したい所だが……それは出来ない。身体の支えが足一本になり不安定になったその瞬間払われて寝技に持ち込まれそうな気がしてならないのだ。地面は雨が降って泥だらけの状態だが……このド変態ならやりかねん。いや、絶対やる。

 寝技に持ち込まれたら今朝の再現になってしまう。あの時は足技で何とかしたが、今回も出来るとは限らない。足を押さえ込まれたらお仕舞いだ。……考えただけで背筋が凍った。


「……、離せ変態ッ」

「ん?何?」

「――ッ」


 手も足も出ないので残った口で抗議するが、直ぐ傍で聞こえたエロイ声に思わず押し黙る。

顔を近付けんな。耳元で喋んな。鳥肌がヤバい。寒気がする。

 素性を知らない他の女の子に同じ事をすれば多分腰砕けだろう。だが私にされたって気持ちが悪いだけだ。他でやれ。いや、やっぱやるな。迅速に土に埋ま……って、ぎゃぁああぁああぁあッ!!


「、やめっ――ッ!!」


 首筋に息が掛かった____とその時、背後に風が通り過ぎた。


 サクッと何かが刺さる音と共に拘束が解かれる。

 力をこれでもかと入れて抵抗していたので支えを失い、思いっきり前につんのめったが、たたらを踏んで何とか堪えた。……危ない、泥んこ塗れになる所であった。

 何が起きたんだと視線を走らせると少し離れた場所から私の後ろをニヤニヤと気持ち悪い笑顔で見ているド変態の姿があった。

 そして先程までド変態と私が力比べをしていた場所に視線を遣ると、見覚えのあるダガーが深く突き刺さっている。


 ______コレは……ッ!!


 私は急いでそれが飛んできた方向に向き直る。同時に、僕らのヒーローが来たとばかりに嬉々としてその救世主の名前を呼んだ。


「キリュ――――――」


 ――――……ウ?


 最後まで言えなかったのは彼を纏う禍々しい程の黒いオーラが原因である。


 ……、……あれれ?

 …………物凄い、怒ってる……?




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