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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
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048  お手軽変装術



 先程のさも知っていると言わんばかりの口ぶりは何だったのか……。

 思わず絶句している私に構わずキリュウは続けた。


「……協力すると言っただけだ。アイツの居場所なんぞ知るか……それよりこの現状をどうにかしないとマズイ」


 ……確かにキリュウの言う通りだ。

 タチバナさんが帰ってくるまでまだ時間はある。それより現状をどうにかしないとこの森から出られないままだ。

 取り敢えず服をどうにかしないといけないだろう。ずぶ濡れな上、雨も降り続き少々身体が冷えてきた。このままだと冗談抜きで風邪をひいてしまう……今ぶっ倒れるのは非常にマズイ。

 私は辺りを見回した。焚き火をしたい所だが雨のせいで燃えそうなものは周りにない。落ち葉や枝などは全て湿気っているのだ。


「……魔法は使わないのか」


 うーん、と難しい顔をしているとキリュウが話しかけてきた。火を起こさないのかと言いたいのだろう。

 確かに今はチョーカーがないのでリミッターが解除された状態だ。現在の私は勿論ただのチャッカマンではない……が。

 ……。

 …………。

 ……うん、説明するより見てもらった方が早い。

 そう思うや否や、私は魔力を掌に集中させ、魔法を発動させた。

 その瞬間、掌の上に炎が出現する。


「……」

「……」


 二人してそれを暫し無言で見詰める。

 ……この沈黙、とても居た堪れない。別に悪い事なんて一つもしていないのに何だか無性に謝りたくなってくる。ごめんなさい。何か分かんないけどごめんなさい。


「……これで全力か」


 何ともいえない沈黙を破ったのはキリュウだった。

 それに対し、私は「うん」とだけ答える。正真正銘これで全力なのだ。


 二人の視線の先____そこにはチャッカマンの火より一回り大きい程度の炎が揺らめいていた。強い風が吹くと呆気なく消えてしまうだろう。

 少しだけ大きくなっているとはいえ、こんなもので暖を取れるはずもなく……。

 事情を察したキリュウが溜め息を吐いた。……いや、だって、火の魔法苦手なんだよ。仕方ないじゃないか。

 因みに水の魔法は出現させることは出来るが、服に付いた水分を取り除くといったような器用な真似は出来ない。風の魔法も服を着たまま乾かせば余計に身体が冷えてしまうので使えない。


「タチバナさん曰く、コントロールが下手なんだって」

「…………そうか」


 もう良いだろうと私は魔法を解いた。掌の上に揺らめいていた炎は瞬く間に消える。掌から2センチ程上に出現するこの炎は何故か私自身は熱くはない。摩訶不思議である。熱くないのはまぁ良いのだが、これ、使い道あるのだろうか。今までの経験では火種くらいにしかなっていない。……今は火種にもならないのだが。

 私は何となく手をにぎにぎをしてからキリュウを見た。あちらも私を見ていたようで目が合う。……わぁ、何という呆れ顔。


「……一応聞くが泊まる宛てはあるのか」

「ない」

「……人間の領域の金は」

「ない」

「………………まさか野宿するとは言わないだろうな」

「…………」

「……却下だ」


 まだ何も言ってないのに。


 読心術レベルMAXのキリュウには隠し事は出来ないようである。ずるい。

 でもまぁ確かに焚き火が起こせない状態での野宿は危険だ。夜になると魔物はわらわらと出てくる。奴らは火の傍には動物と同じくあまり近付かない……つまり、焚き火を起こせないとなると、どうぞお好きにして下さいと言っているようなものなのだ。まず寝る事は叶わないであろう。

 視線をそろそろと外すと溜め息が聞こえた。すみません。

 このままでは二人仲良く風邪をひいてダウンだ……いや、違うな、私だけだ。キリュウまで私に付き合うことはない。彼は自分の寝床に戻れば良いだけだ。


「……此処で待ってろ」

「へぁ?」


 思考の渦に飲まれていた所へ急に話しかけられ変な声が出たが、私は気にせずそのまま続ける。


「何処行くの?」


 そんな私にキリュウは大して気にした様子も見せず、立ち上がった。つられて私も見上げる形となる。首が痛い。


「……近くにあった村」

「何しに?」

「……お前の服を調達する」


 調た…………え、盗む気?

 いくら緊急事態とはいえそれはいくらなんでも気が引ける……。


「……金ならある」


 まだ何も言っていないのに即効キリュウが眉を顰めながら私の心の声に訂正を入れた。

 疑ってすみません……私はそろりと視線を外す。

 ……まぁ取り敢えずお金がある事が分かって一安心だ。使った分は後々返すとしよう。

 しかし彼はこの姿で大丈夫なのだろうか。人間から見て悪魔と死神は命を(とどろ)かす者として忌み嫌われている。見るからに悪魔の風貌を持ったキリュウが尋ねて問題にならないのだろうか……かといって私が行くわけにもいかないし。


「……問題ない」


 悶々と考えていると上から声が降ってきた。

 問題ないって……問題だらけではないか。

 私は外した視線をもう一度キリュウに合わせ____


「――――……イメチェン?」


 間抜けな顔でそう零す。

 目が合ったのは予想していた赤い瞳ではなく、茶色い瞳。


「……直ぐ戻る。此処を動くな」


 ____見上げた先には黒髪から茶髪へ、赤い瞳から茶色い瞳に染色されたキリュウがいた。




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