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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
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047  決死の時限爆弾処理作業



 私が壊れたオモチャの如くカクカクと首を縦に振り無罪を表明した後、キリュウは眉間にシワを刻んだまま黙り込んでしまった。何やら考え事をしているようだ。

 彼は未だ黒い空気を纏わせてはいるが私から視線が外れたことでいくらか威圧感が薄れた。私はこっそり溜息をつく。……ふぅ、助かった。

 不機嫌スイッチは何なのかやはり分からないままだが今探るのは得策ではない。変に刺激してまたあのプレッシャーを受けるのは嫌だ。原因が分からない事には対処できないだろうがなるべく地雷を踏まないように今後気を付ける事にしよう。


 そしてふと思い出すあの瞳……あの時二人の間に流れたいたたまれない空気がもし再び流れる事になったら____私はもう耐えられそうにない。現に思い出すだけで息が詰まり、また手に変な汗を掻いてきてしまった。……駄目だ。思考ストップさせねば。

 頭がパンクしそう____


「……これからどうするつもりだ?」

「…………」


 風邪をひいても良いからもういっそ寝てしまおうと本気で考え始め、ゆるゆると瞼を閉じていたのだが、キリュウが話しかけてきたので私は閉じかけた瞼をパチリと開いた。

 危うく聞き流しそうになった言葉をもう一度自分の中で繰り返し、その意味を理解する。

 ……これから…………。 

 …………そうだった。今寝ている場合ではなかったのだ。


「……うーん、どうしようかな」


 この配色ではまず学校に戻る事は出来ない。キリュウとタチバナさん、あとド変態以外に見つかる訳にはいかないのだ。大問題になってしまう。

 そうなると私は容易に動く事が出来ない。学校近くにある第二の家にも帰らない方が良いだろう。結界内に入り込めば何て事ないが、入る前に見つかる可能性が高すぎる。迷いの森の入口辺りは目の前が死学という事もあって、結構人通りが多いのだ。


「……チョーカーのスペアは?」

「ない」


 キリュウの質問に即答で否と答える。

 そもそもアレは外さない事が前提の代物だ。スペアなんてあるはずがない。

 こうなるとタチバナさんしか対処は出来なくなって……。

 ……。

 …………ヤバイぞ。


「……どうした」


 急に無言で固まった私にキリュウが尋ねてくる。私はそれに対して答えられずに冷たい汗をダラダラと掻きながら先程の事を思い出していた。

 ……確かド変態はこう言っていなかったか。


『じゃあ、またね』


 また会うことが前提の口ぶりではあるが……時間と場所は全く分からない。勿論生息地も分からない。

 ____それはつまり会える事には会えるが、こちらから訪ねるという事ができない……もう少し言うとタチバナさんが帰ってくるまでに間に合うかどうかも分からないという事で……。

 そしてこの配色のまま下手をすれば何日か過ごさなければならないという事で……。

 その間、やり過ごせるだろうか?家には近付けないから野宿になるだろう。それはまぁ何とかするとして……学校はどうする____?


「……どうした」


 キリュウに再度尋ねられる。ハッと顔を上げると、どこか心配そうにこちらを覗き込んでいる赤色の瞳と視線がかち合った。

 ……そうだ、キリュウに学校への伝言を頼もう。


「キリュウ、私明日からインフルエンザにかかる予定だから伝言宜しく」

「……」


 みるみるうちに呆れ顔になるキリュウ……あ、駄目?やっぱ駄目?

 仕舞いには溜息までつかれてしまい私はアハハと笑うしかない。因みにインフルエンザはこちらにも存在する。一週間ではなく2日程で完治するが。


「……お前、本当に教師の話を全く聞いていないな」


 ん?……と言いますと?

 キリュウの言葉が指す所が分からず首を傾げる私。

 そんな私を見てもう一度溜息を吐き出すキリュウ。溜息は吐けども治せと注意は吐かないので彼はもうとっくに諦めているらしい。賢明な判断だ。治すつもりがないから注意をしてもきっと一生治らない。

 何処か他人事のように考えているとキリュウが徐に口を開いて説明をしてくれた。


「……今回の実習は3日掛かりだ」

「3日?」

「あぁ……3日掛けて狩りを行う。ターゲットは『レベルEの魂』という以外、数も種類も指定されていない……つまりEレベルの魂を狩れるだけ狩ってこいという訳だ」

「……んじゃ明後日まで学校に顔出さなくて良いと?」

「あぁ」


 なんと。そうだったのか。

 そういう事なら学校の事は心配いらない。見つからないように気を付ければ良いだけである。

 ……タイムリミットはタチバナさんが帰ってくる明後日。それまでにド変態を取っ捕まえてチョーカーを取り戻さなければならない。

 しかしその為には奴の居場所を掴まなければ……。

 ……。

 …………。


「……キリュウ、ド変態の生息地分かる?」


 居場所が分からない私は意を決してキリュウに尋ねてみた。

 ……どうも彼はド変態の話を振るとあの黒い空気を醸し出す。今度は地雷を踏んだだろうか?手に汗を握り恐る恐るキリュウの顔を窺った。何だかドラマなんかでよく出てくる時限爆弾の最後2つのリード線を選択したような気分だ。赤か青か……私の選んだものは起爆の方でない事を願う。


「……聞いてどうする?」


 __ひぃっ。


 眉間に皺が刻まれ、僅かだがまたあの黒いものがキリュウの背後に出現した。

 私の選んだリード線は起爆の方だったらしい。

 キリュウのそんな様子に冷や汗を流しながら黙っていると余計に皺が深くなっていったので私は慌てて質問に答えた。


「チョーカーを奪還するっ。心配しなくてもこれ以上キリュウに迷惑なんてかけないよ、一人で、……、____じゃなくてキリュウも手伝ってくれると嬉しいな!?」


 __何を言っているんだ私は。


 『一人で』の部分で空気か更に黒くなったので慌てて訳の分からない事を言ってしまった。迷惑かけます宣言をかましてどうする。決して振動を与えてはならない時限爆弾を思いっきり蹴っ飛ばしてしまった。

 視線を外し、覚悟を決めて大爆発の瞬間を待ったが……何故か一向にその気配を見せない。

 ゆっくり彼に視線を戻すと眉間の皺は健在なものの、あの黒い空気が一掃されていた。何故。


「……わかった」


 彼はそれだけ言い、私の頭をまたブレザー越しに撫で始めた。

 …………よく分からないが奇跡的に起爆は免れたようだ。蹴っ飛ばした先には液体窒素があった模様……対冷却システムが付いていない爆弾で良かった。

 私は気付かれないようにこっそり安堵の溜め息を吐き、もう一度質問をする。


「ありがとう。……で、奴は何処にいるの?」

「知らん」


 ちょっと待て。




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