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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
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044  黒い微笑みと不測の事態



「ははっ……あー、笑った笑ったー」


 一(しき)り笑ったドス黒は酸欠なのか肩で大きく息をしている。そのまま笑い過ぎて逝ってしまえば良いのにとついつい願ってしまったのは仕方がない事だろう。誰もが許してくれると思う。

 「もぅ、ひぃちゃん最高」と言いながら目尻に溜まった涙を拭うドス黒……まだ若干肩が揺れている。こいつは笑い上戸なのだろうか。今なら箸を転がせば笑い出すのだろうか。転がし続ければ天に召されてくれるだろうか。ならば私はいくらでも転がしてみせる。

 魂を半分飛ばしつつ、私はどうすればコイツの興味対象から外れる事が出来るのかを考えた。……しかし一向に良い案が思い浮かばない。あ、どうか手遅れなんて言葉は出さないで。泣きたくなる。


「俺、変態なんて初めて言われたよ……ふふっ」


 そう言って嬉しそうに笑うドスぐ……え、嬉し、そう…………?

 何故に変態と罵られて喜ぶんだ。…………あぁ、そうか、コイツは真正の変態だったのか。常人にはこのドの付く変態の思考回路など読めるはずもない。これからは敬意を込めてド変態と呼ぼうじゃないか。ドス黒からド変態へクラスチェンジだな、おめでとう。是非ともその変態部分は自分の中に押し留めておいてくれ。でないと公害になる。これからは主に私へ迷惑が降り懸かる気がする。

 しかし、初めて言われただと……?コイツはどう見ても変態だろう。あまりにも変態すぎて皆言えなかったのか?うん、なら納得だ。皆ドン引きして関わらないようにしていたのだろう。


「あー、違うからね?ひぃちゃん以外は皆俺に好意持ってくれるから」


 ____雷を直に喰らった様な凄い衝撃を受けた。


 コイツも読心術スキルの習得者かとか、もうどうでも良くなるくらいの強い衝撃だった。

 信じられないと目を限界まで見開いて目の前のド変態を凝視する。「あ、そういやキリュウも例外か」と付け足すかのようにぼやいているがそれもどうでも良い。というよりそれは正しい反応だ。キリュウは常人だから____じゃなくて。

 コイツに好意?そんな天変地異が起きてたまるか。…………あ、そうか、勘違いか。コイツの思い込みか。そういやコイツのお(つむ)は大混線しているのだった。その上『変態』と相手は言っているのに『紳士』やらそういった言葉に誤変換される余計な機能までもが搭載されているようだ。ある意味中身の詰まった脳みそをお持ちで。聞こえは良いが全く羨ましくない。詰まっている内容に問題があり過ぎる。つまり、一言で言うとこのド変態は残念な……いや、残念過ぎるイケメンなのだ。


「いや、だから違うって」


 思考を読んだらしいド変態が苦笑混じりでそう答える。何が違うものか。

 奴を疑いの色しか宿していない目で見ていると、奴は自分が何を言っても無駄だと思ったのか「まぁいいか」と肩をすくめた。いや、そんなもん信じる訳がないだろう。ドの付く変態だという事実は曲げようがない。


「あ、さっきも聞いたけどキリュウはいないの?」


 話は終わったとばかりに質問を持ちかけるド変態。

 ド変態は兎も角、そういやそうだなとポケットの中の時計を確認する。こちらに来てから15分程時間が経っていた。……遅い。パートナーがこんなド変態野郎に絡まれているというのに彼は何をしているのだろうか。……あの黒学の教師の話が長いのか。早くキリュウを開放してこちらに送り届けてくれ。こちとら緊急事態なんだよ。


「ふーん……まだ来ないみたいだね?」


 私が渋い顔をしているとド変態が笑みを深めてそう言った。それを見た私は全身に鳥肌が立つのを感じた。

 変態が笑った…………なんだか物凄く嫌な予感がする。


「ねぇ、ひぃちゃん、俺と遊ぼうよ」

「こっち来んなド変態」


 ゆっくり近付いて来るド変態に向かって私は容赦なく鎌を振り下ろした。威嚇である。と言っても90%くらいは本気で切り掛かったがそう易々と当るとは思えなかった。……万が一当ればラッキーだ。寧ろ当れ。

 しかし、そんな幸運が訪れる事もなく、予想通りそれを奴は軽々と避ける。「暴力反対ー」とふざけて両手を挙げているが、お前は先程私に何をした。こちらから言わせて貰えば『セクハラ変態野郎断固お断り』だ。お引取り願う。ついでに天国でも地獄でも土にでも帰って欲しい。迅速に宜しく頼む。


「ふふっ」

「………………」


 …………何故に蕩けそうな笑顔。

 攻撃されて物凄く嬉しそうにするとはどういう事だ。やはりド変態はあくまでド変態か……先程から鳥肌が治まらない。勿論気味が悪くてのそれだ。

 私が心の底からドン引きしていても気にする素振りも見せずニコニコと笑うド変態……本気で関わり合いたくないのだが。


「あのキリュウが気に入るのも分かるなぁ。ひぃちゃん面白いっていうより不思議生命体だし?」


 ____不思議生命体はお前だ!!


 顔を引き攣らせて心の中で思い切り叫んだ。

 私が反応を返す度にコイツを喜ばせているのは何となく分かるが今更だ。どうしようもないというか、もう良い、どうでも良い。付き纏うならその度に返り討ちにしてやる。

 そう意気込んでもう一度攻撃を仕掛けようとしたのだが、奴の次の言葉にそれは叶わなかった。


「ねぇ―――――-蒼黒の死神さん?」

「ッ!!」


 蒼黒……それは私の本来の髪と瞳の色だ。……それを何故こいつが知っている?


 一瞬固まってしまった私。

 その隙を相手が見逃すハズもなく、我に返ったときには背後を取られていた。


「これは預かっておくよ」


 ド変態は私が振り返る前に手をチョーカーへと伸ばした。そして流れるような動作で素早く解かれる。

 止める間もなかった。


「ちょ――――ッ!!」


 辺りが光に包まれた。

 視界に映る髪はいつもの明るい茶色でなく漆黒、今自分で確認はできないが瞳は蒼色だろう。私は元の配色へと戻ってしまった。

 咄嗟に取り返そうと手を伸ばすがド変態は白い翼を広げ、空へと羽ばたいたので届かない。

 奴は空の上から風に靡いている私の髪と驚きに見開かれた瞳を見遣り、黒く微笑んだ。


「じゃあ、またね」


 ヒラヒラと手を振り、いつかのように出現させた光の中へ消えるド変態。呆気に取られ、私はその様子を固まったまま見送る事しか出来なかった。


 先程まで晴れていた空はいつの間にか暗雲が立ち込めている。そして空からポツリポツリと雨が降り出し、点々と服や髪を塗らしていくが、そんな事気にしていられなかった。私はド変態が消えた空間を見上げながらそのまま立ち尽くす。


 次第に雨脚が強くなり、雫が頬から首筋へと伝った。首に馴染んだ感触が今はない。

 ____濡れる私の髪とぼんやりした瞳は自前の色のまま。


 ………………ヤバイ?




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