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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
43/85

041  蚊帳の外に当事者



「……凄ぇ」


 いつも通りギリギリまで惰眠を貪り、朝食を食べ、身支度を整え終えた私は今、鏡の前で一人感動している。

 目の前に映る鏡の中の自分はいつもの寝癖全開ボサボサ頭ではない。自由奔放に跳ねていた髪は後ろに一まとめに留められてスッキリとしている。早速昨日タチバナさんから頂いたバレッタを使ってみたのだ。

 市販品のものでは直ぐにズルズルと落ちてしまうそれは、跳んでも跳ねても一向にずれる気配を見せない。しかもタチバナさんが言っていた様に、かなり軽いので頭皮が引っ張られて痛むという事態にも陥らない……素晴らしい代物である。

 最近本当に暑くて髪をどうにかしなければと考えていた所なので物凄く助かった。後ろ髪を上げるだけだが、下ろしている時と比べるとかなり涼しい。

 ……っと、いかんいかん。いつまでもやっていると遅刻してしまう。


「行って来ます!」

「はーい、行ってらっしゃーい」


 元気にタチバナさんと挨拶を交わし、家を後にする。

 一歩、二歩、三歩、四歩。どんどん進んでいくが……ズレない。足をいくら運んでもズレない。スキップなんてものもしてみるが……やはりズレない。


「ふへへっ」


 私は嬉しさのあまり、奇妙な声を発しながら足取り軽く学校へ向かった。




 ◆ ◆ ◆




「ヒイラギ、どうしたのそれ?」

「ふへへ、タチバナさんに貰った」

「良かったじゃない!へぇ、綺麗なバレッタね」

「ふへへ」


 いつまでも「ふへへ」と奇妙な笑い方をする私に「嬉しいのは分かるけど、その笑い方、気味が悪いわよ」と続けるサカキ。細かい事は気にするな。良いじゃないか、嬉しいのだから。放って置いておくれ。


 現在、私たちはクリスタルゲートの前にいる。昨日に引き続き、今日も実習なのだ。多分またレベルEの狩魂なので今回はどんなもふもふなのだろうかという楽しみも相乗し、私は今とても気分が良い。例え周りに暑苦しい黒色ブレザー着用集団が(ひし)めいていて視覚的に体感温度が上昇しようが、むせ返るフェロモンのせいで頭にいつもお馴染みの手が置かれていようが、それに伴って陰口をバシバシ叩かれようが軽く見逃せるくらいには気分が良い。私の今の心の広さは太平洋並だ。是非とも菩薩(ぼさつ)と呼んでくれ。

 ____しかしそんな私でも一つだけ気になる視線があった。


「……」

「……」

「…………あー……キリュウ?」

「……」


 何なんだ。

 プスプスと視線が突き刺さり、気になって後ろを振り向く。すると何処か不機嫌そうなキリュウと目が合った。え、何故に不機嫌。

 話し掛けた私に反応を返すことなく今度は私の前髪を頭に置いていた手で拾ってサラリと梳き、そして若干目を細めて不機嫌の意を表す彼。……いや、だから何故。

 意味が分からないと首を傾げる私を幾分か見た彼は(おもむろ)に私の後頭部に手を伸ばし____バレッタを外した。


「?」


 カチリとバレッタが外れる音と共にまとめられていた髪がサラリと零れる。自分では確認することは叶わないが寝癖だらけの髪の毛はあちこち跳ねてさぞ個性的なヘアスタイルになっているだろう。

 キリュウが起こしたその突然の行動にポカーンと間抜け面を晒す私。そんな様子の私を気にすることもなく彼は大惨事になっている私の髪を手で梳いていく……いや、手で梳いたくらいじゃ直りませんよ、それ。

 直らなくてイライラするのではないかと思ったのだが、幾分か彼の眉間の皺が減った気がする……と思えばまた刻まれた。意味が分からない。

 よく彼を観察するとバレッタをジッと見つめているようだった。

 暑いし早く返してくれないかなと思っていたら、何故か彼は小さく舌打ちをして私の髪を手早くまとめ上げ、パチリと元の位置に留めた。……どうでもいいが器用だな。あちこち跳ねる自己主張の激しい髪に私は結構手間取ったというのに……何とも言い知れぬ敗北感を味わってしまった。もう何なのこの子は。一体全体何がしたいんだ。

 彼は無言のままぽふっと再度私の頭に手を置くが、不機嫌な様子は変わっていない。そして視線はまだバレッタに釘付けになって……釘付け…………はっ。まさか。


「……欲しいならタチバナさんに頼んであげ――」

「いらん」


 言い終わる前にスパッと告げられた。何だよ、遠慮すんなよ。パートナーな仲じゃないか。まぁキリュウがバレッタを付けてもアレだけどさ。

 私は口を尖らせ不満一杯な意を表したのまま、そういやサカキはどうしたと彼女に向き直る。私と目が合った彼女は頬を染めて一度視線を外し、次いでこちらをチラリチラリと伺うように見るという謎の行動を取ってきた。……おい、お前もどうしたよ。

 サッパリ訳が分からず顔を(しか)める私に彼女は怖ず怖ずと口を開いた。


「……あっ、えーと……あのっ、わっ、私、お邪魔よね?」


 何が?


 そう問う前に彼女は「ご、ごめんねっ!」と勝手に一人盛り上がった様子で何処かへ駆けていった。いや、え?何?え?

 不本意だが、今まで私の中で空気君と化していた鼻血垂れを説明求めて見てみるが、同じく少し頬を染めてサカキの後を追って行った。お前が頬を染めても全く以って可愛くない…………じゃなくて、ちゃんと説明してから消えろよ。


「……?」


 今気が付いたが周りも不自然な感じにザワザワとしている気がする。不審に思い、ぐるりと周りを見渡せば、黒学の生徒からレーザービームが繰り出されそうなくらい剣呑な目が一斉に私へと向けられていた。


 ____だから、一体何なんだ。




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