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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
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038  人生至上最強な天敵



 超大型の台風が去った後、私とキリュウは暫し無言のまま微動だにしなかった。……あぁ、空気が美味しい。凄く美味しい。あのドス黒は空気まで(よど)ませていたのだな。歩く災害か公害か……どちらにせよ悪影響を与える存在には変わりない。


「……あのドスぐ…………げふんげふん。……あー、パーツは天使っぽい人、キリュウとどういう関係?」


 ……いかん、思わずドス黒と言いかけてしまった。まだ奴とキリュウとの関係性が分からない今、いかにアレといっても(そし)るような言い方は避けた方が良いだろう。パーツは天使っぽい人、という言い回しが適しているのかどうかときかれれば悩む所ではあるが。

 まぁそれはともかく、私は落ち着いた所で先程から一番気になっていた事をキリュウに尋ねた。……そう口に出した所で、何やら浮気現場を目撃した彼女が彼氏を問い詰めているような感じになっている事に気が付いたが、まぁ気にしないでおこう。

 質問を聞いた彼は眉を潜めて珍しくも露骨に嫌そうな顔をした。奴について極力触れたくはないらしい。……いや、気持ちは物凄く分かる。しかし、奴がまたこちらと接触する事を仄めかした以上、相手の事を知っておいた方が良い。敵を知る事は大切なのだ。作戦だって立てやすくなる。出来れば私だってこの話に触れたくはないが対策を練っておきたいのだ。余裕など皆無である。

 さぁ吐けとばかりに彼をジーッ見ていると観念したのか、彼は溜め息を一つ吐き出してゆっくりと口を開いた。


「……以前、いきなり現れて攻撃を仕掛けられた事がある」


 ……え、それだけ?


 私が思わず(いぶか)しげな視線を向けているとキリュウは続けて補足説明をしてくれた。


「奴とは過去に一度戦った事がある……それだけだ。名前も先程初めて知った」


 知りたくもなかったがな、と付け足して呟く彼に嘘をついている様子は見られない。

 ……え、マジか。それだけであのドス黒は堂々と友達気取りをしていたのか。キリュウの話からすると恐らくそれは只の敵同士ではないのか……いや、どう考えても間柄はそれで正解だろう。

 どういった思考でそのような答えを導き出せるのだろうか…………奴の思考回路はかなり混線しているようだ。一度その頭をかち割って回線を繋ぎ直してもらえば良いと思う。いや、寧ろ中身ごと取り替えても良いだろう。手間も省けるし。一昔前のアンテナが頭から生えているごっついブラウン管テレビよろしく衝撃を与えれば良いのか?石……いや、(ぬる)いな。奴にぶつけるなら岩くらい質量がないと駄目か。


「……お前はらしくなかったな」

「ん?」


 奴の理解不能な頭の構造についてあれこれ考えているとキリュウが話し掛けてきた。私らしいとは何だろう?私は頭に疑問符を浮かべる。


「いつもなら軽く往なすだろう」

「あー……」


 キリュウが言っているのはいつも黒学の生徒達は軽く往なしているのに何故今回はそうしなかったのかという事であろう。

 確かに彼らには初実習の日から今日まで、魅惑の力を使われたり、クサい台詞やナンパな台詞、キザな台詞と様々なパターンのものを投げ付けられたりされたが全て3倍返しで返り討ちにしてきた。その私が今回、返り討ちの『か』の字も出せなかったのだ。キリュウが不思議に感じても仕方のない事だろう。

 私は少し思案した後、口を開いた。


「明確な目的のない奴は対処に困る」

「……目的?」

「うん。黒学の生徒はキリュウ関係でしょ。どいつもこいつも私がパートナーだからっていう嫉妬」


 そうなのだ。わんこ信者共はどいつもこいつもキリュウ大好きっ子なのである。パートナーだからというだけの理由で何度噛み付かれた事か。まぁ成績の足を引っ張っているからという理由もあるようだが……これは合意の上なので口出しされる(いわ)れはない。嫉妬など以っての外だ。

 よって私は噛み付いて来るわんこ共を心置きなく言葉や実力行使で黙らせる事が出来るのである。


「でもあのドス黒は違う。ちょっかい出される理由が分からない……愉快犯的なものなのかな。そういうタイプはどう対処すれば良いか分からなくなる」


 二人の間柄が敵だと分かったので私はもう気にせず奴の事をドス黒と口にする私。名前など最初から呼ぶつもりもないしこれで十分だ。


「あいつ程ではないけど地球で同じようなタイプの奴に絡まれた事があってね。あれは本気で参ったよ。……まぁ助けてくれる人がいたから良かったけど」


 そう、いたのだ。そんなツワモノが。


 その助けてくれていた人というのは____私の双子の片割れである姉である。

 私がそういった(やから)に絡まれていると、何処からともなく駆け付け、いつも助けてくれていた。今思えば彼女はかなり強かったと思う。うん、何ていうかアレだ…………中身がタチバナさんと相通ずる所があるのだ。それだけで察して欲しい。

 実は離れてしまった今でも私は彼女と夢の中でしばしば面会している。

 双子の為せる技なのかどうかはよく分からない。面会といっても逢瀬といったようなものではなく、彼女との小さい頃の思い出やらを夢で見るのだ。まぁたまに変なものもあるが。……彼女が殿で私が姫の時は本当にどうしようかと。

 まぁどんな内容であれ、週に2、3回は彼女と一緒にいる夢を見る。彼女と離されてしまった今、会わなくても大丈夫と言えば嘘になるがそこまで寂しくはない。それはその夢のお陰であろう。元々寝るのは好きだったが、こちらに来てからは彼女の夢が見られるという事で益々好きになったのだ。

 ……おっと、段々話が逸れてしまった。


「あと、基本的にタラシは拒絶反応が出る」


 思考を戻し、私は先程のものへ付け足した。

 これの良い例が鼻血垂れである。あいつはヘタレだから力技でいかせてもらったが。所詮鼻血垂れだしあんなものであろう。

 ……まぁそれはともかく、今まで挙げてきた苦手なタイプを全部まとめて兼ね備えているのがあのドス黒天使という訳だ。本当に相性が悪過ぎる。私にとってラスボスもいい所だ。


「……お前を助けていたという奴は?」


 思い出して顔を(しか)めているとキリュウが興味深そうに聞いてきた。

 彼が他人に興味を持つなんて珍しいなと思いつつ答える。


「姉だよ」

「……姉?兄弟がいるのか」


 その言葉にキョトンとする私。あれ?言ってなかったっけ?

 例のキマイラ事件の時に私は彼に地球の事から始まり、現在に至る経緯の全てを話したつもりだったが姉について伝え損ねていたようだ。

 この調子じゃ伝え損ねている事がまだありそうだが……そもそも何を伝えられていないのかが分からない。まぁ発覚したらその時に説明すれば良いだろう。

 私は取り敢えず今のキリュウの疑問に答える事にした。


「いるよ。私の片割れの姉」

「……双子か?」

「うん。依都(いと)っていうの」

「………………いと?」

「そそ、柊依都」


 そう私が答えると、キリュウは少し思案する様子を見せた後、「いと……」と私の姉の名前をもう一度呟き、難しい顔をして何か考え込んでいる。……何だ?うちの姉の名前がどうかしたのだろうか?


「……糸ラーメンではなかったのか」

「ん?何て?」

「…………いや、何でもない」


 声が小さ過ぎてうまく聞き取れなかった。何?らーめ?…………まさかラーメンか?ラーメンがどうした?

 やけにスッキリ顔で一人納得しているキリュウの様子に私は首を傾げる。

 彼の中で何が解決したのだろうか。

 先程の話を整理するとキーワードは恐らく『依都』、そして『ラーメン』……。


 ……。

 …………。


 考えた結果、僅か5秒で迷宮入りが確定した。

 我ながら正しい判断だと思う。




『糸ラーメン』については裏亜種の珍妙で不思議な死神(中)を参照(´・ω・`)

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