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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
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037  傍若無人な会話術



 奴はキリュウの名前を知っていた。そしてキリュウもそれに対して全く驚いた様子を見せなかった。

 つまり、それが意味する事は…………。


「……えーっと、キリュウ、こんな事いうのも何なんだけどね?…………友人は選んだ方がい――」

「赤の他人だ」


 私が皆まで言う前にキリュウは簡潔且つ絶対的な拒絶の言葉を()ってして私の話をぶった切ってきた。だよね、お姉さん安心したよ。


「他人だなんてヒドイなぁ。俺とキリュウの仲なのに」


 キリュウの反応にフフっと笑いを零しながらそう不満を零すドス黒天使。キリュウはというと、私が今まで見てきた中で一番というくらいの深くシワを眉間に刻んでいる。……どうやらドス黒天使の片想いらしい。

 しかし関係はどうあれ互いに顔見知りという事は変わらない。まぁキリュウの方は様子を見る限り不本意だとは思うけれども。


「俺はホヅミ。ねぇ、名前何ていうの?」


 ひいっ。

 色々思考を飛ばしていたらドス黒天使がいきなりひょいっと私の顔を覗き込んで名前を尋ねて来た。何やら自分の名前を名乗っていた様な気がするが……うん、聞かなかったことにしよう。名前なんて呼んでしまったら一気に奴との距離が短くなってしまう。それは回避しなければならない。

 まぁそれは置いておくとして、現在後ろへ下がりたいのだがすぐ背後にはキリュウがいるので叶わない。早く下がれよとばかりに必死に背中でグイグイとキリュウを押しまくる。するとすぐに意思を察してくれた彼がずれてくれたのでドス黒天使と少し距離を取ることに成功した。

 そんな私とキリュウの様子を何やら楽しそうに眺めながらニコニコと返答を待つドス黒天使。……とても名乗りたくない。一ミリたりとも奴との距離を縮めたくはないのだ。


「……スズキです」


 ……気が付けばそう答えていた。

 無意識下とはいえサラリと偽名を名乗ってしまったが罪悪感は微塵もない。だって心底呼ばれたくない。


「ふーん?スズキちゃん、ね」


 ドス黒天使は意味深にそう呟きながら笑顔を浮かべた。それは、一応黒さを隠しているそぶりの見えた今までの笑みとは違い、黒さを惜し気なく前面に押し出したようなそれだ。……全身に鳥肌が立った。やめてくれ。そろそろ私、チキンどころか河豚(ふぐ)にでもなるのではなかろうか。

 彼は目を細めて更に続ける。


「嘘だったら――」

「スズキ改めヒイラギと申します」


 私はドス黒天使の言葉を遮ってハキハキとした声で訂正を入れた。あの続きを絶対聞いてはいけない気がしたのだ。名前は止むを得ず(さら)してしまったがこれが最善策であろう。その証拠にドス黒天使が小さく舌打ちをするのが聞こえた。……危ねぇ。

 ふぅ、と安堵の溜め息を吐いていると奴は暫し思案した後、にっこり笑って口を開いた。


「んじゃ、ひぃちゃんね」

「……は?」


 思わず間抜け面で固まる私。

 …………コイツは今、何と……?


「ひぃちゃん」


 私の心を見透かしたようにもう一度繰り返す目の前の男。

 何だ、コイツも読心術スキルを取得済みなのか?…………いやいや、今はそんなことどうだって良い。

 ……呼び捨てを通り越していきなりあだ名だと?

 そんなフレンドリーな間柄になった覚えはない。


「……いや、ヒイラギですが」

「うん、だからひぃちゃん」

「……ヒイ――」

「ひぃちゃん」

「……………………」


 そうはさせるかと何度も訂正するが、奴は直す気は更々ないらしい。ニコニコと黒く微笑みながら尽く被せられてしまった。

 ……いや、聞けよ。お前、ホント聞けよ。耳が腐っているのなら二つも付いているその目で私の顔をよく見てみろ。きっと物凄く嫌そうな顔をしているはずだ。

 後ろを肩越しに振り向くと、キリュウはドス黒天使に向けていた視線を一瞬私の方に移したが、また奴を睨みつける作業に戻っていった。……それはあれですか。諦めろという事でしょうか。

 キリュウからの援護は望めないと踏んだ私は、油の切れたオモチャの様な動作でギギギと首を捩って視線をドス黒天使に戻した。


「まぁそう睨まないでよ」


 そう言いつつも終始ニコニコと黒い微笑みを浮かべているコイツは本当に良い性格をしている。

 私がその胡散臭気な様子を半目で見ていると、彼は「あちゃー」と呟きながら空を仰ぎ、片手で頭をワシワシ掻きだした。今度は何だ。


「…………見つかったかな?」


 ボソリとそう零す。

 その言葉に首を捻っていると彼は「もう少し話してたかったんだけどなぁ」と呟きながら頭を掻いていた腕を今度は横に払った。


「――――ッ」


 眩しッ!

 私は咄嗟に手を(かざ)して眩い光から目を庇った。

 目を細めて見てみると、彼が手を翳した先にポッカリと縦2メートル程の穴が空き、そこから強い光が漏れ出ている。

 ……何だあれ。


「今日は帰るね。また今度」


 奴はこの強い光に慣れているようで目を庇うそぶりも見せないまま、そう言い残して光の中に足を踏み入れていった。奴の身体がどんどん光に飲まれ、入りきったという所で一層光が強くなった。耐え切れなくなり、思わず目を瞑る。

 光が収まった後、チカチカする目を擦ってもう一度目の前を見た。


「……いない」


 ドス黒天使は消えていた。あれだけ散らばった羽根も見当たらない。

 キリュウを見ると渋い顔をして何やら考えている様子だった。

 ……あのドス黒、また今度とか言っていたな。

 …………。


 ____断固拒否する。




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