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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第二章 ◆
38/85

036  相反する白と黒



 一つだけ分かった事がある。


 先程からあった微かな違和感……私の第六感が切々と訴え続けている。

 最初は見た目が真逆だと感じたのだが……きっとそれだけではない。


 __中身も真逆だ。


 これはほぼ確定で良いと思う。キリュウが純粋とすれば彼は不純なのだ。絶対今、二重、三重と重ね着を通り越した、もこもこの厚着で猫を被っている……間違いない。

 そして恐らくコイツは私の最も苦手とするタイプだ。でなければ最初の悪寒や鳥肌、あと先程から頭のどこかでガンガンと鳴り響いている警報の説明がつかない。私の危機的状況回避能力がフル稼働しているのだ。これはただ事ではない。

 一見柔らかさを与える彼の笑みにドス黒さが今もチラリチラリと垣間見える。

 ……隠し切れてない、全く以って隠し切れてない。胡散臭くて堪らない。あの笑顔の下で何を考えているやら……いや、知りたくもないが。兎にも角にも禍々しい事この上ないのだ。

 私は一旦視線を外し、もう一度彼を見上げた。


「…………」


 関わるな、近づくな、全力で回避しろ。


 やはり私の脳は切実にそう訴え続けているのだが下手に動いてもまずそうだ。

 どうしたものかと私は頭上から左隣りへと視線を移した。そうだ、私には頼りになるパートナーがいる。彼に指示を仰ごう。

 先程は睨み付ける様に見上げていたキリュウの様子を伺__


「………………」


 ……うん、見なかったことにしようかな。

 私はそっと彼からも視線を外し、前を向いた。

 何か無茶苦茶殺気立っているのは気のせい……ではないだろう。上に気を取られていて気が付かなかったが、いつの間にか彼の周りの空気が氷点下を下回っていた。本日は気温の変化が著しい。しかもかなりの局地で。……あれほど敵視していた木陰の外に燦々(さんさん)と降り注ぐ強い日差しが今は恋しい。目の前にある筈の日当たりが心なしか遠く思える。

 初めから歓迎モードではなかったが悪化し過ぎてこちらにも悪影響を及ぼしている。……キリュウさん、寒いです。私、そろそろ凍ってしまいますが。


「――こんにちは」


 どちらを見る事も出来ず、死んだ魚のような目で押し寄せる吹雪に堪えていると上から声が降ってきた。発信源は勿論胡散臭くて堪らないドス黒天使である。

 耳に届いたものは高くもなく低くもないが____艶っぽい。つかエロい。そんな表現がピッタリな声。

 そこらの女子(おなご)がこの声を聞いたら黄色い声を上げて身悶えていそうだが、聞いてしまった私は鳥肌が再復活……勿論悪い意味で。誰かあいつの首に機械仕掛けの赤色蝶ネクタイをぶら下げて来てほしい。

 眉間にも盛大に皺が寄る。(ことごと)く私の苦手なタイプのようだ。この手合いには本気で関わりたくないというのに。

 隣を見ると同じく眉間に皺を深く刻んだキリュウがいた。もしかしなくとも彼も奴みたいなタイプが苦手なのかも知れない。同士を見つけて少しばかし安堵をする。


「……ちっス」


 心の支えが出来た所で挨拶に応えてみた。……何だか不良みたいな挨拶になってしまったが。挨拶は挨拶だ、うん大丈夫。

 ふと隣から視線を感じ、そちらを見ると恨めしそうに目を細めてこちらを見ているキリュウがいた。……いや、言いたい事は分かる。物凄く分かる。恐らく「何素直に応えている。関わるな、無視をしろ」的な事を言いたいのであろう。私だって好き好んでこんな得体の知れない相手と関わりたくなんてない。

 だがしかし、私は元日本人だ。日本の心を忘れた訳ではないのである。祖国では挨拶されたら返すのが礼儀。初対面で挨拶を無視すると何となく後ろめたいのだ。


「実習中?」


 ……にこやかに話し掛けられてしまった。

 隣を見ると、それ見たことかと言わんばかりに眉間のシワが深くなっている……うん、何て言うかごめん。私が悪かった。日本の心が、とか言ってる場合じゃなかった。猛省します。


「実習中?」

「……っ」


 キリュウに向けていた視線を急いで前へと戻す。

 私が応えない事に焦れたのか、奴が木の枝からフワリと降りてきて再度尋ねてきたのだ。腰を屈めて私の顔を覗き込んで来る。

 私は思わず横にズザッと飛び退いた。左に動いたので私の背中がキリュウの腕と衝突事故を起こす。すまん。


「……そうですけど?」


 これ以上パーソナルスペースに侵入されては堪らないと顔を引き攣らせながら渋々言葉を返す。落ち着け、落ち着け私。ここで突っ掛かったりしたら相手は付け上がるに決まっている。それは過去に嫌というくらい経験したではないか。その時は頼もしい助けがあったが、此処ではそれは望めない。自分で何とかするしかない。

 そんな私を見て奴は更に笑みを深くした。外見上甘い甘い……甘すぎて吐きそうなくらい甘ぁい笑み、だが私にはドス黒いとしか思えない笑みを万遍に浮かべる。

 ぅおぉおお、やめろ、鳥肌がががががぁああ。


「俺も実習なんだけど暇で暇で。一緒して良い?」


 え?やだよ?


 それを口にせずとも思い切り引き攣る私の口角。取り繕えてない事は自覚している。表情筋がもう限界だと悲鳴を上げているのだ。

 だから、だからね?言いたい事、解るよね?…………おい、小首なんか傾げてニコニコ顔で返事を待つな。敢えて空気読まないとかしなくて良いから。

 チラリと背後にいるキリュウを見ると拒絶のオーラを発している。援護射撃を要請しようと思ったのだが、そういやこれは私が()いた種であった。……同士、私、頑張るよ。自分の尻は自分で拭うよ。……自信は欠片もないけれども。

 私は意を決して負け戦に挑んだ。


「……あー、連れも何だか嫌そうなので他当たって下さい?」


 連れ『も』と言う事で、私も嫌だという事を遠まわしに告げる。

 何故か疑問形になっただとか、残り少ない気力を掻き集めて作った笑顔が相手には笑顔に見えていないだろう事とか、結局キリュウも巻き込む体制に持ち込んでいる事だとかはもう目を瞑って欲しい。これが私の勇姿だ。

 そんな私の言葉を聞いた彼は(おもむろ)にキリュウへと視線を移した。

 相手の意識が相棒へ移ったことに心の中で盛大にガッツポーズを取る。頑張れ、運命共同体。


「そうかな?そんなことないよね、キリュウ」

「消えろ」


 ____……ちょっ、今なんつった?


 驚きに目を見開いたまま私は2人を交互に見る。

 相変わらず黒い微笑みを浮かべたドス黒天使と射殺さんとばかりの鋭い視線を投げ付けるキリュウが対峙している。ホントに両極端だな____じゃなくて。


 ……何、キミら知り合いなの?




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