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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第一章 ◆
32/85

031  闇の支配からの開放

本日もどうぞ宜しくお願い致します。



「……どうした?」

「…………ぃ」


 ピクリとも動かない私を不審に思ったらしいキリュウが話しかけてきた。ボソリと言葉を返したがどうやらキリュウには届いていなかった様で、彼は再度「どうした」と問い掛けてくる。

 どうしただと?

 どうしたもこうしたもない。

 私は埋もれていた顔をガバッと勢いよく上げた。


「――――……ヤバいッ!キリュウ、もふもふっ!彼、超もふもふでその上サッラサラなのだよ!何この極上の毛並み!(たま)らんなっ!」

「……………………」


 もふもふに埋もれながらだらしない顔で頬を染め、興奮を(あら)わに振り返り大声を張り上げて感想を伝える私を彼は何処か呆れた様子で見下ろしている。だがそんなキリュウの態度などどうでも良い。今はこの幸せを堪能するだけである。

 止められない。止まらない。某菓子のキャッチフレーズが正に今の私の心境だ。もふもふ最高……ッ!

 そんな幸せ一杯、ご満悦で極上毛皮に埋もれる私をキマイラは首を目一杯振って剥ぎ取り作業に取り掛かっている。何やら必死な様子だが、こちらだってこの極上毛皮から離れたくなどない。私は彼の首に必死にしがみ付いた。絶対に放すものか……っ!


「――――ん?」


 必死にしがみついていたら何やら指先に毛皮以外のものが触れていることに気がついた。これはもしやと手を伸ばし、高級毛皮に深く埋め込まれていたそれをガッチリ掴んで引っこ抜く。

 ……これは____


「……羽根?」


 自分の手に目を遣ると、そこには黒い羽根が握られていた。キマイラにも翼はあるにはあるが、竜のような翼なので羽根はない。彼の背中から生えているそれはゴツゴツとした骨格と翼膜で出来ているものだ。となれば別の生き物のものということになるが、私はこの羽根に強い慨視感を覚えた。先程拾ったものとそっくり……しかし同時に違和感も覚える。何だ?


「――――あっ!」


 首を捻って考えていると手からスルッと毛皮が離れてしまった。

 キマイラに容赦なくブンブンと振り回され、流石にその力と遠心力に片手では勝てなかったのだ。


 私のもふもふがっ!!


 漫画なら間違いなく背景にスポーンと書かれただろう飛び具合で吹っ飛ばされてしまった。遠ざかる極上毛皮を名残惜しげに見詰める……などといった余裕は今の私にはない。


「――――ッ!!」


 本日二度目の恐怖が私を襲う。強い浮遊感に息が止まり、声にならない悲鳴を上げながら強く目を瞑った。瞼の裏に流れる走馬と……いやいやいやいや。まだ私は死にたくはない。


「――ぅわッ!?」


 後ろ向きに吹っ飛んでいた私の身体は突然何かにぶち当たり急停止した。軽い衝撃はあったが痛みはない。

 後から思えば現在制限解除状態で魔法が使えちゃう事だとか落下する前に体制を立て直さなきゃいけなかった事だとかあれこれ思い浮かぶのだが、恐怖によってそんなものは頭からすぽーんと抜けてしまっていた。もし、あのままだったらどうなっていたか分からないので本気で助かった……未だびっくりな速さで脈を打つ心臓に思わず手をやる。

 私が血の気のない顔をそろそろと上げると、そこには予想通り超絶美形の顔があった。眉間の皺というオプション付きで。

 彼は何処かに飛んでいきそうになった私を回収してくれたようだ。現在私は彼に後ろから二の腕を掴まれている何とも情けない恰好だが気にする余裕すらない。そしてその掴まれている二の腕がぶよぶよだとしても気に…………いや、やっぱ気にする。そういえば先ほどは腹を抱えられていたがそこにも無駄な脂肪が…………。彼には確実に私の乙女の悩みがバレたであろう。ダイエットしようにも飽き易い私は三日も継続しそうにない。彼は何も言わないのでもういっそそこには触れない方向でいこう、うん。


「あー……ただいま?」


 贅な肉が気になりプチ混乱の私は礼をすっ飛ばし、取り敢えずヘラッと笑って挨拶をしてしまった。……益々キリュウの眉間のそれが深くなる。完全に台詞を間違った。

 続けて本来最初に言うべきであった「ありがとう」という言葉を告げたがキリュウは渋い顔のまま一向に言葉を発さない。何だこの空気……母親の前で正座させられて、怒られるのを待っているような。気まず過ぎる。

 それ以外に何を言ったら良いのか分からず視線を逸らしてはははと笑う私。すると今まで黙って見下ろしていた彼から溜息が零れた。


「……何を遊んでいる」


 どうやら怒っているのではなく呆れているようだ。しかし私は決して遊んでいたわけではない。むしろ死にかけた。気分的には一回死んだ。


「遊んでないよ、ほら…………あれ?」

「……」


 私は力無く左手を持ち上げて戦利品をキリュウに見せようとしたのだが____先程まで手の中にあった羽根が消えていた。

 通行手形といい、羽根といい所構わずポンポンと消えていく……一体何だ。私が何をしたというのだ。


「ごめん、何かまた消えた。さっきまで黒い羽根持ってたんだけど……」

「黒い羽根……?」


 今は何もない左手をにぎにぎしながらそう言うとキリュウの眉間のシワが若干深くなった。黒い羽根が引っ掛かっているようだが……何故に?

 意味が分からず首を傾げていると難しい顔をしたままのキリュウが口を開いた。


「……多分悪魔の羽根だ」

「悪魔の羽根……」


 キリュウの言葉を聞いて、あぁやっぱり、と思う。

 私も羽根を引っこ抜いて見たときそうではないだろうかと考えた。私が拾ったキリュウの羽根とそっくりだったのだ。

 鸚鵡返しをした私にキリュウは「あぁ」と一言返し、まだ難しい顔をしたまま言葉を続ける。


「悪魔の羽根は魅了の力の塊……アレに触れたものは魅了の力を直に喰らう」

「……つまり、キマイラはあの羽根の持ち主の操り人形って事?」

「あぁ」


 なるほど。だから様子がおかしかったのか。

 そこでチラリとキマイラを見ると確かに様子が違って見えた。やんちゃっぷりは何処へやら、唸り声を発することも無ければ殺気も感じられない。彼はもう私にじゃれついて来ることはないだろう。

 これで思う存分もふもふさせてくれるだろうか。


「……お前はそれを素手で掴んで取ったのか」

「うん」


 そうか、とキリュウは呟き一度目を逸らして暫し思案した後また私に目を向けた。


「……すまなかった」

「へ?」


 予想もしなかった彼の謝罪に思わず間抜けな声が出た。




誤字・脱字などあれば報告して下さると有難いです (´・ω・`)

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