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死神亜種  作者: 羽月
◆ 第一章 ◆
29/85

028  蒼黒の異端者

本日もどうぞ宜しくお願い致します。



 淡々と言う私にキリュウは少し驚いた後、眉間に皺を寄せた。それを見るとサカキを思い出す。つい先程別れたばかりだというのに妙に懐かしい……でなくて。

 いや、だって巻き込むわけにはいかないだろう。通行手形を失くしたのは私だけだ。持っているなら帰れば良い。何もキリュウまで危険に晒される必要はないのである。


「……お前はどうするつもりだ」


 怪訝な顔でキリュウが問い掛けてくる。

 確かに私は今、武器が壊れてしまった上に魔法だって満足に使うことが出来ない。先程より格段に弱くなっている事だろう。

 だが今そんな事を言っている場合ではないのだ。


「私は何とかして逃げ回りながら此処で待ってる。だからキリュウは悪いけど戻って先生に連絡してくれないかな。そしたら通行手形の再発行なり何なりしてくれるでしょ」

「……」


 何とかしてって……無理だろ。

 細まったキリュウの目がそう私に告げている。わぁ、私信用されてないな。

 といっても、私も今のままではどうなるかは分からないと思っているので否定はしないが。しかし今はそれしか方法が思い付かない。私は何とかして逃げ回りながら待つしかないのだ。どれくらい時間がかかるか分からないが、出来るだけ早く迎えに来て欲しい。……いや、もう、ほんと、切実に。

 是非ともマッハでよろしくお願い致します。


「ほら――」


 早く。

 そう付け足そうとした所でキリュウの周りの空気が変わったことに気が付き、私は思わず言葉を飲み込んでしまった。今まで穏やかだったそれが、徐々に張り詰めてピリピリとしたものへと変わっていく。一体どうしたのだろうか。


「……キリュウ?」


 彼に声を掛けてみたがピリピリした空気は変わらない。……何だか嫌な予感がする。私は無意識に眉を寄せた。

 そんな私を気にすることもなく、キリュウは何でもないかのように言葉を紡いだ。


「……そんな面倒なことは必要ない。……――――要はアイツを殺せば良いだけだ」


 私は目を見開いた。

 酷く、酷く冷たい声。キリュウのこんな声は初めて聞いた。

 まだ彼とは会ったばかりであるのにこう言うのもおかしいかもしれないが、彼がこんな声を発するとは思わなかったのだ。今までは温かいとは言い難いが冷たくもなかった……彼の声に安心すら覚えたこともあったというのに。

 私が驚き固まっているとキリュウは空間に闇を出現させ、片手をそこに突っ込んだ。その闇の先には何も無いんだろうなと何となしに考えながらただただその動作を眺める。キリュウが闇からゆっくり手を引き抜くとそこには得物が握られていた。

 深い闇色のダガーナイフ。

 手に握られているそれが彼の武器なのだろう。死神の鎌に比べたら随分と小振りではあるが、何だか名刀の様な独自の雰囲気を纏っている。……断言しても良い。これ、絶対に切れ味抜群だ。

 きっと触れるだけで切れてしまう。某三代目怪盗映画に出てくる名刀のように鉄をもスパスパと切ってしまう……そんな気がした。

 キリュウは得物の感触を確かめるように危な気なく数回クルクルと手で回した後、パシッと音を立てて逆手に持ち替えた。

 ……ヤバイ。キリュウは本気でキマイラを()る気だ。恐らく彼はそれが出来るくらい強いのだろう。


「……捕まってろ」

「ッ!!やめっ――――ッ!!」


 慌てて彼にストップをかけようとしのだが、私の制止の言葉は最後まで言い切れずに途切れてしまった。キリュウが私を抱えたまま物凄いスピードでキマイラに突っ込んで行ったのだ。強い浮遊感が私を襲う。ジェットコースターがかなり苦手な私は息が詰まって言葉を発する事が出来ない。悲鳴なんてものは余裕がある奴が上げるものである。あまりの恐怖に泣きそうになる私。キリュウ、てめっ、後で覚えてろ。

 私は歯を食いしばり、ぶっ飛びそうな思考を何とか再開させる。こんな状態では、制止の声なんて掛けられない。口を開いた瞬間にそこから魂が飛んでいく自信がある。力ずくで止めようにも圧倒的に力が及ばない彼に私が何かしても無意味だ。

 このままではあのキマイラが殺されてしまう。それはダメだ。きっとあのキマイラは何も悪くない。何か事情があるはずなのだ。

 ……あと、何となくキリュウには血を流させてはいけない気がした。


 止めなければ。

 何としてでも。

 今、此処にいる、私が。


「……~~ッ!」


 あー、もー、くそっ!

 私は自分の首に着けているチョーカーに手を掛けた。黒い帯に一つだけ付いている小さな丸い透明の石がころりと揺れる。

 迷っている時間はない。

 ……タチバナさん、ごめんなさい。


 ______約束、破りますよ。


 私は力任せにそれを引き千切った。

 その瞬間、眩い光が辺りを包む。


「――ッ!?」


 光が収まると同時にガキンッと固いもの同士がぶつかるような音が響き渡った。

 私の目の前には驚いて目を見開き固まっているキリュウ、後ろを振り返るとグルグルと唸るキマイラがいた。キマイラが無事なことを確かめた私はふぅ、と安堵の溜息をつく。どうやらギリギリ間に合ったようだ。


「…………ヒイラギ……お前は……」


 ____一体、何者だ。

 言外にキリュウがそう問い(ただ)してくる。

 ……まあそうもなるだろう。私は思わずはははと苦笑した。

 私とキリュウの間には闇色のダガーナイフともう一つ。闇色の得物と交差し、それをしっかりと受け止めている無色透明の鎌があった。

 そしてキリュウの視線の先……私の髪と目の色彩はいつもの明るい茶色ではない。

 彼の瞳に映っている色は____


 ____闇のような黒と深い湖のような蒼。




誤字・脱字などあれば報告して下さると有難いです (´・ω・`)

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