027 粗悪品という名の命綱
本日もどうぞ宜しくお願い致します。
バサバサと羽ばたく見事な闇色の翼を見ながら、そういや彼は悪魔だったなと今更ながらに思い出した。悪魔ならば勿論翼が生えている訳で。そして立派な翼があるならば勿論飛べるという訳で……。
私はさも不満といわんばかりに眉根を寄せる。
「ずるい。それ寄越せ」
ズビシッと翼を指差し、しかめっ面で私が不満を零した。ずるい。ずる過ぎる。私が地上でちまちま頑張って逃げているというのに、キリュウはその翼でいとも簡単にフワリと浮いて回避できるのだ。代われ。翼があるならお前が標的になれ。
その不満たらたらな私の様子を見たキリュウは何故か少し驚いた様子だったが、すぐ真顔になり、「無理だ」と一言だけ言った。
私はチッと舌打ちをする。やっぱり取り外し不可能だったようだ。アレはマジで背中から生えているらしい。私も気合いを入れればにょきっと生えてくるだろうか……こっそり背中に力を入れて頑張ってみたが生える気配は微塵もない。
因みに彼等が背中に力を入れて翼を出現させるかどうかは謎だ。やってみたのは何となくそうすれば生えてくる気がしたからである。無理だったが。
私も魔法か何かで飛べたらもっと楽なのだが……。他の生徒ならば風魔法かなんかを上手く使用し、飛行も可能ではないだろう。しかし、落ちこぼれの私には無理な所業だ。やったとしてもコントロールが上手く出来ず何処かへ吹っ飛ばされるのがオチである。
そうやって馬鹿な事や考え事をしているうちにキマイラの炎のブレス第二弾が放たれていた。いかんいかん、一瞬キマイラの存在を忘れていた。
私は先程と同じように鎌鼬でぶった切ろうと再度風属性の魔力を纏わせた鎌を構えた____が。
「あ」
……何てこった。
構えた鎌はメキッと嫌な音を立てて折れてしまった。
刃元から見事にポッキリいってしまったそれは無情にも地面に突き刺さる。
……前々から思っていたが、やはりこの鎌は脆くなかろうか。下ろしたばかりにも関わらず途中で壊れる武器とか……大問題じゃなかろうか。
実は私、実技などでこれを使用する度にぶっ壊している。半ば使い捨て商品だ。いつもはもう少し持ち堪えてくれるのだがキマイラのブレスが効いたのだろう。予想より早く使い物にならなくなってしまった。この鎌は根性ってものが足りない。腑抜けた鎌なのである。
まぁ折れてしまったものは仕方がない。……そんなことよりヤバくないか?
視線を戻すと迫り来るブレスが容赦なくこちらへ向かってくるのが見える。
……ハッ!う、うさぎさんっ!うさぎさんがっ!
私はもふもふ至上主義を掲げながらうさぎさんを拾い上げ、またもや遠くへぽーいと投げた。「にゃー」と鳴きながら綺麗な放物線を描く毛玉を見送る。ごめんねっ!
鎌のない私が風魔法を使っても所詮は扇風機の強である。キマイラのブレスに敵うはずがない。
私はギュッと目を瞑った。
「――――ッ……?」
覚悟したのだが炎が私を撫でることはなかった。
私を襲ったのは想像した熱さではなく腹部への圧力と軽い浮遊感。何故か足は地についていない…………浮いているみたいだ。
そろりと目を開けると先程いた場所が見下ろせた。腹部には腕。視線を上げると予想通りキリュウが私を見下ろしていた。……眉間に若干皺が寄っている。
「……死ぬ気か」
「……すみません。そんでもってありがとうございます」
全面的に私が悪いので素直に謝った。お礼も忘れずに言う。
それにしても彼には助けられてばっかりだ。……いや、今まで私が戦っている間彼は傍観に回っていたのだし、これくらいは当たり前と考えるべきだろうか?うーん。
複雑な表情を浮かべながら今度は腹に回っている腕を見る……全体重がかかって地味に苦しい。今回は肩でなく小脇に抱えられている。相変わらずの荷物扱いだ。まぁお姫様抱っこよりはマシだが。……また想像してしまい私はげんなりとした。
「……で、どうする」
「うーん」
キリュウの話によればキマイラは普段大人しいらしい。それが今、敵意を剥き出しにして襲い掛かってきている。……私にだけ。
私はキリュウに抱えられたままキマイラをジーッと見下ろした。……出来ればもふもふさせて欲しい。あのでっかいもふもふの身体に埋もれたい。だがこの調子じゃ叶いそうもない。何だか嫌われているっぽいし。……あ、自分で言ってて何か悲しくなってきた。黒学の生徒に嫌われようが嫉まれようがどうでも良い私だが、もふもふに嫌われてしまうと心が痛む。
何もしていないのに嫌われるとか……それとも何か理由があるのだろうか?しかしそれがさっぱり分からない。
先程のキリュウの質問に答えると、逃げるか倒すかなのだが……倒すとか私には無理だ。力云々の前にもふもふに手を上げるなんて出来っこない。そんなことしたら自分を自分が許せない。
かといって通行手形がない今、簡単には逃げられない。……そういえばキリュウは通行手形を持っているのだろうか。
「キリュウ、通行手形持ってる?」
私がそう尋ねるとキリュウは「あぁ」と応え、内ポケットを探りキリュウの名前がバッチリ書かれた通行手形を見せてきた。
自分が帰れないとばかり焦ってよく考えていなかったが、キリュウは帰ることが出来るのか。
何だ、そうか。
一人うんうんと納得して私は一言キリュウに言った。
「先、帰りなよ」
予想もしていなかった台詞だったのかキリュウが驚いた……気がした。
……表情筋をもっと鍛えると良いと思う。
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