024 漆黒の森に住まう魔物
※ 少しばかしグロテクスな敵が出て来ます。
本日もどうぞ宜しくお願い致します。
「わわっ」
キリュウの思いがけない乙女な行動に思わず目が釘付けになってしまっていた。そんな私に向かってゾンビ犬は口から勢いよく火の玉を吐き出してくる。ちょ、森が焼ける。火事になるって。
私は咄嗟に鎌の刀の部分で受け止める。森が炎上してしまったら私も危ないし、何よりもふもふうさぎさんが危ない。それだけは頂けないのである。
慌てて火の玉を受けたは良いが、それが刃の部分に触れた瞬間飛散し、周りにパラパラと降り注いでしまった。四方八方に飛び散ったそれらを全部受けられそうにない。ヤバい。着火してしまう。
あんなにもふもふしているのだ。火事になってしまったらそのふわふわで燃えやすそうな毛皮を身に纏っているうさぎさんが逃げるのは困難だろう。私は火事を阻止するため、水をぶっかけようと魔力を練り上げた。
__しかし、それを放つことはなかった。
「……あれ?」
ここは緑が沢山、というより緑しかない。枯れた葉っぱなども散っていたので火の粉が触れればあっという間に炎上してしまうと思ったのだが……。
燃えていない。何も燃えてはいない。
確かに火の粉は草や木に降りかかったはずなのに触れた瞬間弾くように消えてしまったのだ。何だこれ。
「……漆黒の森」
「ん?何?」
キリュウがポツリと言葉を零す。お花摘みはもう堪能したのだろうか。
多分今彼が言った漆黒の森とは此処の事だろう。
「漆黒の森では木や草が燃えることはない」
「へぇ」
「……知らないのか?」
うん、全然。
私は尚も飛び掛かってくるゾンビ犬を避けながらキョトンとした顔でこくりと頷いた。それを見たキリュウは眉根を寄せる。
え、何?そんな有名な場所なのだろうか?日本でいう琵琶湖とかそういった感じの観光地?
「……これを見ろ」
私が首を捻っているとキリュウは自分の右手に持っているものを見せてきた。
彼の手には小さい百合みたいな真っ黒い花が握られている。先程摘んでいたものだろう。
言われた通りそれをジーッと見つめる。勿論その間にもゾンビ犬は飛び掛かってくるのでそれをかわしながら。
いくら見てもただの花。それが何なんだというのだろうか。
それ見たまま何も言わない私の様子にキリュウは微かに眉間に皺を寄せる。いや、だから何。
「……この花は此処にしか咲かない貴重な花だ。魔力を吸い取り、そしてその量、質によって色が変わる。因みに黒は魔族、赤は悪魔、青は天使、白は魔力を吸い取る前の状態だ。一度染まれば色は変わらない」
「へぇ」
先程、キリュウはお花摘みをして遊んでいたとばかり思っていたが、勘違いだったのか。どうやら彼は周りを観察して現在地を調べてくれていたようだ。……疑ってスマン。
キリュウの話を聞く一方で、私は飛び掛かってきたゾンビ犬の鼻っ面に水属性の魔力を纏わせた鎌の根本を叩き込んでやった。ゾンビ犬はキャンキャン鳴きながら前足で鼻を仕切りに掻いている。火属性の彼は予想通り反対の属性である水が苦手なようだが……。
「うわぁ……」
思わず顔が引きつる私。叩き込んだ鎌には想像通り涎だか血だか判別不能なものがべっとりと付着していたからだ。ドロドロと鎌を伝い地面に垂れている。……汚い。
鎌を振るたびにきっとそこらに飛び散ってしまう。そのうち自分にも…………ひぃっ。
それは勘弁と私は急いで水魔法を発動し、それがベッタリ付いた鎌を洗い流した。綺麗になった鎌を眺めて一人うんうんと満足する。
キリュウはというと手伝う気は更々ないのか、ゾンビ犬には目もくれない。おま、手伝えよ。
私が恨みがましい目で見ても気にせず彼は口を開く。
「……これは漆黒。人間の間では高価格で取引されていると聞く。何故だか分かるか?」
そう言いながらキリュウは花をペイッと捨てた。え、ちょ、今高価格とか何とか言わなかったか?いくらくらいするのか想像つかないがそんな扱いで良いのか?なぁ、良いのか?
貧乏性な私には花が気になって仕方ない。あれは札束を捨てたようなものではなかろうか?そんな真似私には絶対出来ない。
しかし何故かと言われても分からない。真っ黒なただの花だ。栽培が難しいのだろうか?
私が首を傾げているとキリュウは話を続けた。
「採取が困難だからだ」
困難?
見る限り普通のこの花を摘むのが?
先程キリュウが摘んだときも楽に摘んでいた。彼はそのとき特に何かをしたわけではない。花自体も毒など特別害があるわけではなさそうだ。本当にただの花なのだろう。
そういやゾンビ犬がじゃれついて来なくなった。不思議に思って見てみると何だか怯えた様子でジリジリと後退し、そのまま踵を返して逃げてしまった。急にどうしたのだろうか?
キリュウは気にするでもなく更に言葉を続ける。
「この花の色は魔力が強ければ強いほど色が濃くなる。……つまり」
キリュウはそこで言葉を切って私の後ろを見据えた。
__直後、何か羽ばたく音と共に突風が吹き、私の髪を舞い上げた。次いで木々が薙ぎ倒される轟音が響く。何か物凄く大きな生き物が降り立ったようだ。
キリュウは私の背後にいるそれを少し目を細めて見遣る。
「――この近くに強い魔力を持った奴がいるということだ。……因みにこれは周知の事実だ」
私は突然出てきたそいつを振り返って見上げた。
……あぁ、うん、なるほど。
理解した。
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