021 万年最下位のタイトル保持者
本日もどうぞ宜しくお願い致します。
先程までちらほら私語が交わされていたのだが、今では私が投下した衝撃の事実に私を中心とする周りだけシーンと静まっている。
あははと何でもない事のように笑う私を見るのは呆れ切った様子のサカキと今ではもう表情を読み取ることは出来ない真顔のキリュウ、驚きすぎて間抜けな面を晒している鼻血垂れ、そして私達の会話が聞こえていた周りの生徒達。周りの生徒に関しては、黒学の生徒は信じられないものを見る目を、死学の生徒は哀れむような目を私に向けている。私のこの出来の悪さは筆記テストで毎回最下位のポジションを陣取っている事と共に死学の生徒達にはかなり有名な話である。まぁテストについては筆記だけでなく実技も最下位なのだが。……今更だが私、かなり出来の悪い落ちこぼれ問題児だな。
「……はぁ!?マジかよ!?」
「ホントよ。魔力は有るようなんだけどね……」
静寂を破ったのは我に返った鼻血野郎だった。それに対し律儀に答えるサカキ。サカキ、無視して良いんだよ。そんな奴。そしてそんな奴相手に頬を染めるでない。
鼻血垂れの言葉をきっかけにザワザワと周りが騒ぐ。聞いていた生徒から聞いていない生徒へとあっという間に話が広がったようだ。あちらこちらから様々な視線が注がれて鬱陶しい事この上ない。私はモノクロ調の観賞用動物様ではないというのに。
まぁ彼等が驚くにも無理はないのだけれども。
「……前代未聞だな」
「うん。死学始まって以来らしいよ」
キリュウの言葉にあっけらかんと返す私。なんと私みたいな奴は今までいなかったそうだ。どんなに魔力が小さかろうがコントロールが下手だろうか鎌を生成出来なかった生徒はいなかったと以前聞いた事がある。
何度やっても出来ない私にイズミ先生は頭を抱え、苦肉の策でこの鎌の使用許可を出してくれた。これは少し特殊な鎌で魔力を注いでも多少持ち堪えるように出来ている。まぁやはりというか原料が金属であるので魔力で作られた鎌と比べるとかなり脆い。でも何も無いよりはマシ。横降りの雨の中、傘をさすようなものである。
またもやずり落ちてくる鎌を担ぎ直す私を何故か探るような目で見てくるキリュウ。確かに前代未聞なら信じられないかもしれないが……疑っているのだろうか?
「……今できるか?」
うむ、バッチリ疑っていたようだ。
まぁ仕方ないか。
私は「いいよ」と軽く返事をし、担いでいた鎌を地面にドスッと突き刺した。そして空いた両手をキリュウに向かって突き出す。
やり方は実に簡単。ただイメージするだけである。
私は一つ深呼吸をし、魔力を手の平に集めるイメージを浮かべた。すると次第に手の周りが淡く光り出す。……ここまでは順調。いつも通りだ。問題は次の段階である。
私は慎重にその魔力を固め、鎌の形に形成していく。光がぐにゃぐにゃとしながらもゆっくりと鎌の形に変わっていく…………が、もう少しの所でそれは飛散し、パラパラと光が散っていった。勿論私の手の中に鎌は存在していない。見事に失敗である。
「ほらね」
「……」
私が手をぷらぷらさせながらキリュウに見せると彼は目を細めてそれを見た。そして、何か考える仕草を取る。目の前でやったというのにまだ疑うか。信じられないだろうが本当に出来ないものは出来ない。
「何度やっても固める段階で飛散しちゃうんだよね。そもそも魔法自体あんま使えないみたいだし」
「他人事みたいに言ってる場合じゃないでしょうが」
私のやる気の無い言葉にすかさずサカキの説教が飛ぶ。私は「はいはい、頑張りますよー」と適当に返し、それをサラッと流した。いつもの事である。
「……戦えるのか?」
訝しげにキリュウが私に問い掛けてくる。彼が言っているのは魔物の事だろう。
この世界には死神、悪魔、天使の他に魔物というものも存在している。現在私たちがいる此処は人間の領域から隔離された死神の領域だ。同じイグラントに存在するのだが人間が住む大陸から海を跨いでかなり離れた所に存在する結構デカイ大陸なのである。魔法で姿を隠してあるので人間に発見されることはまず無い。結界も張り巡らしてあるので魔物も侵入不可能だ。
そんなこんなで死神の領域に魔物は存在しないが一歩外に出ればうじゃうじゃとそれらがいる。魔物は魔力を持った獣のような存在で、気性が荒いものは誰彼構わず襲い掛かってくる。だから人間の領域に行くには戦闘が余儀なくされるのだ。
因みに悪魔と魔物は違う種族だ。魔物は獣型が殆どで理性がほぼ無く、本能のままに生きる存在なのである。稀に魔力の高い魔物は理性を持ち、人型にもなれるらしいが。
そんな場所へ行こうというのにパートナーである私はというとこの有様。確かに足手まといになるかもしれないと心配になるだろう。
「あー、大丈夫。足は引っ張らないようにするから」
「……」
訝しげな視線は変わらず私に注がれている。うーん、信用無いなぁ。まぁ今日会ったばかりで信用もクソもないのだが。
「……あの」
まぁ別に良いかと思い始めていたら突然サカキがキリュウに話し掛けた。彼女を見ると、まるで今から告白しますといわんばかりに顔が真っ赤だった。手が細かくカタカタと震えている。加護欲をそそりにそそるその様は何だか知らんがついつい応援をしたくなってしまう。
頑張れサカキ。負けるなサカキ。
私は心の中で彼女にエールを送った。
サカキは意を決した様に引き結んでいた口を開く。
「ひ、ヒイラギは大丈夫です。か、彼女、結構強いですから……心配は要らないかと……」
彼女の雰囲気からガチで告白かと思ったのに、まさかの私へのフォローだった。
デレた。サカキがデレた。顔を真っ赤に染めながら小さく話す彼女に思わずニヤついた私を誰が責められようか。まぁ顔が赤いのはキリュウが原因だろうけれども。
サカキの気遣いがとても嬉しい。
「らしいよ?」
私は笑ってキリュウにそう言った。
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