020 トレードマークは赤い帽子
本日もどうぞ宜しくお願い致します (´・ω・`)
現在時刻は12時55分。
私とキリュウは時間ピッタリに集合場所へと到着し、既に列を成している生徒たちの最後尾に並んだ。走るどころか歩いてすらいない。ワープしてきたのだ。お蔭様で 私は残りの時間を全て昼食に回すことが出来た。空になった弁当箱はというと出してくれた時と同様キリュウが再び元あった鞄の中へ返してくれた。渡した瞬間フッと消える様子はマジックとしか言いようがない。思わず歓声を上げて拍手まで送ってしまった。マジ便利過ぎる。
キリュウが言うにはこれが空間魔法というものらしい。空間を切ったり繋げたりすることが出来る超便利魔法だ。空間魔法自体はそれしか出来ないが、応用次第で昨日の保健室のように空間を歪める事も出来れば、先程の弁当のように遠くの物を取ったり自分自身がワープすることも出来る。位置を特定しなければならないため、知っている場所でないと失敗してしまうらしいが。
この魔法は悪魔と天使にしか使えないと講堂でキリュウは言っていた。惜しい。実に惜しい。それが使えれば朝もっと惰眠を貪れるというのに。
因みに死神が使える魔法は、光と闇を除く火、水、雷、地などの自然魔法だ。光は天使、闇は悪魔しか扱うことは出来ない。
まとめると、死神は火、水、雷、地など光と闇を除く自然魔法を、悪魔は闇と空間魔法を、天使は光と空間魔法を扱う事が出来る。
死神が扱える自然魔法は火や風などを起こすことができる。小さいものであれば薪など生活面の補助として、大きいものであれば攻撃や防御に使えるとても便利なものだ。……私は空間魔法の方が断然良かったが。
あと魔法と言えるかは分からないが死神特有の力が1つだけある。それが転魂である。狩った魂を転生させる力だ。転魂は魂が弱り切っている生き物を死神が鎌でぶった切るだけで発動する。切るといっても切れるのは肉体と魂の繋ぎ目なので身体に傷が付く事はない。この方法以外で他界した生き物は転生することはニ度とない。
また、余談ではあるが死神の戦闘スタイルは魔法の他に定番の鎌を使う。死神の鎌といえば身の丈程ある金属製の巨大なものを思い浮かべると思うが私たちの使うものはそれとは少し違う。
確かに大きさは身の丈程あるのだが、原料は金属でなく魔力なのだ。基本、火属性が得意な者は火属性、水属性が得意な者は水属性、とまぁとにかく自分が得意な属性の魔力をぎゅっぎゅと固めて鎌を生成する。鎌の見た目は属性に伴い、燃えていたり水で出来ていたりと何属性か分かりやすい。鎌の強度は魔力が大きければ大きいほど上がり、そしてコントロール出来れば出来るほど体感的な鎌の重さは軽くなるので扱いやすくなる。自分が得意な属性で生成する理由はここにある。
同じ攻撃力の武器だとしても扱えなければ意味がない。下手をすれば鎌を生成したは良いが重過ぎて持つ事が出来ない、最悪生成する事すら出来ないということも有り得るのだ。
勿論鎌は魔力で作るので出し入れ自由、手ぶらで移動できてとても便利……なのだが。
「皆さん、揃いましたね。まずは……ヒイラギ、来なさい」
「へ?……あぁ」
イズミ先生にいきなり名前を呼ばれ、間抜けな声を発しながら顔を上げて彼女の方を見る。何事かと思ったが、視界にあるものを認め自分が何故呼ばれたのか瞬時に把握した。
私は「はーい」とやる気のない返事を返し、生徒の間を「ちょっとごめんよ」と言いながら縫い進む。そんな私をキリュウは無言で見送っていた。
途中殺気をそこかしこから感じたが気にせず一歩一歩前へと足を運んだ。何人か私の足を引っ掛けて転ばせようとする輩がいたが、私はよいしょとそれらをかわし、そのお行儀が悪い足を逆に思いっ切り踏ん付けてやった。オマケとばかりに捻りも加えて。
その度に「う…ッ!」やら「い…ッ!」やら悶絶する声が上がるが自業自得である。わんこの躾に手を抜いてはいけない。どちらが上かハッキリさせることが大事なのである。しかし、どいつもこいつも無駄に足が長い……躾の際に少々強く踏んでしまったのは御愛嬌だ、うん。
赤い帽子を被った中年太りの某髭オヤジが茶色い最弱の敵を踏み潰していくかの如く前へ進んで行く。脳内では「トゥーン」というSE付きだ……あぁ、BGMまで流れてきた。ててってーててーてっ、てんっ。
懐かしみながら躾をしているうちに先生の前まで到達してしまった。結局奴らは足を引っ掛けようとする以外何もして来なかった。つまらん奴らだ。
私がイズミ先生の前に立つと彼女は眉根を少し寄せ、持っているものを私に渡した。
「……無理はしないように」
「ありがとうございます」
私がイズミ先生から受け取ったもの。それは身の丈程もある金属製の鎌だった。
受け取った私は礼を告げそのままそれをよっこいしょと肩に担ぎ、踵を返してキリュウの元へ足を進める。途中感じる視線は殺意から好奇のものとなっていたがスルーした。行きと違い、帰りは先程の躾の効果で噛み付いてくるおバカなわんこはいない。
「……ヒイラギ、まだ出来なかったの?」
「うん」
戻るとそこにはいつの間にか移動してきたサカキがいた。……ついで鼻血垂れもくっついているが視界に入れはしない。私の中で奴の存在を抹消した。
片手で顔を覆い溜息混じりで聞いてくるサカキに肯定の返事を返すと彼女はより一層深い溜息を吐き出す。いや、だって出来ないものは仕方ないではないか。
「……それは?」
サカキと私のやり取りを見ていたキリュウが尋ねてくる。視線は私が持っている金属製の鎌に釘付けだ。……これ結構重いんだよ。
ズルズルとずり落ちそうになるそれを私は担ぎ直しながら答えた。
「私専用武器。私、鎌を生成出来ないんだよね。魔力で」
キリュウが物凄く驚いた表情をした……気がした。
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