018 真相解明に伴う無罪放免
本日もどうぞ宜しくお願い致します。
キリュウの肩に担がれ2人共無言のままユサユサ揺られ続けている私。後どれくらいで着くのだろうか。
私の腹にキリュウの肩が食い込んで結構苦しいわけだが今はそんなことを気にしている場合ではない。一度は諦めたがやはりこの曝しものになっている現状を打破しなければ__
__そう考えているうちに到着してしまった。
我が2ーC教室から講堂までのこの道程は兼ね兼ね長いと思っていたが、今日ほど早く着いてほしいと思ったことはなかった。まぁ彼の存在感と長い足の効力で思ったよりかなり早く目的地に着いたわけだが。
講堂にはちらほら着席している生徒たちがいた。そこへ足を踏み入れた瞬間彼らから殺意と好奇の視線が向けられ私に突き刺さる。私の身体はもう穴だらけだ。蜂の巣状態だ。……何かもうそれらの視線にはこの短時間で慣れてしまった。
キリュウは講堂に入ると入り口から反対に位置する一番後ろの席に私を下ろした。次いで自らも私の隣へ座る。
やっと足を地に付けることが出来た。私は担がれた事によって地味にダメージを受けた腹を摩りながら安堵の溜息を吐く。頭に上っていた血が下がり暫しボケーっとしていた。
キリュウと出会ってからの二日、とても濃い時間を過ごしている気がする。まだ2日なのに……これからの3年間が物凄く長く思えた。
フェロモン酔いに抱きまくら事件。あれはやらかしてしまったなと思ったが彼は気にしていないのだろうか。……できれば記憶から消し去って欲しい。これからもどんどん問題は増えていくのだろうか?まさかの夢遊病説まで上がってしまったし。……夢遊病?
そこでふと思い付いた。保健室の謎。あれはキリュウに聞けば解決するのではなかろうか。何せ彼も保健室にいたのだ。私が寝ているとき私がどうしていたのか尋ねれば良い。
「キリュウ」
「ヒイラギ」
それだ、と意気込んで尋ねようと彼を呼んだのだが同時に彼も私を呼んだ。変な沈黙が二人の間に流れる。こういう空気って妙に気まずい。
「……お先どうぞ」
やはり私は慎み深き日本人。保健室の事は物凄く気になるが発言権を彼に譲ることにした。
彼は私から発言権を渡され先に私へ質問を投げ掛ける。
「……昨日何故あの場所に来れた?」
あの場所とは保健室の事だろうか?どうやら彼は私と同じく保健室の事で気になっていることがあるようだ。……それにしても『来れた』とはどういう意味だろうか?私はここの生徒だ。しかも2年生。よっぽどの方向音痴でなければ単純な造りのこの校舎で迷うはずがない。
私がどう答えていいものか分からず首を傾げていると彼は私にちゃんと通じていないことが分かったのか、キリュウが補足をする。
「あれは黒学の保健室だ」
「……え?」
黒学の?
どういうことだ。
全く意味が分からない。混乱する私を他所に彼の説明は続く。
「昨日俺がここの保健室と黒学の保健室の空間を繋げた。入っても俺以外は普段通りここの保健室に着くよう細工をして、だ。俺と同じく空間魔法を使い、更に仕掛けた罠を潜らなければ黒学の保健室へ来ることはできなかったはずだった。……だがお前は何でもないかのように黒学の方に来た」
わぁ、凄ぇ。キリュウがいっぱい喋っちゃってる。ちょっと感動……じゃなくて。
なんと。
驚きの真実が判明した。
昨日の保健室での出来事を思い出してみる。そういや彼は『何故ここにいる』と私に言っていた。あの質問は入れるはずのない場所に何故私がいるのかという意味だったらしい。
あの時は死学の保健室だと信じて疑わなかった、というより別の部屋だとは考えもしなかった。知らぬ間に黒学の保健室に飛ばされていたのか。ということはあの素敵寝具は黒学の……。
ガックリ肩を落とす私を見つめたままキリュウは更に続ける。
「……そして俺が出て行く前、繋げていた空間を切った。扉を開ければ普通は黒学の廊下に出る。……だがお前はまた死学へと帰って行った。空間魔法は悪魔と天使にしか使えない。死神には使えないはず…………お前は一体何をした?」
私を深く探ろうとする赤い瞳。
それを綺麗だなと見つめながら私は答えた。
「いや、別に何も」
「……」
キリュウの目が細まる。どうやら疑っているようだ。
そんな目をされても何も答えられない。だって本当の事だし。
私はそのまま言葉を続ける。
「扉を開けたら勝手にそこに辿り着いただけだよ。今キリュウに言われて初めて黒学の保健室だったって知ったし」
「……本当に何もしていないのか?」
「うん」
「……そうか」
まだ納得してなさそうだったが諦めたのかキリュウはそれきり質問をして来なくなった。私の言葉に嘘は一つもないのだが。あの時は体調が最悪で只安息の地、ベッドを求めていただけだ。
……。
……待て。待てよ?
私が黒学の保健室に行っていたならば、サカキと鉢合わせしなかったのはそのせいではないか。私は黒学の、彼女は死学の保健室に居たのだから。
すれ違いでも何でもない。場所自体が違うのだから会えるはずがなかったのだ。
……希望が見えたぞ。
「……キリュウ、私って寝てる間歩いたりしてた?」
「いや。寝言なら言っていたが」
その言葉を聞いた私は無言で両手の拳を天高く突き上げた。
さよなら夢遊病説っ。
おめでとう、私っ。
私の夢遊病説はかなり白に近づいた。当事者が違うと言ったのだ。この発言の効力はかなり高い。
タチバナさんのあの反応は今でもよくわからないが……今日帰ったらもう一度問いただしてみよう。
……しかしまた一つ問題が浮上しなかったか?
寝言って何言ったんだ、私。
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