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side:ルーシー

――想像以上。


それが、この国の王となる男・ギルバートと初対面した感想だった。


竜人は、男女を問わず美しい容姿を持つことが多い。

そしてその中でも、別格に美しいと噂されていたのがギルバート。


「この人が欲しい」

ルーシーは一目でそう思った。


そしてそれは、叶うはずなのだ。

だってルーシーは、ただ1人選ばれた――竜王の歌姫なのだから。



今夜は、ルーシー(歌姫)をお披露目するためのパーティが開かれている。

国一番の職人が手がけた最高級のドレスを身にまとったルーシーは、この場の誰よりも美しく輝いているという自負があった。


「ギルバート様……どうでしょうか?」


「……ああ。美しいドレスだ」


しかしギルバートは、飾り立てたルーシーの姿を見ても態度を変えることはなかった。

その口から出たのはまるでドレスの美しさのみを褒めるような言葉のみ。

ギルバートからの求めていた言葉がないことが不満だった。


しかし、ルーシーと同様に最高級品で着飾ったギルバートは、より美しく輝きを放つようで。

その男と並び立ち、そして会場中の視線を集めることでルーシーの顕示欲が満たされていく。


パーティ中、ルーシーは予定通り皆の前で歌を披露することになった。


躊躇いなく息を吸い込んで、ルーシーは歌う。

のびのびと高く透き通って、空まで伸びていくようなその歌声に、皆がどよめき……そして夢中になった。


ねえ、私の歌は綺麗でしょう?

すごいでしょう?


私が1()()でしょう?


今頃、アイツは惨めに地べたを這いずっている頃かしら。


本当は、失くしたピアスなんてどうでも良かった。

だってそんなものこの先いくらだって買ってもらえるもの。


カノンの惨めな姿を見ることは、ルーシーにとっての何よりのストレス解消であり

カノンのことを甚振るのは、ルーシーの生きがいのようなものだった。


ほらもっと私を羨望して。称賛して。

私は誰よりも“特別”なの。


「いやあ、本当に素晴らしい……!」

「これでこの国も安泰ですね」


歌い終えたルーシーの元には、光に群がる虫のように次々と人が訪れた。

しかし皆が皆口々にルーシーを褒め称えるため、悪い気はしない。


ルーシーは隣に立つギルバートの腕をとり、ぎゅっとしがみつくようにしながら言う。


「ギルバート様の歌姫として、これから2人で頑張っていきます」


にっこりと微笑むルーシー。

途端に周囲から拍手と歓声が湧き上がる。


隣に立つギルバートが一瞬見せた苦々しい顔に、ルーシーが気づくことはなかった。



所用があると言い残して、ギルバートは一時的にルーシーのそばから離れていた。


私は本日の主役なのに。

そんな私を置いていくほどの用があるっていうの?


ギルバートの側近に「いつ戻ってくるのか」と尋ねても、今しばらくお待ちくださいと事務的に返されるだけ。


不満を覚えながら、手に持ったグラスの中身を飲み干した時。


「ルーシー様」


耳に馴染む低音の声に呼びかけられて、ルーシーは振り返る。


ルーシーと目が合うと、にっこりと微笑むその男。


「ラース……様」


その男の名前はラース。


ラースは、鳥人が多く住まう国・フォーゲルの第二王子だ。

そしてラース自身も鳥人である。

この国・ラシエルとフォーゲルは友好的な関係を築いている。

ラースは国交のためにラシエルに滞在しているのだという。


「そのドレス、よくお似合いですね。

ルーシー様の美しさをより引き出しているようです」


ギルバートに求めていた言葉を、さらりと言ってのけるラース。


少し長めの金色の髪に、甘い微笑み。

ギルバートとタイプは違うが、ラースも十分に美しい顔をしていた。

そんな男に褒められて、悪い気はしない。


そのままラースと会話を交わす。

ラースは女慣れしているのか、会話の中で上手くルーシーを持ち上げて、良い気分にさせることに長けていた。


しかし、そんな風に時間が経ってもギルバートは戻ってこない。


王子って言ったって、国家力的には所詮、フォーゲルはラシエルの下。

私にふさわしいのは、やっぱりギルバート様なの。


「ねえ、ギルバート様はまだ戻ってこないの?」


ラースのそばに控えていたギルバートの側近に、苛立ち混じりに尋ねるルーシー。


「今しばらくお待ちください」


再び返されたその返事に、ルーシーは声を荒げた。


「さっきからそれしか言えないの?

ねえ、今日の主役は私よ?

それなのにどうしてこんな放っておかれなきゃいけないわけ!?」


「まあまあ、もうすぐ戻りますよ。

それよりこちらはいかがですか?

大切な喉は常に潤わせておかないと」


ラースから差し出されたグラスを受け取って口に運びながらも、ルーシーの苛々は治らなかった。


「ギルバート様を会場にお連れしてくれ。

――そろそろ歌姫様が限界だ」


そんな様子を見ていたギルバートの側近――ミドルはため息混じりに騎士へとそう告げるのだった。

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