どうか、この歌が
13話
「……ヤッタヤッタヤッタ……これで目障りなヤツが消えるわああぁアアァアハハハハ!!」
カノンが取り込まれ、花の養分となったことを理解したルーシーは、狂ったような歓喜の笑い声を上げた。
枯れない涙を流しながら地面に倒れ伏すマーガレット、膝をついて荒い息を吐く騎士団長。
上空で、仲間を傷つけなければならない騎士たち。
皆が皆、絶望に打ちひしがれていた。
「このまま朽ち果てろぉおおおおおぉお!!」
ルーシーが高らかに叫んだその時、かすかに歌声が聞こえ始める。
そして、ツタの一部がみるみるうちに枯れていった。
力を失ったツタが地面に倒れ、消滅していく。
その中から現れたのは――歌うカノンだった。
どうか、みんなの苦しみがなくなりますように。
思いを乗せて、声は響く。
「な……んだ……?」
「……歌……?」
その歌声に気づいた者たちは、絶望に俯いていた顔を上げる。
大雨に打たれながら、カノンは歌い続ける。
どうか、どうか――私の歌が、届きますように。
雨によって染粉の黒が落ちて、カノン本来の白銀の髪があらわになっていく。
どこまでも高く、伸びやかに。
美しく響く歌声に、誰もが耳を傾けた。
「あ、身体が……!」
「痛みが引いて……!?」
瘴気による苦しみが、少しずつ引いていく。
「こりゃあ、どういうことだ……?」
騎士団長は苦痛のなくなった身体を起こし、歌声のする方――カノンを見た。
「……まさか、歌姫は……」
「やめろぉおおおおぉお歌うなああああ゛あ゛ああ!!」
ルーシーの周りのツタはどんどんと枯れ果てていく。
同時に苦しみ出したルーシーが絶叫する。
その時。空を疾風のような早さで飛んでこちらに向かってくる、1匹の黒竜がいた。
その黒竜は、まさしく夢の中に出てきた竜そのものだった。
黒竜はカノンの元に降下し、その足が地面に触れる直前で、翼を残したまま人型へと姿を変えた。
それは、カノンがよく知る――ギルバートの姿。
金色の瞳と見つめ合って、カノンは夢の中の竜とギルバートが同じ存在であることを理解する。
「やっと見つけた。――俺の歌姫」
(――ああ)
私はきっと、あなたに出会うために生まれてきた。
ギルバートが手を差し伸べる。
カノンはその手をとって、2人で空へと飛び上がった。
ギルバートに身体を支えられながら、カノンが歌う。
触れ合ったところから、身体中に力が漲るのを感じる。
繋いだ手に力を込めれば、ギルバートがより強く握り返してくれた。
この国を守りたい。
それだけを強く願って、カノンは歌い続ける。
歌によって、瘴気が浄化されていく。
狂化によって暴走していた竜たちは、1人また1人と正気を取り戻していった。
いつしか雨は上がっていた。
差し込む日差しが後光の如く眩く2人を照らし出す。
「……歌姫様だ……」
空に浮かぶギルバートとカノンの姿を見上げて、人々は奇跡のようなその光景に涙を流した。
ルーシーのツタは全て消滅して、その足元には吐き出されたアリサとユウミが転がっている。
そして帯立たしい数の黒の花は、白の花へと姿を変えた後に枯れて消えていった。
花の消滅と同時にルーシーも倒れこみ、いち早く動いた騎士団長が部下と共にその身を抑える。
浄化が進むごとに、重くなっていく身体。
霞んでいく意識。
それでも気力を振り絞って、最後の最後までカノンは歌い続ける。
やがて、国中を覆っていた瘴気の全てが消えた。
「――ありがとう。後は俺に任せて」
耳元で響いたその声を最後に、カノンは意識を失った。




