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解き放つ

大粒の雨が降りしきる中、一部の竜人たちは暴走を始めていた。


溢れ出る瘴気にあてられて、その身体は人形を保てず竜へと変化。

自我を失い、パニック状態に陥ったまま空に飛び上がる。


大きな翼や強靭な身体によって建物の一部が倒壊し、木々が薙ぎ倒されていく。


「団長!

ダメです、彼らは狂化しています……!」


「そうだな……ありゃもう完全に暴走してやがる」


騎士団の中でも、団長をはじめ指折りの実力を持つ者は、この瘴気の中でもまだ立って動くことができていた。

しかしそれも、いつまで持つか分からない。


「唯一あれをどうにかできたかもしれないお方が、今や瘴気の発生源ときたモンだ」


騎士団長の前方には、悲鳴とも歌とも知れないような絶叫をあげ続けるルーシーの姿。


「団長、空の方は私たちに任せてください。

……属性の使用許可を願います」


狂化した竜人を正気に戻せる可能性を持つのは、歌姫の力だけ。

その力が使えない今、そんな竜人たちの暴走を止めるには――殺すしかない。


狂化した竜人の中には、騎士団の仲間もいた。

しかし今や国中にパニックは広がっている。


これ以上の被害を出さないために、彼らにとっても苦渋の決断だった。


「……分かった。許可する」


騎士団長の許可を得て、数名の騎士が身体を竜に変えると空に飛び立っていく。


「……さて、こちらはどうすっかねぇ……」


ルーシーからは、今も尚瘴気が溢れ続けていて、近づくことすらままならない。

騎士団長は剣を構えながら、額に汗を滲ませた。



息を切らしながら走って、たどり着いたのは騎士団の演習場。


「やめて……殺さないでええええ!!」


そこでまずカノンが見たのは、そう泣き叫ぶマーガレットの姿だった。

地べたを這いずりながら、空に向かって必死に震える手を伸ばしている。


上空では、狂化して暴走する竜と、それに相対する数匹の竜がいた。


とある竜は口から水を吐き、狂化の竜の動きを水牢のように封じ込めて

またとある竜は、大きく動かした翼から風を送り、肉体を切り裂いて弱らせる。

いずれも5属性の力によるものだろう。


狂化で自我を失った竜に相対するには、生半可な攻撃では通用しない。


カノンはマーガレットに駆け寄った。

マーガレットはカノンに気づくと、縋りついた。


「助けて……レナードが死んでしまうわ……!」


狂化した竜の中には、マーガレットの恋人である若い騎士・レナードも含まれていた。

このままでは、愛する人が正気を失ったまま死んでしまう。

マーガレットは涙を流し続けながら、悲痛な面持ちで攻撃を受ける恋人の姿を見つめていた。


(どうして、こんなことに……)


そしてカノンは、変わり果てたルーシーの姿を目にする。


(あれは何……!?)


あまりに禍々しい様子に、ひゅっと息をのむカノン。


これは、歌だ。

悲鳴のように聞こえるけれど、ルーシーはずっと……終焉を呼ぶ絶望の歌を奏でている。


そんなルーシーの前には、騎士団長が立ちはだかっている。

自らの持つ火の属性によって、ルーシーをとり巻くツタを焼き消そうとするも、

溢れ出る瘴気がそれを阻むように火をかき消す。


意思を持つかのように動くツタは、騎士団長の身を潰そうと上から下から叩きつける。

それをいなす騎士団長の顔色は悪い。

瘴気を間近に浴び続けているのだから当然のことだった。


その時。

呆然とするカノンと、ルーシーの、目が合った。

カノンの存在を認識した瞬間、ルーシーの表情は憤怒に変わる。


「おおおお前のせいでぇえええええ!!!!」


ルーシーの心と連動するように、何本ものツタが凄いスピードでカノンに伸びてくる。


「危ない、逃げろ……ぐっ」


助けに入ろうとした騎士団長は、しかしついに身体が限界を迎え膝をついてしまう。


あっという間にツタはカノンに巻きついた。

息もできないほど強く捕えられて、訪れる激痛。

声にならない悲鳴が漏れる。


(だめ……意識が……)


意識が朦朧として、抵抗することもできない。

やがて意識を失ったカノンの身体は、ツタの中に取り込まれて消えていった。




「……ノン」


意識を失っていたカノンは、自分を呼ぶ誰かの声によって目を覚ます。

気づくとカノンは真っ白な空間に立っていた。


そして、目の前にあったのは――「カノン」


「パパ……ママ……?」


死んだはずの、両親の姿だった。


これは夢?幻?


もう何だっていい。

ずっと会いたかった存在に会えたのだから。


2人はカノンを見つめ、優しく微笑んでいる。


カノンの瞳から、涙が溢れた。


「……パパ、ママ……!

ねえ、会いたかった。ずっと、寂しかったんだよ……っ」


クシャリと顔を歪ませて、大粒の涙を流しながらカノンが言う。


「……私も、パパとママのところに行きたい……!」


カノンの両親はその言葉に首を振った。


「カノンには、まだやることがあるでしょう?」


母の言葉を聞いて、浮かぶ光景。


優しくしてくれたニアや他の竜人侍女。

みんな、この城に来てからできた大切な人。


そして、ギルバート。

「この国と民が宝」だと、そう言っていた。

そんなギルバートが大切にするこの国を、守りたい。


――そのためには?



「どうすればいいのか、分かるだろう?」


「カノンにしかできないことよ」


両親に促され、カノンは本能的に悟る。


そのためには――私が、歌えばいい。



『アンタが歌ったせいで、両親は死んだ』


ルーシーの声がフラッシュバックする。

浮かんだメロディは喉元でつかえ、“呪いの歌“

その言葉が耳にこびりついて離れない。


「でも、私の……私のせいでパパとママは……」


「それは違うわ、カノン。

私たちの死は、あなたのせいじゃない。

そうやって自分を責める必要なんてないの」


母が、カノンの両手を握る。


「私たちは、あなたの楽しそうに歌う姿が好きだった。

あなたのことが誇りだった。それは、今も変わらないわ」


父が、カノンの肩に手を置く。


「お前の歌は、“呪い“なんかじゃない。

俺たちに“幸福“を与えてくれる、そんな歌だ」


呪いをかけていたのは、自分自身だったのかもしれない。


「ねえ、だからカノン。

あなたの歌をもう一度聞かせて」



そしてカノンは、長年に渡る呪縛を今――解き放った。


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