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side:ルーシー

ルーシーは、暇つぶしがてら騎士団の訓練を見に来ていた。

剣を交える男たちを眺めながら、ルーシーはため息を吐く。


(はあ、退屈ね……)


問題を起こしたばかりの後にも関わらず、カノンに暴力を振るうという新しい問題を起こしたせいで、ルーシーは反省の色なしということで再び謹慎させられる羽目になっていた。


今は、やっとその謹慎が終わったところだ。


謹慎中は、ギルバートとも会えなかった。


本当は、カノンと密会していたのはどういうことだとギルバートにも問い詰めたかったのに。


しかしまた謹慎中に抜け出されてはたまらないと、部屋の見張りは最初から厳重体制で、部屋で大人しくしている他なかった。


もしかしたら、ギルバートが会いに来てくれるかもしれない。

しかしそんなことは一度もなく、期待は無駄に終わった。


やっと謹慎が終わったと思えば、ギルバートは視察で留守だという始末。


(ギル様……)


私を歌姫にすると、そう言ってくれたはずなのに。

まだ歌姫認定の儀の日取りさえ決まっていないのはどういうことなの?


思えば近頃のギルバートには、冷たい眼差ししか向けられていない。


(あの女とは、コソコソ密会なんてするくせに……)


カノンの顔が浮かび、より一層苛ついた。


(それにしても……)


騎士団の中にも、中々見目のいい男たちが揃っている。


遊び相手くらいにならしてあげてもいいかな。

そんな気持ちで、ルーシーは男たちの品定めを始める。


そんな時、心臓がドクンと脈打った。


(何なの……?)


まるで身体の下を何かが這いずっているかのような、不快さを纏う違和感と息苦しさ。

それがここしばらく続いていた。


しかし医者に見せても何ともないというし、気づいた頃には消えているからと

大して気にはしていないが、それでも不快なものは不快だ。


「あ、ルーシー様!

ここにいたんですね」


ルーシーに近寄ってきたのは、アリサとユウミだった。


カノンとギルバートの密会。

その情報をもたらしたことをちょっと褒めてやったら、2人はまたルーシーに擦り寄ってくるようになった。


馬丁の仕事の合間に与えられる貴重な休憩時間にルーシーの元を訪れては、小間使いをして点数稼ぎをしようとしている。


謹慎明けからは前のように侍女を扱き使うこともしにくくなっていたから、ルーシーもそれを許容した。


だからといって、こいつらが望んでいる“侍女への復帰“の口利きをしてやるつもりはないけれど。


「あ……雨が降ってきましたね」


ユウミの言葉通り、空からは雨が降り出した。

ルーシーは、自身の体が再びざわめき始めるのを感じていた。


「うわ、なんだ……!?」


「瘴気が……!」


同時に、騎士団の面々が騒ぎ出す。

突如として大量の瘴気が発生し、急速に辺りに蔓延し始めていた。


「どうしてこんな急に……!」


「いやでも、ここには歌姫様がいる……!」


そしてルーシーに向けられる期待の目。

この瘴気を浄化できるのは、ルーシーだけなのだ。


(しょうがないわね……)


すうっと大きく息を吸い込んで、ルーシーはいつものように歌い始める。


ほら、私はすごいでしょう?

私のおかげで救われるのだから、褒め称えて首を垂れなさい。


しかし、いつまで経っても瘴気が晴れることはなかった。


(どうして……!?

いつもならとっくに……)


今までより瘴気が濃いとはいえ、全く浄化ができないなんて。

明らかにおかしい。

雨に打たれながら、ルーシーは顔色を変えた。


「瘴気がちっとも消えないぞ……?

どうなってるんだ……?」


「う、歌姫様……?」


(分かってるわよ……!)


周囲から漏れ始めた不安の声に、感じる急り。

どれだけ歌い続けても、依然として瘴気が浄化されることはなくて。

むしろより濃く広がっていくばかりだった。


身体に走る違和感は、どんどん大きくなっている。

身体中を掻きむしりたくなるような不快さ。

心臓が激しく脈打って、胸が苦しくなる。


これ以上息が続かなくて、ルーシーは歌うことを止めた。


広がり続ける瘴気に、竜人である騎士たちは徐々に苦しみ始める。


「歌姫様……どうかこの瘴気を消してください……!」


「このままでは我らの身も持ちません……!」


(……うるさい……)


割れるように頭が痛む。何も考えたくない。

嘆願する騎士たちの声が、耳元を飛び回る羽虫のように耳障りだった。


痛い。苦しい。クルシイ。


「なあ、聞いてるのか!?」


「普段あれだけ偉そうにしておいて……一体何のための歌姫だよ……!」


「歌姫様!」


(うるさいうるさいうるさい……!)



「だまれえええぇぇぇぇ゛!!」



ルーシーが叫ぶと同時に、その身体から大量の緑色のツタが飛び出した。


目にも止まらぬ速さで伸びていったそのツタは、ルーシーに根を張り何重にもなって全身に巻き付いた。


まるで意思を持つかのように、ツタはルーシーの身体から何かを吸い上げた。


「ぎゃぁ゛ああああああああぁ゛あ゛あ゛……!!」


途端に感じるとてつもない痛みに、ルーシーは絶叫する。

命の源そのものを削られているように、身体がいうことを効かなくなっていく。


やがてツタに包まれた身体の至る所から、毒々しい黒の花が咲く。

その花からは、新たな瘴気が溢れ出した。


激痛に苛まれ続ける身体に、ルーシーは再び絶叫する。

その声に呼応するように、更に瘴気が溢れた。


「る、ルーシー様……ひっ」


変わり果てたルーシーを前に、呆然とするアリサとユウミ。

怯えた声を出す2人に向かって伸びたツタが、2人の身体に巻きついた。


「え……っいやぁぁぁ!」


「痛い……いたいいい!!」


どうやらルーシーに咲いたこの花は、人の生命力を養分とするらしかった。

2人もルーシーと同じように吸い取られ、苦痛に悲鳴を上げる。


「……あ゛……やめ、て……」


しかしその声は徐々に弱々しいものに変わる。

そんな2人の身体は、とぐろをまくツタの中に引きずり込まれるようにして消えていった。




片膝をついた騎士の1人が、苦痛に歪むその顔を上げる。


その先に見えたのは、元の姿も分からないほど黒の花に埋めつくされたルーシーが獣のような咆哮を上げる姿。


国を救うはずの歌姫様は、今や瘴気を撒き散らす化け物へと成り果てていた。


「……ああ……」


震えるその声は、絶望に染まっていた。


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