栽培人間
起きて。
シャワーを浴びた。
むず痒いのでふと見ると、右腕の毛穴から一本もやしが生えていた。
は?
昨日呑みすぎた?
は?
引っこ抜いてみる。
ぷち。
簡単に抜けた。
排水溝に流す、まあこれはあれだ、気のせいだよな。
なんやかんやで夜が来た。
むずむずする。
右腕を見るともやしが毛穴から十本生えていた、抜く。
ちょっと痛い、眉毛を抜く時ぐらい痛い。
しかも朝シャワー中に抜いた所を中心に生えている
ええええ……
兎に角全部抜いて寝る。
朝シャワーを浴びる。
そりゃそうだよな。
もやしは二十本も生えていた。
いやあ、流石にこれは。
病院に行ってみた、原因不明と言われる。
そりゃあそうだよなあ。
とりあえず二十本抜かれる、痛みが強くなってる筋肉注射ぐらいは痛い、嘘だろ?
気休めばかりの薬を塗られて、その上から包帯を巻かれた。
仕事も休んでちょっと安静にしてみる。
もう生えてくるなよと念じながら。
気づけば外は真っ暗だ
腕を見ていると包帯が膨らんでいる。
いや、これはないよな。
そう思いながらそっと包帯を外してみようとする。
大量のもやしが右腕全部を覆っていた。
盛り上がった包帯からは、内側から水を吸ったスポンジみたいな重たさが伝わってきた。
もやしが育ってる?
病院に行く前に生えていたもやしより、幾分長くて、太くなっている。
え?これ抜いていいの?
でもむず痒くて我慢ができない、ぶちぶちと一気に抜いていく、深めのささくれを思いっきりちぎった時のような、嫌な痛みが走る。
朝シャワーを浴びる。
いやいや、うなじにまでもやしが生えている。
風呂から出たら病院で貰った薬を塗って、包帯を巻いてみる。
忘れるためにまた寝ることにした、放っておかれると何日でも寝れそうな体質でよかった。
夜、ずっしりと重く湿ったスポンジのような包帯を、剥がしていく。
やっぱりな……
背中の半分以上が、じわじわ覆われていく感触がする。
これ、薬塗って包帯巻いたらダメなんじゃ?
と思う。
兎に角触らないようにしようとするが、むず痒くて仕方ない。
そっと布団に横になると
ぶちぶちぶち。
という音がして一気に背中のもやしが潰れていった。
痛みが走る、病院で採血をする時に下手な人に当たって、血管を針でまさぐられる時のような嫌な痛みだ。
思わず耐えきれずに、横に寝返りを打つと、また。
ぶちぶちぶち。
と音がしてもやしが潰れていく。
取り返しがつかないことをしたような、罪悪感が胸いっぱいに広がる。
次の朝、案の定背中一面から、左腕にまで繋がったもやしを包帯で隠して、病院に行く。
レントゲン、色々検査されたが、結局原因がわからない。薬と包帯はやめてみましょうと言われる。
一旦全て抜きますねと言われて、処置室でもやしを抜かれる。
歯医者で麻酔なしの治療をされた時のような、絶望的な痛さに神経を持っていかれそうになる。
もう帰るしかすべがなかった、診察室でそっと研究を打診された、ぐっと喉が詰まる。
帰ってしばらくすると、もう左腕全てと腹部にもやしが生えている、これからは座って眠るしかない。
風呂に入るのはやめた、刺激してもっと増えたら困るからだ。
座椅子に座って眠る
夜中に、骨の奥まで針をねじ込まれるような痛みが突き抜けた。
とてもじゃないがすぐには動けそうもない、そうしているうちにさらに
ぶちぶちぶち。
という音とともに激痛が走る。
いつの間にか突っ伏して寝ていたのに、背もたれにもたれてしまったようだ。
痛みにのたうち回っているうちに、ほとんどのもやしが潰れてしまったようだ。
眠らなければよかった。
朝が来た。
姿見の前に立ってみる、もう全身にもやしが生えていない場所は顔と耳だけだった
髪の中にも、足の裏にも、もやしが生えている感触がする。
おそらく人間として残り僅かな部分ですら、今日中になくなるのだろう。
最後に最初に病院で貰った薬を体に慎重に塗り、包帯を巻く。
ベランダに置いていた人が入れるサイズの衣装ケースに横たわり、最後の瞬間が来るのを待っていた。
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