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第7話 思惑

 愛機を砂浜で看取り、俺はクソ重い真珠の入った木箱を運びながら20分歩いた。

 ようやく、俺が本来降りるはずだった飛行場へと辿り着く。

 しかし、この時間だ。誰もいない……

 と思ったが、1台の馬車が飛行場の出入口に停まっている。

 幌馬車の幌には見覚えのあるロゴが入っている。ヘンドリクス商会。

 依頼主のヤン・デ・ルーフが加入している商会の馬車だ。


 乗っている御者もこちらに気が付いたようで、古風なランプに火を付けて、こちらへと近付いてきた。


「ジャック様、ご無事でしたか」


 物腰柔らかな執事のように語り掛けてくるのは、これから会いに行く商人、コルネリス・ヘンドリクスの腹心。初老の男性。名は聞いたこともないが、何度か会ったことがあった。


「俺は、な」


 深くため息をついてからそう答え、俺は腹心の男に木箱を差し出した。

 ランプを地面に置いた初老の男は、慎重に俺から木箱を受け取って、荷馬車に丁寧に積み込んだ。


「お乗りください」

「ああ、よろしく頼むよ」


 色々と疲れていた俺は、積み込まれた真珠の箱の横に腰を下ろした。


 すぐに馬車は動き出し、ガタガタと揺れながらオーセアン・スタッドへと向かって進んでいく。




「ジャック様、到着致しました。こちらへ」


 おっと、少しうたた寝してしまっていた。

 俺は腹心に言われるがまま立ち上がって馬車を降り、周囲を見渡す。

 ここはオーセアン・スタッドの中心、そこに聳え立つビルの目の前だった。

 看板にはホテル・プリンス・ファン・オラニエの文字。最上級の高級ホテルだ。


 腹心の男と一緒に、ホテルのロビーへと入る。オイルのシミと僅かな返り血のついたパイロット用つなぎを着ている俺は、本当に場違いな格好だ。

 それでも、既に時刻は真夜中に近いため、人がまばらにしかいないのが救いだ。


 最近では珍しさも薄れてきたエレベーターに乗って、最上階を目指す。


「12階、メイン・ダイニングとヘンドリクス氏の執務室でございます」


 エレベーターを操作するオペレーターが、アナウンスしながら扉を開く。

 俺は促されるまま、エレベーターを降りて部屋の扉の前へと進む。


「ヘンドリクス様、お連れ致しました」


 腹心の男は扉に向かって言いながら、俺に入室を促す。

 ドアノブに手をかけて、扉を開く。


「遅かったな」


 大柄な身体をソファーに沈め、手袋をした手で真珠をつまみながらルーペで観察している巨漢。コルネリス・ヘンドリクス。

 新大陸でその名を知らぬ者はいないと言っても過言ではないほどの宝石商。こうしてお目にかかるのは初めてだ。


「もう、真珠は届いているようだな。状態は?」


 俺はその男に近付いた。ただ、向かい合うソファーに座るつもりはない。

 服は汚れているし、何より長居する気もない。


「梱包が完璧だったからな、今のところ傷のついた物はない」


 巨漢から出る声にしては柔らかい声質で、ヘンドリクスは言う。


「まあ、そう急ぐな。報酬は検品が済んでから、だ。それより、あのフライング・ダッチマンに追い掛け回されて大変だったそうだな?」


 真珠から目を離すことなく、ヘンドリクスは若干嬉しそうな声で語る。

 ちっ、何がおもしれえんだよ、とは思ったが、それを言葉に出すほど俺もバカじゃない。


「奴ら、電信を傍受してるし、暗号も解読されているぞ。符号だけでも変えた方がいい」


 別に親切心で言っているわけではない。皮肉ってるだけだ。


「ああ、それは知っている」


 は?こいつ、今なんて……


「フライング・ダッチマンがこの真珠を狙っていることも、電信が傍受されていることも、暗号が解読されていることも、知っていた」


 ふざけんな、知ってて俺を窮地に立たせたのか、この男は。


「まあ、そう怒るな。報酬はきっちり払うし、ボーナスも出そう」

「ボーナス、だと?」

「フライング・ダッチマンの前衛2機を撃墜したんだろ?ソブリン金貨50枚、報酬に追加してやろう。あの2機、最近この辺りに出没するようになった奴らでね。我々も手を焼いていたんだ」

「つまり、そいつらが襲ってくるのを知っていて、俺に依頼をしたってわけか……」

「その通り。見事あの2機を追い払うだけでなく、仕留めてくれた。その働きには正当な対価が必要だ。そうだろ?」


 俺は深くため息をついた。


「疲れているだろうと思って、下の階だが部屋を取ってある。そこで休むと良い。朝までには検品を終えて報酬を支払わせよう」

「そう、か。そうさせてもらおう」


 正直言ってクソ疲れていた俺は、その言葉を聞いてすぐさま部屋を後にした。

 金持ちってのはわからねえな……




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