第24話 安息地
川辺での休息から6日後、俺たちはようやく目的地にたどり着いた。
アパラチア山脈の南部、グレートスモーキー山地の麓にある町、ツィクスィツ・キル。ネーデルランド人と先住民チェロキー族が交わる場所だ。
軽工業や林業を中心とした産業形態で、最近完成した山岳鉄道によって東海岸まで資源を運び出している。軽工業の内訳としては繊維産業が盛んで、次に家具などの木材加工品が多い。
また町の横を流れる川の下流にはネーデルランド人が造った水力発電用ダムとダム湖があり、それらが町に十分な電力を供給している。
その電力を利用した産業もあり、付近で産出する鉄鉱石を製錬する鉄工所や鉄道のレール工場も、小規模ながら稼働している。
町中を走行していると、ネーデルランド人とチェロキー族が物珍しそうにこちらを見ている。また俺たちも同様に、町の珍しい景色を食い入るように見回している。
まず目に入ったのは町の入口にあった7角形の大きな木製の柱だ。おそらく巨木を削り出して作られた物で、白い塗料で塗られておりチェロキーの文字が刻まれている。
町の中央通りでは、道端に多くの露店が並んでおり、こちらのトラックに向けて商品を見せつけるチェロキー族の人々がいる。観光客向けの商品や、食料品、料理など様々だ。
「何というか、異国に来たって感じがするな」
エドワードが俺の隣でボソッと呟く。アンラクも荷台の隙間から町並みを眺めて、不思議そうにしている。
後方についてきているフィオナとクララは、主に露店の商品が気になっているようだ。
俺は中央通りの端まで進み、安宿の広い駐車場にトラックを停車させた。
「とりあえず、今日はこの宿だな。俺とエドは空きの工場を探す。フィオナとクララは人数分の部屋を取っておいてくれ、そのあとは自由行動だ。アンラク、トラックを見張っててくれ。積み荷を放置できないからな」
「わかりました。任せてください」
アンラクはそう言ってトラックの荷台に戻り、既に彼専用のスペースとなったベッドに横になった。狩猟用のショットガンを近くに置いているが、あれはあくまで脅しの道具だ。彼は銃を撃ったことなど一度もないらしい。
フィオナとクララはさっそく安宿へと入って行った。何人部屋があるかわからないが、まああの2人ならうまくやってくれるだろう。
「エド、行くぞ」
「ああ。ところで当てはあるのか?」
「実は、空きの工場がいくつかあるのを前回ここに来た時に見たんだ。そのうちのどれかは今も空き物件になってるだろ」
「そうか。俺は土地勘がないから、道案内は頼んだ」
俺はエドワードを連れて、工場地帯へと歩き出す。そこまで大きな町ではないから、数分も歩けば辿り着く。
しかし、この町にはネーデルランド人とチェロキー族しかいない。なかなか目立ってしまうが、この地域に連合王国の手は届かない。安心して拠点を探せるな。
歩くこと10分。町の外れにある空き工場を見つけた。レンガ造りの建物で、工場内に布端切れが所々に落ちている。どうやら縫製工場だったようだ。
機械類は全て取り払われており、中は十分な広さがある。
建物の裏手に回ると、大きな搬出扉がある。もう少し扉の高さがあれば、単発の航空機なら出し入れができそうだ。
それに町外れの飛行場まで200メートルほどとかなり近い。トラクターとトレーラーがあれば容易に運ぶことができる。
「ここにするか。ええっと、管理しているのは町の不動産屋か。さっきの安宿の近くだ、行ってみよう」
「この建物、2階部分に小さいけどオフィスルームがある。そこは俺の作業場にさせてもらうよ」
「ああ、このプロジェクトの中心はエドだからな。設計技師のオフィスが工場の2階ってのは便利そうだ」
「いや、どっちかと言えば中心はジャックだろ。お前がパロトン兼テストパイロットなんだから」
「確かに、俺が金を出してるし、パトロンだが、製造に関してはお前が中心だ。頼むぜ」
俺とエドワードはそんな風に言い合いながら、町の不動産屋へと向かう。
不動産屋はかなり小さな建物だが、レンガ造りで小綺麗な外観だ。
扉を開けて中に入ると、コーヒーの香りが漂う小さなオフィスがあり、1人のネーデルラント系男性が少し警戒した顔でこちらに近付いてきた。
「何か、御用でしょうか」
「ここの不動産屋で管理している、町外れにある裁縫工場だった空き物件。あそこを借りたいんだが」
「はぁ、ええっと、失礼ですが、素性の知れない方に大きな物件を貸すというのは、ちょっと……」
確かに、よそ者にいきなり工場を貸せと言われて警戒しない不動産屋はいないな。
「じゃあ、こうしよう。これが前金だ」
ジャケットの内ポケットからソブリン金貨を取り出して、不動産屋に差し出す。
「それに加えて、1年分の賃貸料を先払いにしよう」
「え、え?あ、ええ、そう、ですねぇ、はい、わかりました。それなら喜んでお貸ししましょう」
やはり金だ。金はすべてを解決する。
不動産屋はすぐに資料と契約書を持って来て、俺とエドワードを椅子に座らせて、自らもその対面に座ってテーブルを挟んで向き合った。
「こちらが契約書です。それと工場の間取りや配線、配管についての資料がこちらに……」
話の早い不動産屋でよかった。僅か20分ほどで工場を借りることができた。ダッチの良いところは金さえ惜しまなければ仕事が早いところだ。
「これで拠点は手に入った。次は設備だな」
「ああ、必要な設備はリストアップしておいた」
「じゃあ、宿に戻ってブリーフィングといこう」




