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第17話 離合

サドベリーの町から乗った寄合馬車で順調に進み、ウィンザーダムに到着したのは、既に日が暮れてから2時間ほど経った頃だった。

しかし、それでもダムの建設現場には多くの照明器具が置かれており、建設中のダムを明るく照らしている。

蒸気機関を動力としたクレーンが巨大な岩石を吊り上げて移動させている様子が見える。夜中にやる作業ではないだろうとは思うが、近年この周辺では飲み水の不足が深刻化しつつあるため、こうして夜通しの作業が続けられている。


「ジャック、あんた泊まる場所はあるのか?」

「いいや、そんな当てはない」

「じゃあ、俺らが泊まる宿舎に来いよ。狭いし汚いけどベッドには空きがある」

「悪いな、何から何まで……」

「いいっていいって、これだけのお金を貰ったってのに、野宿させるなんて罰が当たるって」


コーディー、お前本当にいい奴だな。それを言うと調子に乗ってまたうるさくなるってのがこの半日の馬車の旅でわかっているので声に出すことはしない。


宿舎は粗雑な木材を積んで作られたログハウスで、その中の一部屋を俺とコーディーたちの計4人で使うことになった。

夕食はライ麦パンと牛肉の破片が浮いている塩スープを分けてもらった。

酸味のあるパンと、しょっぱいだけのスープ。それでも朝から何も口にしていなかった腹を満たすことはできた。


「ジャック、お前さん一体何者なんだ、そろそろ話してくれたっていいだろう?」


夕食を終えて寝る準備をしていると、バートがそう尋ねて来た。

寝るまでにはもう少し時間があるし、少し話すくらいならいいか。


「少し前までは航空機を使った運び屋をしていた」

「へぇ、ジャックはパイロットだったのか」


コーディーも会話に割り込んで来る。


「少し前っていうと、今は違うのか?」

「空賊の襲撃で、使っていた機体がダメになってな」

「空賊か、災難だったな。それで、なぜ憲兵に追われている?」

「俺が新大陸に来る前、連合王国軍のテストパイロットだったんだが、戦争が嫌になって試作機を盗んでこっちに逃げて来ちまったのさ」

「おいおい、本当か?そりゃあ憲兵が検問してるわけだ」


コーディーもバートも納得した表情で俺を見る。なんか、その視線は居心地が悪くなるな。


「まあ、戦争が嫌になったってのはわかる話だがな。俺も大戦の時にはこっちの植民地軍に徴兵されて、前線に送られたのさ」


バートは苦虫を嚙み潰したような顔で、当時のことを語り出す。


「あの当時、まだ植民地軍は飛行船も航空機も持っていなかったからな。戦場にはひたすら機関銃の弾丸と野戦砲の榴弾が飛び交っていたんだ。と言っても、途中からは本気で殺し合うってよりは本国の意向に従って、それらしく大砲を撃ち合ってたに過ぎないんだがな」


欧州での戦争は技術の進歩と共に激化していった。それとは対照的に新大陸にある植民地での戦争はあくまで本国に逆らわず、しかし本気では戦わないという、所謂ハニーウォーの状態にあった、というのは俺も知っている。

欧州の陸戦は壮絶で、今でも鉛と毒ガスに汚染され人の進入を拒み続ける大地がところどころに広がっている。

それに比べて新大陸ではかなりマシな状態で終戦を迎えることができた。

大戦の勝者というのは明確には存在しないが、強いて言えば新大陸の各欧州植民地が勝者と言えるかもしれない。


バートの戦争逸話はそれからしばらく続けられ、コーディーは数分と経たずにベッドで寝息を立て始め、サイは最初から聞いていないのか布団を被っている。

俺もバートの話をしばらくは聞いていたのだが、睡魔に勝てずにベッドへと徐々に吸い込まれていった。




開け放たれた木製の窓から差し込む日差しで目が覚める。朝の涼しい風が入り込み、俺は日差しを避けるように寝返りを打つ。

一瞬の浮遊感、そして落下する感覚。急激に覚醒する意識。

俺はベッドからずり落ち、腰を床に叩き付けた。


「ってぇ……」


最高の目覚めから、最悪の目覚めになった。

俺は立ち上がって部屋を見渡す。既にコーディーたち木こり3人は部屋から出て行った後のようだ。

部屋から出て、ログハウスの外へと出る。遠くのほうからカン、コンと斧で木を断つ音が聞こえてくる。

太陽は既に空の少し高いところにある。ちょっと寝すぎたか。

大きく伸びをして背中と腰の痛みを解消していると、大きく唸るエンジン音が聞こえてきた。あれは、エドワードたちの乗ってるM1921だな。




「早かったな」


運転席から降りて来たエドワードは、目の下に隈ができている。助手席に乗っているアンラクもげっそりとした表情だ。


「ジャック、無事でよかったよ。途中で憲兵の検問に3回も引っかかったんだ」

「悪かったなエド。ここからは俺が運転するから、休んでていいぞ」

「こんな揺れるトラックで休めるかっての……」


げっそりしているアンラクを荷台に載せて来たエドワードのベッドの上に移し、助手席にエドワードを座らせ、俺が運転席に。


「さて、出発するぞ」

「少し休ませて欲しいんだけど……」

「とりあえず、あと6時間辛抱してくれ。今日中にハドソン川を越えるぞ」


アクセルを煽りながらクラッチを踏み込みシフトレバーをニュートラルから2速へ叩き込むと、トラックは大きく揺れながら力強く動き出した。







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