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第15話 脱出

 俺とアンラクはエドワードが待っている事務所に戻る。事務所の表に停まっているトラックはボストンの地元企業ホワイトモーター社製のM1921だな。状態はあまりよくないように見えるが、年式的にはそんなに古くはないモデルだ。


「エドワード、なかなか良い買い物をしたみたいだな」


 俺は事務所の扉を開きながら、中にいるエドワードに声を掛けた。


「ああ、造船所で使われてた奴だから、見た目より中身はボロだぞ。サスペンションのヘタり具合が心配だが、まあ目的地までは持つだろう」

「そうか」

「出発は明日で大丈夫か?」

「アンラクの買った物が届くのは昼前だから、それを積み込んで出発だ。あれからサイラスとは話したか?」

「ああ、まだ使えそうな若いのが集まっていないらしい。俺のことは気にせずに先に行ってろってさ」

「わかった。じゃあ、今日はここで解散だな。またなエド。アンラクはどうする?」

「私はこのまま事務所で休ませていただきます。荷物が片付いて広くなってるので寝れそうですし」

「そうか、風邪を引くなよ。俺は宿を引き払う必要があるから、そっちに泊まることにする。じゃあな」


 俺は事務所を後にして、自分が泊まっている宿へと向かう。




 宿の前へ来ると、車が停まっているのが見えた。暗くて近付くまでわからなかったが、車には『MP』の文字が見えた。憲兵か……

 咄嗟にそのまま宿の前を通り過ぎながら、宿の入り口を横目で流し見る。

 店主と憲兵が話しているのが見え、そして店主と俺の目があった瞬間。


「あ、いましたよ!」


 と言ってこちらを指さした。

 憲兵が急いで振り返る。俺は考える間もなく走り出した。


 身分が誰かにバレて、憲兵にチクられたらしい。


「おいお前!待て!!」


 大声を上げる憲兵、走って追いかけてくる足音が聞こえる。同時にピーーという笛の音が通りに響く。

 声と足音からして距離には余裕があるな。細い裏路地に逃げ込み、そのまま走り続ける。




 夜中の港付近にある小さな造船所。昼間の喧騒はどこへやら、静まり返ったドックの影に身を潜めた。

 しばらくは憲兵や警察の車両の走る音が聞こえていたが、今は静寂の中に僅かな波音が混じるだけだ。とはいえ、今ここを出て夜の街を歩くのも目立ってしまう。

 仕方がない。朝になるまで待ってから事務所に戻るか。


 しかし、俺の顔を知っている人間と出会った記憶はない。どこから情報が漏れたのかわからないな。

 脱走兵であり、試作機の窃盗犯である俺が憲兵に捕まれば、本国へ送還されて銃殺刑になるのは目に見えている。

 俺たちの仲間にはそれをすることでメリットがあるような人間はいないはずだ。

 となると、どこかで偶然俺の顔を知っている人物に目撃されたのだろうか。最近、本当にツイていない。




 朝日がボストン湾のほうから昇って来る。それと共に通りにも人の姿が見え始める。

 俺はなるべく怪しまれないように、造船所から出て人混みに紛れて事務所へと戻る。


「ふぅあぁ……なんだジャック、随分早かったな」

「憲兵に見つかった。誰かに密告されたらしい」

「ぅえっ!?ほ、本当か?まずいな、なるべく早くボストンを出たほうがいい」


 寝ぼけた顔をしながらも、状況を理解したエドワードは頭をフル回転させる。


「ああ、もちろんそうするさ。だから一緒にトラックに乗って移動するのは危うい。ボストンから離れた場所で合流しよう。……そうだな、50海里西に進むとウィンザーダムっていう建設中のダムがある。そこの建設現場で合流しよう、トラックだしあまり目立たないだろう」

「わかった。ジャック、気を付けろよ」


 俺はエドワードの言葉に頷いて、その横で未だに寝ているアンラクを後目に、事務所を出た。

 俺はあえて人の多い場所を歩き、人混みに紛れながらチャールズ川を目指した。

 川岸には多くの渡し船や川舟が並んでおり、俺はその中から上流へ向かう船を見つけて乗り込んだ。俺以外にも数人が乗り込んで、船は出発した。


 チャールズ川を遡ること1時間。最後の船着き場で船を降りて、ポケットから小銭を取り出して船頭へ渡す。

 この辺りまで来ると、住宅と農地、森林の混在する長閑なエリアになり、市街地からは離れることができた。とりあえず、ここまでくれば憲兵に見つかるリスクはほとんどないはずだ。


 近くにある寄合馬車の停留所に行き、ボストン西部にある森林地帯に向かう林業従事者に混じって馬車を待つ。






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