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第12話 展望

「新型機の……開発ですか。この3人で?」


 アンラクは訝しげに俺とエドワードを見る。


「流石に3人ってのは無理だな。それにこのボストンで機体の開発はできない」

「ジャックはお尋ね者だからな。あまり目立ったことはできない」


 連合王国軍から試作機を盗んだ大罪人だからな、俺は。その機体がもうないこともあって、今ではそこまで目立ってはいないが。仮にこのボストンで新型機の開発をしようとすれば、絶対に植民地軍の憲兵に目を付けられる。


「まずは何処で機体の開発と製造をするか、だな」

「それに、まだ何人かの技術者が必要だ。それと製造に関わる職人も」

「私は電気炉が使える湿気の少ない場所があれば何処でも大丈夫です」


 電気炉、か。ボストンであれば必要な工場も電力も用意は可能だろうが、やはり憲兵にバレるリスクは負えない。

 俺のアジトはもっての外、電気すらないアパラチアのあばら家だからな。

 となると、あそこがいいかもしれないな。


「まあ、とりあえずロブスターでも食わないか?腹が減った」

「そうだな。飲み物も追加しよう。アンラク、あんたは何飲む?」

「ドライサイダーをお願いします」


 俺はさっきチップを渡したウェイトレスを見つけて手を振る。常にこちらを気にしていたようで、気が付くとすぐに駆け寄って来た。


「ロブスターを3人前、スタウト2杯とドライサイダーを1杯くれ」

「はい、すぐお持ちしますね」


 ウェイトレスはまた厨房へ駆けて行った。早い。


「へえ、あの娘があんなに熱心に接客するとはねぇ。ジャック、色目でも使ったのか?」

「エド、一番手っ取り早いのはチップだ。それに俺はそれほどモテない」

「アンラク、こいつがモテない容姿に見えるか?」

「いいえ、最初見たときは映画の俳優でもいるのかと思いましたよ。このパブにいる中では一番男前だと思いますよ?」


 冗談がキツい奴らだ。ロブスターの鋏でぶん殴ってやろうか。




「それで、まずは、場所のぉ、当ては、あるんですか?」


 アンラクはロブスターをバギボキと解体して、身を頬張りながら話し出した。

 日本人ってのはもうちょっとこう、お淑やかで行儀が良いイメージだったんだが、もう完全にこの大陸に慣れきっている様子だ。                                                                                                                                            

 俺はロブスターの身をスタウトで流し込んでから口を開く。


「最近、ネーデルランド人がアパラチアのど真ん中に、現地の先住民と協力して水力発電用のダムを造った。俺が数カ月前そこにある飛行場に、燃料を補給するために立ち寄ったんだが、製鉄所とレール工場がある。だからたぶん電気炉はある。現地の住民と話が付けられれば、そこが使えるはずだ」

「飛行場と製錬施設が揃っていて、先住民とネーデルランド人が支配してる場所なら、連合王国の憲兵も手は出せないだろうし、そもそも気付きもしないだろうね」

「それは良いですね。自由にできる方が私にとっても都合がいいです。しかし、なぜそんなところにお金を掛けてダムと工場を造ったんでしょうか」

「アンラク、良い質問だな。ネーデルランド人は新大陸の東海岸の一部しか土地を持っていないんだ。オーセアン・スタッドをお得意の干拓で広げちゃいるが、干拓で作った土地では資源が出ない。とはいえ、周辺の資源は他の植民地に先に取られている。だから新大陸の内陸部にいる先住民との協力を選んだんだ。まあ協力を拒む部族も多いが、比較的温和な部族もいる。そんな彼らと手を組んで、資源の開発に乗り出しているってわけだ」


 俺が説明している間、アンラクはロブスターを解体する手を止めずにいた。ちゃんと話聞いてたか、この男。


「そうなんですね、まさにオランダのやり方って感じがします。我々の国も同じように発展しましたから」


 日本は鎖国をしていた時期に、ネーデルランドが持ち込むアジア地域の植民地の原材料を基にして工業化した、という歴史がある。確かに、似てるかもな。


「じゃあ場所は決まったし、次は人集めだな。まずはエンジン技師、電気関連の技師、そして少なくとも1人は航空機の製造に携わったことのある熟練工が必要だろう。ジャック、何か当てはありそうか?」

「実はエンジン技師については知り合いがいる。ドイツ系の入植者でサスクエハナ川の近くで農耕用トラクターをいじってた奴だ」

「ト、トラクターだと?あのなぁ、これから造るのは最新鋭の航空機だぞ?トラクターを直してるだけの奴じゃあダメだろ」

「それがな、大戦中はどこかのエンジンメーカーに勤めていたそうだ。腕も確かで、俺のMk.1のジュピターをオーバーホールしてくれたこともある」

「ふーん、ドイツ系ねぇ。俺はちょっと不安だが、ジャックが信用できるというなら構わないさ」


 相変わらず、エドワードはドイツ人が嫌いらしい。まあ、分からんでもない。彼らはいつも怒っているように見えるし、実際に不愛想な人も多い。


「では、あとは電装類を作れる技術者と、熟練工ですね。残念ながら、私は力にはなれなさそうです」

「エドワード、お前はどうだ?ボストンに来て長いんだろ?」

「うん、まあ、熟練工なら当てはあるけど……」

「なんだ、知り合いがいるなら最初からそう言ってくれよ。じゃあ、熟練工の引き抜きはエドの担当だな」

「待ってくれ、俺だけじゃ無理だよ。ジャックも手伝ってくれ!」

「ん?知り合いなんじゃないのか?」

「……」


 エドワードは口籠り、少ししてから話し出す。


「実は、以前にも一緒に仕事をしたことがある人なんだけど……その、なんていうか、癖が強い人でね。苦手なタイプなんだ……だからジャック、一緒に来てくれよ!」


 必死な顔で頼まれては、流石に断れないな。


「わかったわかった。相変わらず人見知りだな、エド」

「うぅ……言い返せないな、こればっかりは……」

「あ、ウェイトレスさん、ロブスターを追加でお願いします」


 アンラクは俺とエドワードのやり取りに目もくれずに、ロブスターを追加した。

 てか、さっきから食ってばっかりだな。この男。


「あとは電気関連か。当ては無さそうだし、地道に探すしかないな」

「ああ、そうだね。ボストンの港沿いじゃなくて、市街地を越えた先に電気関連の工場が多いんだけど、その周辺に修理屋が多いからそこを当たってみるのはどうだ?」

「なんだ、エド、やっぱりボストンには詳しいんだな。そのあたりに知人はいないのか?」


 エドワードは至極当然と言いたげな真顔のまま、首を横に振った。

 しょうがない。俺がそのあたりに出向くしかなさそうだな。


「あの、ところで資金はどうされるんです?私が作る超々ジュラルミンだけでもそこそこのお値段になりますが……」

「それはこちらのジャックに任せていいぞ。新大陸で運び屋をやってるだけあって、かなり金持ちだ。なぁ?」

「なぁって……」

「そうなんですか、すごいですね。才色兼備という言葉がぴったりですよ、本当に」


 その言葉、男に使う言葉だったか?女に使うよな、普通……

 アンラクが俺をバカにしてるのか、本当に褒めてるつもりなのか、わからん。


「ちっ、じゃあ今後の方針も打ち合わせたし、今日はここでお開きにするか」

「そうだな。俺も事務所引き払う準備を始めよう」

「あ、あのぉ、1ついいですか?」


 アンラクは追加で運ばれてきたロブスターを平らげ、殻を片付けながら申し訳なさそうに切り出した。


「どうした?」

「実は私、一文無しでして……当分の宿代を頂けないでしょうか」


 こいつ……金がないのにロブスターをバクバク食ってたのかよ。

 いや、金がなくて腹が減っていたのか。しょうがないな。


「ほら、ソブリン金貨だ。銀行に行って両替してもらえば当分の生活資金にはなるだろ」

「ありがとうございます……え、あのぉ、金貨?こ、こんなに頂いていいのですか?」

「だから言っただろ。ジャックは本物の金持ちだ」


 金貨を持ったアンラクは、先ほどとは違う、本物の羨望の眼差しを向けて来た。やめてくれ……


「それじゃ、解散だ」


 ウェイトレスに代金を渡し、2人をその場に残して俺は先に立ち去ることにした。

 港は海から吹く風で涼しい。工場も夜間は稼働しないため、空気もかなりマシだ。

 夜風に当たりながら、泊まる宿を探すことにしよう。





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