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第10話 再会

 俺はヘンドリクス商会の一行と共に、入国検査を受ける。

 入国検査と言っても、ここ新大陸の植民地では欧州ほど厳しい審査があるわけではない。身分の確認と禁制品の有無をチェックされるだけだ。

 俺は偽りの身分証を検査官へと渡す。検査官はチラッと身分証を見て、数秒も経たずに俺に手渡した。ヘンドリクスの用意した精巧な偽造書類など不要だったな。


 検査官は身分確認を終え、禁制品がないか確認するために輸送機と護衛機の調査に向かった。

 荷物のチェック中は責任者がいればそれでいいということだったため、俺は護衛機と輸送機のパイロットと共に飛行場を後にした。


「いやぁ、ボストンは久しぶりだなぁ。まずはクラムチャウダーでも食べようか?それとも定番の白インゲンのベイクドビーンズか?それとも先に甘い物がいいならクリームパイだなぁ!あ!最近はやりのロブスターにするか!」


 護衛機から離れたおしゃべり機関銃のおっさんは、今夜のディナーを何にするかという弾倉を手に入れたらしく、ヴィッカース機関銃並みに早撃ちしている。とっとと弾が切れてくれないかな。


「じゃあ、俺は行くところがある。またな」

「なんだ、もうお別れか?まあ色々訳ありって話だったしな!じゃあなジャック!また会おうぜ!次会う時はお前の仕事の話も聞かせてくれよな!あ、あとロブスターを食うなら港の近くのブルーアンカーパブがいいぞ!あそこのソースが一番うまい!あとな……」


 おしゃべり機関銃の陣地から離れるべく、俺は早足から駆け足になってその場を後にした。弾が切れるのを待っていたら日が暮れてしまう。比喩とかじゃなく。


 傾きだした西日を背にして、ボストン港の方面へと向かう。

 確か、第4波止場から2ブロック先を曲がった辺りだったか。


 ここに来るのは何年ぶりになるだろうか。3年。いや、もう4年前か。

 あの時はどうしても手に入らないエンジンの部品があって、陸路を使ってボストンに来たんだったな。部品を手に入れた後、ボストンから出るのに苦労したな。


 波止場を横目に路地に入り2ブロック。人気のない裏通りにある小さなレンガ造りの建物。扉には『エドワード航空力学研究所』と掠れた文字で書いてある。

 俺はドアノブに手をかけて扉を開いた。


「家賃は先週払っ……ジャック?」


 ティーカップを左手に持ち、右手で鉛筆を持っている男が、座った状態で振り返りながら驚きの表情をしている。相変わらず器用な奴だな。


「エド、久しぶりだな」

「おいおい、どうしたんだよ。連絡なしで来るなんて」


 エドワード・カトライト。俺がテストパイロットをしていた時にできた友人だ。

 俺が試作機を盗んで新大陸に来てすぐに大戦が終わり、欧州各国は軍縮の時代に入った。彼も軍部や軍需メーカーに見捨てられ、このボストンに移住してきた。

 俺が乗っていた愛機A&H Mk.1の機体設計の副主任をしていた人物。そんな優秀な頭脳ですら、国から見限られてしまったというのは何とも残念な話だ。


「ちょっと訳ありでな。ヘンドリクス商会の伝手で飛んできたのさ」

「厄介ごとか?」

「厄介ごとの後だ」

「お前のMk.1は?」

「今頃オーセアン・スタッド近くの砂浜で永久の休暇を楽しんでるさ」

「……まあ、残念ながら寿命だよ。6年も飛べれば大往生さ」


 エドワードは部屋の奥にある棚からウイスキーの瓶を取り出して、テーブルに並んでいるグラスを掴んだ。


「ブラックラベルか。愛機を惜しむには少し安い酒だな」

「贅沢言うな。こちとら仕事がなくてカツカツなんだ」


 そういいながらグラスにトクトクとウイスキーを注ぎ、俺に差し出した。

 グラスを受け取り、エドワードが自らの分をグラスに注ぐのを待つ。


「別れと再会に」


 ウイスキーをグイっと呷る。喉から下に一直線に火が走ったように熱が降りていく。




 しばしの沈黙の後、エドワードが口を開いた。


「それで、今日は何しに来た?」

「新しい機体を調達したい。お前なら何か伝手があるかと思ってな」

「ふーん。まあ旧式の機体なら用意できなくもないけど、Mk.1よりも遅いのしかないよ、ここには」

「そう、か。まあ、そうだろうな。そもそもあれより早い機体と新大陸で出会ったことはなかったかもな」

「だろうね。俺が設計した翼とジュピターがあれば、この辺を飛んでる旧式機に負けるわけがない」

「しかし、困ったな。俺も運び屋は廃業するしかないかもな」


 正直言って、俺が運び屋として活躍できたのはMk.1のおかげだった。とにかく速度優位があるというのは運ぶにしても、逃げるにしても、戦うにしても絶対的な優位性を持っていた。

 軍で使われている機体には勝てないだろうが、払い下げられた旧式機に負ける要素はなかった。


「まあ、要求スペックに足らない機体しかないというのならば、作ればいいじゃないか。噂には聞いてるよ、相当稼いでるんだろ?」

「正気かエド。確かに金はあるが、ゼロから航空機を作るなんて……どれだけ時間が掛かるんだ。お前の設計の腕は信用しているし、テストパイロットは俺でいい。だが、エンジンはどうする?機体の素材は?そもそも製造はどこの誰がやるんだ?」

「まあ落ち着けよジャック。実はな、最近おもしろい奴と出会ったんだ。夕食ついでにそいつに会ってみる気はないか?」

「エド……お前が人を紹介するだって……?友達が俺しかいない、お前が……?」

「ジャック、俺にだって友人の1人や2人はいるぞ。1人や2人ならな!……」

「すまん。それで、誰に会わせるって?」

「それは会ってからのお楽しみだ。19時にブルーアンカーパブで落ち合おう。2番埠頭の近くにある店だ。ロブスターがうまい」

「なんか、聞いたことある店の名前だな」


 エドワードは俺の返事を聞かずに建物から出て行ってしまった。

 おい鍵……まあ、ここに盗まれそうな物はないってことか……





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