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第八話 模擬戦二試合目〜必殺技〜

 二試合目の相手は、水瀬詩織みなせしおり九条大地くじょうだいち。チーム名は『ノブレス•オブリージュ』だ。

 

 水瀬は水魔法でブレードを形成することができる珍しい使い手で、中距離にも対応している万能型。

 九条は防御魔法の使い手で、学園一の使い手という噂もあるらしい。


 優花さんは二人を見ながら、少し緊張した面持ちで言う。


「ふたりとも名門家系の後継者。手強いわ」


 たしかに……チーム名からもそんな気配が伝わってくる。


「やれるだけやってみよう」


「もちろん、勝つつもりでね?」


 ビーッ! 第二試合目が開始される。おれたちは一試合目同様、まずは前進し遮蔽物に身を隠す。



 一方、優雅な歩き方でゆっくりとこちらへ進んでくる『ノブレス•オブリージュ』の二人。


「水瀬君、焦らずにいこう。優花君はともかく、深瀬君は探知以外にこれといった魔法はない」


 すらりとした長身長髪。そのうえ美形。

 白で統一された衣装に金色の刺繍が施されており、いかにも貴族といった佇まいの九条。


「……わかってます」


 水魔法で作り上げた長いブレードを手に、物静かにそう答えるのは水瀬詩織。小柄で凛とした雰囲気を纏う、ツインテールの女子生徒だ。こちらは軍服風の衣装だが、機動力を優先してかスカートは短めだ。



 まだ『イーグル・アイ』の射程圏外にいる二人を、おれは目視でちらりと確認する。


「ふたりはお互い近い距離にいる。一回攻撃してみる?」


「そうね。まずは挨拶がわりに……」


 一試合目と同じ、『アーク•スマッシャー』。三本の魔法の矢が弧を描き、相手チームにおそいかかって爆発する。その隙に別の遮蔽物に移動。だが……


「……さすが九条君。評判は伊達じゃないわ」


 九条の展開したシールドにより、二人は無傷。変わらず、優雅に歩を進めてくる。恐らく接近戦を挑んでくるつもりだろう。だがシールドがあるとはいえ、無限に持つわけではない。遠距離戦では、圧倒的に優花さんが有利だ。


「九条君はシールドを近接戦用の武器としても使うわ。距離が離れているうちに叩くか、二人を分断して各個撃破するのがいいと思う」



 一方、チーム『ノブレス•オブリージュ』


「いいかい? 水瀬君。一試合目を見た限り、深瀬君に攻撃能力はないものの、優花君の高火力と組み合わさった時は少々厄介だ。どうすればいいかわかるかな?」


「先生みたいに言わないでください。接近して二人を分断、各個撃破すればいいんでしょう?」


「うん。遮蔽物のない中央で交戦できればなおいい。そして、おそらく向こうも僕らを分断しようと考えているはずさ」



「優花さん、位置バレしてもいいから距離が離れているうちに撃ちまくって、九条を消耗させよう」


「わかったわ」


 優花さんは間断なく攻撃魔法を連発する。それはことごとく九条のシールドに防がれるが、人間二人分、しかも優花さんの魔法を防ぐレベルのシールドを張り続けるのは、かなり魔力を消費するはずだ。

 

 そのとき、爆炎の隙間から一瞬だけ見えた光景に、おれは違和感を感じる。……水瀬詩織がいない?

 直後、急速接近する魔力を感知。


「優花さん九時方向!」


 おれの声に反応し、優花さんが水瀬の姿を確認。咄嗟に電撃を放つが、水瀬はそれをかわし、一直線に向かってくる。狙いはおれか……!


「もらった!」


 水瀬が水のブレードを振る。が、おれは紙一重で危うくそれをかわし、距離を取る。


「コウ君……!」


「優花君、君の相手は僕だよ!」


 一瞬の混乱に乗じ、九条も十メートルほどの距離まで近づいていた。



 ……簡単に接近を許してしまった。おれと水瀬、優花さんと九条が対峙するカタチとなった。


「あの状況でよくかわしましたね、深瀬コウ。それも探知魔法ですか?」


 水瀬は一旦ブレードを解除したかと思うと……バシュッ! 水瀬の指先から水のレーザーが発射される。が、探知してなんとかそれもかわす。


 ギリッ……!


「深瀬……コウ……!」



 少し離れたところでは、優花と九条が対峙していた。


「二人とも離れず、シールドを張りながら接近してくると思ったのに」


「水瀬君がどうしても深瀬君とやりたいと聞かなくてね。はじめから二人がかりで君を相手にするつもりだったんだが……まぁ、彼女には速やかに深瀬君を処理してもらうことにするよ」


「……そう簡単に行くかしら?」



 背後で爆炎があがる。優花さんたちの戦闘が始まったようだ。しかし今のおれには、そちらの様子を伺う余裕はない。


「いくら九条さんといえど、霞さんの攻撃を長く耐えることはできません。すぐに終わらせてもらいます。深瀬コウ」


 水瀬 詩織……以前はおれのこともさん付けで呼んでいたはずだが……。……確かめてみるか。


「そう上手くいくかな? 今からでも九条君と合流したほうがいいんじゃないの? 水瀬さん」


 ピキッ…!


「許せません……! 優花様は、あなたごときがペアを組んでいい方ではない。私と苗字が一文字違うだけなのになんで……!」


 その様子を見て確信した。やっぱりおれのことを憎んでいる。ならば、おれでも勝ち目があるかもしれない。


「水瀬さん、ちがうのは苗字だけじゃないよ。おれは男で、君は女だ。それに、おれと優花さんはうまくやっているよ」


「……っ! お前なんか……!」


 水瀬が水のブレードを形成し、突っ込んでくる。



 優花はコウの援護をしようと水瀬に向けて魔法を放つが、九条のシールドが目の前に現れ、弾かれる。


「水瀬君の邪魔はさせないよ。それに二人があそこまで接近していては、いくら君でも彼女だけを狙い撃ちするのは無理だろう。深瀬君はもう時間の問題だ」


「そうね……でも、あまり彼を甘く見ない方がいいわ」



 おれは水瀬詩織の高速斬撃を、致命傷を避けかわし続けていた。避けきれないものは収束させたピンポイントシールドでなんとか防いではいるが、すでにカラダは傷だらけだった。


「はぁ……はぁ……」


「く……ちょこまかと。しぶといですね……!」


 ……探知範囲をさらに前方約二メートルに絞り、精度を引き上げた。『イーグル•アイ•短距離ショートレンジ』——優花さんとつくりあげた、ほぼ一対一専用の接近戦用探知魔法だ。


「おのれぇッ!」


 水瀬の斬撃が大ぶりになる。ここだ!


「!?」


 バチッ! 斬撃をかわして懐に飛び込み、彼女の腹部に電撃を放った。しかし……


「……。なんですか、今の攻撃とも呼べない魔法は?」


「く……」


 魔力を持っているものは、防御魔法を使わずともある程度の魔法耐性を持っており、それはその者の魔力量に依存する。さっきのおれの攻撃では、水瀬詩織のそれを貫通することはできない。


 ブンッ! ブンッ!


 再びの大振りをかわし、もう一度……バチッ!


「そんな攻撃避けるまでもありません!」


 ドガッ!


「うぐっ……!」


 彼女の膝蹴りをくらい、後ろへよろける。そこへすかさず斬撃が振り下ろされるが、しつこく懐へ飛び込み……バチッ!


「ち……!」


 バキィッ!


 ブレードを持っていないほうの手で掌底をくらい、押しもどされる。しかし、それはおれに考えが正しいことを確信させた。


「無意味なことを何度も何度も……! うっとうしいです! いい加減諦めたらどうなんですか!」


「……ふふ……」


 思ったとおり、ブレードを形成しているときは他の魔法を使えないらしい。そして、懐に飛び込んでの超接近戦なら、長いブレードは意味をなさない。


「ギリッ……不快です……! 次で終わらせてもらいます!」


 最後の勝負に来るつもりだな……! それを予感し、おれはさらに魔力探知を高めるとともに、右手に魔力を集中する。タイミングはすでに掴んでいる。


「やあぁッ!」


 全神経を集中させ、水瀬の身体を流れる魔力を感じとる。

 胸を狙っての刺突が来る……ものすごい速さだが、タイミングや来る場所がわかっていれば、経験の浅いおれでもかわすことはできる。

 『イーグル•アイ』を使い続け残りの魔力が少ない今、おそらくこれが最後の一発……。高密度に収束させた電撃を杭状にし、撃ち込むイメージ。これが二人でつくりあげた必殺技その二——


 低い前傾姿勢で踏み込むと、水瀬の刺突が右頬をかすめる。おれの右手は、攻撃の瞬間に生じた魔力のわずかな綻び……彼女のみぞおちへ吸い込まれるように向かっていき……


「はあぁッ!(『プラズマ•ステーク』だ!!)」


 ズドンッ!


 『プラズマ•ステーク』が水瀬の防壁を貫通して直撃し、彼女の膝が崩れ、ダウンする。が、


「あ…れ……?」


 なぜかおれも同時に膝をついていた。

 右脇腹を見ると、水瀬の左手に水の短剣が握られ、突き刺さっている。かわされると悟った瞬間、瞬時に右手のブレードを解除し、左手に発動し直したらしい。

 ……とんでもない早業だ。


「すごい……こりゃ気づかないや……」


 ダウンした水瀬のVR体は消滅し、控え室に転送される。なんとか勝利はしたが、おれも長くは持たないだろう。

 試合場でまだ九条と戦っている優花さんを見やる。彼女は少しだけ、おれに向けて微笑んだような気がした。

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