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第七話 模擬戦一試合目〜鷹の目〜

 試合場の所定の位置につき、第一試合開始の合図を待つ。最初の相手は、佐藤力也さとうりきや関吉彦せきよしひこ。チーム名は『アメロード』だ。


 優花さんの情報によると、佐藤は炎魔法の使い手で威力の高い火球を得意技としており、関は様々なタイプの氷魔法を使うテクニカルタイプだ。

 ちなみに、二人の衣装は学ランだった。


「作戦どおり、コウ君が探知でサポートして、私が攻撃。いいわね?」


「わかった」


 ビーッ! 試合開始のブザーが鳴り響き、双方相手の方に向かって走り出す。と同時に、優花さんが風魔法で前方に砂ぼこりを巻き上げて煙幕を張る。

 二人で遮蔽物に一旦身を隠し、優花さんは魔法のチャージをはじめる。一方、おれは探知魔法を発動。


「コウ君……『イーグルアイ』を発動したのね?」


 優花さんの目がきらりと光る。予めセリフを用意していたのかもしれない。


「そんな大層なモノじゃないんだけど……」


 優花さん命名のおれの必殺技(魔法)その一、『イーグル•アイ』——これまで漫然と使っていた魔力探知だが、彼女のアドバイスに従い、範囲や方向を調節できるよう訓練した。使用中は魔力を消費し続けるため、連続使用はできないのが難点。


 今使用しているのは、『イーグル•アイ•長距離ロングレンジ』。範囲を半径約二十五メートルまで広げたものだ。精度は距離に反比例するため、探知できるのは大まかな位置と魔力くらい。

 そろそろ二人が探知範囲に入ってくる頃かというところで……


「十時の方向、距離約二十五メートルに感あり!」


「了解……! ここは『アーク•スマッシャー』で」


 優花さんの手のひらから三本の魔力エネルギーが空に放たれると、それらは遮蔽物を飛び越えて弧を描き……ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ! おれが示した位置付近に着弾して爆発する。それと同時に、おれたちは少し離れた隣の遮蔽物にすばやく移動する。


「直撃せず目標は健在。爆風に巻き込まれていくらかダメージは負ったみたいだけど、まだピンピンしてる」


「このくらいで倒せるとは思ってないわ」



「出てこい深瀬!! 俺とサシで勝負しやがれ!!」


 と、まだ収まらない砂埃の向こうで佐藤が喚き散らしている。


「ふむ……。僕の予想では、攻撃能力のない深瀬君はコソコソしながらサポートに徹し、攻撃は全面的に霞さんに任せる作戦でしょう。全く……同じ男として情けないですよ」


 関は眼鏡のズレを直しながらそう言った。



 クラスの憧れの的、優花さんと同じペアになり、そのうえ親しげにしているポッと出の転校生への嫉妬は凄まじいモノだった。おれは意識してクラスメイト(特に男子)の目につく状況で作戦会議や訓練を行うようにしていた。

 ヘイトを敢えて稼いでおれに攻撃を集中させ、優花さんがその隙に叩く。それが一人で密かに立てた作戦だった。



「ちっ……! 壁の向こうで霞さんと深瀬のヤローが一緒にいると思うとイラつくぜ……!」


 そこへ、優花さんの『アークスマッシャー』がもう一発炸裂する。


「うぉッ!?」


 おれたちは再び爆発と同時に別の遮蔽物へ移動する。


「……くそったれ、こっちも移動してるのに、なんで場所がわかるんだ!?」


「佐藤君、忘れたんですか? 深瀬君は自己紹介のときに探知魔法が得意と言ってたでしょう?」


「モブのセリフなんて覚えてねーよ! ちっ、コソコソと陰気くせー魔法だぜ」


 関はメガネを上げながら冷静に提案する。


「なら、炙り出してあげましょう。君の火球の威力ならば、それが可能なのでは?」



 二人のうち、どちらかが魔力をチャージしているのを感じる。デカいのが来るな……。

 直径二メートルはあろうかという巨大な火球が放たれ二つ隣の壁に接触すると、轟音とともに爆炎が上空へ舞い上がり、壁は木っ端微塵になった。これは佐藤の炎魔法だ。


「遮蔽物を全部破壊するつもりね。さすがに威力は高い……」


 少しずつ二人は近づいてきているようだ。おれたちが身を隠す場所を無くし、接近して叩くつもりらしい。


 隣の壁も破壊された。ここまで熱気が伝わってくる。次はおれたちがいるこの壁を狙うに違いない。


「優花さん、聞いてくれる? 考えがあるんだ」


 佐藤が三たび魔力をチャージする。


「次はあの壁を吹っ飛ばしてやる! くらえぇ!」


 佐藤は三度目の火球をこちらに向かって放つ。おれは壁から少し距離を置いて身を低くし、優花さんに覆い被さる。


「火球がくる! 備えて!」


 前回と前々回同様、火球は壁に当たって爆発し、それを粉々に吹き飛ばした。壁が消滅し、炎が空へと舞い上がる。


「はは! 見つけたぞ深瀬ぇッ!」


「優花さん、今だ!」


 おれの影から姿を現した優花さんは、すでにチャージを終えていた。そして


「! いけません、佐藤君!」


 関が叫ぶが、もう遅い。


「『エアリアル・バースト』!!」


 優花さんの両の掌から、ダウンバーストにも似た風のエネルギーが一直線に佐藤を襲う。火球を放った直後で無防備状態だった佐藤はモロにそれを喰らうかたちとなり、壁まで吹っ飛ばされダウンする。


「ぎゃッ! …。…………」


 おれの思ったとおり、佐藤の火球は見かけと威力は凄まじいが、魔法の特性なのか未熟さゆえか不安定で、ある程度の強度の物体に接触すると魔力が乱れ、形を維持できずに爆発するようだった。

 結果、炎は上昇気流により、上へ向かう。つまり、壁からある程度距離を取って姿勢を低くしていれば、爆発のダメージは最小限に抑えられる。おれは優花さんに覆い被さるような姿勢をとり、飛んでくる瓦礫の破片を盾となってその身に受けたのだ。


「まずは一人……! ……コウ君、大丈夫?」


「かなり痛いけど、痛覚マックスで随分しごかれたからね。このくらいはなんともないよ」


「ち……、デクノボウが……。やはり威力だけのパワーバカでしたか。しかし、これでもう隠れ場所はありません。霞さんとの一対一は分が悪いですが、やれるだけやらせてもらいます」


 おれのことはまるで戦力としてカウントしていないらしい。彼はすでにおれたちから五メートルほどのところまで距離をつめていた。


「……怖いのか? 関」


 ピクッ


「なに?」


 おれは、関にだけ聞こえる声で話しかける。


「かかってこいよ。優花には手出しさせない」


 こんなキャラじゃないけど、どうせヘイトはマックスに達しているんだ。

 クラスメイトから嫌われることよりも、勝って優花さんに喜んでほしい気持ちが強かった。


 ピクピクッ


「優花……だと?」


 すぐにでも飛びかかってきそうな気配の関だったが、眼鏡のズレを直しながら、冷静になった様子で言う。


「……ふん。君など放っておいても何も怖くない。僕と霞さんの間に入ってこないでもらいたい。……いきますよ! 霞さん!」


 関は己を鼓舞するようにそう叫び、優花さんのほうを見たまま、ノールックでおれに向けて氷の刃を飛ばしてきた。


「やはり君だけでも落とさせてもらいます! でないと、僕の気が済まない……!」


 かかった。発動のタイミングを探知し、氷の刃をかわす。それは背後で地面に突き刺さり、氷柱を形成する。


「よく避けましたね! これはどうです!?」


 今度は多数の氷のつぶてが迫ってくる。しかし、それより先に背後からの気配を感知し、おれは横にとびのく。


「バカな!?」


 下に目をやると、背後の氷柱から、足元まで氷の絨毯が伸びていた。……こんなこともできるのか、捕まっていたら危なかった。


 『イーグル•アイ•中距離ミドルレンジ』——探知範囲を半径約七mまで絞り、探知精度を上げた。そして……


「『エアリアル•バースト』!」


「くっ、そおおぉ!」


 関はタイミングを合わせた優花さんの魔法によって吹き飛ばされ、ダウンした。


 パンッ! どちらからともなくハイタッチ。


「優花さんナイスタイミング! ……まぁ、最後は優花さんだけでも勝てたと思うけど」


「そんなことない。私じゃ、背後からの攻撃には気づかなかったと思う」


 関が挑発に乗ってくれたおかげもあるが、早々に実力差を考慮して優花さんとの正面対決を諦めてくれたのが大きかった。



「余裕だったな」


 パン! 試合場の通路で、カオルともハイタッチ。


「そうでもないよ。連携されてたらこうはいかなかった。優花さんはともかく、おれはヒヤヒヤしてたよ」


 実際、探知魔法の連続使用は魔力の消費が激しく、余裕はあまりなかった。


「挑発して敢えて囮になる……ヘイト作戦、てところか。だが、俺たちには通用しないぞ」


「気づいてたんだ……。まぁ、優花さんとペアになった以上簡単に負けるわけにはいかないからね」


 通路で話しているところへ、佐藤と関のペアが通りがかる。


「……ち」


 佐藤は露骨に不機嫌そうだが、関はというと……


「ヘイト作戦……ですか。なるほど、まんまと引っかかってしまったというわけですね」


「……不快な気持ちにさせてごめん」


 一瞬の間の後、眼鏡を直す関。


「いえ、単純な罠にかかった我々が悪いのです。的確な判断力、それに、最後の回避も見事でした」


「けっ! 手段を選ばねぇやつ……! おれは認めねえからな。タイマンなら負けねぇ。次は叩きのめしてやる」


 そう言ってその場を離れようとする二人。おれはふと思い出して、二人の背中に尋ねる。


「そうだ、これだけ聞いておきたいんだけど……」


「……んだよ?」


「二人のチーム名って、もしかしてあの漫画の極大魔法が元ネタ?」


 佐藤は振り向くと、少しだけうれしそうに笑って、こう言った。


「そうだよ。未完成で命拾いしたな」




 その光景を、少し離れたところで見ていた優花と早苗。


「いい……」


「え? 何が? 優花ちゃん」


「あ、えっと……男同士の友情……ううん、強敵ともとのこういうやり取り、いいな、と思って……」


「え〜、暑苦しいだけだと思うんだけど……」


「そ、そんなことない! ……と、思う。早苗ちゃん……やってみてくれない?」


 「えっと……」と言ってから、早苗は脚を開いて腰に手を当て、優花をビシッ! と指差す。


「……。お、おれ以外の奴に負けることはゆるさんからなッ! お、お前はおれのものだ! とか?」


「……うん」

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