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エピローグ〜彼女は彼で彼は彼女で〜

 目を覚ましたときは市民病院にいて、最初に見たのは優花さんの泣き顔だった。

 気がついたカオルがみんなを回復し、病院まで運んでくれたらしい。すぐに意識が戻らなかった俺は、そのまま入院となった。


 調査に来た技研のエンジニアによって、吉岡佳織と鬼頭凛がVRの筺体で死んでいるのが発見された。先の交流戦での何者かによるウィルスプログラムの混入事件と合わせて、連日報道番組で取り上げられている。相澤と風間、そして鬼頭蓮の意識は、まだ戻っていない。


 西分校の四人と交流試合をしていた俺たちは、後日、警察から聴き取り調査を受けた。

 しかし、ウィルスプログラムは技研のエンジニアにも解析できず、非常に高度な知識によって生み出されたものであったらしく、俺たちを疑っているような様子はなく、同じ被害者として気遣ってくれているような感じだった。


 浮岳と俺たちの戦いは、人知れず始まり、そして終わりを迎えた。



「ラスボス撃破と優花ちゃん復活、そしてコウ君の退院に乾杯ッ!」


 『スライディング•テーエン』で、いつものように早苗が乾杯の音頭をとる。

 

 俺はすべての魔力、いや、全生命すらあの刃に込めたつもりだった。

 浮岳とともに俺の魂も一緒に消滅していくような実感すらあったのに、今こうしていられるのは、ユーカが助けてくれたからかもしれなかった。


「ごめんなさい……。みんなが私のために戦って傷ついていたのに、ほとんど覚えてなくて……」


「友だちだもん! 当たり前だよ! それにユーカとも仲良くなれたし……」


「……ユーカはもういないのか?」


 俺は最後の攻撃のとき、浮岳、そしてユーカと優花さんの魂を探知し、浮岳の魂だけを切り離すようにそれを放ったつもりだった。


「ごめんなさい、私にはわからない。……でも……」


 優花さんは伏せていた顔をあげて、俺たちの顔を見る。


「浮岳に取り込まれたとき、ユーカはずっと私を守ってくれていた。……最後のときも、私を守るように包んでくれていた気がする」


 そうはっきりと口にした。


 もしかしたら、ユーカははじめから浮岳とともに消えるつもりだったのかもしれない。


「あたしも、ユーカが優花ちゃんの魂を守ったんだと思う……。……ぐすっ……ユーカに献杯……だね」


「乾杯と献杯を同時にやるやつがあるかよ……」


 はじめはユーカとウマが合わなそうに見えたカオルだったが、どことなく寂しそうだ。


「浮岳のことだけど……俺の地元にまで手が伸びていた。きっと、他にも残っている奴がいるんじゃないかと思う。ユーカがいなくなった今、優花さんを狙う理由もなくなったとは思うけど……」


 俺の存在に気づけば、接触を図ってくる可能性もあるかもしれない。


「そのときは、あたしたちもまた戦うよ!」


「……そうだな」


 優花さんが頷く。


「今度は……私も戦う」


 浮岳は、本気で歴史を変えようとしていた。接触した俺にはそれがわかる。時間さえかければ、それができたはずだ。

 それなのに、あのとき転移魔法で逃げなかったのはなぜだろう。単純に俺を取り込みたかったというだけだったのか。


 早苗とカオルが席を立ち、ドリンクバーへ向かう。


「コウ君、ごめんなさい……。こんなに傷ついて」


「いや、このくらいで済んでよかったよ。本当に……戻ってきてくれてよかった」


 それなのに、わずかに景色が歪む。


「……すでも、やっぱり寂しいんだね? ユーカがいないから……」


「あ、いや……」


 俺は慌てて顔を下に向け、ハンバーグを口に運ぶ。


「……ごめん。君を取り戻すための戦いだったのに。……世界がどうとかなんて考えなかった。俺はただ優花さんを」


「……コウ君?」


「ん?」


 俺が顔を上げると、優花さんは俺の頬に唇を触れさせた。


「んむッ……!?」


 彼女は一瞬で唇を離したが、顔はまだすぐそこにある。俺の心臓の鼓動が、遅れて早くなる。


「ゆ、優花さん……?」


「……。おえっ……! 初めてだぜ。男にキスなんかしたのはよ」


 ……。


「……よぅ」


 この反応、まさか……


「ユーカ!?」


「しばらくぶりだな、コウ」


「い、いつからお前だったんだよ!?」


「あ? 気づいたらキスしてたよ」


 ……なんてことだ。いや、それよりも……


「無事だったのか……でも、なんで……?」


「……さぁな。オレの魂は、たしかにお前の魔法で浮岳とともに消えたはずだった。でも、こうなっちまってるのは事実だ」


 そう言って、ユーカは俺をじーっと見る。


「……案外、またお前に引かれたのかもな」


「え?」


 声が小さくてよく聞き取れなかった。


「……なんでもねーよ」


「あ……! でも優花さんは!?」


「安心しろ。ちゃんとここにいるさ。前よりもはっきりと感じている。そのうち出てくんだろ」


 俺はほっと安堵のため息をつく。


「そうか……よかった……」


 そのとき、ユーカが少しだけ眉をひそめたように見えたのは、気のせいだったろうか。


「あ、でも……」


「……! 優花さんに何かあったのか!?」


「……いや。なんか怒ってる気がする。いいところでオレと交代しちまったせいか?」


 俺は慌てて言う。


「そ、そうだよ。頬とはいえ、はじめてだったのに……。それがユーカ……男とだなんて……」


「あ? いつオレが男だっていったよ」


「え?」


「オレ、女だぜ?」


 …………。


「責任取って、浮岳のヤローが来たらまた守れよな」


「はああぁッ!?」


「なーんてな。へへ、『スライディング•テーエン』とは、またいいタイミングで目覚めたもんだぜ。さーて、オレもドリンクバー行ってくるかな」


 そう言って、ユーカはグラスを持って早苗とカオルのほうへ走っていった。

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