第二十九話 浮岳明彦その三
双子の妹、鬼頭凛が立ち上がり、膝をついたユーカたちのほうに近づいてくる。
「あなたたちと同じように、一網打尽作戦を使わせてもらったわ」
カオルはユーカと早苗の二人に両手を向け、回復をしようとするが……
「動くな」
「ちっ……!」
三人ともダメージを受け、挟み撃ちにされた今は蓮たちに従うしかない。早苗は鬼頭兄妹を交互に見て言う。
「鬼頭凛さん……? なんで……!」
「まさか……魂を分割しやがったのか」
それに対し、蓮が答える。
「仕方ないだろ? 君が僕を拒んだんだから。探し出すのにどれだけ苦労したと思う?」
「二百年よ……? 一人では探し出すのに限界があったからね」
「魂を分割だと……?」
「……ああ。こいつらは二人とも浮岳自身ということさ」
ギリッ……!
「だが、そんなことをすれば確実に精神に異常をきたすはずだ。しかもそれぞれが長年転魂を繰り返してきたとすると、それはもうほぼ全くの別物……ただ執念で動くだけの、ツギハギの亡霊だ」
ユーカは双子の姿を見ながら吐き捨てるように言う。
「そうまでして兄妹のおままごとがしたかったのか?」
「ふ、相変わらずだな。言わなくてもわかっているくせに。……今度こそ、お前の力を僕のものにしてみせる」
「肉体をいただいて、ね?」
「ちっ……、やはりそれが狙いか。だが、ここは仮想空間だぞ。一体何がしたい?」
蓮と凛がじりじりと近づいてくる。
そのとき早苗が地面に両手をつくと、駐車場の砂利だったものが一斉に宙に舞い上がる。蓮と凛はその身に砂利を受けるが、ユーカたちはシールドで足元をガードする。
「くっ……悪あがきを!」
ユーカたちは双子の間から抜け出し、念話の打ち合わせどおりの位置に移動する。
鬼頭蓮VSユーカ、鬼頭凛VS早苗&カオルの構図ができあがる。
「そうか、お前には念話……『旋律があったな」
「二百年ぶりで忘れちまったか? クソジジイ」
ユーカが風魔法を利用した大ジャンプで水路を飛び越えると、蓮は鎖魔法をロープのように使い、それを追いかけた。
「二人がかりとはいえ、ただの学園生が私に敵うと思う?」
「やってみなければわからない」
「そうよ! それに、あんたみたいなのは許せない! ……やるよ、カオル!」
早苗が駐車場の砂利だったものを魔力で浮かせる。
「『フォーリング•スター』!」
無数の砂利が凛に襲いかかる。
ガガガガガッ!!
それらは地面に激突し、埃を舞い上げた。凛はシールドを張って凌いだようだ。
その隙に、後ろに回り込んでいたカオルが凛を羽交締めにする。
早苗は石畳のホバーボードだったモノに乗り、地面スレスレを凛に向けて滑空する。
「くらえッ! 『グライディング•スパローッ』!!」
早苗はボード上から離脱。カオルに拘束され、確実に凛にそれが激突すると思われた。
「……!」
だが直前、凛は拘束を解いてカオルの巨体を投げ飛ばし、紙一重でボードをかわす。
ボードは凛をスルーして上昇。空の彼方に消えた。
凛の左腕は脱臼し、だらんと垂れ下がっている。彼女は左肩を逆の手で押さえ、ゴキンッ! という音を立てて関節を入れた。
「な……なに、こいつ」
「……ち、馬鹿力め。他人の肉体だから手荒に扱ってもかまわないということか」
バシュッ!
光の剣が背後から飛び、早苗の両脚を傷つけた。
「あぐっ!」
「早苗!?」
その場に膝をつく早苗。凛は不気味に笑って早苗の背後を指差す。
「予め置いておいたのよ。そこにね」
ユーカと蓮は、水路の向こう側で激しい戦闘を繰り広げていた。
「どうした!? 騙し討ちでなきゃそんなもんかよ!」
「ちっ……。転生体の少女……さすがの魔力量だな……!」
「オレが手加減なしでこいつの魔力を使ってやれば、老いぼれた貴様くらい、わけねえぜ!」
ユーカは魔力をチャージし、一気に勝負を決めようとする。
「くらいやが……! ……ッ!?」
ドーンッ!
ユーカの手からは魔法が放たれず、その隙に蓮のカウンターをくらい、壁に叩きつけられる。
「ぐ……なぜ急に魔法が使えない……!?」
ジャララララッ! 蓮は地面から出した鎖魔法でユーカを拘束する。
「……くっ!」
「まったく……思ったより時間がかかったな。少し危なかったよ」
「何をしやがった……!」
「ちょっと外からプログラムを流してもらったんだよ、君の魔力に干渉するプログラムをね。……吉岡が技研でデータを得ていたから」
「なんだと……?」
蓮はユーカに近づき、顎を手であげる。そして囁くように言った。
「……遂にこの時が来た」
ユーカの様子に気づいた早苗が、凛と戦闘を続けているカオルを呼ぶ。
「カオル!! ユーカが危ない! あたしのことはいいから……ユーカを助けて!!」
「あなたにできる? その子を見捨てることが。……できないわよねッ!?」
「くっ……!」
ここを離れては早苗がやられる。しかしこのままではユーカが……。
カオルは葛藤していた。
「カオルーーーッ!!」
「くっ……そおおぉ!!」
ユーカは鎖で身動きが取れず、魔法も使えない。鬼頭蓮——浮岳明彦はユーカの顎を掴み、目を見つめている。
「……はなしやがれ。醜い寄生虫野郎……」
「お前も似たようなものだろうが?」
薄れゆく意識の中で、ユーカは誰にも聞こえないような、小さな声で呟く。
「……お前たち……巻き込んですまなかった。……コウ……ッ……!」
ユーカが言い終わったのと同時だった。蓮のカラダが突然横に倒れ、その後ろから人影が現れた。
「ッ……! コウ……ッ!」




