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第二十六話 流れを遡れ

 仮想空間の風景が、レトロゲームのバグった画面のようになっている。

 

「コウ! 何が起こっている!? 探知しろ!」


「もうやっている。はっきりとはわからないけど、仮想空間そのものが不規則に乱れている感じだ……」


「全員、VRから出るぞ! 何かまずい!」


「あれ!? ディスプレイに『終了』ボタンがない……ていうか、これの表示もぐちゃぐちゃだよ!」


 西校の生徒も手のひらにディスプレイを表示させるが、早苗のものと同様、文字化けして表示がめちゃくちゃだった。


「なんなんだよ……これ!」


 相手チームのひとり、風間慎がディスプレイを手当たり次第タッチする。


「待て! うかつに触るな!」


 ユーカが警鐘を鳴らすが、遅かった。風間のVR体は電撃を受けたように痙攣したかと思うと、ノイズとともに空に霧散した。


「風間!」


 相澤が駆け寄るが、もう風間は影も形もなかった。戦闘不能で転送されるときとは違う、ふつうの消え方ではなかった。鬼頭兄妹は混乱している様子だ。


「風間君……? いや、いやぁ!」


 一同に緊張感が漂う。


「コウ……他に何かわからないか?」


 森でのサバイバルを経験した今なら、VR空間内もエーテルのような粒子で満たされていることがわかる。俺は探知感度を高め、目を細めて空間を凝視する。


「……微かに魔力の流れが視える……。その先が出口かもしれない。同時に、流れに乗って何かが空間に干渉している気がする」


「敵は外……か。よし、早苗、コウを乗せて出口を探せ」


「わかった! ……よかった、魔法は使えるみたい。コウくん、乗って!」


 ボードに乗り、早苗の肩に手を置きながら気になっていたことを伝える。


「それともう一つ……なんだか皆のVR体の存在感が強くなった気がする。痛覚の設定を高めるとか、そういうのとは全然違う。注意したほうがいいと思う」


「ああ。外の方は任せたからな」


「早苗、コウをふり落とすなよ」


「カオルほど重くないから平気だよ! ……それじゃ行くよ、コウくん!」



 早苗のボードに乗り、上空から街だったものを見下ろす。


「早苗、空も飛べるなんてすごいね。バグってない風景を見たかったな」


「……コウくん、結構落ち着いてるんだね」


 ボードの上で早苗が後ろを振り返って言う。


「そうかな」


「うん。それより、どう? 何か見える?」


「……。あそこ、崩れたポリゴンのようになってるけど、動いているところが見える?」


 魔力の微かな流れは、あの辺りから外側に流れ込んできているように見えた。わずかに乱れを感じる。


「わかるよ。そこに降りればいいんだね?」


「うん。きっと、あそこから外につながっている」


 俺たちを乗せたボードは、旋回しながらその場所に降りていった。



 そこは茶色の大きな立方体に、緑色のフラットな空間が隣接している場所だった。所々に青や黄色のオブジェが配置されている。

 奥に水色で波打っている無数の小さな立方体があり、中心からそれらが生成されているように見える。色や物体の配置からして、公園として設定された場所かもしれない。


 二人で緑色の広場に降り、しばらく探知をしながら魔力の流出源を辿ると……


「……池みたいなやつの真ん中。立方体がつくられている場所だ。たぶん、あそこから外に繋がっている」


 水色の小さな立方体が水だとすると噴水かもしれない。


「早苗、近くで探知してみる。ユーカに報告をお願い」


「ごめん、コウくん……、これだけ離れるとあたしにはできないや」


 ユーカたちの場所からは三百メートルほど離れただろうか。これでは……

 

「あ、ごめん。俺も微妙な距離だった。それじゃ、とにかく探知してみるから少し待ってて」


 俺は池らしきグラフィックの中を進む。足をつけると、冷たさを感じ靴とズボンが濡れる。やはり池のようだ。

 噴水にたどり着き、その流れに手を触れ、探知を開始する。


 ……。やはり外から流れてくる力を感じる。それが魔力なのか、データ上のプログラムなのかはわからないが、ここが外に通じているという確信があった。しかし……


「……早苗。ここから外に行けるのは、たぶん俺だけだ。奥まで探知してみたけど、外までの道筋といえばいいのかな。迷路のように複雑に入り組んでいるみたいだ」


「そっか……。それじゃあたしは……」


「二人のところに戻ってこのことを報告して。外は……俺がなんとかしてみせる」


「……わかった。よろしくね! コウくん!」


 早苗はそう言うと、ホバーボードに乗って二人のところへ戻っていった。


「さて……今の俺にできるかどうか」


 やるしかないか……これまでもそうしてきた。


 俺は改めて噴水に手をかざし、自らの魔力をそれに同調させる。そして外界から感じる何かの気配を探知し、流れを遡りはじめた。

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