第二十五話 交流戦、開始
夏休みが明けてから、おれは五日間欠席していたのだが、ユーカ達が上手くやってくれたのか、先生に深くは聞かれなかった。岬の事件のこともあり、気遣ってくれたのだろう。
結局、あの襲撃はカップルを狙った男の無差別な暴行事件として扱われているということを聞いた。
そして迎えた交流戦当日。西校第二学年の生徒八名が到着し、講堂で自己紹介をした。
「それでは、先ほど伝えた対戦チーム同士、あいさつをしてください」
春日先生が促すと、あいさつがはじまる。
おれたちと交流戦を行うチームは、相澤正樹、風間慎、鬼頭蓮、鬼頭凛の四名だ。
「今日をずっと楽しみにしていました。よろしくお願いします」
チームリーダーらしい相澤があいさつをする。
風間は少しキザな雰囲気、鬼頭は双子の兄と妹らしく、瓜二つだ。
講堂からVRルームへ移動する間、ユーカは小声で俺に確認した。
「どうだ? 怪しい奴はいたか?」
「わからないけど、少なくとも岬の男と同じ魔力は感じない」
「そうか。とにかく、お前は引き続き探知を怠るなよ」
VRルームに着くと筺体に入り、仮想空間へダイブする。
おれはVR体が仮想空間に転送されたあと、辺りを確認する。蔵のある建物が両脇に立ち並び、川が流れている。少し離れたところに、市役所のような建物と立体駐車場が見える。相手チームの姿は見えない。
「市街地か……模擬戦の闘技場とは全然違うんだね」
そう呟くと、カオルが説明をする。
「風景は奥まで作り込まれているが、実際の広さは直径五百メートルほどの円形だ」
「端っこには壁があるんだよ。ほら」
早苗の言葉に後ろを振り返ると、確かに薄緑色の透明の壁が広がっている。
「なるほど」
「……なんじゃこりゃあ!」
何やらユーカが騒いでいる。
「こんな服着れるか! 髪もほどけちまってるし!」
優花さんの魔法少女風VR衣装だ。それを見下ろしてプルプル震えている。
「あ、そっか。衣装設定は優花ちゃんのIDに紐付けられているから……」
「でも、ユーカだって模擬戦の様子見ていたんだろ?」
「……服のことまで考えてねーよ。こっちは生命かけた戦いをしてるんだぜ!」
「……似合ってる」
「カオル……気づいてて言わなかったな!?」
ビーッ! 開始のブザーがなる。
「くっそ〜……」と言いつつ、ユーカは渋々気持ちを切り替えることにしたようだ。腰にささったステッキには気づいていないようだった。
「相手チームには悪いが、交流戦はさっさと終わらせるぞ。敵がどう出てくるかわからないからな」
ユーカの言葉に、一同は頷く。
「コウ、探知はどうだ?」
「まだ何も引っかからない。相手チームは二百メートル以上離れてると思う。模擬戦の時と同じで、両チームとも円の端からスタートなんじゃないかな」
「……だとすると、おそらくあの立体駐車場が円の中心付近だ。まずはあそこへ向かう。コウ、探知したらすぐに知らせろ」
ユーカがそう言うと、一同は立体駐車場を目指して駆け出した。
少し進んだところで、おれは相手の位置を探知する。
「この先、二百メートルほどのところにいる。相手も四人まとまっているみたいだ。こちらの方に向かっている」
「よし……。早苗、ありったけ弾丸を調達して立体駐車場の屋上に陣取れ」
「オッケー!」
ドゴッ! それを聞いたカオルは手近にある石塀を細かく破壊し、早苗の弾丸を作成する。
カオルの拳は傷つき血が流れるが、即座に治癒していく。訓練により身につけた自動回復魔法だ。
細かくした破片の他、地面からひっぺがした大きめの薄い石畳を早苗に渡す。
「それじゃ、行ってくるね!」
早苗は石畳の上に乗ると、SF映画のホバーボードのように浮き上がらせ、屋上に向かって飛んでいった。
「……もうなんでもありだな」
感想をもらすと、ユーカが言う。
「地獄の特訓の成果ってやつだ。なぁ? カオル」
「……」
カオルは黙っているが、なんとなく頭が上がらない様子が伝わってくる。
早苗はすぐに屋上に到着し、念話でユーカに付近の情報を伝えたようだ。
「早苗によると立駐の向こう側に砂利の駐車場がある。そこに奴らを誘導するぞ。タイミングを見て、『フォーリング・スター』で一気にカタをつける」
「わかった。遮蔽物の多い場所は不利と思わせるようにして、開けた駐車場に誘導しよう」
「了解」
「さっさと終わらせるとは言ったが、極力オレは手出ししない。どこかで見ているかもしれない敵を油断させておきたい。それに、お前らだけでもそれはできるはずだ」
おれたちは、三手に別れて相手チームを三方から囲むように移動した。三人とも相手チームを視認。全員、西校のダークグリーンのブレザーをアレンジした衣装で統一されている。
『よし。コウ、引き続き奴らの位置を逐一オレに報告しろ。そのままカオルに伝える』
物影から突然現れたり攻撃をしかけながら、敢えて手薄にして残した逃げ道に誘導していく。相手チームも応戦するが、神出鬼没のおれたちの攻撃に手を焼いているようだ。
途中、彼らの話し声が聞こえる。風間と鬼頭凛だ。
「くそ! まるでこちらの位置が初めからわかっているような動きだ……!」
「探知できる人がいるのかも……」
次に、鬼頭蓮とリーダーの相澤。
「リーダー。こう見通しが悪い場所は不利だ。開けたところに出たほうがいい」
「……よし、さっき通ったところに駐車場があった。そこに戻ろう」
彼らをまんまと駐車場に誘導した。その後は、徐々に駐車場の中央付近に四人が集まるように三方から攻め立てる。
いくら攻撃しても破れないユーカのシールド、ダメージを受けたそばから傷が治癒するカオル、そして、すべての攻撃をかわすおれ。
イラついた様子で、風間が声を荒げる。
「くそ! なんなんだよ、コイツら! チートじゃねえのか!?」
相手チームからしたら、悪い夢でも見ているような気分だっただろう。そのくらいは驚いてもらわないと、地獄の特訓をした甲斐がないというものだ。
『今だ! 散れ!』
早苗の『フォーリング・スター』が来る。そう思い、距離を取ったときだった。
一瞬、カラダがビリッと痺れるような感覚とめまいに襲われ、頭をおさえる。
他の三人と相手チームを見ると、全員同じ症状に見舞われたらしかった。
「なんだ、今の感覚は……!」
ユーカとカオルも顔をしかめていたが、辺りを見て、その表情は驚きに変わる。
すぐにユーカが早苗を屋上から呼び戻し、ホバーボードを降りた彼女が言う。
「な、何……これ……! 景色がぐちゃぐちゃだよ」
それまであった街並みが、幾何学模様とノイズで埋め尽くされている。昔、父親がやっていたレトロゲームのバグった画面のようだった。




