第二十一話 スキルツリー
交流戦に向けての準備……
「俺たちを徹底的に鍛える、という話だね」
三人の視線がユーカに集まる。
「そうだ。その前に、少し座学といこうか。おい、早苗」
「なに?」
「お前、空中に石を固定して足場にしていたよな。あれ、お前と石の間で魔力がどう作用しているか説明できるか?」
「え?」
早苗は持っていたカップをテーブルに置き、腕組みをして天井を見上げるが、やがてアタマをかきながらこう言う。
「えへへ、わかんない。なんとなく『動くなよ、絶対動くなよ』って念じてたらできるようになったというか」
「お前よくその念じ方で固定できるな……まぁいい。石を空中に固定してるとき、触れていないのにそれができるのはどうしてだと思う?」
「え? え? わ、わかんない」
俺とカオルも一緒になって考える。ユーカがこういう聞き方をするときは、俺たちに何かを気づかせようとしているときだ。
触れていないのに、離れたところに魔力が作用するのはなぜか……。
「……早苗と石の間に、魔力を伝達する何かがあるから?」
「そうだ。その何かとは、なんだと思う? カオル」
「……。空気とか、水分とかか?」
「ちがう。だがそれらと同じく、そこら中に存在しているものだ。今、このファミレスの中にもな」
「……魔力の粒子?」
俺はあの夜、襲撃者の魔法防壁を構成する魔力が粒子のように見えたことを思い出し、口にした。
「そうだ。魔力そのものの粒子。オレのいた時代ではエーテルと呼ぶ」
三人は同時に辺りを見回す。といっても、それを視認できるわけではないのだが。
「魔力はなにも人間の魔法使いだけが持ってるわけじゃない。それが顕在化しているか、そうでないかだ。世の中が便利になるにつれ、使い手は激減したがな。昔は別に珍しくもなかった」
魔法学校も、かつてはもっとたくさんあったと聞いたことがある。
「ともかく、この中でエーテル粒子が見える可能性があるのは探知に全振りされてるコウだけだ。だが早苗が無意識でやっているように、それを利用することは誰でもできる」
ユーカはジュースを一口飲み、先を続ける。
「そして、その技術は意識して訓練すれば格段にレベルアップする。例えば早苗の投石の軌道を途中で変えたり、カオルが離れた対象を回復したりな」
早苗とカオルの目が見開かれる。無理もない。学園ではそんなこと一切教わらないのだから。
「コウ、お前は『イーグル•アイ』を使うとき、範囲の調整をどんなイメージでやっている?」
「それは……自分から出る魔力を伸び縮みさせて……」
そこまで言って、ハッとする。
「気づいたようだな? お前がやってるのは、せっかくすばらしい長距離対応のBluetoothがあるのに、わざわざ消費電力が高い、何十メートルもの有線マイクをスピーカーに繋いで使っているようなものだ。だからすぐ魔力切れを起こすんだよ」
病院で俺にやらせたテストは、それに気づかせるためだったのか……。
「省エネで常にアンテナを張っておけ、てことだな」
「そのとおりだ。呼吸をするように、常に周囲のエーテルを感じ取れるようになれ。パッシブスキルに昇華しろ。それができれば、これまで使っていた探知魔法も、比べ物にならないほどレベルアップする」
二百年前の人間なのに、Bluetoothやらパッシブスキルなんて言葉を知ってるんだな……。しかし、十年間優花さんの目を通してモノを見てきたのなら、不思議ではない。
俺はなんとなく優花さんの趣味趣向に気づいてはいたのだが、少し演技がかったユーカの喋り方を見ていると、案外その影響を受けているのかもしれなかった。
「ま、有線の方が精度は高いから、近距離の場合は使い分けだな。とにかく、魔力をそのエーテルに効率よく伝達させて探知すりゃ、消費をぐんと減らせるっつーわけだ」
ユーカが言い終わると同時に、注文したハンバーグが運ばれてきた。店員が目の前でハンバーグをナイフで切り、鉄板の上にのせてソースをかけると、ジュウウウ……と音を立てる。
「鉄板が熱くなっておりますので、ご注意ください」
「キターーーー!!」
それが目の前に置かれ、ユーカが歓声をあげる。短時間でガツガツと一気に平らげ、ジュースをがぶ飲みし、大きなゲップをしてから言う。
「くっそー、お前らずりぃぜ。こんな美味いもの食ってるのをオレは見てるだけだったんだからな」
「もお〜、優花ちゃんの姿でそういうことするの禁止!」
「しっかし、この髪は飯食うとき邪魔だな。カオルみたいな頭にしたいぜ」
「絶対ダメ!」
ユーカは早苗を無視してボタンを押し、やがて店員がやってくる。
「あの……ライスのおかわり、お願いします」
優花さんのフリをしてそう言ったが、すでにすごい食いっぷりと飲みっぷりを複数人に見られてしまっているので、はたして意味があるのかは疑問だ。
……優花さんの人格が戻ったときには、きっと自分の体重の増加に驚くに違いない。
「ふ〜、食った食った」
ユーカはさらにジュースを何杯も飲み、ようやく落ち着いたのか腹を抑えてそう言った。
「では、腹も膨れたところで今後の話をしよう。オレがお前らの進むべきスキルツリーを示してやる」
ゲップをしてから、早苗のほうを見る。
「早苗、お前の持ち味は機動力だ。見かけによらず、魔力の緻密なコントロールも得意なようだな。本能かしらんが」
「ほんと!?」
「だが残念なことに攻撃が単純すぎる。避けろと言ってるようなもんだ。もっと予測不可能な動きで、相手の裏をかくクセを身につけろ」
「う……わかったよ」
「カオルは回復魔法のレベルアップは言わずもがなだ。実戦になったとき、ヒーラーのお前がパーティーの生命線となる。四人がかりでも浮岳の野郎相手に無傷で戦うのは、おそらく不可能だ」
岬での襲撃者相手でもやっとだったのに、浮岳本人はあんなものではないということか……。
「それから、格闘能力のさらなる強化。シールドを貫けなかったとしても、衝撃までは無効化できないし、投げられたり拘束されては意味がない。魔力に頼らない戦い方——それができるのはお前だけだ」
「ああ。わかった」
「そしてコウ。お前、攻撃手段は『プラズマ•ステーク』と『フォトン•ピアッサー』、この二つだけに絞っとけ。他はやるだけ無駄だ。前者をタメなしで常時使えるように、後者は、意識すればいつでも使えるようにしろ」
ユーカはさらに付け加える。
「こないだのように、一時的に無力化するなんてヌルい魔法じゃ通用しない。一撃で魔力の根幹を断て」
たしかに、あれだけ苦労して当てたのに、結局逃げられているのでは割に合わなさ過ぎる……。
ユーカの言うとおり、半端にあれこれ手を出すより、探知とその二つを磨き上げることに集中するべきだと思った。
「それと、優花に使った回復魔法、あれはもう使うな。理由は言わなくてもわかるな?」
あの夜、回復魔法の針を発生させてしばらくすると、指先に激痛が走った。右手に残る痺れも、たぶんあれのせいなのだろうとは思っていた。
「一瞬であればさほど問題はないが、またあれをやったら、最悪、魔法と右手が使えなくなるからな。大体、戦闘時にあんな悠長に回復魔法は使えん」
ユーカの言うとおりだ。第一、敵はこちらの回復を待ってはくれない。戦闘中にあの回復魔法を使うのは、自殺行為に等しい。
「ともかく、回復はカオルに、その他の攻撃手段はカオルや早苗、そしてオレに任せておけ。お前は、探知でサポート。隙あらば一撃必殺を叩き込む。それくらいのつもりでいい」
「……わかった」
「では今後具体的にどうするかだが……早苗とカオル、お前らはしばらくの間、オレが直々に訓練してやる」
「怪我治ってないのに、大丈夫なの?」
早苗が言うように、退院したとはいえ、優花さんの身体はまだ無理ができる状態ではないだろう。
「オレが優花の魔力を使えば、一歩も動かずにお前ら二人を相手にするのはわけない」
「えー、いくら優花ちゃんがすごいと言っても、それはあたしたちを舐めすぎだよー」
「舐めてるのはお前らだ。……どうも優花のやつ、相手を気遣って無意識に手加減してたようだな。模擬戦のときも、ここぞと言う時にはやたら相手を吹っ飛ばすだけの風魔法ばかり使ってただろ? VRなのに」
「……」
全く気づかなかったが、言われてみればたしかにそうだった。
「コウ、どうやらお前は実戦で、それも追い詰められた状況で爆発的に伸びるタイプだ。お前は特別メニュー……楽しいサバイバルの時間だ」




