第二十話 報告
俺は退院して五日目の午前中、寮から一キロメートルほど離れたところにある公園でカオルとスパーリングをしたあと、ベンチで休憩をしていた。
「かなり回避できるようになってきたな」
「昔父親に習った空手を思い出して、動きを取り入れてみたんだ。本や動画も参考にしながらね」
「そっか。格段に動きがよくなっている。打撃も少しずつ当たるようにもなってきたしな」
退院してからは、早朝に早苗と一緒に走り込みを行い、カオルとスパーリングすることを日課にしていた。ほんの数日だが、だんだん走れる距離が伸び、カオルにもほめられ、手応えを感じていた。
「今更なんだけど、早苗も協力するという話はよかったの? また実戦になる可能性もありそうだけど」
「止めて聞くようなやつじゃないからな……」
それならもっと自分が強くなればいい。きっとカオルはそう考えているのだろう。
「たしかに……。回復魔法の訓練はどう? 毎日ユーカのところに行ってコツを教わってるんだろ?」
「ああ。……悔しいが、俺自身みるみる上達していくのを感じている。昨日なんかは、傷の状態や治り具合まで手に取るようにわかったくらいだ。あの時お前が優花に使った魔法ほどじゃないが、ある程度局所的に集中して魔力を当てることもできるようになったしな」
カオルが自分のことを長く話すのは珍しい。やっぱり、ユーカはすごいやつなのかもしれない。
「そっか。今日の午後も病院行くんだよね?」
「ああ。毎日来いと言われてるからな。その割にはいつも寝ていて、起こすと怒るんだが……」
「忙しいのにいつも付き合わせてごめん」
「気にすんな。お前が強くなるほど、俺のトレーニングにもなる」
さて、と言ってカオルは立ち上がる。
「もう一本やっておくか」
「オッケー……!」
さらにその三日後の午前中にユーカが退院し、四人で『スライディング•テーエン』に集まって調査報告と打ち合わせをする。
「予定よりだいぶ早く退院できたね」
「ああ、カオルのやつ、図体に似合わずなかなか回復魔法のセンスがいいぜ」
「ユーカ、退院おめでとう。乾杯……」
「おう、乾杯」
ゴクゴクゴク……
「プハー! うまいな!」
ユーカはドリンクバーの機械で目を輝かせながら作った、怪しい色をしたオールインワン炭酸清涼飲料水を美味そうに一気に飲み干した。
その姿に、はじめてファミレスに来てドリンクバーの値段に驚いていた優花さんを思い出す。
しかし、今はそれよりも気になったことがあった。
「早苗、なんだか元気がないけど、どうかした?」
「うん……それなんだけど……」
早苗がくちごもると、カオルが後を引き継いで報告する。
「……昨日、俺と早苗で技研に行ってきた。礼状を持って直接吉岡さんに渡したいと頼んだんだが……」
一旦、言いにくそうに間を開ける。
「……吉岡さんは、三日前に亡くなっていた」
カオルの言葉は、俺が全く予想だにしなかったものだった。
死んだ……? 見学をしたときの様子ではどこも悪くはなさそうだったが……。ユーカを見ると、彼は腕を組んで何かを考えているようだった。
「受付の職員の様子がおかしかったんで、しつこく聞いたら内緒で教えてくれたよ。突然死だそうだ。自宅で同じ部屋に寝ていた妻が、朝起きて死んでいるのに気づいたらしい」
俺は信じたくないという気持ちがありつつも、吉岡が犯人だとほぼ確信していた。死んだと聞いた時、交通事故か、もしかして浮岳による口封じかと思ったが、まさか自宅での突然死とは……。
「ちなみに、お礼状は案内してくれた広報の田中さんに渡したの。田中さんの様子は何もおかしな感じはしなかったけど……」
「……仕方ねぇ。吉岡の件はオレも調べてみる。いずれにしても、交流会の時に向こうから接触してくるはずだ。この予感がまだ変わっていないってことは、敵はまだいるということだ。お前らは準備に集中しろ」
ユーカの言うとおり、今はそうするのがよさそうだ。吉岡は学園に通っている娘がいると言っていたが、さすがに直接聞くわけにはいかない。




