第十八話 予感
「それが、優花さんを守ることになるなら」
俺が早苗とカオルを見ると、二人とも同意するように頷く。
「もう一度確認だけど、優花さんが戻ってくる可能性はあるんだよね?」
「……私のほうは消えてもいいというのね? コウ君……」
そいつは目に涙を浮かべながら、俺の目を見つめてそう言う。まるで優花さんのように。
「い、いや、決してそういうわけじゃ……」
かと思うと、すぐに元の表情に戻って吐き捨てるように言う。
「けっ、……可能性? オレが知るかよ。『この肉体はいただいた。もう優花の魂は死んだ』と言ったら、お前らそれで諦めんのか?」
……そんなことできるわけがない。聞かれるまでもなく、気持ちは決まっていた。
「あたしたちにできることなら、なんでもするよ! 友達のためだもん!」
「……」
カオルはまだ警戒しているようだったが、俺と目が合うと、いつものように黙ったまま頷く。
優花さんを守るという点において、三人の気持ちは同じようだった。
「じゃあ、とにかく私たちは優花ちゃん防衛隊ってことで! ところで、あなたのことはなんて呼んだらいいの?」
「そんなもん『優花』でいいだろ。奴にオレの覚醒を悟られないためにも、外では優花として振る舞うつもりだ」
たしかにそのとおりなのだが、彼を『優花さん』と呼ぶことには抵抗を感じる。姿形は優花さんだが、話すと明らかに別人なのだ。
「……元の名前は?」
「教えるつもりはない。それも浮岳に勘付かれるきっかけになりかねないからな」
「それなら、他の誰かがいるときは優花さんのように接するとして、せめてこのメンバーのときは別の名前で呼びたいんだけど……」
「あたしもそう思うよ。だって、全然違うんだもん。『優花ちゃん』なんて呼びずらいし、やりにくいよ」
「なら、勝手にお前らが呼びたいように呼べよ」
俺たちは彼をどう呼ぶか相談をはじめた。ユウジ、ユウサク、ユウキなどいくつか案が出るが、どれもしっくりこない。五分ほど話し合い、やがて一つの答えに到達する。
「……『ユーカ』でいっか」
「相談しておいて結局それかよ?」
「微妙にちがうんだよ? 《《う》》を伸ばす感じ。あと、基本みんな呼び捨てにするから」
「それじゃあカオルは何も変わらねえだろ」
「カタカナっぽい感じで呼ぶからいーの」
「なんだそりゃ?」
というわけで、彼の呼び名は『ユーカ』に決定した。
さすがの彼も、気がつくと早苗のペースに巻き込まれているようだった。
「それでユーカ、俺たちはこれからどうすればいいの?」
俺は横道に逸れた話題を元に戻そうとして、ユーカに質問する。
「夏休み明けの西分校との交流戦。そこが次のターニングポイントだ」
「ターニングポイント……。そこで浮岳が動く?」
「その可能性が高いと俺は考えている。そこを返り討ちにしてやるのさ」
ユーカは三人の顔を見回し、不適な笑みを浮かべて言った。
「……このオレが、お前たちを徹底的に鍛え上げてやる」
「ユーカが? そんなことできるの?」
早苗が疑問を口にする。
「本格的には退院してからになるがな。学校なんかじゃ教えてくれないことを教えてやるよ」
二百年も前の時代に生きていたユーカだ。現代では失われてしまった知識なども持ち合わせているのかもしれない。
ユーカの退院時期について尋ねると、医師が二週間ほど、と話していたそうだ。
ユーカの予知が参考程度だとしても、大体の時期がわかるならそれまでに準備をして臨みたい。優花さんを守るためにも。
「早苗とカオル。お前らはオレが退院するまでの間、技研を見学したときに接触した人間を調べろ。模擬戦を視察に来ていた吉岡という男は特に臭いな。襲撃者と背格好も一致しているように思える」
ユーカも吉岡に疑いを持っていたようだ。
「吉岡さんが……? とてもいい人そうなのに……」
「客観的にみて一番怪しいのはたしかだ。だができる範囲でいい。くれぐれも気取られるな」
「……わかった。 なんだか探偵みたいだね」
早苗が目を輝かせてそう言うと、カオルは遊びじゃないからな、と諌める。
「加えてカオル。お前は見舞いがてらここへ通って、オレの傷で回復魔法の訓練をしろ。ヒーラーはいまや貴重だから、ちゃんとした回復魔法使いに教わったこともないだろう。コツを教えてやる」
「……いいだろう。望むところだ」
「よし。コウ、お前の部屋は下の階だったよな?」
「多分ここの真下くらいだと思うけど、それがどうかしたの?」
「お前にはちょっとしたテストを出す。オレは今から、ランダムなタイミングで魔力をチャージする。お前は探知をしてその回数を数えておけ。明日答え合わせするからな」
「え……?」
そんなことをしていたら、魔力と気力が持たない。
「そんなことできない、って顔をしているな。でもやるんだよ。優花を守るんだろう?」
「……わかった。やってみるよ」
「そのなよなよした喋り方もやめろ。気持ち悪い。優花に嫌われるぞ?」
……もっとワイルドなほうが優花さんの好みなのだろうか。そんなことを考えていると、人をからかうような調子で話していたユーカが一転、真顔になって話題を変える。
「それと、最後にひとつ言っておく。おそらく奴の目的を阻止することは、優花だけでなく、この世界を守ることにもつながるとオレは考えている」
急に話のスケールが大きくなり、俺は冗談を言っているのかと思った。しかし、表情は真剣そのものだ。
「……もし阻止できなかったら、世界はどうなっちゃうの?」
ユーカは質問した早苗の顔を見た後、俺、カオルへ視線を移しながら話す。
「奴がオレの力を手に入れた時に訪れる、固定された未来ともいうべき存在をオレは感じている。そこに到達した瞬間、他のすべての可能性が閉ざされ、唯一の結末だけが残るということをな。これだけは、予感というより確信に近い」
三人の顔に緊張感が漂う。
「だからお前ら、死ぬ気でがんばれ。オレはまた寝るから、起こさないでくれ」




