言葉の暴力
それ以来、道を歩くだけで、近所の人々の視線が突き刺さるようになった。
「三浦さんって、明るいうちから……ねえ……いやらしいわね」
そんな陰口が、背中越しに聞こえてくる。
同世代の子どもたちからも、容赦のない言葉を浴びせられた。
「お前の母ちゃん、尻軽なんだってな!」
その声は、ほとんど毎日のように繰り返された。
やがて二人は別れたらしい。
けれど噂は、消えるどころか形を変えて広がっていく。
昼間からふしだらなことをする人は雇えない──そんな理由で、母は仕事を失い、
しばらくは夜の仕事だけで暮らしを支える日々が続いた。
生活は、目に見えて苦しくなっていった。
そんなある日、誰の紹介なのか分からないが、
綺麗なスーツを着た男と、場違いに見える年配の女性が家を訪ねてきた。
状況を理解できないまま、私はただその様子を見ていた。
数日後、母は私を連れて、ある集まりの場所へ向かった。
そこには大きく立派な仏壇が据えられ、かなりの人数が集まっていた。
何が始まるのか分からない。
やがて大きな鈴の音が幾度か鳴り、
その場にいた人々が一斉に経を唱え始めた。
さらに驚いたのは、
母もまた、その経を淀みなく唱えていたことだった。
────
その宗教的な集まりに関わるようになってから、
不思議な変化が次々と起こった。
母は別の歯科医院で働くことが決まり、
勤務時間の融通も利き、給料も以前より良くなった。
ときおり、あのスーツ姿の男が玄関先で母と話していることもあった。
けれど、噂はまたたく間に広がる。
それでも母は、後ろ指をさされても、白い目で見られても、
まったく意に介さない様子で、毅然としていた。
──かっこいい。
幼いながら、私はそう感じていたことを、いまでも覚えている。
だが世間は変わらない。
人の不幸や噂話を面白がり、言葉を投げつけてくる。
幼稚園では、
「あ、尻軽の子だ!」
と笑われ、指をさされる。
家の近くでは、
「汚い子」「町の恥さらし」
そんな言葉まで向けられた。
この時点で、道を踏み外す理由など、いくらでもあったのだと思う。
それでも母だけは違った。
子どもたちを守るためなら、何を犠牲にしても構わない──
そんな覚悟を失うことはなかった。
いつも私と兄の頭をやさしく撫で、にっこりと微笑んでくれる。
私は、そんな母が大好きだった。
──けれど兄は、違ったようだ。
この頃から、兄とのあいだには、少しずつ埋めがたい溝が生まれ始めていた。




