身勝手な行動は周りを巻き込む
園内でのいじめはいつしか消え、先生から向けられていた偏見も薄れていった。
気がつけば、何事もない穏やかな時間が、静かに過ぎていくようになっていた。
そんなある休日のことだった。
自宅にあったはずの補助輪付きの自転車から、いつの間にか補助輪が外れていた。
それが妙に気になり、家の近くの道路で、一人練習を始めた。
最初はまったく乗れず、何度も転び、怪我もした。
けれど数時間もすると、ペダルに足を乗せ、まだ不安定ながらも前へ進めるようになった。
自分の力で何かを成し遂げた経験など、それまでほとんどなかった。
だからこそ、その小さな成功が、胸の奥を満たすほど嬉しかった。
──早く母に伝えたい。
その思いで、心はいっぱいになっていた。
だが、その高ぶった気持ちが、不注意を招いた。
歩道での練習を繰り返すうち、ふとした拍子に道路側へ飛び出してしまった。
次の瞬間、車にはねられていた。
大きな痛みは感じなかった。
けれど、意識がゆっくり遠のいていくのが分かった。
「おい! 大丈夫かい! おい、しっかりしろ!」
誰かの叫び声を、どこか遠くで聞いた気がする。
そのまま私は、救急車で運ばれたらしい。
─────
話し声で意識が戻った。
体は痛み、ベッドのそばでは母と、事故を起こしたであろう男性が何かを話していた。
幸い骨折はなく、数日の入院で退院できるという。
ただ、脳に異常がないかを調べるため、地元で唯一の国立病院へ行く必要があるとも聞こえた。
それからというもの、その男性は何度も家を訪れ、私の様子を気にかけてくれている──
当時の私は、そう思い込んでいた。
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数日が過ぎ、体も問題なく動くようになり、幼稚園にも普段通り通えた。
年長になると、園から家の近くまでは市営バスで帰ることになった。
最初こそ緊張したが、毎日のこととなれば、すぐに慣れた。
そんなある日。
いつも通りバスを降り、自宅へ向かうと、見慣れた車が家の前に止まっていた。
──ああ、またあのお兄さんが来ているんだ。
幼い私は、何も疑わず玄関のノブに手をかけようとした。
そのとき、家の中から声が聞こえた。
これまで聞いたことのない声──
いや、違う。
夜になると、何度か耳にしたことのある声だった。
母が、その男性に抱かれていた。
当時の私には、それが何を意味するのか分からなかった。
ただ、次の瞬間、背後から蹴られた。
振り返ると、そこには冷たい目をした兄が立っていた。
「邪魔だよ。どけ」
それだけ言うと、兄は何事もなかったかのように玄関を開け、家の中へ入っていった。
──思えば兄は、このことを前から知っていたのだろう。
母はシングルだった。
人肌が恋しくなることもあったはずだ。
恋愛は自由だし、二人の子どもがいるとはいえ、まだ二十二、三歳の若さだった。
顔に傷は残っていても、もともと両親は整った顔立ちをしていた。
だからこそ──
あまりにも分かりやすいその関係は、
田舎では、すぐに噂になってしまうのだった。




