幼稚園入園
入園式が終わり、私は母とともに組分けされた場所へ移動した。
入園児はそれぞれ椅子に座り、親たちは後ろに立って、子どもを見守っている。
──そんなときだった。
一人の男の子が、大きな声を上げた。
「気持ち悪いよ、あの人!!」
指さした先にいたのは、私の母だった。
先生はすぐに「失礼なことを言ってはいけません」と注意し、その場は形だけ収まった。
けれど周囲の大人たちが、母を見て嘲笑していることを、幼い私でもはっきりと感じ取っていた。
その瞬間、胸の奥に、これまで知らなかった感情が芽生えた。
言葉にできない、重く沈むような感情だった。
それからの幼稚園での日々は、過酷なものになった。
教室にいるだけで、男の子たちに言われる。
「あいつの母親、バケモノだぜ」
「うわ、近寄るなよ。気持ち悪い!」
友だちはできなかった。
一人で外にいると、数人に囲まれ、汚れた水たまりに押し倒される。
怪我を負わされることもあった。
そんな出来事が、毎日のように続いた。
──私は、いじめの対象だった。
汚れたまま教室に戻っても、先生は何も言わない。
見て見ぬふりをしていた。
迎えに来た母は、私の姿を見るなり相手に怒りを向けることもあったが、
当時の小さな私は、ただ涙を流すことしかできなかった。
───────────────────────
ある日のこと。
いつもの時間になっても、母は迎えに来なかった。
仕事で来られないと連絡があり、私は園内で先生と一緒に待つことになった。
どれほど時間が過ぎただろう。
気がつけば、残っているのは私一人だった。
先生は、わざと聞こえるような大きなため息をつく。
「まだ来ないみたいだから、少し席を外すけど……大人しくここにいなさい」
幼くても分かる。
あのため息が、迷惑だと言っていることくらい。
私は鞄を持ち、園を出た。
自分の力で、家へ帰ろうと思った。
─────。
どれくらい歩いたのかは覚えていない。
ただ一つ、はっきりと残っている光景がある。
帰り道で、死後硬直した小鳥を見つけた。
それを手に取り、私は泣きながら歩いていた。
──そのときだった。
少し離れた後ろから、私を呼ぶ声が聞こえた。
ひどく焦った、母の声だった。
「直樹!!」
振り向いた瞬間、胸の奥に安堵が広がった。
駆け寄ってきた母に強く抱きしめられ、
私は声をあげて泣いた。




