兄との距離、弟との距離
あの日から、週末はだいたい決まっていた。
ユージとタカシと遊ぶか、
たまに香織と公園で少し話すか。
──そんな、静かで心地いい時間が続いていた。
ところがある平日、急に体調を崩した。
頭が痛い。熱もある。
身体の節々まで痛くて、起き上がるのもつらい。
小学生とはいえ、
これはさすがに数日休まないと無理だった。
日を追うごとに熱は下がってきたけど、
まだ身体は思うように動かない──そんな週末。
兄貴が寝てる俺の所に来た。
「おい、なんでいんの?早く出ろよ」
「……体調悪いの、見て分かんないのかよ……」
弱々しく言っても、
「は?知らねーよ。いいから早く出てけよ」
──話にならない。
それでも無理やり身体を起こして、
なんとか玄関までたどり着いた、その時。
インターホンが鳴った。
すりガラス越しに見える、女の人の影。
……まさか、と思いながら扉を開ける。
そこには知らない女が立っていた。
どう見ても、俺よりずっと年上。
だが後ろで、兄が舌打ちしていた。
──ああ、そういうことか。
この数か月の、あいつの妙な行動の意味が、全部つながった気がした。
その瞬間、意識がふっと遠のいた。
────────
気がつくと、
身に覚えのある天井が視界に入った。
……意識が戻ってないと思ってるのか、すぐ横で二人がいちゃついている。
見たくもない光景。
そんな俺はわざと寝返りを打つ。
「あ、起きたみたい!」
「んだよ、やっとかよ。おい、テメーの部屋で寝ろよ」
「もう、そんな言い方しないの」
こんな二人のやりとりを見て更に気持ち悪くなった。
「……はい、すいませんね……出ます」
それだけ言って、思い身体を引きずりながらリビングで横になった。
────────
数日後、
ようやく熱も下がった。
明日から学校に行ける。
不思議と、今は学校に行きたかった。
勉強じゃない。
あの場所に戻りたかった。
────────
通学路。
俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「なーおーきー!」
後ろから横に飛び込んでくるタカシ。
「復活?」
「……まだ完全じゃないけどな」
……こうやって普通に声をかけてくれるのが、ちょっと嬉しかった。
─────────
教室に入ると、ユージも笑って迎えてくれた。
やっぱり、この空気がいい。
しばらく三人で話していると、
香織が近づいてきて、
「あ、良かった……」
小さく笑って、そのまま自分の席へ戻った。
何も言わない。
でも、それだけで十分だった。
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放課後になり三人で帰っている途中。
向こうから、学ラン姿の三人組。
明らかに、こっちを見ている。そして声をかけられた。
「お前、三浦の弟だろ?」
「いや?知らねー」とごまかす。
「ふかしこいてんじゃねーぞ!ああ!?」
「で、何っすか?小学生相手に」
─────
理由は単純だった。
兄が、そいつの女に手を出していた。
だから──弟の俺をやる、と。
勝手すぎて、逆に笑いそうになる。
でもここでビビったら終わりだ。
「直接やれないから俺っすか。
そのあとどうなるか、分かってます?」
──少しだけ、あいつの名前を盾にした。
しばらく睨み合って、
結局そいつらは去っていった。
……めんどくせえ。
でも、
これはきっとこれから何度も起きる。
兄のせいで。
その夜、
晩飯を作っていると電話が鳴った。
ユージだった。
「再来週、四人で遊園地行かない?」
──遊園地。
市外まで行く、本当の遠出。
しかも、四人で。
胸が少しだけ高鳴った。
「とりあえず分かった。明日、母さんに聞いてみる」
電話を切ったあと、ふと思う。
……遊園地か。
なんか、すごく楽しみだ。




